ジムかん。(トレセン学園内ジムの管理人の話。   作:なっぞのひと

73 / 76
期間が空いたけど勢いで投稿です。


64.学生に高額契約を結ばせるのはだめ。

葛城の右アッパーが流の顎にヒットしたが、流は殆どぐらつくことなく膝蹴りを返してきた

 

(お、アッパーが当たる瞬間にグローブ挟み込みこんで衝撃相殺しやがった。)

 

 そこから、右手で押して崩し、左ローキックからの、右腕への左ミドル連打だけで葛城を押し込んでいく。

 

鈍く肉を打つ音が響きだすのを見ながら

 

「なんかさ一方的になってきてね?葛城ジムかんから、腕めっちゃ蹴られてるし。」

 

トーセンジョーダンの心配をよそにヴィシュヌは

 

「お互イかげんしてるから平気ですよ、その証拠にモウ下がってイマセん。」

 

 タイミングを掴んだのか、葛城はミドルキックのタイミングに合わせて、流の右胸のあたりを左前蹴りで押し込んで防ぎ、そのまま、流へ右の廻し蹴りを返して流の動きを抑え、左ボディ打ちに行こうとした瞬間、流に組み付かれ膝を入れられてから転がされた。

 

 流は葛城から飛び下がり、構え直した。

 

葛城は立ち上がりながら

 

「やっぱ、組まれたら勝負になんねえか。」

 

「キックやってるなら首相撲はやり込まないと勝てませんからね。」

 

「ムエタイじゃないのか?」

 

「キックボクシングです。」

 

 本来キックボクシングは、ムエタイと同じく3分5ラウンドで肘と首相撲によるの攻撃が認められている、今は肘無し首相撲なしのヨーロッパルール及びアメリカンカラテルールがキックルールで肘や首相撲ありがムエタイルールという認識されているが、ムエタイを元にした肘も首相撲も認められたルールこそが本来のキックボクシングルールである。

 

 流は肘無しも受けるが肘有りのキックボクサーであることに誇りを持っているので、ムエタイと言われたらキックと答える、たとえ師がムエタイの生ける伝説と呼ばれる人物でもキックボクサーを名乗っている。

 

「めんどくせえな。」

 

「貴方だって、金剛八重垣流を使っていないでしょう。」

 

「そこは色々あんだよ。」

 

 葛城は自分の都合で金剛八重垣流を抜けたのもあり、表立ってその技を使うのは気が引けていた。

 

その理由としては、妹弟子のヤエノムテキが学園に入学したこともあり、自身が金剛八重垣流を用いてトラブルを起こせば彼女に迷惑がかかるのと、武道家として技は隠しておくべきという意識がある。

 

 

「大方、ヤエノさんに迷惑がかかるとか、技を余人に見せるべきではないと、そんな事を考えているのではなくて?」

 

不意に葛城が思っている通りの事を代弁する声が聞こえたので声の主の方を見ると、ジェンティルドンナだった。

 

「何しにきたんだよ?トレーナー室で4人で仲良くやってんじゃなかったのか?」

 

「私としてはそれも良いのですが、あの娘たちは貴方と対戦の練習する為に来たのですから、貴方の行きそうなところに三人とも連れてきただけですわ、そうしたらこの体たらく、少しは私のトレーナーらしいところを見せてくださいな。」

 

葛城は流の方を見てからジェンティルドンナの方に向き直る。

 

「これは別に立ち合いじゃなくて、単なる軽い練習だから別に使う必要はねえだろ。」

 

「だからこそ、手の内を隠さず、貴方の金剛八重垣流を使うべきでしょう?このまま続けるのはただの侮辱ですわ。」

 

葛城はジェンティルドンナと流を交互に見て。

 

「言われてみりゃあ確かににそうだな、済まない、蒼真さん、技を隠すのは失礼だった。金剛八重垣流、葛城刀真、ここからは武人としてやらせてもらう。」

 

葛城は改めて金剛八重垣流の構えをとる

 

「では、私も少し気合を入れなおさないと、ヴィシュヌさんタイマーお願いします。」

 

流も改めて構え直す。

 

2人はタイマーが鳴ると同時に駆け出した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「んじゃ、練習相手として言うべきことを言うわ、近距離でパンチの精度は良いが手数が少ない上に肘狙いすぎ、ボクシングの上手いやつだと肘に入る前にパンチを纏められるし、欧米人はフレームが太いから、貰い方によっては止められるぞ。」

