ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。 作:なっぞのひと
パパパパンッ!と乾いた4つの音がジムに響く、ワンダーアキュートによる流のミット打ちの音だ、このミット打ちはハイペースなのはもちろんインターバルがなく、基本動作が延々と続く。
「はい、接近戦だからって手だけで打たない!ちゃんと後ろ足で踏ん張って下半身と背中使って引かないと相打ちになったら倒されるよ!」
ダッキングから左ストレート、右ボディ打ちから右フックへのダブル、返しの左の4連打と基礎ではあるがKOへつながりやすいコンビネーションを繰り返し練習していた。
頭を振りつつ細かくポジションを変えることが、カウンター対策になっている。
「打ち終わり意識して、しっかり構えに戻る!詰まり過ぎたら肘膝もらうよ!」
細かい指示を与えながらものすごいスピードでミットの位置を示すと流の拳が、誘導弾のようにミットに吸い込まれていくそんな光景が目の前で15分ほど続けられていた。
競技が違うとはいえ、ウマ娘の動きについていく流を見たドゥラメンテとカワカミプリンセスは。
「ミットを打つとき反対の腕は背筋を用いて引くことで、その力も拳に伝達させているのか。」
「どうやったらあんな動きがマシンガンみたいなできるようになるんでしょうか?」
「下半身で地面を蹴った力を分散させることなく、正確にそのまま拳まで持ってきて伝えているんだ、それに柔軟性と筋力に優れた下半身としっかりと力を伝える強靭な体幹を持っていて、尚且つそれを可能にするために相当な数の反復練習と実戦経験を積んでいる。」
「ようするに、滅茶苦茶努力した結果ですわね!」
「そういうことだ」
会話の横で仕上げの50連打のコンビネーションを終えると
「今日はこれくらいにしておこうかねえ。」
「いつもは一時間はノンストップなのに。」
「お兄さん元々基本はできているし、今日はお疲れというかやることが多いでしょ?」
「いや、今日はファン感謝祭の前日イベントでカフェテリアのスイーツビュッフェの裏でエスプレッソ淹れるぐらいですから、特別豆の焙煎もカフェテリアさんから提供されたブレンドも準備はできていますから。」
「それは良いとしてちゃんと寝たかい?その様子だと夜中も作業してたでしょ?」
「ええ、でも5時間は眠りましたから。」
ワンダーアキュートは呆れぎみに。
「いけないねえ、それはお兄さんも試合を控えた現役のアスリートなんじゃから、自己管理はしっかりしないといけないよ。」
「それはカフェにも言って下さい、彼女もすぐ無理をする。」
「うーん、カフェさんも好きなことをやると時間を忘れるタイプだからねえ。」
「もちろん、すぐ寝かせました今日の手伝いがありますからね。」
ワンダーアキュートはマンハッタンカフェの格好を見て。
「ああ、それでカフェさんはお兄さんのシャツ借りているんだね。」
「そういうことです、シャワーも貸した上に乾燥機付き洗濯機で服も清潔ですから、匂いもつかないのでいいかなと。」
「うん、言いたいことはわかるけど清々しい程にデリカシーががないねえ、お兄さん。」
よくわかっていない感じの流を見たワンダーアキュートは話題をそらす。
「お兄さん、今度の試合はどう戦うつもりだい?」
「タイ人相手なら技術と判定狙いで勝負しても良いのですが、日本の格闘技興行だと技術で挑むと消極的扱いで負けそうなので、真っ向勝負で打ち合って見ようと思っています。」
「全体的なことは兎も角としてフィジカルの強い欧米人相手にパンチの勝負は分が悪い、一発もらったらひっくり返るし、そのまま纏められたら倒されなくても止められるよ。」
「ワンダーアキュートさんからボクシングについては教わっていますから、それなりに戦えると思いますし、危ないと判断したら即斬ってストップさせれば良いだけですから。」
「勝つ為の手段は拳だけじゃないから、そこは臨機応変じゃね。」
「それでも、相手もフランス人でありながらタイの現役ランカーですから、いうだけなら簡単なのですが後が難しいんですよね。」
「そうだねえ、あたしがセコンドにつこうかい?キックの知識はないけどボクシング勝負なら力になれるよ。」
「それは願ってもないですが、学園やURAが許可してくれるでしょうか?」
「ま、聞いてみるだけならタダじゃからね。」
流はワンダーアキュートの申し出に感謝し頭をさげた。
「そのかわり、全身の瞬発力と体幹の強化トレーニングを教えてもらおうかね。」
「同時に鍛えるなら、私のお薦めはケトルベルかカワカミプリンセスさんとドゥラメンテさんがさっきまでやっていたハイクリーンですね、私が推奨するならケトルのほうが回数をこなせるので持久力も稼げますね」
「じゃあケトルベルにしようかね、で・・・お兄さん、カフェテリアの方は本当に良いのかい?」
「15時ですから昼食後からでも充分に間に合いますので問題ないです。」
「集合時間と打ち合わせとかの下準備は?」
「カフェから連絡してもらえれば何とかなるでしょう。」
「無計画というか、お兄さんみたいなヒトとして駄目な人初めてだよ。」
半ば呆れ気味に答えたワンダーアキュートに対して
「大丈夫、バリスタはアドリブ上手ですから」
「あのね、お兄さん、前々から準備して予想外のことに対応するのと、最初から行き当たりばったりで、その場その場で場当たり的な対応をするのはぜんぜん違うんじゃよ。」
「私が居ればどうにでもなりますから。」
ワンダーアキュートはため息を付いて。
「お兄さん、マヤノちゃんと同じタイプなんじゃね、其の上で直感が外れても経験や技術があるから自分一人でどうとでもできると思っているし、実際にできるだろうしそのための努力もしているだろうから余計にたちが悪いね。」
「それは買いかぶりですよ、せめてカフェが居ないと。」
「いればできるんじゃね。」
「ええ。」
「そうかい、お兄さんは朝ごはんはどうするんだい?」
「カフェテリアでも良いんですが、夜寝る前に仕込んだ豚足の煮込みをご飯にかけて、空芯菜炒めと食べようかなと。」
「朝から重いの食べるねえ。」
「動きましたからね、買いだめしてるサバ缶と野菜ジュースでも良いんですけど、ある方に補食作るって約束しましたから、今日来るでしょうし、そのための準備もしておかないといけませんから。」
「お兄さん、人付き合い悪そうなのにそういうところは律儀で真面目なのはとっても良いことじゃよ。」
「仕事は仕事ですから、何か飲まれますか?コーヒー以外にも野菜やフルーツジュースなら用意できますよ。」
ワンダーアキュートが、グレープフルーツの生搾りジュースを注文したので早速ジューサーを取り出したところ声が聞こえた。
「すまない、その捕食は私にも作ってもらえるのだろうか?」
「それはもちろん構いませんが、運動が終わってからになりますがよろしいでしょうか、オグリキャップさん。」
(続)
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