ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。 作:なっぞのひと
トーセンジョーダンとゴールドシチーからガチ説教をうけた後、流は朝食を摂りにカフェテリアに向かっていた。
普段の食事は自分で作ることにしていたが、朝のトレーニングの疲労もあり、休憩を兼ねてカフェテリアで、朝食を摂る事にしたのだ。
少し遅めの時間に来たはいいのだが、いかんせん多い。
QRコードでメニューを読み込めばスマホで注文できるらしいので、読み込んだメニューから高タンパクかつ、低脂質、低カロリーのものを探す。
麦と玄米のマグロ山かけ丼と納豆とキムチ生卵と300gのステーキとほうれん草のおひたしとアスリート校ならではのメニューを注文した。
出来上がるとスマホに通知が来るらしく、便利だと思いながら席を探していく。
壁際のカウンターの隅が空いているのを、そこに座って待っているとスマホに料理ができたと通知が届いた。
そのまま受け取り口に向かい、食事を受け取るとカウンターへ戻る途中、やたらこっちを見て来るのが多く感じた、顔に傷のある目つきの悪いジャージ男が、カフェテリアを歩いていたら注目されるのは当然なので特に気にしなかった。
カウンターにつくと、納豆とキムチと、生卵を混ぜたあと山かけにのせて、かきこんでいき、ステーキも合わせて食べる。カラッカラの身体に固形物はきつい気もするが。
空腹の自分にはありがたいと思いながらゆっくりと咀嚼して飲み込んでいく。
15分程で食べ終えると、返却口へ行きと主任に声をかけられた
「カフェテリアのドリンクバーで使ってる、コーヒーマシンなんだけどさ、ちょいと味がおかしい気がするんだよ。アンタバリスタだろ?ちょいと診てくれないかい?」
「構いませんよ、一人連れてきたいのでもう少しあとでも、宜しいですか?」
「ああ、好きにしな。」
急な申し出だったが、週末にはエスプレッソマシンを使わせてもらうこともあって、診ることにした。
自分一人で診てもいいのだが、コーヒー関係でもあるのついでに、マンハッタンカフェも呼ぶことにしたがLANEは交換していなかったのでカフェテリア内を探すことにした。
ちょうど入れ替わりの時間帯なので見つけるのはそう難しくなかった。
カフェに声をかけようとしたら同席していたユキノビジンに凄い顔で睨まれた。
なんか『ガルルルルルルルル・・・』って擬音が聞こえてきそうなぐらいの勢いで睨まれてるのなあと思いながらもスルーしつつ、多めの和食のユキノビジンに対し、トーストとコーヒーの組み合わせのマンハッタンカフェに声をかけた。
「よ、カフェ今大丈夫か?」
「あら・・・流さんがカフェテリアに来るなんて珍しいですね。」
「今日はその余力と時間がなかったから、こっち来た。」
「どうでしたか?」
「美味いな、あれだけの量を捌いてんのにメニュー豊富であのクオリティだからな、それはそうとユキノビジンさんの視線がすげえ殺気こもってるんだが、どうしたんだ?」
「カフェさんに対して自分のやった事、理解していねぁーのかこの男は。」
流は少し考えて
「さあ、思い当たることは特にありませんが…うちに就職しろとか…あとタイ旅行に誘ったときに、カワカミプリンセスさんの進言を受けて、けっ……」
「わがってらでねぁーが!」
流の言葉を遮るユキノビジン。
「なにか問題でも?」
「問題ありすぎどごろじゃねぁー!ほんに都会の男はろぐでもねぁー狼だ!」
「確かに私は狂狼とか、魔狼とか黒狼とか呼ばれていましたけど、ろくでもないと言われるのは心外ですね。」
不服そうに応える流
「そういうことじゃねえ!」
「ユキノさん…落ち着いてください。」
「そうですよ、怒ったってなんの解決にもならない。」
「何で・・・そこで火に油を注ぐんですか。」
「なんとなく理由がわかったから、つい煽りたくなってな、ちょっといいか?カフェ」
流は椅子に座るマンハッタンカフェの後ろに手を回して猫にやるような感じで顔を触り始めた。
「あぁー!!カフェさんに何やってらんだが!?こんけだもの!」
「別に、猫を抱く練習をしているだけです。」
一瞬だけ流が勝ち誇った笑みを浮かべたのをユキノビジンは見逃さなかった。
「ちょっと食べづらいというか、私を利用して・・・ユキノさんのリアクションで遊んでますよね・・・?流さん」
