ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。 作:なっぞのひと
その後ヒシアケボノにサウンズオブアースから連絡を取ってもらったら快くOKされた。
ヒシアケボノはスイーツイベントの方でパティシエとして参加すると言うことだった。
ヒシアケボノからエリジオ・ソーラはやめたのかと聞かれたので、実家の珈琲と紅茶の商社である蒼真貿易とエリジオ・ソーラの共同事業である、開業やイベントにおけるサポート部門での派遣バリスタ兼インストラクターとして契約しており、現在は開店休業状態ということを伝え、仕事用の名刺を手渡した。
ヒシアケボノも家族に渡しておくとのことだった。
マシンの調整を終えた後は、ジムの業務とワンダーアキュートによるパンチのミット指導をマンツーマンで受ける。
「ジャブが軽い!下半身で地面蹴って打たんと、気にせず突っ込んでくるよ!はい、ジャブ100回」
徹底的なジャブの強化練習で左足がパンパンになり力が入らなくなっても、延々と繰り返していき、ジャブが終わるとステップインの右ジャブと左ストレートのワンツーを延々とノンストップで30分以上繰り返す。
それが終われば、葛城と首相撲の練習を延々と行う
首相撲というのは、クリンチの一種でムエタイやキックボクシング、MMAの格闘技で使われる相手の首や頭を掴んでバランスを崩して膝蹴りや投げ、肘打ちなどの攻撃を行う技術で、ムエタイやキックだとこれを使いこなせるか否かで勝率が変わってくるし、この技術ができないとMMAやムエタイ、肘ありキックで勝つ事ができないというぐらい重要な技術だ。
葛城が流の首を取れば、流はその内側から首を取りつつ左足を引き体制を崩した後に軽く膝を入れたと思えば、葛城がそれに合わせて体を捻って崩そうとするも足の位置取りと重心をずらしつつ粘って崩しにかかる。
身長こそ流とそう変わらないが、より太い手足と強い体幹を持つ葛城と拮抗していた。
ワンダーアキュートとのミット打ちでフラフラになった後に万全の葛城と組み合いの練習をしている流を見てジェンティルドンナは感心していた。力のみで組みに行く葛城の力を技術で受け流していくのを見て、これだけの高い技量があるから、己の力に引くことなく毅然とした態度を取れたのだとわかった。
「お兄さん、面白いでしょ。貴女のトレーナーがお兄さん疲れてるからって、技を使わずに、滅茶苦茶な力で振り回そうとしてもテイオーちゃん並みの体の柔らかさとバランス感覚を活かした技術で力を受け流してるね、本当に小さい頃からやり込んできたんだろうね。」
ワンダーアキュートの話を聞きながら、ジェンティルドンナは不服そうな顔を自らのトレーナーに向けていた。
「なんか不服そうじゃの、ジェンティルさん。」
「トレーナーはあんな
「男の子だからねえ、自分と対等の相手がいて嬉しくて楽しくて仕方がないんじゃよ。」
「随分と理解がありますのね、アキュートさんは。」
「そりゃあ、そんなバカな男達に囲まれて育ったからねえ、ジェンティルさんもそんなバカは嫌いじゃないじゃろ?」
「とはいえ、目の前の相手は疲労困憊とはいえ同格どころか今はそれ以上でしてよ、持ってる技を使わないのは、舐めすぎですわ。」
ジェンティルドンナは流がキックボクシングの選手と聞いて選手としての情報を確認しているからこそ、技を使うべきだと思いながら、葛城を見ていた。
その直後葛城が首を取り引くのに合わせて、相手の外から腕をクロスさせて顔を押すことで引き剥がし再び組みにかかると、腕頭を抱えると同時に頭を葛城の顎に押し付け押し上げることで完全に首をロックする。
組み方自体はギチギチと締め上げるように固定されているが、膝蹴りそのものは軽く入れていき、葛城が強引に外そうと体を引いた瞬間、体を捻るようにして、転がした。
「ほら、言わんこっちゃありませんわ。」
