だべってるだけ。   作:小心 モノ

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これが修羅場ですか

 むぎゅりと抱きしめる撫子は、実に愛らしさに溢れていた。

 

「ありがとうございます、司さん」

「それ姉への贈り物なんだよな? お前が気に入っているとかじゃないんだよな?」

「何を言いますか。もちろんプレゼントですよ、勘違いしないで下さい」

「説得力がねえなあ」

 

 そんな頬ずりしといて何が勘違いだとほざくのかこのおバカは。

 出会ってまだ少ししか経ってねえが、それでも意外だと思う程にっこにこでぬいぐるみを抱きしめる撫子を見てこみ上げてくる説得力の無さと言葉、もろもろ一緒くたに缶ジュースで飲み込んだ。

 手伝いを申しだしてからしばらく、お目当ての物を無事買えた撫子と一緒にベンチに座り、しばしの休憩を俺たちは取っていた。

 先ほどからぬいぐるみを撫でたり抱きしめたりと可愛がっている撫子に、説得力は欠片も無い。そのまま自分の物にでもしてしまいそうな勢いだが、本人は頑なに認めようとはしない。もう無理だって諦めろよ。

 

「しかし、本当にぬいぐるみでよかったのか? その姉さんとやらは」

「はい。最近ちょこちょこ集めているみたいで……可愛いですよね、わたしのねえさん」

「……お、おう」

「可愛いですよね?」

「近い!」

 

 急に真顔に切り替えて迫ってくるの止めろ、怖えんだよ。

 また頭突きをかましそうな勢いでぐいぐい来る撫子を押し返しながら、俺は件の姉を想像する。買いに行く道中でも、ぬいぐるみを選んでいる最中でも、散々に聞かされたのだ、その姉についての話を。

 まずもって、ぬいぐるみの揃ったコーナーに来るあたりからもう意外だった。

 撫子が言うには、姉は普段とってもクールで口数も少ないらしい。服にも何にも無頓着で整えるという事をせず、だというのにその横顔は冴えわたる美貌で輝いて見えるとかなんとか。

 一挙手一投足が洗練されているように感じられ、一部の隙も見られない。細かな動きからして、同じ人間だとは思えない程だと、熱く語っていた。

 だからか、撫子はこれまであまり話しかけたりはしてこなかったみたいだ。なんでも、恐れ多いとか。家族を相手にそう言わせるなんてのはよっぽどの事情があるんじゃないかと疑ったが、楽しそうに話す撫子を見て何も言えなかった。

 そんな姉が、最近変わったのだと話し始めてからが撫子の本領発揮だった。

 それまで遠巻きに眺めるだけだった姉が、時折楽しそうな雰囲気を見せる事が多くなったのだという。何かを買いに出かけたり、服装や美容に気を遣うようになり、明らかに誰かとの予定を楽しみにしている様子を隠そうともしない。隙は増えたが、その分愛嬌のようなものを醸し出すようになったと。

 撫子は変わっていく姉を見て、それまでは好きでも話しかけるのを恐れていたのがますます大好きになり、同時に恐れも薄れたから距離を埋めようと奮闘し始めている、らしい。ぬいぐるみのプレゼントもその一環なんだとか。

 今までが今までな分、姉からは距離を置かれている、と話す撫子は。しかしそう落ち込んでいるようには見えなかった。

 だが、その姉を恐れていた時期については恥じ入るものがあるみたいで。そこについては暗い表情を覗かせていたが。なんでも両親もまた撫子と同じく、その姉を恐れ距離の取り方が分からないまま、現在に至ると言っていた。

 そこまで聞いて、とてもぬいぐるみを欲しがるような人物には思えないな、というのが素直な俺の感想だった。予想外の角度から抉りこんでくるじゃん。

 しかし、そんな姉が撫子にとっては大変愛おしいらしく、今も俺の手を突き破らんとばかりに突撃しては可愛いですよね? と同意を求めてきている。それしか機能の無い機械か己は。

 

「あーはいはい可愛い可愛い」

「心が籠ってません。やり直しを要求します」

「ひたすらにめんどくさいなお前な!」

 