 

3分5Rのスパーリングを終えて流と葛城は感想戦に入っていた、葛城の指摘を流は真面目に聞いている。

 

「中間距離や蹴りに対するディフェンスは完璧だが、接近戦になると肘膝中心になるから、荒くなるのを・・・」

 

葛城が長々解説している横でジェンティルドンナはちょっと機嫌が良さそうだった。

 

「でさー、なんでトーマとジムかんはリアルファイトしてたの?」

 

そこで葛城へ問いかけたのはジェンティルドンナと一緒に来ていたトウカイテイオーだった。

 

「単なる練習なんだ、そこの爪ギャルが蒼真さんのことを一回カフェ以外にしばかれたほうが良いっていうし、試合もあるって話だから、立候補してそのまま軽めにやっただけだよ。」

 

「だからって、そんなすぐ殴り合う事はないじゃない。」

 

「ウマ娘が本能に走ることが刻まれているのと一緒で、俺達には殴り合うことが本能に刻まれているんだから似たようなもんだろ。」

 

「それでも暴力的なのは、ちょっと刺激が強すぎるような」

 

「格ゲーやってんだから殴り合いは見慣れてんだろ、それに普段から面倒くせぇ、ジェンティルの機嫌が良くなってんだから問題ねーよ。」

 

「ちょっと、担当だからって面倒くさいはジェンティルさんに失礼じゃないの?」

 

「あ?失礼じゃねえよ、俺はジェンティルのこの面倒臭さに人生狂わされたんだから、こんぐらい言ってもいいだろ。」

 

ジェンティルドンナに連れられてきた三人の言葉を葛城は適当にあしらった。

 

「俺の事はどうでもいいとして、ジェンティルはなんで他のを連れてきてんだよ?トレーナー室で俺が戻ってくるのを待ってりゃいいだろ?」

 

 

「テイオーさんとアイさんは、管理人さんに勝つこと、ラヴズさんは強者と対戦すること。それを考えたら三人とも管理人さんと対戦するのが一番良いと、貴方なら仰るでしょう?」

 

葛城はしばし考えて。

 

「そうか、確かに俺なら言うな。でもまあ俺は久々に良い組手ができて満足したから帰るわ。」

 

一瞬で空気が凍りつく中、気にせず帰ろうとする葛城の手首をジェンティルドンナが掴んだ。

 

「なぜ帰ろうと?」

 

「俺は満足したからな、帰るだけだよ。」

 

「私がこちらに来ているのに?」

 

「別に来る必要は無かっただろ。」

 

どんどんと空気が重くなるなか、その重圧を一切期にせず流が

 

「素直に一緒にやろうと誘えば、それで終わる話なんですけどね。」

 

葛城は一瞬流の方を見て

 

「んじゃ、蒼真さん対戦の時間あります?」

 

「それなりには」

 

重くなった空気が和らいだ。

 

「ボク、一つ気になったことがあるんだけどさ、なんでジョーダンはジムかんが、しばかれれば良いって言ったの?大体予想はつくけど。」

 

「蒼真さん、口調は丁寧だけど俺でも引く位には口が悪いからな。」

 

葛城がトーセンジョーダンから聞いた話の一部を皆に伝えると、流に抗議とバ倒の嵐が降り注いだ。

 

皆の後ろで罵倒されている流を見ていたヴィシュヌは、面倒くさくなったのか皆に軽く挨拶をすると自身の店のチラシをカウンターに置いてジムから出ていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「貴方、本当にカフェさんのことどう思ってるの?」

 

「カフェのことは好きですよ、多少妥協すべきところはありますが」

 

「妥協って何よ!?あんな素敵な人にどんな妥協点があるのよ!」

 

「一言で言うなら、体型ですね」

 

「最悪。」

 

「ホント、一言余計だよねアンタ。」

 

 流が正座状態で抗議とバ倒の嵐に晒されているなか、ジェンティルドンナは隣の葛城を流を見比べて、なんとも言えない顔をしていた。

 

 この騒ぎの中、食事に行っていたマンハッタンカフェ達が戻ってきた。

 

「なんの騒ぎですか・・・?これは。」

 

マンハッタンカフェの存在に気づいた流が。

 

「カフェか、俺はただカフェの事をどう思っているか聞かれたから、好きだと答えただけなんだが、なのに怒られてる。」

 

 

「余計なことを言えば怒られるに決まってるじゃん!ジムかん!」

 

