ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。   作:なっぞのひと

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突然の投稿


60.約束は約束だから仕方ないが、タイミングが悪いと腹が立つのは仕方ない。

葛城トレーナーの執務室でジェンティドンナは朝から少し不機嫌だった。

 

 葛城が朝、紅茶を淹れてくれたときに、『アイスティーしかなかったけどいいかな?』とかは別に葛城なりのユーモアなのでまあいい。

 

バリスタでもある蒼真が唯一扱える紅茶、バニラ香るタイ茶葉で淹れた冷たいタイ式ミルクティーこと、チャーノムイェン。

 

 ジェンティルドンナが愛飲している各国のSFTGFOP1や他のブランド紅茶とも違う不思議な香りとその強烈な甘さと色、今迄飲んできたミルクティーとはまた違う不思議な飲み物だった。

 

そのチャーノムイェンを葛城が蒼真から茶葉を分けてもらいレシピを教わって再現して出してくれたものだ。

 

 軽めの運動の後の葛城との朝のティータイムは彼女にとって心地よい時間だった、普段自身に合わせて努力を怠らない葛城の趣味に合わせても良いだろうと思い、彼がよくやっている格闘ゲー厶に触れてみようか思っていた。

 

 葛城に何度か誘われたが、葛城の腕が良いのは素人目にも理解できて対等に遊べる自信もなかったのとジェンティルドンナ自身がこういった娯楽に興味がなかったし見ている方が楽しかったので断り続けていた。

 

そんな彼女がなぜ格ゲーをやる気になったかというと。

 

「ねえ、トーマ!これもう一杯ちょうだい!」

 

トウカイテイオー、彼女が原因だ。

 

先日葛城が何故かトウカイテイオーが葛城に、格ゲーで弟子入りし、その直後葛城が軽い口調で

 

「テイオーとやるからジェンティルはもういいや。」

 

 その一言が、自身の中で表現出来ない感情に襲われて変なスイッチが入ったのかよく分からないが、その場で基本的な操作方法やキャラクターの特性、コントローラーなどのデバイスの種類を調べだした、葛城をトレーナーにしたときもそうだが、自分が主導権を握っていたはずなのに、いつの間にか主導権を握られ引き込まれている、どうせやるならゲームでも力の差を見せつけてわからせてやらねばならない。

 

 とはいえ、研鑽を積むにも相手が居ないとどうにもならないし、同室のブエナビスタに頼むのも恥ずかしいし

 

『ジェンティルさん葛城トレーナーと本当に仲良しですよね。』

 

と笑われるのが目に見えている。

 

 それに、遊びたがっている葛城から直接教わるのがいいと思ったのもあり、朝のティータイムに合わせて葛城に聞こうとしたタイミングでトウカイテイオーが来たそれもガチ勢の2人、ラヴズオンリーユーとアーモンドアイを一緒に連れてきた。

 

 トウカイテイオーだけならまだいいが、意図せず蚊帳の外になってしまったわけで朝から不機嫌になっていた、中等部達相手に不機嫌な態度を見せるのも大人げないので顔には出さないように努めているが。

 

「おっ朝早いなテイオー、それはいいとして、ラヴズとモアイも一緒か。」

 

「昨日話してて、つい誘っちゃったんだけどダメだった?」

 

「いや構わねえよ、それで、飲み物・・・ちょっとまってろ」

 

葛城は冷蔵庫から、来客用に作り置きしておいたチャーノムをグラスに注いで各人に手渡した。

 

「おまたせ!アイスティーしかなかったんだけどいいかな。」

 

 その言葉にトウカイテイオーは苦笑し、ラヴズオンリーユーは噴き出しそうになり、アーモンドアイは「?」と首を傾げていた。

 

 その様子を離れたところで見ていたジェンティルドンナは、またやったなと言わんばかりに汚物を見るような目で葛城を見ていた。

 

「で、お前らコントローラー何使ってんの?」

 

 三人は各々違うタイプの入力タイプのコントローラーを持ってきていた。

 

 トウカイテイオーは前回のバッドとは違う、天面6ボタン及び背面ボタン付き格ゲー専用パッドを白と青のテイオーカラーにカスタムしたものだった。

 

「テイオーはパッド好きだな」

 

「僕はどのゲームやるときもパッドだからね。」

 

 アーモンドアイはゲームセンターでよく見るようななレバーの付いたクラシックなアケコンで大手ゲーム機メーカーのライセンス商品だ。

 

