DESIRE ARCHIVES   作:ベロベロベ

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すいません、ブルアカ本編と絡む前にこれだけやらせて下さい


虚誕Ⅰ/Let's go to!

 

「おめでとうございます!今日からあなたは"仮面ライダー"です!」

「知ってる」

 

トリニティ総合学園のとある巨大な邸宅の中、ツムリは笑顔で箱を差し出す。

それを受け取った浮世英寿もまた彼女に笑顔で応えた。

直後、彼女の顔から笑顔が消える。

 

「はぁ…………、どうしてこんな目に…………」

「えぇ? ひっどいなぁ姉さん。弟に向かってそんな顔」

「違います!」

 

『姉さん』という言葉を聞いた瞬間、ツムリは反射的に否定と悲鳴の入り雑じった声をあげる。よっぽど苦痛なのか元々歪んでいた顔を更に歪め、そのまま床に座り込んだ。

 

「だから言ったのに…………! こんな願い叶えるべきじゃないってぇ…………」

「お前達、いつまでそこにいるんだ。朝御飯だぞ」

 

扉がノックされ、その後開かれる。

姿を見せたのはサロンのコンシェルジュであるギロリ。普段のキッチリとした白の礼装の上から割烹着を来ているという妙な格好だが、これが中々似合っている。

 

「はーい、ギロリさん。ほら行くよ姉さん」

「姉さんじゃありません!」

 

手を洗い、3人は食卓につく。

茶碗に盛られた白米に紅シャケを乗せながら、ツムリは溜め息を吐き続ける。

 

「もっと旨そうに食べなよ。折角ギロリさんが作ってくれたってのに」

「…………一体どういうつもりですか」

 

噛み砕いた白米を飲み込み、ツムリは英寿を睨みつける。

そして立ち上がり、近くの机に置かれているそれらを掴んで彼の前に提示した。

 

それは前回のデザイアグランプリにおいて彼が願った理想が書かれている。

『デザイアグランプリ運営スタッフと共同生活を送っている世界』。

それはツムリとギロリからすれば意味不明であり、特にツムリからすれば到底受け入れがたいもの。

ただでさえ好きでもない相手であったのに、同じ屋根の下で暮らすなど真っ平であった。

 

彼女の問いに、英寿はただ曖昧な笑みを溢すだけ。

 

「ギロリさんも何とか言ってください!」

「そんなに嫌がる事はないだろう?何せ相手はスターの英寿様だ。共に暮らせるなんて光栄じゃないか」

「えぇ~~…………?」

 

一体いつまで続けなければならないのか。この世界が始まって数週間。彼女はそんな事ばかり考えていた。

 

今度こそ、ギーツに勝てる仮面ライダーを呼ばなければ。

彼女の決意は固く、そして強かった。

 

 

▪▪▪

 

 

「おめでとうございます! 今日からあなたは"仮面ライダー"です!」

「う、うん。ありがとう」

 

百鬼夜行連合学院。

生徒達が帰路についた夕暮れに桜井景和は2人に出くわした。

当初は突如として甦った記憶に混乱したものの、落ち着きを取り戻し、そして暫く。

 

「あの、どうしてツムリさんと英寿君が一緒にいるの?」

「姉さんのお仕事見学さ」

「へぇ姉さん。…………え!? 英寿君にもお姉さんがいたの!?それもツムリさん!?」

「だから違います!」

 

これで何度目かの、いい加減くどくなりつつある否定の言葉を浴びせ、ツムリは彼にドライバー一式を差し出す。

以前からゲームに参加していた者と相対する時はやたらと疲れる。全ては隣のスターのせいなのだが。

 

「え、英寿君の叶えた理想の世界って……まさかツムリさんの弟になることなの!?」

「まあね」

「えぇ…………」

 

景和は訳がわからないという風に首を横に振る。前回、英寿の言動に振り回された彼からしても今回の場合は本気で読めない。

化かしているだけなのだろうかと疑るも何故その様な事をするのかがさっぱりだった。

 

ツムリはそんな彼の様子を見て何度も深く深く頷き、そして表情をナビゲーターとしてのものへと変える。

 

「それでは呼び出しがあるまでお待ち下さい」

 

そう言って彼女は背を向けて歩き出す。

その後ろから英寿が彼女へ声をかける。

 

「今回もタイクーンが選ばれてんのか。何でだ?どういう基準で選ばれてる?」

「それは、ゲームマスターがお決めになっていますので」

「ああ、あの…………」

 