 トウカイテイオーのツッコミに、流の言葉に少し照れていたマンハッタンカフェが反応した。

 

「どんな・・・余計なことを・・・言ったんですか?」

 

「完璧じゃないからこそ、良いものだと言っただけだ。」

 

「嘘だ!体型とか妥協とかいってたじゃん。」

 

マンハッタンカフェは流に近づくと頭を撫でるように抑えると、そのまま押さえつけた。

 

「本当に・・・この人は・・・」

 

抑え込まれて土下座状態になった流は。

 

「容姿も性格もパーフェクトだって言ってんじゃねえか、平べったいのが残念と言ってるだけで。」

 

「何で生殺与奪を握られた状況で、平然と火にガソリンをブチ撒けられますの!?」

 

 この状況の中ジェンティルドンナは、マンハッタンカフェを見て奇妙な仲間意識を感じていた。

 

ジェンティルドンナはマンハッタンカフェに近づき彼女にだけ聴こえるように声をかけた。

 

「お互い、苦労が絶えませんわね。」

 

マンハッタンカフェは会釈で返した。

 

「カフェ、ジムかんに対して過激になってきてね?」

 

「でもさ、さっきのあれ見てたら、これくらいやらないと抑えきれなくない?」

 

「あー…」

 

人の姿をした猛獣と思えば当然かと、ゴールドシチーとトーセンジョーダンは納得した。

 

「どうしてこんなのが、滅茶苦茶採用倍率の高い学園の職員やれてんだろ?すっごい仕事できるのは、ジョーダンの事で分かってるけど。」

 

ゴールドシチーの疑問に流が反応した。

 

「私は、URAや学園の採用ではなく、理事長から直接採用されて雇用契約をしてるいる形ですので、元々は最初は断っていますからね。」

 

流の答えに皆意外な反応をした。

 

「給料も福利厚生も良くて、社会的信用に地位も名誉も入る仕事を断ろうって中々珍しいな。」

 

葛城の言葉に

 

「拘束時間が長い上に、外出申請しないと学園の外に出られませんし、レースに興味もなかったしウマ娘と関わる気はありませんでしたから、幾らウマ娘の見た目が良いとはいえ、気性難のゴリラの群れの檻に飛び込むようなものですから。」

 

再びブーイングの嵐が流を襲う、葛城はこいつブーイングを楽しんでんじゃねえか?と思いながら

 

「確かにジェンティルも顔は可愛いけど、体はゴリラみてえにゴツいもんな。」

 

ジェンティルドンナから凄まじい殺気が放たれている葛城は全然気にしていない。

 

「後は、アスリート校ですからね、レースに賭ける想いに当てられたら絶対に復帰したくなりますからね、当時は交通事故で試合飛ばして干されていましたから。」

 

「色々あんだな、アンタも。」

 

 突然まともな会話が始まった上に未だに流がマンハッタンカフェから頭を押さえつけられているのでどこかシュールだ。

 

「最大手の団体のオーナーが、トゥインクルシリーズの大ファンで皐月賞を見ていて勝利者インタビューでトーセンジョーダンさんが私の名前を出していただいたお陰で、試合のオファーを頂いたので感謝しています。カフェ、お礼を言いたいから、手を離してくれないか?」

 

マンハッタンカフェはトーセンジョーダンに目配せをして、彼女が頷いたの確認し

 

「それでは・・・一つ条件があります。」

 

「条件?」

 

「今度・・・学園の私の部屋で・・・珈琲好きウマ娘の集いがあって・・・私がホストを務めるのですが、一緒に出て頂けないかと思って、そのときに簡単に珈琲のセミナーもして頂ければ。」

 

期待のこもった声に流はいつになく申し訳無さそうに答えた。

 

「悪いが、エリジオ・ゾーラとの契約上それはできない。俺がジムで好き勝手に珈琲を淹れているのは許可を取っているからで、俺にイベントでの支援やセミナーを頼むのは、エリジオ・ゾーラを通さなきゃいけない。」

 

流の言葉に一瞬マンハッタンカフェの圧力が緩む

 

「元々俺が淹れる珈琲ってのはエスプレッソならまだしも、個人で淹れるプアオーバーだと技術料で一杯3000円が最低クラスになる、其の上で俺から個人指導を受けるのに1日で1人3万かかるし、豆代、機材レンタル料金と滅茶苦茶な額になってしまうからな、それをタダにしてしまえば、エリジオからの信頼をなくしちまうし、高額な費用を生徒たちに払えとは俺も言えないから、それはできない。」