 軽くあしらおうとしても決して誤魔化されない。ある意味重症だな。

 俺もぬいぐるみを選ぶ時には多少意見させてもらったが、それもいらなかったんじゃないかと思えるほどの入れ込み具合。そこには相手を思う以上に、どこか切羽詰まった必死さがあるようにしか見えなかった。

 話を聞かせてもらう限り、その経歴は紆余曲折だ。そして撫子の言う姉が、相当に特殊な存在であるらしいというのは間違いない。過剰気味な礼賛の語彙も、それほどズレたもんじゃねえんだろうなって事も。

 一度失敗しているからこそ、その距離を埋めるのに必死なんだ。そりゃあ真剣にもなるし、諦めもしないだろうな。

 撫子は不屈だ。報われる日が来るといいなと、思わずにはいられない。

 でもストーカーに片足ツッコんでるのは止めた方が良いぞ!

 

「……それにしても」

「ようやく諦めたか?」

「いえまったく全然これっぽちも諦めてはいませんけど」

「お前そんな舌回る奴じゃなかっただろ」

「ちょっと気になる事があるんです」

「お、無視か?」

「その後輩さんについてなんですが」

「ガチじゃん」

 

 ガンガン話進めて行くじゃん。置いてけぼりどころか引き回されてる気分なんだが?

 一時休戦を選択した撫子の柔いほっぺたが離れていく。ぬいぐるみの手をくるくると回しながら、ぽつりと言葉を選び始めた。

 

「見た目の特徴がかなり、いえ、殆どねえさんとそっくりなんですよね」

「そうなのか?」

「はい。ですからわたしも、ねえさんに渡すのを想定して選ばさせて頂いたんですが」

 

 やけに張り切っていたのはそれが原因か。ただ手伝うだけにしては、込められた熱量も実際に提示された選択肢も多いなとは感じていたが。

 悩まし気に眉を顰める。消化し切れていない感情を抱えているように、撫子は腰を揺すらせ座り直した。もどかしさに身じろぎするのを止められないみたいに見える。姉に似てそうな人の存在を知ったのなら、そうなるのも不思議ではないが。

 

「ですから、その、気になっているんです。その後輩さん。一目見てみたいなと」

「……どうだろうな。そいつ人見知りだからあんまり乗り気じゃないかもしれねえぞ?」

「無理にとは言いません。ただ、ねえさんに話しかける予行演習になればと思っただけなので」

「じゃあ絶対無理だわ」

 

 断言出来るわ。思ったより不純な理由が出てきて俺驚愕だよ。

 ですよね、と撫子は零すと、ぬいぐるみに顔をうずめてしまう。綿と布の向こうから唸り声を響かせ、足をぷらぷらと揺らしている。拗ねてんのか?

 かと思えば、こちらに不満気な視線を送ってくる。

 

「もし、わたしの想像通りなら。司さんが羨ましいです」

「俺が? 悪いけど、心当たりねえんだけどな」

「当然ですよ。何も思い当たる節が無い事が、わたしが羨ましいと思う部分ですから」

 

 撫子の瞳に、諦めが宿る。

 自嘲と後悔が入り混じったそれは、暗い影になって瞳の光沢を無くす。

 

「多分、司さんは。ねえさんを見ても平気でいられます。普通に接してあげられます」

「……」

 

 その言い回しが作り出す人物像に、俺は心当たりがあった。

 柱田が校門前で待っていただけで作り出された、異様な人の熱気。ただそこにあるだけで注目を集める存在、それも特異とすら呼べる程のものを、俺は知っている。

 もし、撫子の姉も同じだとすれば。例え身内であろうと関係ないのだろう。むしろ近いからこそ、親であってもそうなってしまうのは仕方ないのかもしれない。

 

「当然の事かもしれませんけど、わたしは、出来ませんでしたから……ですから司さん。その方の事、大切にしてあげて下さいね」

「大切には、言われなくてもするつもりだけどよ……」

 