英寿の脳裏に浮かぶ、不気味な仮面をつけた1人の男。

デザイアグランプリの中でも得体の知れない男が決めていると知り、彼の笑みが一瞬薄くなる。

 

「別に気にする事はないでしょう?あなたが始めてデザ神になった時点で、どうせあなたの参加は決まっているですから」

 

ツムリが取り出したのは『俺が死ぬまでデザイアグランプリに参加できる世界』と書かれたデザイアカード。

既に叶えられ、DoNeの印がつけられているそれが彼が始めて書いた願いだった。

そして『俺が勉強しなくても学校に在籍できる世界』、『俺がシスターフッドに在籍している世界』、『俺がキヴォトスのスターになっている世界』と続いていく。

 

彼女の手にはまだまだ多数のカードがあり、それだけ英寿が勝利を重ねてきた事が示されている。

 

「そりゃあ気にはなるだろ。次のライバルが誰か」

 

ツムリからカードを1つ奪い、彼は笑う。

理屈としてはあっている。しかしこの小狡い狐がただの情報収集で終わるはずがない事くらい、彼女はよくわかっている。

怪訝そうな顔を崩さないまま、彼女はそっぽを向いた。

 

「…………スーホは選ばれないのか?」

「さあ? ゲームマスターの意向次第です」

 

英寿の顔が明確に曇る。

前回競いあったからというだけではないのか、彼の足取りは重くなっていく。

 

「アイツは強いだろ。防衛にも役に立つはずだが」

「ですからゲームマスターに言ってください」

 

強い口調で問いかける英寿にツムリも同じく強い口調で返す。

語気を強めるなど彼にしては珍しい。

その点が気になったのか、彼女は英寿に向き直る。

 

「心配ですか?」

「………辛い世界なんて忘れるに限る。けどアイツには───────」

 

そこまで言って彼は口を止めた。

戦いに参加する者には大なり小なりバックボーンがある。

それら全てを蹴落として栄光を掴んだ者がデザ神となるのだ。

勝者がいる以上、敗者が出るのは必然。

彼女の分まで戦いぬくしか道はない。

 

(けどやっぱ…… 慣れないな)

 

その言葉は胸の内に留めておく。

沸き上がる胸のトゲを抑え込み、彼はまた歩き出した。

 

 

▪▪▪

 

 

「皆さん、こんにちは! 私はデザイアグランプリナビゲーターのツムリです。ようこそ、デザイアグランプリへ!」

 

明るい笑顔を浮かべながら、ツムリは神殿へと集まった参加者達へ説明を始める。

景和にとっては既に聞いた説明。

そのため彼はずっとその周囲を見渡していた。

 

(サオリさんがいない…………。ほとんど知らない人達ばっかりだ)

「前回から続けてるのは俺達だけみたいだな」

「うわっ」

 

英寿の言葉通りかはわからない。何せ数が多い。どこかで見たような顔も、全く知らない顔も皆同じ様に並んでいるのだから。

強いて言うのであれば、隅にいるヴァルキューレの公安局の制服を着た少女は見覚えがある気がしていた。

雑誌であったかニュースであったか、あの薄い金髪の犬耳は頻繁に目にしている様な、そうでない様な。

 

何にせよ多種多様な生徒が集まっている。

 

「それでは皆さん、お手元のデザイアカードに願いをご記入ください」

「…………来た!」

 

またしても唐突に出現したデザイアカード。それを目にした事で景和の表情が一気に引き締まる。

 

前回と今回の願いは違う。今でも鮮明に思い出せる彼らの死に際。あの様な無念を無かった事にしたい。

それが今の桜井景和が描ける理想だ。

 

「『デザイアグランプリで退場した人間が甦った世界』、か。相変わらず壮大だな」

「そういう英寿君は何て書いたの?」

「勝ってからのお楽しみだ」

 

他人の記入を勝手に覗き込んでおきながら自分だけははぐらかす。

身勝手な態度ではあるが彼はこういう人間だと思えば以前程腹はたたない。

景和はただ溜め息を吐き、自らの理想を見つめる。

 

「今回は敗けられない…………!」

 

明確に背負うものがあるという点で、前回とは一線を画す。同時に重厚な責任感が腹の底に溜まっていく感覚を覚え、彼の目つきは自然と鋭くなる。

 

