【ヒトソウルが叫びたがってるんだ!】(完結)   作:ハヤモ

12 / 25
沈めて引き揚げる。
いつも通り迷走中。


12.サルベージ

実質、自室謹慎をさせられたオカルト経験社畜ツユハライだが、ジッとは出来なかった。

それにオカルト世界でオカルトを感じるという、ちょっと頭痛が痛い変な経験をしたツライさんは改めてウマ娘世界に身震いする。

 

前世と比較して仕事量が減った事で、自我や思考がバグり幻覚を見たのだと予想した。

この感覚、ヒトウマ時代もあった。

永遠に続く仕事、延々と続く罵詈雑言、終わらない苦痛に精神が崩壊し、妖精が見えて穴という穴から血が出て笑っていたのだ。 アレは自他共に恐怖体験だった。

病は気から、と言うが、精神面では特にそうである。 されど現実は常に覚悟の上をいく。 その時々の覚悟は刹那的でしかない。

それでも働いていたのは正義でも大義でもなく居場所を守る為に他ならない。 皆、そうだった。

そうしてツユハライは落伍者となり世界から蹴落とされた。 遅かれ早かれ死ぬにしても、不幸なままツライさんはツライさんとして死んだ。

 

それでも良かった。 眠れるなら。

幸福より苦痛からの解放を望んだから。

それなのに、ヒトから馬となり鞭でビシバシされ、また死んだ。 今や両方合わせた様なウマ娘ときた。 元男の記憶があるだけに尊厳も踏み躙られた。

 

そんな今世では、どうだ。

 

多忙の日々から解放され、反動でおかしくなった。

余裕が生まれるのは良い筈なのに、楽な事に身体がついていかないとは。 救いはないんですか?

 

 

「ワイはまだ働ける……ッ!」

 

 

と言う訳で、ツライさんは備品をちょろまかし、PC環境を整えた。

手際は早い、伊達に殴られ蹴られてきた社畜ではない。

生徒会から咎めれそうだが当時の社畜根性が悪い方向へ行っていた。

何か、何かしなければ、と。

 

ツライさんは自分のみならず、時に他人を犠牲にしてでも前に進んできた功利主義でもあり、かといって他人より優れていると証明したい承認欲求はない。

だからレースに出る気がなく、けれど仕事はしたいという、やや矛盾した存在。

より正確には、しなければならない、という脅迫概念、かつての同調圧力に襲われている。 悪く言えば病気、良く言えば狂気。

 

 

「沢山の犠牲の果て、ここまで来てしまった……まだ義務を果たせと言うか」

 

 

国民の義務……教育、労働、納税……ッ!

将来の夢は年金受給……ッ!

今世でも逃れられぬカルマ……ッ!

 

それら全てが欺瞞と不満に溢れていようと、そうしなければ生きて生かれぬ社会なのだからと、己の感情を削ぎ落とす。

嫌なら、併合出来ぬなら、また死ぬか海外移住をしろと言われてしまう。 それが嫌と不満を言うなら政治家になれとか言われ、それら努力も嫌なら黙ってろと鞭でビシバシの刑、地下労働奴隷地獄(自国)行き。

 

未だ痛む足を引き摺り、自室でテーピング、PCを開くとトレセン、更に言えばURAのデータベース(特に闇)を引き摺り下ろす。

仮にも生徒会に入ったのだ、多少の無茶は出来るとのこじつけだった。

 

 

(でも生徒会は強過ぎないか? レースだけでなく、天下のトレセンだからか学生が持つ権限にしては大き過ぎる。

トレセン施設が大規模だから、少しでも労働力確保したい意味もあるかも知れないけど。

だが権力や金を持つとヒトは変わるもの……ウマ娘も御多分に洩れず。 けど会長は大義の為、名に恥じぬ王道を進んでいる。 良家の出、帝王学を学んでいた様であるしな。

まぁ下っ端のワイには関係ない。 それよりアヤベだ、茫然自失としているなら、同室やクラスの者が見たら、あらぬ誤解を招く。

それで退学になるだけなら良いが、変態、奇人変人のレッテルを貼られてしまえば、社会的に損失……履歴書に傷ッ!