「当たらずとも遠からずってところだな、ちょっと手伝って欲しいから、飯食い終わったら手伝ってくれ。」
ユキノビジンの視線も意に介さず、マンハッタンカフェの顔から手を話すと、彼女が食べ終わるのをユキノビジンにガンを飛ばされながら待っているとユキノビジンのトレーナーの高槻が現れた。
「おはようございます、蒼真さん、カフェさん。で、ゆきっぺはどうして蒼真さんにガン飛ばしてるの?」
「あ、トレーナーさん、聞いでくなんしぇ、このケダモノ、カフェさんを弄んで楽しんでんだ!」
高槻はユキノビジンからLANEで事の一部始終を聞いていたので。
「あーうん、別に弄んではいないというか、蒼真さんは、寧ろゆきっぺを誂ってるなというか、これ以上蒼真さんに噛み付くのは野暮だよ。それにカフェさんは離れたりしないって。」
さり気なくユキノビジンの隣の席に自身の食事を置く高槻。
「でも、でも、この人カフェさんに見えねぁーように勝ぢ誇った顔してました。」
苦笑する高槻にして流はかわらず
「高槻、お前中卒チンピラゴリラなのに、良識のある発言できるようになったんだな。」
「そりゃ、義理の両親の教えが良かったんですよ、色々勉強させて貰いましたから。」
「そりゃあ、叔父の弟子で出来た人だからな当然だろ。」
「でも管理人さんは、無愛想だし、顔おっかねえし、仕事はちゃんとするけど、素の性格さ問題がありますよね。」
流に対しユキノビジンが皮肉った言葉を当てつけると。
「そのほうが周りが話しけてこないから楽なんですよね。」
実際、流の外見はかなり鋭く、威圧感があるので近寄りがたい雰囲気がある、その上今現在絡んでるのが185cmを超えるスーツ越しでもわかる筋肉質の高槻に、基本的に口数が少なく、ミステリアスで他者と距離を置くことの多いマンハッタンカフェ。
そこで何故かキレ気味のユキノビジンと、異様に近寄りがたい空気がバンバン出ているので、遠巻きに見ても近寄ろうというものはそうそういない。
「食べ終わったみたいだな、カフェ、ちょっと付き合ってもらっていいか?」
「それは・・・構いませんが何かされるのですか?」
「カフェテリアのコーヒーマシンの味が微妙に変わってるらしくて、原因を確かめてくれと頼まれた、そこでよくマシンを使ってそうなカフェに味の確認をしてもらおうと思ってな。」
「なるほど・・・そういう事でしたら、お手伝いします。」
「悪いな、朝食時だってのに手伝わせてしまって。」
「流さんには色々な珈琲豆を頂いていますし、ファン感謝祭で使う豆も焙煎して頂いているので。」
「そうか、んじゃ行こうかカフェ、高槻ユキノビジンさんは任せた。」
「え、アンタ唐突だな!?」
流はカフェと一緒に調理主任の所へ向かって行った。
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「おう、来たね!連れてきたのはカフェかい。」
「カフェテリアのコーヒーの基準を知りませんので、飲み慣れているカフェに確認してもらうのが一番とおもいまして。」
「そうかい、まあ好きにやってみな」
流がドリンクバーでコーヒーマシンを確認すると
「おい…これセルフのドリンクバーで使うもんじゃねえだろ。」
グロンギ・エニグマF'5ms イタリアメーカーグロンギの業務用フルオートコーヒーマシンの最高峰の一つである、しかもトレセン学園用にフルカスタムされ、タッチパネルは日本語にされ、簡単操作でエスプレッソからドリップコーヒー、ラテやオレまで自由に作れるようになっていて、さらに上部に取り付けられた5つのホッパーには複数のブレンドやストレートコーヒーが入っていて、選べるようになっていた。
「このマシンって・・・そんなに凄いんですか?」
「ああ、元の奴でも、国産の高級車と同じくらいの値段がするし、ドリンクバーで誰でも簡単に使えるように相当にカスタムされてるだろうから、もう想像が付かねえ値段になってんだろこれ。」
「随分楽しそうですね。」
「そりゃなかなかお目にかかれない、コーヒーマシンだからな、いじくり回したいが、見てすぐに原因はすぐわかったよ。」
「もう・・・ですか?」
「グラインダーの刃に古い豆が残ってるんだよ、それが混じって味に違和感がでてんだよ、ただ一般人じゃ気づかないぐらいのレベルの違和感だから気にするレベルじゃないんだが、そこに気づくのはさすがプロの舌だ。」