ラヴズオンリーユーの使っているコントローラーを見て葛城は思わず変な声が出た。

 

「なんだ、この変態レバーレスは・・・」

 

彼女の使っているものは、24ボタン搭載かつ配置を自由にレイアウト可能な薄型レバーレスで更に掌底ボタンが添えられたもので、その上すべてのキースイッチがストローク(押下深度)どころかアクチュエーションポイント(押下判定深度)も調整されいて、軸の一つ一つに丁寧にグリスが塗られているというガチ勢使用だった。

 

天板のイラストも可愛らしい【猫?】の絵が描かれていた。

 

 おそらく基板もそれに合わせたガワも全てオーダーメイドか何かで用意した一点物だろう。

 

「こいつは、完全なオーダーメイドだろ?どこのメーカーに頼んだんだ?」

 

「プリント基盤の基礎設計はメーカーではなくシャカールさんに頼んで、ボタン周りの部品関係はトランさんと相談しながらで、筐体のレイアウトは私が直接メーカーさんと交渉しながら作った一点物です。」

 

 エアシャカール、というとプログラムに詳しいが神経質で近寄りがたいキレキャラだが面倒見が良く根気よく頼めば、印象だった。トランセンドはガジェットマニアでそういった知識も豊富で、葛城のゲーム用PCは飯を奢る事と余った部品代は好きに使っていいという条件でトランセンドに組んでもらった。

 

「すげーな、ガチガチの実戦仕様のワンオフじゃねえか、そんなもん組むようなのがテイオーの練習に付き合うってのはなんか理由があるのか?」

 

「テイオーちゃんに来てって頼まれたのと、強い格ゲーマーが居るならぜひ戦ってみたいなあと思ったのと、大会までの練習相手が欲しいなと思って。」

 

「ああゲーセンのか、まあ、大会近いからねしょうがないね、んでモアイは?」

 

「私は、テイオーちゃんと一緒で管理人さんにリベンジしたくて。」

 

「対戦してボロ負けしたのか、つうか…なんであいつあそこでスト6なんざやってたんだ?」

 

「それはボクが説明するよ、ジムかんが特製はちみーラテを出してて、スト6で勝てたら宮崎マンゴーのデザートつけてくれるって、それでアイがチャレンジしたんだけど50連敗しちゃったんだ、流石にジムかんも根負けしてあげたみたいだけど。」

 

「50連敗って誰か交代しなかったのか?」

 

「うん、アイの気迫に押されたのとパンドラが周りに圧をかけてたから誰も交代できなかったみたい。」

 

「負けず嫌いなのもいいが諦めが肝心だぞ。」

 

「わかるけど、負けたくないと思ったら止まらなくなって。」

 

「まあ、そりゃわかるけどな50も負けたら嫌にならねえか?」

 

「でも、勝負するのは楽しくてやめられないわ、勝てたらもっと楽しいけど。」

 

「確かにな、モアイ、お前キャラ何使ってる?」

 

「ルーク。」

 

「主人公にして正に王道を征くオールラウンダーだな、んでランクは?」

 

「ゴールドとプラチナの間を行ったり来たりって所ね。」

 

「テイオーよりは下ってところかまあ普通だな。」

 

アーモンドアイは気に入らなかったのか。

 

「そういう貴方はどうなのよ?」

 

「俺は始めたときからマスター帯だよ。」

 

「それ殆どプロ並みじゃない、どれくらい練習してるの?」

 

「ガキの頃は武術の稽古と学校以外は全部格ゲーに注ぎ込んでたな、試合の日でも近くにゲーセンがあるなら合間に対戦に行ってたし、今でもジェンティルのレースについていく時も時間があって近くにゲーセンがあるなら、必ず野良で対戦するようにはしてる。」

 

「それジェンティルさん怒らないの?」

 

「許可は取ってるよ、前日入りした時の自由時間とか、レースが終わった後に行ったりするな。」

 

「許可くれるんだ。」

 

「周りが何してようが、一人でメンタルを安定させられるからなジェンティルは。んでよ、ラヴズの今のランクは?」

 

「今は葛城さんと一緒でマスターですね。」

 

「おお、使用キャラは?」

 

「豪鬼です。」

 

「ガチ勢だな格ゲーの配信はやってるの?」

 

「やってますよ、雑談しながらトレモで検証したりで対戦の配信はカジュアルがメインですね、ランクマはやっぱり集中したいので、配信はやってないです。」

 