 

事情を聞いたマンハッタンカフェは流石に無理だと理解した。皆も察したのかブーイングは怒らなかった。

 

「すみません・・・ご無理を言ってしまって。」

 

 流もまたマンハッタンカフェを凹ませた事に罪悪感を感じていたのと首へ加わる力が痛かった。

 

そこへジェンティルドンナが

 

「管理人さん、一つ質問させていただきますが

貴方と契約すれば、それに見合う価値のコーヒーを提供して頂けますの?」

 

「勿論、御期待に添えるよう、誠心誠意務めさせて頂きます。」

 

ジェンティルドンナは気品のある笑みを浮かべた。

 

「では私がすべての費用をお支払いさせて頂きます、それなら問題は解決するでしょう?」

 

流は頭の中で軽く値段を見積もった。

 

「人数にもよりますが、諸経費を差し引いても50万円は頂くことになりますが、問題はありませんか?」

 

「あら、意外と良心的なお値段ですのね、全く問題ありませんわ。カフェさん私も集いに参加させていただいても?」

 

 マンハッタンカフェは喜びと申し訳なさで複雑な心情ではあったが。

 

「ええ…もちろんです。でも本当に…良いのですか?」

 

「構いませんわ。この程度の値段で日本最高クラスのバリスタの淹れるコーヒーを味わえるなら安いものですわ。」

 

 マンハッタンカフェの拘束が緩んだので、流れは立ち上がった。

 

「では、会社からの許可が降り次第、書面をお持ち致しますね。」

 

そこで大きな声が聞こえた。

 

「不許可!」

 

声の主は理事長だった。

 

「学生が高額な契約を結ぶのはいかん!私が学園として会社経由で蒼真くんと契約させてもらう!宜しいか?」

 

「ええ、私としても学生に払って頂くのは心苦しいので。」

 

「よし!これからは、蒼真君をここの管理人としてだけではなく、コーヒーインストラクターとして契約させてもらう、それに伴い珈琲の集いは、部活動又は同好会として申請してもらう!部長はカフェ君!顧問は蒼真君だ。」

 

 このガキ、学園という一番面倒な契約先を押し付けてきたなと流は思った。

 

「私としてはジムだけでなくバリスタとしての定期契約は有り難いのですし、部活動とするなら豆代も機材も経費で落とせるのである意味選び放題ですが、肝心のカフェがどうするかですよね。」

 

「……やりましょう。」

 

「いいのか、カフェも引き受けてくれるみたいなので後は会社に仲介してもらえれば大丈夫です、後理事長がここに来ると言うことは、何か私に用が?」

 

理事長は含みのある笑みを浮かべた

 

「うむ、バンコクトレセン学園から理事の一人がファン感謝祭に合わせて視察に来られてな、蒼真くんの事もよく知っているらしいし、トレーニング設備を見たいということで、先ずジムに連れてきたというわけだ。」

 

 

「タイ人の知り合いはそれなりに居ますが、私の知り合いのタイ人に学園関係者はいません。」

 

その時。突然とタイ人らしい褐色の肌を持ち俳優やモデルを思わせる容貌の男が現れた。

 

「うーん、学園に知り合いは居ないって酷いな、ナガレ。」

 

「いや、貴方がバンコク学園関係者、それも理事って今ここで始めて知りましたよ、先生。」

 

「なんかつれないなあ、せっかく、久々に会えたのにドライだね、昔みたいにシン兄ちゃんて呼んでくれても良いんだよ。」

 

流に先生と呼ばれた男はニコニコしながら答える。

 

「バンチャメーン理事!自己紹介してもらってもいいかな。」

 

理事長に言われ、男は皆の方へ視線を向ける

 

「サワッディーカップ。バンコクトレセン学園理事、シンサック・バンチャメーンと言います、よろしくお願いします。」

 

シンサックは合掌して一礼した、すると皆も思い思いに挨拶を返した。

 

「皆さん礼儀正しくて良い目をしています、とても」

 

シンサックは流を見て

 

「設備は後で見せてもらうとして・・・ナガレ、早速だけどエスプレッソを淹れてもらえないかな?」

 

「いや、先に仕事しろよ。」

 

珍しく素で返す流にシンサックは一言『マイペイライ。仕事はブレイクの後』と答えた。

 




いつも読んでいただきありがとうございます。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。