将来的にマズい。 事情を把握、最悪揉み消さねば)

 

 

ツライさんは切り替えると、生徒のデータを見ていく。 生き残る為に多少手を汚してきたツライさん、ハッキングモドキをして秘匿領域にも潜り込む。

本来なら生徒会関係なしに犯罪行為に近しい危険行為だが関係なし。 生存欲求で足掻くツライさんに罪の意識は薄い。

そんな中でこそ得られるものというものは確かにあり、今既にある程度の情報を纏めて得た。

 

 

(アヤベ……アドマイヤベガ。 ストイックで他者や関係ないものは徹底的に拒んでいるが、ヒトを想いやれない訳でなし……そんな自己完結娘が何故ワイに接触してきたのは分からんな。

生まれつきの左脚の歪み、平均より薄い足裏の皮膚……負担軽減……字の書き方、右下がり……天体観測……ふわふわ好き……?

……ここかね、双子だったが出産時に妹が死亡、本人はそれを知り、以後、彼女の残滓に捧げる様に、贖罪の為にレースを走る……。

妹が、家族が死んだんか、お気の毒にな。 けれどソレはアヤベの所為じゃない。 ワイとの共通点がある訳でも……いや、待て、まさかマイジュニアの件?

って事は、互いに勘違いやん。 お漏らしアヤベさんとか、全然的外れやん!?

あかんわ、余計に謝らなアカン。 早よいこ。 真相を伝えたら全乙女からバリキでフルボッコにされそうやから、それは最終手段にしても……最新式布団乾燥機の準備はしよ)

 

 

PCを畳み部屋を出る。 松葉杖をヘコヘコと動かして向かうは、当然アヤベさんの部屋だった。

生徒会に駄目だと言われても、動かねば良い様に丸め込まれてしまう。 下っ端に権限は無い以上、出来る手は先回り……ある手札で戦うしかない。

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

「───それじゃ、アヤベさんに何かした訳じゃないんだね?」

 

 

部屋に入れてくれたは同室のカレンチャン。

芦毛で大変可愛いらしいウマ娘だが、今は疑い半分、困惑半分の表情。 ウマ耳は横にしおれているので、怒ってはいなさそう。

 

そんなカレンちゃんは、ウマッターなる若者流行りのSNS等を駆使し、多くのファンを抱えており、レースにおいてもカワイイの求道者。

契約しているトレーナーとは小さな頃に出会ったらしく、お兄ちゃんと言って慕っているそうな。

その辺も軽く調べた。 アヤベの同室故に。

話せば理解してくれそうだと下に見て、大きな対策は講じていない。

少なくとも、こうして部屋にホイホイ入れてくれている。 くくくっ、心のマイジュニアがうまぴょいしておるわッ!

 

……半分冗談だ。 彼女は合気道の心得がある、ウマ娘のパワーで武術、護身術は強くない?

 

 

「ええ、会長にも話しました。 ですがアヤベさんには不快な想いをさせてしまったので、話し合いたく伺いました」

 

 

ちらり、と本人を見やる。

ベッドに座り込み、呆然としている。

 

 

「アヤベさん、ずっとこうなの」

 

 

カレンは悲しげに言う。

 

 

「何を聞いても譫言で。 だから関係者のツユちゃんが来れば変わるかもって」

「つ、ツユちゃん……いや、状況は分かりました。 ひょっとしたら、私になら口を開くかも知れませんからね」

 

 

何の保証もなしに頼まれて、それを甘んじて受け入れるワイ。

ベッドに座り俯くアヤベに向き直る。 目は虚で、あの悪夢のままだった。

 

 

「アヤベ? その、さっきはごめん。 不快な想いをさせたなら謝るから……何か話して欲しい」

 

 

取り敢えず謝る……悪手!

理由も分からず謝り倒す……本来、駄目!

でも言い訳させて。 過去、理不尽な八つ当たり、謝罪と賠償請求マンが周囲にいたツライさんなワイ。 相手を宥める為に取った行動、哀しき処世術!

だからカレン、そんな目で見ないで!?

 

 

「えーと……アヤベさん?」

 

 

しかしアヤベさんは無言。 目を合わせない。

ワイの心無い言葉に無反応。

この脱力具合は、何と言うか、壊れた同僚を思い出してしまう。

だから確認の為というか、昔のブラウン管テレビを直すがごとし肩ポンをしてしまい────。

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

「ファッ!?」

 

 

ツライさん、気付けば例の精神世界!

また夢を見ている可能性……社畜時代も気絶する事は良くあった、血涙流し壊れて笑う同僚に囲まれ過ごした狂気の記憶……!

