涙だったり心だったり。
地獄と勘違いし、歪んだ精神で涙を流してパッパカ暗黒を走り回っていたツライさんだったが、一筋の光を見つける。
地獄に降りた救いの手、蜘蛛の糸かと思い近付くも、違った。
光の下、蹲るウマ娘の影。
「アヤベさん……?」
訝しみながらも近付くツライさん。
(まさか彼女まで……ッ!?)
未だ勘違いムーブを噛ますツライさん。
ハンカチ渡した時、一緒に巻き込まれてここに来てしまったのではと考えてしまう。
(ワイだけならまだしも……原因は何だ? いや、それよりもこの状況……)
自身の様な壊れた社畜ならまだしも、学生でしかないアヤベさんには酷な環境。
せめて寄り添いホースラインとなろう。
そう思い、隣に座るツライさん。
「ひとりぼっちは寂しいもんな……」
挨拶。 軽いジャブを放ち様子見!
しかし言葉のチョイス……死亡フラグ!
「本当は、人事部の仕事だろうけど」
余計な発言、止まらないツライさん!
もう業務内容! 心に寄り添う気、感じず!
勿論、他意はない。
だが女学生にする言葉ではない。 ツライさん、社畜時代が染み付き、それに気付かない!
ところがどっこい、奇跡か否か。
アヤベさんが顔を上げ反応!
「え……ツユハライ……?」
その顔、
「どうも、アヤベさん」
「な、なんで?」
「(あの世に来た、元の世界に戻れないなら)それを知って意味、ある?」
ツユハライ、会話をシャットアウト。
自ら歩み寄っておきながら共感しない姿勢、話の主導権を我が者顔。
先輩・上司を立てるべき社畜がこの始末なのは、死んだと勘違いしているから。 この場に仕事も上下もない。
つまり無遠慮、本音トーク。
「……ツライだろうけど、互いに死を乗り越えてさ、これからを過ごそうよ」
「えっ?」
「だってさ、終わった事だから」
ツユハライ、この精神世界をあの世として話を進めていく。
しかし聞くアヤベさんのウマ耳には、死んだ親族、妹の話に聞こえてしまう。 何というすれ違い……ッ!
「終わった事ですって!?」
「違う?」
「違う……私にとっては! 貴女だってそうでしょう!? 何の為にトレセンに来たのよ! このまま終わって良いと言うの!?」
「確かに(遺品整理の時、エロ本が出てきたら恥ずかしいわ)」
「だったら! 私に構わないで……ッ!」
ツユハライ、拒絶される!
けれども怯まない。 このくらいで怯んでは生きていかれぬ社畜道。
「そうか。 君がそうなら、そうなんだろう。 君の中では。 でも周囲はどう思うかな? 自己完結して引きこもって、根本では解決していないじゃないか。 いつまで過去に囚われて生きるつもり?」
※エロ本の事を言っています。
寮長にバレた、ツユハライの趣味趣向……或いは純粋な青少年の心を毟った母の記憶……ッ!
けれど、その現実は最早覆せない!
毛布に包まり悲鳴を上げようと、机の角に頭を打ちつけようと、恥に塗れ罪を背負い生きねばならないのだ!
その精神、トイレまで我慢できなかった際にも似た事を言える……程度の差はあれ、彼女が過去にお漏らしかナニかをしてしまったと勘違いを続けるツライさんは、優しげな表情のまま語ったのだった。
「侮辱するなら許さないッ!!」
「ならワイも君を許さない」
「ッ!」
※トイレ妨害された事を言っています。
しかしアヤベ的にはツライさんの過去に触れてしまった件だと思っている。
どこまでもすれ違い……ッ!
なのに成り立つ会話……ッ!
「アヤベさん、このままじゃ誰も救われない」
「なら……どうすれば良いの?」
「どうにもならないよ、終わった関係は。 さっきも言ったけど」
「それじゃ……それじゃ私は!」
「偲ぶ気持ち、贖罪……立派。 でも結局は独り善がり。 それとも……誰かに言われた? 望まれた? 恨まれて当然の大罪を犯した?」
「それは……」
それとなく続けるが、ツライさんの表情もザ・ツライさんになるばかり。
ツライさんが過去に望まれたは都合の良い存在。
多くの罵倒、人生無価値と罵られ、給料も払われない月あり、教育費だのレンタル代、積立代だのと休月給から更に引かれた。
身に覚えの無い仕事で責められ、勝手に作られた借金を上司に請求され、こなした仕事の手柄を全て奪われた。
ツライさんの大罪……。
契約を取れず先輩や上司に殴る蹴るの暴行を受け、押し付けられた大量の仕事を完徹でやる日々の記憶などなど……。
或いは馬時代、中々競馬で勝てず、騎手や馬主に鞭、棍棒で殴られていた日々の記憶……。
ツライさんの光の無い目、周囲の暗闇と同化するまでに漆黒の球体に。
或いは節穴。
深淵の闇。 全てを吸い込む魔の穴。
学園のうろより深く、重い。
見る者全てに恐怖を与えるホラー映画の住民と化しているも、直視していないアヤベさんは気が付かない。
「たずなさん達に言われた言葉だけど、もっと自分を大切に、自愛も忘れるなって」
───自分を愛したところで、変わらない。
「アヤベの過去を想えるのは……終わった事へ意味を与えられるのはアヤベだけなんだから」
───だから、他の者に愛して貰おう。
「……分かった。 少し、見つめ直すから」
「ついでにワイの事も」
「えっ?」
「覚えていて欲しい。 そうすれば、ワイは永遠に生きていける……君もそう」
思わず隣を見て……震え上がるアヤベさん。
黒い目、真っ黒な目が、見下ろしていた。
「な、何を言って……!?」
「救って。 救ってあげるから。 救ってよ?」
「いや! 来ないで!」
肩をがっしりと掴み、逃がさない。
黒い目が、近寄ってくる。
吸い込まれていく。 その闇に。
「大丈夫。 覚えてくれているだけで良いから」
「い、いやぁ! 私は! 私には!」
───誰がいる?
亡き妹? 顔も知らない妹?
浮かばない。 他のこと。
それだけ、アヤベさんは殻の中。
その殻ごと抱擁され、沈んでいく。
「だ、誰か……だ、れ……か……気づいて……」
ツユハライと共に闇に溶けていくアヤベさんの魂。
ドロドロとした黒の中、1等星の輝きが流星となり堕ちていく。
そして消えていった。
あとは現実に戻るだけ。
星1つ見えぬ土砂降りの雨音の中、気付けば2人のウマ娘が天を見上げて泣いていた。
暫く泣きながら、狂った様に笑っていた。
涙は雨水に混じり、飾る事を許されない。
そして、その漆黒の目は何を意味するのか。
それに意味を与えるのは絶望した者でなく、未だ希望を持ち生きている者の役割である。
更新未定