 次の瞬間には消えてしまいそうな、希薄な笑みと共に言われても、困る。

 そもそも柱田と撫子の姉が同じとは限らないんだが……仮に同一の性質を持っていたとしてだ。俺はそんな、恐れたりとかは最初から無かったから、撫子の抱える悩みってのはいまいち感触を掴めないものでしかない。

 冷たい印象は持っていたけどな。どうあがいても好印象とは言えない初対面だったわけだし、しばらくの間はそれが続いていたから。柱田にもそういう時期があった。

 ともかく、俺には撫子の気持ちは分からない。言ってしまえば対岸の火事だ。共感しようにも、取っ掛かりすらないんじゃ話にならねえ。

 だが、そんな俺でも言える事はある。

 

「そんなに気にする事じゃねえだろ」

「え?」

「重く考え過ぎなんだよ、多分な」

 

 そんな特殊な事情があろうがなかろうが、人間関係は複雑怪奇だ。長い間上手くいかない期間というのは否応なしに、意図せずとも起きてしまうもんだ。

 

「撫子は、今も改善しようとしてるんだろ? なら問題ねえよ。距離感だけ気を付けて、少しずつ埋めていけばいい」

「……大丈夫、ですかね。それで」

「俺だって後輩と仲良くなるまで時間は掛かったから、そんなもんだろ。大体は。ちょっとばかし深刻で、冷え込んでるだけだ。十分改善できるように、俺は聞いてて思ったけどな」

 

 知り合ったばかりだが、これぐらいは言っても構わんだろ。うん。構わねえよな?

 俺は俺の、率直な意見を言うだけだ。押しつけがましい気もするが、悔み悩んでいる撫子を見ていたら自然と口を開いていた。それだけ今の撫子は放っておけなかった。明らかに迷い込んだ場所にいる子供みたいな、いつの間にか消えてしまいそうな不安を抱かせる空気を纏っていたからだ。

 おせっかいが過ぎるかもしれねえけどな。これがおっさん化か……歳の波を感じるぜ。

 ぱっちりとした瞳が、二重を深くする。そのまま見つめてくる撫子はやがて目を伏せると、恐る恐る手を伸ばす様に。

 

「……そうですか」

 

 とだけ言って、黙り込んだ。

 嫌な沈黙では無かったから、恐らく気を紛らわせるぐらいには役に立てたと思いたいんだが確証が無い。なんか付け加えてくれよそこまで察せられねえよ! 難しすぎるぜ女心!

 どうすればいいのかまるで見当がつかず、馬鹿みたいに缶ジュースを傾けるぐらいしか思いつくものが無い。誰か助けてくれ。

 心の中で救難信号出してどうすんだよという自分の冷静な部分の意見を叩きのめしていると、撫子はぬいぐるみから顔を上げてこちらを覗き込んでくる。

 

「ありがとうございます。頑張ってみますね」

 

 そう、明るく言って立ち上がるのを見て、大丈夫そうかと安心した。

 

「おう、頑張れ。しかしあれだな、俺も気になって来たわ。お前の姉さんとやらが」

「あげませんよ」

「睨みながら言うな。誰も話題にもしてすら無かっただろ今」

「あげませんからね」

「聞け!」

 

 敵対心ぶち上げてんじゃねえよフロア沸かすな。

 がるがる唸っている撫子に待ったを掛けながら俺も立ち上がる。空いた缶を捨てて戻ってきても落ち着いていないあたり、いっそ信仰心と形容してもいいかもしれねえ。

 その行動のせいでますます気になって来てんだが。どんな姉だよ。

 

「よく恐れてた、なんて状態からそこまでに至ったなお前……」

「わたしも驚いています。でも、怖かった時期も別に嫌いなわけじゃありませんでした。むしろ綺麗過ぎてといいますか、好意もいだ、い、て……」

「……あ?」

 

 怒りに任せてか、饒舌だった撫子の口が止まる。

 目を見開き、指先が震え始める。青ざめていく顔、硬く閉じられる唇、ぬいぐるみは辛うじて落下を免れているだけで、不安定に揺れていた。一歩、二歩と後ずさる様は、どう考えても普通ではない。

