ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。 作:なっぞのひと
「それでは、ケトルベルトレーニングで行きましょうか」
ジムの隅にあるトレーニングマットを敷き詰めたエリアで、流はトーセンジョーダンのグループにケトルベルトレーニングを指導していた。
マシン関係は特定の部位に対して追い込み鍛え上げるのに効果的だが、ケトルベルを用いたトレーニングは全身を連動させて負荷をかけることで体幹や動きの連動には効果的だが、かかる力が分散するのでマシンやバーベルほど筋肥大や瞬発力、最大筋力を鍛えられるわけではない。
流は30kgのものをトーセンジョーダン達は2倍の60kgの物を扱っていた。
このケトルベルはウマ娘のパワーに耐えられるように、流の数少ない友人の金属加工会社【秋月金属】社長こと【秋月康平】に依頼し鋳型から作って貰った特注品だ。
この社長は流よりも3つほど年上で【髑狼】と呼ばれる地下格闘技団体の元王者で、ユキノビジンのトレーナーの高槻が特攻隊長として所属していたチーム【白夜叉】の元総長でもある。
流が友人になった経緯は流が高槻をボコボコにした後に携帯を没収したあと、その社長に連絡して直接、流が高槻をチームから破門しろと直談判し、その条件として秋月が王者の地下格の団体で秋月とワンマッチで勝負することになり、オープンフィンガーで肘、投げ、頭突きあり、KO決着のみの3分5ラウンドでルールで引き分けた為だ。
それから仲良くなり、互いの試合のためのスパーリングパートナーになったり、応援に行ったりと関係が続いている。
流は【秋月金属】がウマ娘のトレーニング器具を作っている事と社長である秋月康平の趣味でフリースタイルレースを主体としているウマ娘達の蹄鉄を手作業で作っていると知っていたので、トーセンジョーダンの足の助けになるかも知れないと考え連絡したところ。
ケトルベルの製作は即OKですぐ納品されたが、蹄鉄についてはフリースタイルレースとトゥインクルレースのバ場が違いすぎることと本人と会って話してからと言うことにになった。
「先ずは、基本のスイングからゆっくりやっていきましょう。」
ケトルベルスイングは下半身と体幹、更に有酸素に持久力トレーニングを含んだ、ケトルベルトレーニングの基本にして最高のトレーニングである。
似たようなトレーニング器具を使わないバービートレーニングが有名で短時間で効果をだせるが、肩や腰そして、足特に爪に加わる衝撃を考えたらケトルベルの方が効果的だ。
特に爪の問題で走るトレーニングを行えないトーセンジョーダンにとって、足に衝撃が加わり難く、バランス、体幹、筋持久力も並行して鍛えられるケトルベルは最適解の一つと言える、爪が回復するまでは心肺機能に関してはエアロバイクを使えばいい。
このケトルベルスイング、スクワットのような体制から、反動を用いてケトルベルを水平に跳ね上げるトレーニングだが、実にきつい。
ウマ娘向けの60kgでも遠心力で相当な負荷になるのだ。
50回3セットをしっかりこなせば、短時間でも体力は相当に消耗する。
「あー…マジきっつ。てかなんで、ジムカンふつーに涼しい顔でまだトレーニングしてんの?」
座り込むトーセンジョーダン達を横目に、片手でケトルベルを頭上へ跳ね上げキャッチするスナッチを行っている。
「そりゃあ、私のほうがケトルベルの扱いに慣れてますからね、後は重心の取り方や体幹や足裏の強さでしょうか。」
「えー全然わかんねーし、ここに居るの全員わかってないから、もーちょい簡単にして。」
トーセンジョーダンをはもちろん周りの同じような格好のウマ娘も理解していないようだった。
「体がケトルベルを振り回した勢いに追いついていないってことです。」
