リアルもツライさん。
選抜レース。
まだチームに所属していないウマ娘のみがエントリーできるレース。
ウマ娘はこのレースで実力を示し、観戦に来ているトレーナーにスカウトされることを目指す。 レースの成績によって今後の運命が決まると言っても過言ではない重大なイベントである。
なので、レースをする気があるならば選抜レースは絶対に出る様なもので、逆にコレに出走しないと「やる気なし」と見なされ退学処分にされる可能性もある。
良くも悪くもウマ娘のレース人生の始発点。
声が掛からなかったら?
実力の差に絶望したら?
始まる前から終わったら?
出走者は様々な不安と期待を混ぜ、観戦者も固唾を飲んで見守った。
今日は曇り。
土砂降りの後でターフの状態は悪、重バ場!
心なしか、皆の表情も重い!
そんな中、異彩扱いされるウマ娘がゲートに居並んだ。 ざわ……ざわ……。
「あの娘、ツユハライか?」
そう。 手遅れ社畜ツライさんの出走!
今までレースに出ようとせず、練習にも出ず、トレーナーからの声も断り、問題行動を起こす気性難!
「出走しないものとばかり思っていたが」
「流石に退学処分されそうで、慌てたな」
「まぁ期待はしないでおこう。 選抜に向けてトレーニングしてきた娘達に敵うとは思えない」
「足を怪我して日が浅いしな」
ズタボロ……トレーナーの評価!
だが、ツライさんはスカウト目的でなし! 野郎の意見は無視!
「あなた、ツユハライ?」
隣近所のモブ娘も声を上げる。
が、好意的な視線でなし。 当然……レースに命捧げる者程、闘志溢れる者程にツライさんの行動は看過出来ない!
「今更選抜なんて。 退学が怖くなった?」
「レースする気ないなら走らないでくれない?」
「いえてる。 正直、迷惑なのよ!」
「生徒会にも迷惑かけてるとか?」
「トレセンに何しに来たの?」
散々……罵倒!
しかしツライさん、意に介さない!
社畜時代、精神攻撃だけでなく物理的に殴る蹴るの暴行を受けてきたのだ、このくらいで揺らぐ魂は持ち合わせていない。
ただ集中……こなす、仕事……ッ!
「うるせぃ、響くだろうが……」
「はぁ?」「舐めた口を」「何様なワケ?」
「黙れッてんだウマ耳は飾りかッ!」
「ッ!?」
凄まじい覇気!
周囲でオラついていたウマ娘、思わず黙る!
「優等生気取りなら察しろや……そういうとこも大事やぞ……こちとら遊びでやっとんちゃうで、集中しとるんや。
オマイらも集中せぃ……この重さ、念仏唱えて貰う羽目になりたくなきゃな……」
「ッ、わ、分かってるわよ!」
凄みに押し負け各ウマ娘、黙る!
そして始まる選抜レース……運命……!
『ゲートイン完了。 間も無く出走です』
構える各自。
(ふんっ! 大口叩いた事、後悔させてやる!)
(練習もせず勝てる程甘くないっつーの!)
自信、必要……威圧ひとつで戦意喪失しかけるも、これまで積んできた経験を生かす!
───パァンッ!
『スタートしましたッ!』
綺麗にスタートを切るウマ娘。
ツユハライのみ出遅れる!
『ああっと! ツユハライ、殿です!』
嘲笑に包まれるレース場。
ほら見たことか、やっぱりか、と高みの見物!
「あーあ」
「まっ、こうなるかと」
「もう巻き戻しは難しいぞ」
「やっぱ見るべきは他の娘だな」
トレーナー、予想していただけに落胆なし!
さっさと切り替えて先行集団に集中!
そんなウマ娘も、周囲にツライさんの気配が無い事に、内心 ざまぁみさらせの態度!
(所詮、口だけね)
(試験で好成績だっからと舐めてるからよ)
(言い訳が楽しみっ)
どうあれレースは続く。
重バ場故に本来のパワーは出せていない面々だが、それでもウマ娘というポテンシャルを発揮し雨水弾き、ぐんぐん進む。
ツユハライは既に忘却の彼方……実況者も頭の隅に留め、視界に映るは先頭のみ……!
しかし勝負……分からない……最後まで!
レース中盤、後方から鬼気迫る歪な影!
『つ、ツユハライ!? ツユハライが先頭集団に追いついて来ました!』
重バ場、整備された芝といえ走り難い環境、それもコーナーという負荷の凄まじい場所程にツライさんは凄まじい巻き戻しを見せた!
ざわざわ……ッ!
これにはアッと驚きトレーナー!