流は軽く操作し、マシンが正常に動くことを確認すると、原因がグラインダーにある事を主任に説明した。
「なるほどね、グラインダーに古い豆が残ってたんだね、そうなると掃除が必要だよね、分解しなきゃいけないね。」
「グラインダーの掃除なら私ができますよ。」
「なら、頼めるかい?」
「やっておきましょう。」
流はマシンに備え付けのクリーニングキットと工具を取り出しホッパーと豆を取り外し、ホッパーを水洗いし汚れをふきとり、続いてグラインダー上部の蓋を取り外した。
「やっぱりか、古い粉とオイルがタールみたいになって固まってるな。」
固定されたブレードを取り出しブラシとエアダスターで粉を取り除いていき、再びもとに組み直す。
「カフェも一つやってみるか?」
「いえ・・・壊してはいけませんし、私だと・・・時間も掛かりそうなので、今回は見学させてもらいます。」
「ん、わかった。今度時間がある時にやってみようか」
「はい。」
残りのグラインダーも同じように分解整備して清掃を完了させた。
「自動洗浄がついていても、グラインダーには豆がのこるからな。」
流は主任に整備が終わったことを伝えると。
マシンでそのままドリップでコーヒーを淹れてマンハッタンカフェと主任に手渡した。
「豆を取り除いたのでこれで味の違和感はなくなったと思います。」
調理主任は一口目で気づいたようで
「違和感が消えたね、それにずいぶんと味わいがクリアになったじゃないか。」
「ドリップ用の粒度設定を少し荒くしたんです、ほとんどがエスプレッソ用の深煎りでしたのでもう少し飲みやすくなるように調整しようと思いまして。」
「ほう、で、そこの嬢ちゃんは飲んでみてどうだった?」
「口当たりは弱くなりましたが・・・その分飲みやすくなったように感じます。」
「ドリップって事と食事に合わせるならこのくらいがよさそうだね、時々調整に来てもらっていいかい?」
「ええ、今は試合が決まったりと色々詰まって忙しいですが時間がある時調整しに行きますよ。」
「そうかい、そん時は頼むよ。ってアンタ試合決まったのかい?」
「はい、2ヶ月後のちょうど宝塚記念ってのが終わった後に。」
主任は少し考えながら。
「何キロ落として、戻しはどのくらいだい?」
「減量は水抜きなしの2週間前からで5キロでリカバーは前日計量で一日かけて3キロ前後戻ればベストですね。」
「減量もそうだけど戻りも幅が少ないねえ、普段からそれだけ絞ってりゃあ、無理ないか、アンタ減量に入るときは食事はカフェテリアでしな、私が直接食事の管理してやる。」
「良いんですか、食事の管理をしてもらえれば、コンディション維持は楽になりますが、主任さんが大変でしょうに。」
「ここは基本はビュッフェや注文形式だけどね、レース前の娘の調整や、怪我をした娘の特別メニューとかも作ってるからね、一人くらい増えても仕事に支障はないよ、こっちも道具の整備をお願いしてるからね、これぐらいはしないと。」
「それなら、お言葉に甘えさせて頂きます。」
流は調理主任に対して頭を下げて、マンハッタンカフェといっしょにその場を離れた。
カフェテリアからジムに戻ろうとしている時に声が聞こえた。
「ね~~トレッち、これ本当に食べなきゃダメ?」
「ああ、しっかり食べて。」
声の主はウマ娘とそのトレーナーだった。
トレーナーとウマ娘が食事をするのは珍しくないが、そのテーブルに置かれたものは塩分糖分のオンパレードと見事にハイカロリーな炭水化物ばかりだった。
流は彼女のトレーナーの意図にはすぐ気付いたが、ウマ娘の内臓の強さを考えてもデメリットが大きすぎた。
「カフェ、ちょっと声かけてきて良いか?あのやり方はちょっと危ない。」
「貴方がそう判断されたのなら・・・声をかけた方がいいと思いますけど、トラブルにならないように・・・してくださいね。」
「ああ、ちょっと行ってくる。」
流は二人の横に立ち一礼した。
「すみません少し、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
最初はグラインダーの清掃に洗浄タブレットを使おうって形で話を組み立ていたんですけど、グラインダーが一体化したフルオートのマシンには使えないんですよね。
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