 まるで、見てはいけない怪物を見てしまったかのような、尋常では無い反応。

 どうしたってんだ、一体。

 急速過ぎる変化に反応が遅れたが。俺の後ろに視線を向け、怯える撫子に釣られる形で、ゆっくりと振り向いた。

 果たして、そこにいたのは。

 

「……柱田?」

 

 そう、柱田だ。

 だが俺は一瞬、そこにいるのが柱田だという認識が遅れてしまった。

 

「……」

 

 無だ。

 呆れてとか、そういう感情の行き着く果てのものじゃない。根元から感情が断ち切られた、輪郭の無い無がそこにはある。

 なんつー恐ろしい顔だ。底冷えするほどの無表情は人間より人形に近い。人がしていい顔じゃねえだろどうした柱田。初対面時を下に更新するレベルで温度が無い。触れても無いのに冷たさを感じるって相当だぞ。

 しかもそれは余波だ。柱田の瞳の矛先は撫子に突きつけられている。今、撫子が感じているものを想像するだけでも冷え込んでいくようだ。

 手に持ったフロートが酷く場違いだった。間違いなく偶然、柱田も休日を楽しんでいたんだろう。腕に掛けた紙袋が所無さげに揺れている。オーバーサイズの上着とホットパンツの組み合わせは軽やかでよく似合っていて、できれば別の場面で見てみたかったぜ俺は。

 というか、なんだ。なんなんだ。推察するに、柱田は怒っている、んだよな? でなかったら出せないだろう冷気の波動、周囲からひと気が失せているような気もする。人を集めている光景が浮かぶ。集められるなら、離しも出来るだろう。異能じみているが、それが可能な存在が柱田なのだと、多分今。まざまざと見せつけられた気分だ。

 とてつもない怒り。だからこそ、理解できない。撫子に向けられているそれの出所が、そしてどんな理由かが。何の関係性があるってんだ?

 柱田も気になるが、それよりも撫子だ。今にも倒れてしまいそうな様相を放っておく訳にはいかねえ。

 

「撫子、大丈夫か――」

「ねえ、さん」

「――は?」

 

 姉さん?

 てことは、は?

 おいマジか。マジなのか。はああ?

 柱田の、妹? 俺柱田の妹とずっと話してたのか?

 というか、それが本当なら。気付けねえのも無理ねえよ、俺のイメージする柱田と撫子の語る姉とは結び付かねえって。共通点はあってもそれだけの、近しい他人だと思うだろ普通は。なんでったってこんな、ニアピンがピタリになってんだよ。

 それに、おかしいだろ。

 妹相手に、なぜ柱田はこんなにもキレてんだ?

 

「なんで」

 

 柱田が一歩、近づいて来る。首をカクンと、支えが無くなった、力の抜けた傾け方で斜めにしながら。いや怖えよホラーじゃん。まんま主人公を追い詰める怪物じゃねえか。撫子の怯えようが一段と酷くなってやがる。

 囁くような呟きに色は無い。ただ疑問に思ったからその単語を出力したような、反射的な言葉だった。

 

「先輩と、居るんですか。あなたが」

「ち、違います。この人とは、偶然――」

「先輩は」

 

 問いかけながらも、対話をするつもりはない。これは一方的な尋問だ。少なくとも俺にはそうとしか思えない。

 撫子を無視して、柱田はさらに一歩を踏み込んでくる。

 

「私の、唯一なんです。それをあなたは奪うんですか。撫子。私を恐れていたくせに。私から離れていたくせに。私の全てを、あなたは盗るんですね。そうですか。それがあなたの選択ですか」

「違います、違いますっ! わた、わたしは」

「私では手に入れられないものを持っているのに、奪うんですか」

 

 こわばる頬を、震える膝を押さえつけながら、懸命に弁明しようとする撫子はしかし切り捨てられる。聞く耳を持たないどころの話じゃない、圧と言葉による虐殺だ、こんなの。

 言葉が一つ、足踏みも連動する。連続して、気付けば撫子の目の前に柱田は立っていた。いや、君臨していた。この場において柱田は、なによりも上位者として存在していた。その異様な気配を、ただの一人に叩きつけていた。

