連邦捜査部顧問代理、先任への活動報告のための記録   作:為野七端

1 / 3
プロローグ:+2956
ジェリコの古則と導の喪失


 ──酷く規則正しい機械音が耳障りで目を覚ました。「よそよそしさを露わにする清潔な臭いと天井」を受容した神経が雄弁に「お前はぶっ倒れて今病院に居る」という主観を前頭前野に語る。

 首をもたげて身体を眺める。あらゆる部位から管が伸びている。

 いつもの事ながら███は心配性が過ぎる。どうせ過労で貧血でも起こして倒れた程度だろうに心電図だのなんだのと……あれ、いつも世話になっている生徒なのに名前が急に出てこなく……いや、生徒だと?俺は教職になんぞ就いた覚えは無い。どういうことだ?

「先生!〇〇さんが目を覚まされました!」

 

 その「先生」という単語に僅かな反応を示したきり、その男から"夢"の記憶は失われた。

 苛烈で、奇妙で、とてもあたたかい"夢"の記憶……

 

 ──ジェリコの古則は果たされた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 あの「大人」が突如姿を消した後、キヴォトスにはほんの僅かな静寂と、直後その静寂を忘れてしまう程の混乱と喧騒が訪れた。

 私たち生徒……「子供」とは斯くも辣悪なのかと自己嫌悪するいとまも無いほどの闘争と消耗、その末にあんなに青かった空は煙と火花でくすみ、過日に神秘とも呼ばれていた私たちの心は穢れていった。

 

 ──ミレニアムタワー内、会議室。現在は作戦指揮所(CQ)として扱われている

「なんで指揮系統を壊滅させておいて押されてるのよ!?」

 怒号、そう。普段なら『怒号』と呼ばれて然るべきにまで張ったその声はしかし、この騒々しい部屋の中では私と相対しているこの非公式部活の副部長にしか届かなかった。

「そんなこと私に訊いてるようじゃ"算術使い"の名が泣くんじゃないの?……そもそも」

 彼女はまるで見ていたかのように勢い良く扉が開く寸前で言葉を切り、

「伝達!ゲヘナ風紀委員幹部、大声で周りに指示を出しつつ自身が先頭に立って突っ込んできます!」

 そう告げられた会議室がさらに賑やかになるのをたっぷり待って皮肉の続きを宣う。

「……インターネット越しに人の声が止められたら良かったんだけどね」

「──ッ!!」

 歯噛みをしてその場を去る。現時点では言い返しようもないと気づいた時点で私の負け。

「私が直接相手をしてやる……!」

 算術使いの名が泣く……さっきの皮肉がリフレインする。勝算のない戦いに挑むんだし当然図星なのが余計苛つく。そう。何もかもが苛つく。苛つく、苛つく……!!

 

「どうして……ッ!」

 

 

 

 

 

 ──ミレニアム中心街

「全員突撃!!ミレニアムの青瓢箪が私たちに叶うわけがないとわからせてやれ!!」

 あまり大きな声は出したくない。声が枯れるし。でもやらなきゃ。委員長とアコちゃんのためにも。

 あの事件から10日ほどで委員長が部屋から出てこなくなった。外から呼びかけても委員長が応えないのでアコちゃんも最近はずっとぼーっとしている。

 あの先生(ヘンタイ)が突然消えた……そんなこと、あるわけない。

 アイツはヘンタイだけど責任感のあるヘンタイだった。私はともかく、ヒナ委員長にも何も言わずに長く帰らないなんてことこれまで無かった。

「ッ……アアアアアアアァァァァッ!!!」

 言えない何かがあったんだ。それこそ「権力の保持を目的とする学校に突然攫われる」とか、その方が連邦生徒会が未だに黙っているのも責任隠しって説明がつく。

 そうじゃないとあまりに委員長とアコちゃんが可哀想だ。

 ……いや、もしかしたら委員長もアコちゃんも関係ないのかも。

 あのガキみたいな「大人」が消えて、少しだけ寂しくなった心を埋めるように、冷たいくせに妙に指に馴染む引鉄を絞った。

 

 

 

 

 

 

 そうして唐突に拠り所を失った少女達は鎧袖一触、互いを照準に捉え普通の人間なら1発で死に至らしめるモノを叩きつけ合う。

 しかしその鉛の嵐は空から落ちてきた白い板のようなものによって唐突に止むこととなる。

『対致傷フィールド広域展開!!』

 ()から発せられた声は、放たれた弾丸たちの運動エネルギーをドーム状に奪っていった。

「シッテムの箱……!?」

 そのドームの中心にほど近い位置に居た早瀬ユウカはその板に見覚えがあった。そしてそれはユウカと対峙していた銀鏡イオリにおいても同じであった。

「あれは……先生が持っていた……?」

『お2人とも、戦闘はそこまでです!』

 呆気に取られた2人に投げられる声……白い板、もといシッテムの箱のメインOSにして、シャーレの先生のナビゲーター"A・R・O・N・A"……アロナの声。

 しかし2人が、そしてその他のミレニアム・ゲヘナ両校生の戦闘を止めたのはその声よりも、

「ここはこの私、空崎ヒナの顔を持って両者矛を収めてもらうわ」

 シッテムの箱を拾い上げた人物のその姿と、

『ヒナさんには先生が戻って来るまでの間、先生の代理を務めて頂きます!』

 高らかに宣言したアロナの声に拠るものだった。

 




 まだまだプロローグ続きますがキリのいいところで切るので長かったり短かったりします。ご了承ください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。