はじまりには雨が降る。
「ハンズの仔はどうだ?」
「はい、それが…」
「そうか…」
*
生きて、死んだ。
ただそれだけだ。
有り触れた人生で、有り触れた終わりに落ちて。
また自分は生まれた。が、
『やっと産まれた…私の仔』
まさか馬に産まれるとは思わなかったし、馬の言葉が
もしかすると人間を経由して転生した弊害だろうかと思わなくもなかったが。
それから、自分は産みの母を亡くしたためにさまざまな馬に面倒を見てもらっては最後に捨てられるということを繰り返した。
どうにも意思疎通ができないことと、人の意思が入った目がお気に召さなかったらしい。
【ま、いいさ。変に歩み寄るよりそっちの方が楽だろう】
そうして自分にとっては満足のいく日々を過ごしていたのだが、
【なンっっっだテメェ!】
同じ場所にいる馬に襲いかかられそうになった。
そして気づいた。気づいてしまった。
自分が…
【マジかぁ。…マジかぁ】
それには、さすがの自分も…とほほ。
*
彼女が産まれた日を、今でも覚えている。
だってその日はひどい雨だったから。
町の方では河川が氾濫するかも…と囁かれるほどの大雨だったのだから。
閑話休題。
まずは彼女の生みの親についての話をしよう。
彼女の母の名は"モンキーハンズ"。
父に『太陽の帝王』と謳われた馬を持つ牝馬だった。
だが。
彼女は運が悪かった。
その名のごとく、彼女に関しての良きことが起こると同じように悪いことが起こるのだと。
まず、ひとつめの幸福。
それは不受胎の多かった母馬から奇跡的にモンキーハンズが生まれたこと。
しかしそれと引き換えとでもいうように、競走馬として走っていたモンキーハンズの兄が怪我が元で競走能力を喪失した。
次に、ふたつめの幸福。
それはモンキーハンズがとても丈夫な馬だったこと。
怪我が元で競走能力を喪失した兄と比べてもこちらの方が勝っていると誰もが太鼓判を押すほどに。
しかしそれと引き換えとでもいうように、モンキーハンズの足はひどく、歩けはするが一生、死んでも走れないというほどにへしゃ曲がっていた。
最後に、みっつめの幸福。
それは己が母と同じように受胎率が悪かったモンキーハンズが仔を成したこと。
しかしそれと引き換えとでもいうように…。
「また、アイツひとりぼっちですね」
「そうだな」
牧場の人々、その視線の先には。
誰をも寄せ付けず、ただ一頭立ち続ける牝馬がいた。
若い、世話役の青年が声をかける。
「"レイニー"!」
この話は、そんなところから始まるのだ。
雨が降っては悪魔が来たる?