「嘘だろ!? 最も荒れたインコーナーを、それも早い段階でスパートで!?」
「全力疾走で最短距離を無駄なく走ってやがる!」
「足は平気なのか!?」
「なんて姿勢で走ってやがる!」
「逆にあの状態でトップスピードを維持出来るなんて!」
ツライさん、出来る限り重心を落とし遠心力に逆らいながら、痛む足に更なる負担を掛け歯を食いしばり踏ん張り粘る……!
ウマ娘は50〜70kmの速度を出せる、が、脚への負荷はヒトの比ではない程に想像を絶する……ッ!
ウマ娘は命を削り、走っている!
危険なルートは速力低下だけでなく、選手生命の観点からもリスクは犯せない!
それをツライさん、壊れても構わないとばかりに荒々しくも何処かで身につけた技術、根性で乗り切っていく!
その先には嘲笑したバ群!
ツライさん、群れに沈まぬよう敢えて大外!
「なっ……!?」
(ウソッ……! 追いつける筈が……ッ!)
ところがどっこい、これが現実……ッ!
それに気づいた頃には、もう遅い!
ツライさん、目を大きく見開き息する暇もないとばかりにどんどん前へ!
視界には邪魔する者はいない、後は走り切るのみ!
『ツユハライ、先頭に躍り出た! 1バ身、2、3……4バ身、ご、5バ身……6バ身ッ! なおも差が開く! 開き続ける!? 最早独走状態ッ! 誰もいない、誰も彼女に追いつけない!』
そしてゴール版を潜ったツライさん!
周囲には誰も……いないッ!
バカにする者も……いないッ!
『1着はツユハライ! まさかの大逆転! そして大きく遅れて2着……あっ、ツユハライ何処へ!?』
が、しかし!
ツライさん、苦悶の表情で、そのまま走り抜き校舎へ駆け抜けてしまった!
『えーと……えっ? 落鉄しての1着!?』
実況者、トレーナー、ウマ娘、皆唖然!
まさかのコンディション……重バ場、出遅れ、走法フォームが崩れる恐れのある落鉄、それでいて内側をトップスピードで曲がれる技術、根性、強さ……なにより、とんでもないスピード……ありえない、しかしありえた!
ある者には悪夢……夢!
それが現実に……ならば動かねば!
暫し棒立ち……我に帰ると、慌て始める!
「お、俺、もう1度アタックしてくる!」
「私だって!」
誰も期待しなかった、見捨てたのに手の平返し……結果、結果が全てッ!
故にバカにしていたウマ娘、ショック!
なぜ、どうして……去り行くトレーナーの背中を見て絶望、恐怖に震えるウマ娘達。
「なんで……あんなの、反則よ……」
「いたのか……あんなバケモノが……」
暗雲が立ち込める。
降り出す雨……ツライさんの代わりに、ウマ娘達が打たれ冷やされる……敗北の味。
ツユハライ、耐えるっ!
かつての営業で染みた汗、血と涙に比べたらっ! そう……仕事の為なら犠牲だって辞さなかった地獄道っ……! 圧倒的自己犠牲っ……! 落伍者の救助は禁じられた苛烈な戦場!
走り、走って走り抜き仕事を済ます!
社畜道で鍛えたモノをフル動員!
トップスピード! 限界を超えて!
足の痛み、気合いで耐えるッ!
その先……掴む! ドアノブ!
やっと、やっと辿り着いた……ッ!
───トイレにッ!!
妙な緊張の果て、またも腹痛に苦しんだのだ!
周囲からの視線が刺さったのもあるが、その状況で、寛大にやらかす訳にはいかない!
耐えた! ゲート時間が長く感じた!
ウマ娘に絡まれた気がするが、とても構っている場合ではない!
「うるせぃ、響くだろうが……黙れッてんだウマ耳は飾りかッ!」
ヤバい、他人の声でもツライさんなのに、自爆してどうするワイ……。
いや、それにしても黙って。
マジでヤバいんだって。
「優等生気取りなら察しろや……そういうとこも大事やぞ……こちとら遊びでやっとんちゃうで、集中しとるんや。
オマイらも集中せぃ……この重さ、念仏唱えて貰う羽目になりたくなきゃな……」
うん、本当……ナニか唱えて貰う羽目に。
社会的にね、死んでね……。
いや回想は良い!
早く! 早くトイレに!
「入ってまーす!」
「はよ出んかいワレェッ!?」
ワイの戦いは続く……ッ!
駿川 たずな
※駿には優れた馬、馬の美称の意味がある。
理事長秘書である彼女は、一見ヒトであるが実は10戦10勝無敗の幻乃馬、トキノミノルがモデルではという説がある。
以下妄想
秘匿領域ハッキング時
ツライ「これは! まさか、たずなさんが」
たずな「少し知り過ぎましたね^ ^」
ツライ「(いつの間に背後に!?)ま、待て」
ステータス:ALL Us9
YOU LOSE!
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