 

 

「気絶した程度かな。 なら可愛い方よ」

 

 

暗闇の夢、常人なら、それこそ狂乱しそうな空間も、社畜のツライさんには逆に救い……例え夢でも甘美な救い……上司や同僚に囲まれていないだけ、マシ……!

 

 

「だがしかし! ワイが救われてアヤベさんを救わねば意味ないのよ……うん?」

 

 

あの時同様、目前に見える光明。

照らされるは、蹲るアヤベさん。 身体の表面を黒いドロドロした流動したナニかが纏わりつき、近寄り難い雰囲気を醸し出す。

 

 

「ワイの想いが生み出した幻影にしても、リハーサルとして使わせて貰おうウマ娘……」

 

 

怯む事なく進んでいくツライさん。

黒いドロドロ程度で嘆き、嫌悪しては生きていけない社会の荒波に揉まれてきたのだ。

手足、身体を、魂すらドップリ黒で汚しまくっているツライさん。 真っ黒クロスケなので、箱庭に入れられた、いち学生の闇なぞ訳がないのである。

 

 

「アヤベ」

 

 

精神世界でも無反応……!

当然……原因は他ならぬツライさん!

しかしツライさん、そんなオカルトな事態は把握せず。 全く悪怯れる様子なく身体を揺さぶる無遠慮さ。

 

 

「君は妹を失い、贖罪の日々を生きている……病むのは分かる。 ワイもセンバ……息子を失ったから。 けれど、それを引き摺り続けても良いコンディションで走れるとは思えない。 さぁ立て。 立つんだアヤベ」

 

 

やっと顔を上げるアヤベさん。

そしてツライさんは顔を見て……顰めた。

 

目から光は失われ、真っ黒である。

目からは黒い涙。 墨汁のよう。

ホラー世界の住民と化している……その瞳には黒以外映らない。 ツライさん状態。

 

 

「覚えてさえいれば、良い」

「はい?」

「そう、貴女が言ったじゃない。 なら……もう走れなくたって良いのよ。 私の脚も、良い方じゃないから……逆に壊れた方が、あの子と同じ場所に行ける気がするわ……」

 

 

言ったっけ?

首を傾げるツライさん、無責任!

 

けど記憶ないなら仕方なし。

けれど、この手は相手の都合に合わせるのが良い筈。 そう考えツライさんは無い頭を捻り言葉を繋ぐ。

彼女のデータ、今までの経験……心無い言葉でも、深い意味はなくても、相手が深読みして心が晴れるなら良い。

 

 

「それは楽な方に逃げてるだけだ」

「逃げて……何が悪いの?」

「走っている内は、妹さんを側で感じれたんじゃないのか? それは覚えているかい?」

「それ、は」

「確かに走ったからと蘇る事はない。 壊れて会えるなら幻想でも構わない。 でもそれすらも、結局は君の独り善がり。

その結果は他人に迷惑をかけただけ。 少なくともワイは迷惑している。 同室のカレンも心配している。 他人を拒絶するのは勝手だけど、全体に問題を広がる事は容認出来ない」

 

 

などと格好付けているツライさんだが、それこそ独り善がり……自分に有害な者、思考を排除したいだけ……ッ!

しかしアヤベさん、僅かに目に光を宿し、良い様に流されていく!

 

 

「あんな事しといて、私に何をさせたいのよ」

「大切な事を忘れない……当然。 加えて迷惑を掛けない事……自身に課せられた義務を、ウマ娘としての走りを果たせ。 じゃあ帰るぞ」

「ちょ、ちょっと───」

 

 

ツライさん、散々アヤベさんを傷つけ回り、最後は現実へ強制浮上……引き戻し!

それはツライさんにとって仕事に過ぎない。 トレセンで過ごす環境作りの一環。 善意も悪意もそこにない。

履歴書の傷が広がりそうだから、という自分の利益ありきの行動……屑!

 

それでもアヤベさんにとっては、心を乱されたのは許しがたくとも、自分を見つめ直すキッカケになったのは事実。

 

 

(ツユハライ、ありがとう)

 

 

皮肉である。




トロッコ問題の解答:ツユハライの場合
必要なら、そのまま5人殺した後、1人を殺す。
証拠隠滅。 全員生かしておけないよ。

常に更新未定。
ストーリーがね、もうね考えが(遠い目
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。