 様子が違う。あまりにも違い過ぎる。いつもの怒りではない、ようやく意識が切り替わる。これは駄目な奴だ。危険だ。このまま続けさせたら、撫子は潰れる。二度と立ち上がれなくなる。

 殺される。

 

「普通なあなた、特別ではないあなた、何者にでもなれるあなた。その選択がこれですか。最悪の選択肢を選ぶんですか。私から。奪って楽しいですか。嬉しいですか。喜ばしいですか。そうなんですね。あなたは、そうやって、私の――」

「柱田ッ!」

「っ!」

 

 肩を掴み、呼びかける。

 虚ろだった瞳に光が戻る。柱田は、不安げに俺を見上げてくる。

 正気に、戻ったみたいだ。人が違い過ぎて正直ビビってたが、こうして元の柱田に戻ってくれて助かった。この地獄みてえな空気感の中で一人取り残されるのは流石に勘弁願いたい。

 

「せん、ぱい」

「何があんのかは聞かん。だけどな、いったん落ち着け。お前今、人を潰しかけたんだぞ。追い詰め過ぎだ。な、冷静になれ柱田。難しくは無いぞ、簡単だ。深呼吸しろ。な?」

 

 言葉を掛ける。慎重にだ。柱田は今不安定すぎる。どんなきっかけでまたグラつくか分かったもんじゃない。あれだけの激情を見せていた相手に落ち着けってのも酷だが、そうあるように努めるべきだ、柱田は。

 揺れる瞳。虹彩はいつものように不可思議な色合いで、しかしその輝きは褪せているように見える。俺と、撫子の間を揺れ動く。それはそのまま、柱田の心の動きを表しているんだろう。

 なだらかな曲線を描く肩が震えている。撫でてはいるが、気休めにしかならないだろう。

 次第に柱田は歯を食いしばり始めた。こんなにも負の一面を覗かせるのは珍しい、というかしばらく見ていなかった。いや、冷たい態度の時期でさえもこんなにも露にはしてなかった。初めて見る、柱田の本気の悔しがりだ。

 

「……なんで、こんな。最悪。見せたくなかったのに。もう二度と、見せたくないのに。なんで、なんで……っ!」

「だから落ち着けてっての。柱田!」

「うぅ、ぅあああああっ!!」

 

 手を振り払って、これ以上耐えられないと意思表示するように髪を振り乱して。柱田は駆け出して行ってしまった。

 止める隙も無かった。こんな時にも身に着けた体捌きは役に立っているらしい、本当に気が付けばという鮮やかさで、柱田はもはや追いつけない距離まで走り去ってしまっている。

 それでも、追いかけるべきなんだろうが。放っておけない相手はもう一人いる。

 

「あ、あう、あああ――」

「おい撫子! お前も落ち着け! ショックなのは分かるけどな……! 座らせるぞ! いいな!?」

 

 立っていられなさそうな撫子に声を掛け、ベンチに座らせる。ぬいぐるみが床に落ちないよう奪い取って、撫子の横に置く。姉からの拒絶と敵意で、呆然とした撫子は現実を認識出来ているかも怪しい。

 姉妹揃って感情が振り切れた時のリアクションが極端なんだよ! ある意味似た者同士だわ! もうちょい型に嵌った表現の仕方をしろ!

 なんだか凄く疲れたぜ。俺もベンチに座って天井を見上げる。

 あー、周囲からの視線が痛い。なんでこんな、修羅場に巻き込まれたみたいな疲れ方をしなくちゃいけないんだ。

 結局、撫子が落ち着くのを見届けるまで、俺は動けないままで。

 柱田からの連絡なんてのは、当然の如く届いていなかった。

 家族から柱田がどう思われているのか、それだけが収穫だ。買ったマニキュアも渡すタイミングをすっかり失っちまって、もうどうしようもない。

 壮絶な姉妹の。いや、姉の一方的な蹂躙が残した爪痕。その酷さを前に、俺に出来る事なんてある訳もなく。

 次、柱田に会った時。どう接してやるのが正解か、考えるしかなかった。

 

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