「なるほどね、ジムカンは靴履いてるけど、あたしらが裸足なのはなんで?」
「それは、足の裏で地面を掴む感覚を覚えて頂きたいからです。」
「じゃあジムカンも靴脱いだ方がよくね?」
「私は靴越しでも地面は掴めますが、その意見はごもっともですね。」
流れは靴を脱ぎ、靴下を脱いで裸足になってみせた。
「うわ…なにこれ?」
トーセンジョーダンが引いたのは流の足裏の筋肉が異様に発達して盛り上がって居ることと、足の甲が角質化し分厚くなり、指が異様に太くそのつま先は猫科の猛獣や猛禽類のように攻撃的な形に変化していた。
周りのウマ娘たちも「形エグッ。」「キモっ」とかひどいことも言っていたが、わからなくもないのでスルーした。
ベテランのウマ娘でも脚への衝撃で指先にタコが出来たり足裏が固くなったりするが、流の足の状態はそういったウマ娘たちの足よりもその傾向が激しい
「ああ、これですか?ガキの頃から練習してずっとサンドバック蹴り込んでたり、試合してるときに何度も爪割ったり剥げたり、亀裂骨折を何度も繰り返していたら自然にこうなってたんです。」
「え・・・自然に?」
「骨や筋肉って損傷、いえ傷つくとそこを保護するために、より強くなって再生するんです、例えばウマ娘だって成長や走るのに合わせて衝撃に耐えるために骨が強く硬くなっていくんです、ある程度でそれも止まりますが、硬くなりすぎると折れてしまいますから。」
「へ?硬くなりすぎると折れるん?硬ければ硬いほど強くなるんじゃない?」
トーセンジョーダンの疑問にわかりやすく答えられているか不安になるが顔に出さないようにする
「あんまり硬くなりすぎると衝撃が逃げなくなりますからね、逆に折れやすくなるんです。そういった負荷や衝撃から守るために蹄鉄やインナーやシューズが必要になるんです。」
「あ~なんとなくわかった。」
「わかっていただけたら、なにより。」
「ジムカンは怪我に悩んだ事あるの?」
流は少し考えながら。
「怪我はよくあることですからね、打撲や亀裂骨折は治るまで使わなきゃ良いやで、後は切れたり割れたりしても縫えば治りは速いわけですからそんなに悩んだ事は無いです。」
「ケガで周りから置いてかれるとか不安になんね?」
「特には、全員追いついて倒しましたから。」
「うわ…脳筋エグっていうか、マジメンタル強すぎじゃね?あたしには無理だわ。でさジムカンさカフェにケガの話してないよね?」
「ドゥラメンテさんとカワカミプリンセスさんも居たときに昔の試合の怪我の内容話したら、生々しいって言われましたね」
「いやすんなし、ドゥラちゃんとカワカミちゃんまだ中等部じゃん普通にドン引きするって」
「これから怪我しなければ、問題ありませんよ。」
「そういう問題じゃねーし、ジムカンの試合は大丈夫なん?相手強いん?」
「そりゃあ、欧州最高クラスのプロモーターが呼んでくる選手ですから、強いですね。ウマ娘さんで例えるのならばミスターシービーさん位には。」
流がミスターシービーの名前を出したのは実績があって強いウマ娘のことは彼女しか知らなかったからで、因みにシンボリルドルフの事は生徒会長というぐらいしかしらない。
「うげ、それ滅茶苦茶強いって事じゃん。」
「そりゃあそうです、トップですからね。でも勝つのは私です。」
「そっか、でも怪我してカフェ泣かせたら許さないからな。」
「顔面斬られたり、全身打撲や肉離れや捻挫とか、肋骨にヒビぐらいはケガって程でもないので、勘弁してもらいたいですね。」
「いや、そうじゃねえって!シチー!ちょっと来て!このバカアタシよりひでえバカだから説教すんぞ!」
トーセンジョーダンと彼女から呼び出されたゴールドシチーによって、流は15分ほどガチ説教されたのだった。
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