「ほんとのガチだな、先に対戦してみるか、テイオーとモアイの勉強にもなるし」

 

「それはお願いしたいところですけど、ジェンティルさんがすごく機嫌が悪くないですか?」

 

「わかってる、ま、放って置けば直るよ。」

 

「ほっとけばいいって、あなたの担当でしょ!それはよくないわ。」

 

そこへ割って入ったのはアーモンドアイだった。

 

原因はテイオーたちにあるんだけどなあと思いながら葛城は声をかけた。

 

「それもそうだな、おい、ジェンティル!お前、俺達が格ゲーのこと話してるときチラチラ見てたろ。」

 

ジェンティルドンナは呆れ気味に

 

「見てませんわ。」

 

「嘘つけ絶対見てたゾ。」

 

葛城はジェンティルドンナが余計に殺気立つのも意に介さず、彼女の手を取った

 

「ったく素直じゃねえな。」

 

ジェンティルドンナはその手を払おうとした瞬間なぜかゆっくりと立ち上がりを取られたまま格ゲー組の方へ歩いていく。

 

「貴方、私に何を?」

 

「金剛八重垣流、操法【手綱】ウマ娘相手にも使えるとは聞いていたが、まさかジェンティルにも使えるとはな、技のネタばらしすると、人もウマ娘も構造上の不自由や制限が多いんだ、だから抑えるところ抑えちまえばどんなに力が強くても簡単に抑えられるしある程度動かすこともできる。」

 

この手綱という技は、タイミングとポイントにより動きを制圧する技術で人相手だと激痛を与えながら特殊な負荷をかける事で動きを制限することで制圧する技だが、こうまでうまく決まったのは葛城の高い技量と、ジェンティルドンナが無意識に葛城に対し力を加減していたからである、ジェンティルドンナ自身は定められた方向以外には異様なほど動きにくいという感覚があり、そのまま葛城について行ったのだ。

 

「テイオーたちが来なきゃ、俺にコントローラーとかキャラの使い方について聞くつもりだったろ?」

 

「えっと、トーマ、ボクたち邪魔しちゃったの?」

 

「いや別に、約束は約束だからどんな時間でも構わねえよ、偶々この時間は普段二人の時間だったっだけで。」

 

全く焦っていない葛城とは違い三人は気まずそうな顔になりジェンティルドンナに謝りだした

 

「別に構いませんわ、トレーナー以外誰も悪くありませんもの、それよりもこのゲームについて教えてくださる?トレーナーだけだと適当でしょうから。」

 

「良いよ!来いよ」

 

「トレーナーは今すぐ、その汚らわしい言葉遣いを止めて黙っててくださる?」

 

「ああわかった、チャーノム入れ直してくる。」

 

思いがけないタイミングで葛城は蚊帳の外になったが、まあ良いかとミルクティーを淹れ直しに向かった。

 

▽▲▽▲▽▲▽

 

数時間後、理事長室

 

「歓迎!バンコクトレセン学園から日本までご足労頂き誠に感謝する、バンチャメーン理事」

 

「いえ、こちらこそ急な視察の申込みだというのに、空港まで迎えに来ていただき誠にありがとうございます、秋川理事長。」

 

バンチャメーンと呼ばれた若い理事はタイ人とは思えない程に流暢な日本語で返し、合掌して頭を下げ返礼した。

 

「なに、感謝祭のあとはすぐ連盟の会議だから問題ない。」

 

「ああ、今年の会議は日本でしたね。」

 

「そういうことだ、早速見てみたい施設はあるかね?」

 

バンチャメーン理事は少し考えてから。

 

「バンコクトレセン学園は生徒数は多くありませんが世界各国からよりすぐりのウマ娘たちがトレーニングキャンプのためにやって来るので最先端の設備を導入していますが、まだまだ発展途上の段階です。世界でもトップレベルのウマ娘を幾人も育て上げた、日本のトレセン学園の設備を是非見学してみたい。」

 

「了承!では早速、管理の蒼真君に連絡しよう。」

 

「ん、蒼真?」

 

「どうかしたのか?バンチャメーン理事。」

 

「なんでもありません、ではよろしくお願いたします。」

 

嘗ての教え子がこの学園の近くに引っ越したんだったかと思い出しながら、バンチャメーン理事は秋川理事長に付いて行った。

 

 




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