葛城は悔しそうに
「同僚ではなく練習パートナーとして聞くがあんた、中学の俺の試合の時絶対手を抜いてただろ?」
「それはありませんよ、ルールと相性の問題で勝てなかっただけです、あなたはタフで全試合一本勝ちでしたのでまともに打ち合えませんし、纏めて打ち込んでも一発返されたら危険ですしポイント取っても付与されて勝てないから、先生の指示で時間いっぱいまで捌いて流していただけです。」
「最初から勝つ気なかったか。」
「試合というのは勝敗を決めるゲームですから、アウェイで相性の悪い相手にリスクを負ってまで勝負する気はありませんよ、アマチュアは戦績になりませんし、呼ばれたトーナメントですしディフェンスとポイントアウトの練習で出ていたようなもんですからね。」
「なんつうか、ドライだな。」
「決勝でしか当たらないように、2年連続でトーナメントの枠を調整されていましたし、3度目はワンマッチではありましたが、ラウンド足りなくて引き分けでしたし、アウェイですからねそこは仕方ないので、プロでリベンジできればいいと思ったら、貴方、金剛八重垣流をやめているじゃないですか。」
【눈_눈…】よくマンハッタンカフェが流に向けるような表情を葛城に向けながら答えた。
「あーそのなんだ・・・すまない、プロになるつもりだったんだけどな。」
葛城はジェンティルの方を見た。
「少しは理解できますよ、格闘家としてやってくよりも彼女の事を選ぶぐらい彼女の存在が大きくなったんでしょう?」
会話を聞いて満更でもなさそうにしているジェンティルドンナを見た葛城は
「いや、どっちかというとジェンティルに喧嘩を売られたから、トレーナー資格取って文句言ってやろうと思って勢いでなっただけだ、今妙にヒト側の格闘技が盛り上がりだしてるからな天川とか鬼丸とかバケモンがどんどん出てきてるし、それに加えてあんたの復帰戦だから、正直に言えば失敗したなと思ってる。」
なんか複数の鉄球がガチンガチンぶつけられて纏めて圧着され一つになるような音が聞こえて来たが葛城は無視して続けた。
「冗談はさておき、ちゃんとプロでアンタとやっておけばよかったと未練はあるが後悔はないよ、ジェンティルと居ると毎日が楽しいからな。」
ガチガチ音がきえた。
「でよ、セコンドはどうするんだ?」
「まだ2ヶ月前後ありますからね、タイからシン先生を呼んでそれから伯父さ…いえ会長とパンチ対策でアキュートさんに頼もうかと。」
学園及びURA、NRAの規約に別のスポーツ興行に関わっていけないという事は一切書いていなかったので、学園とURAに事前に申請して許可を取ればいけるだろうと、流はみている。
「そうか、んじゃ試合までパートナーさせてもらうか、んじゃジェンティルのトレーニングがあるからまたな。ジェンティルー!筋トレすっぞ。」
葛城は、ジェンティルを伴ってマシンルームへ歩いていった。
その夜、流は久々に学園の外にランニングに出た、軽い坂道トレーニングもかねてこの辺りで一番高い山に登っていき、山頂のここら一帯を見渡せる穴場の夜景スポットである展望エリアに着いた。
流は、端の方でリユックを開けて、石のテーブルの上にコーヒー器具一式を載せて豆をミルに入れザリザリと挽いて夜景を見ながらの一人静かなコーヒータイムに入ろうとしていた所だった。
「ちくしょう!バカヤロー!ぜったいぶっ飛ばしてやる!」
完全オフモードに入り、静寂をぶち壊された流は声の主に切れた。
「うるせえぞ!近所迷惑だろうが!何がバカヤローだ!?ぶっとばすだ!?俺に言ってんのか!?相手したるから来いやコラ!」
「え、え…何?」
突然展望台の端から現れた思わぬ乱入者に、声の主は固まるしか無かった。
(続く)
最近は筆が進みます。
次回はちょっと短めになる予定です。
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