あまりダラダラ、良くない……。
終わりを模索しつつ独り善がりツライさん。
レース場じゃないところで、別の意味で走り抜けるツライさん。 誰もが知らぬ所で本気で戦う者達の為に露払い。
ツライさんがツライ思いをして頑張ったところで、未来はきっと変わらない。
トレーナーの努力が加わり、ウマ娘の運命が、所謂史実が変わろうとも、認識出来る者はいない。 足掻いても褒められる事もない。
本来勝つ筈だった娘が負ける事になろうと、着順が変動しようと責める者はいない。
それを分かっていて尚、意味が無くてもツライさんは動く。 何故か。
「なぜって……ムカつくからさ」
その状況を認知した別の存在が、良い様に利用して食い物にしている、恐らく上手くやって地位と金を得ている、という惨状に腹が立った。
「ワイの命もタダじゃない。 退職金は払って貰いますぜ、お偉いさんよぉ」
ツライさんも、自分で驚いていた。
そんなもの、この世に掃いて捨てるほどあるからだ。 弱肉強食。 2回死んで、3回目の生となる今世でも変わらない。 ましてやレース、勝負事が間近にある世界。
それでも悪足掻きのツライさん。
走る才能も何もなく、上の指図で死んできた、ただの社畜が、生きて寝るだけと罵られてきた低脳の分際が。
この世に何も残せず死んできた魂が。
ヒトソウルで馬を経由し、ハイブリッドなウマ娘という存在にされた元社畜が。
「業績不振でクビ確定でも、まだまだ……」
発端は自分の所業とはいえ、生き延びるだけなら、上の命令に黙って従えば良いのに。
自分も散々食い物にされたからだろうか。
退学だって当初する筈だったのに。
上も望んでいたのに。
ふたつ返事の退学で丸く収められたかもなのに。
最初こそ理事長が止めたから今日に至るまで在学してきたが、今となっては自分の意思。
仕事じゃなくプライベートで。
怖いのに足が軽い。
不思議な感覚。
何年、何十年振りの、懐かしい感覚。
それを味わえただけ、価値のある人生だった。
「少なくともヒトと馬時代よりは」
記憶が急に蘇る。
走マ灯が流れいく。
生徒会と理事長、たずなさん、仕事に関係なかったウマ娘たちの笑顔……寮長のネス……じゃなくてヒシアマゾン、クラスの皆、協力してくれたエアシャカール、アグネスタキオン……学園外で出会ったライトハロー。
次から次へとワイの名前を呼んでくる。
本能が、生きさせようと幻覚を見せている。
そんな幸せな世界にゃ、ワイの様な穢れは、いちゃならんのです。 走らん奴が走る奴を邪魔して良い道理は無いのです。
最期くらい、別れの挨拶をするのが道理……そう思わせるのも、1分1秒先送りにしたいっていう卑しい本心なのだ。
「ワイの運命も、ひょっとしたら……誰かに変えられていたのかもね」
嗚呼、もう働きたく無いでござる。
けれども走り始める。
本日も雨。 暗く冷たい夜の雨。
目の前にはURAの建物。
当たって砕けろの精神で。
「監査に変わりまして社畜がお送りしますッ!」
扉を挨拶がてら蹴り開けた。
蝶番が壊れて吹き飛んだ。 改めて、ワイの身体はウマ娘なんやなって。
後書き
【ツユハライの秘密】
実はトレセンの皆が好き。