「あの、これってどんな願いでも叶うの?例えば………………死んだ人を甦らせる事も?」

「勿論。それがあなたの望みなら」

「そっか、そうなんだ………!」

 

最後の1人がペンを止める。全ての人間の願いが今、出揃った。

 

「皆様、デザイアカードへの記入はお済みですね?」

 

その場にいる皆が頷く。

ツムリは微笑み、そして告げる。

 

「それでは運命の第一回戦を始めます」

 

神殿の景色が描き換わり、プレイヤー達はとある市街地へと投げ出された。

 

▪▪▪

 

そこは多数のホログラムに映像が映されている。ギロリはゲームマスターとしての仮面をかぶり、プレイヤー達が集結している映像を見つめる。

 

「君の出番だ」

隣には一点を大きくズームした映像が1つ。

それには退場したバッファ、吾妻道長と同じ学校、アビドスの制服を着た小柄な少女が1人に焦点が当てられている。

その2色の眼光はプレイヤーの中の誰よりも鋭い。

事前に仕入れた情報と寸分違わぬオーラを秘めている事は彼にもわかった。

 

「頼んだぞ。───小鳥遊ホシノ」

 

▪▪▪

 

転送は完了した。突如として切り替わった場所と服装に困惑する者、受け入れて備える者、その技術に興味を示す者の3つに別れて混沌を極める彼らの前にはジャマトのマークが彫られた建物が1つ。

 

「あれは…………? 銀行?」

 

「おいおい、ジャマトにも金銭文化があったとは驚きだな」

 

それぞれ別の場所にいる英寿と景和がその光景に反応を示す。

そしてその光景が何なのか、ツムリによる解説が始まった。

 

「運命の第1回戦は銀行強盗ゲーム! 最大3人に別れ、ジャマト達が運営する悪徳銀行からお金を回収してください!」

 

「強盗!?」

 

チーム分けはランダムであり、プレイヤー達には人数分の宝箱が支給されるという。

戦いは第2ウェーブまで行われ、制限時間内に奪いきれなかった者から脱落となる。

 

軽快な音声と共に景和の足元に1つのピンクの箱が出現する。中にはピアノやスクラッチやスピーカーといった音楽系の装飾がなされている、大きなバックルが入っていた。

 

「えぇ~、何か小さくない? それにこの服も可愛くな~い!」

 

後方から不満げな声が聞こえてくる。

振り返るとそこには桃色の長髪に、サバイバルスーツからはみ出た白い翼を持つ少女がいた。

彼女の頭上に輝くヘイローはどこか宇宙を思わせる神秘的なものだ。

その手には小さなバックル、言わばハズレアイテムが握られていた。

 

「あぁ…………、あの、よろしくね!」

「ん…………? あぁ、うん!よろしく!」

 

声をかけると彼女は笑顔で応じる。前回はその様な反応を聞ける場面は少なかった事もあり、どこか新鮮な光景だ。

 

「頑張ろうね!絶対に勝ち残ろう!」

「ふーん……? 良いの? これって1人だけが願いを叶えられるんでしょ?なのにそんな感じって、何か変じゃない?」

 

少女は目を細め、景和の瞳をじっと見つめる。

顔に浮かべられた笑顔はどこか彼に対する疑念を含んでおり、警戒の色が感じられた。

 

「そればそうだけど…………、でもまずはこの一戦を勝たないと!それにほら、これってチーム戦でしょ? だったら協力しようよ!」

 

景和は偽りを込めたつもりは無い。デザイアグランプリは本質的には蹴落とし合いである事は理解はしているつもりだ。

だがそれでも、このゲームがより良い世界を作るためのものだと考えているのも事実。最初からギスギスの化かし合いを行うよりも、協力という道を選ぶのが彼の性だった。

 

「───ふーん、そっか。まあ良いや! 私は聖園(みその)ミカ! 改めてよろしくね! 安心してね、私結構強いから!」

「あ、うん! 俺は桜井景和。こっちこそよろしく!」

 

時を同じくして別の場所。

英寿は同じ場所に転送された2人の少女に話しかけていた。

 

「よろしく。ま、気楽に行こう」

「うへぇ~、おじさんこういうのはもう厳しいんだけどなぁー」

「え、高校生ですよね……?」

 

1人は小鳥遊ホシノ。宝箱を開けつつ、自らの腰を叩きながらごちる姿はとても高校生のものとは思えない。

 

「これに勝てればどんな願いでも叶う…………! そうすればもう一々C&Cやセミナーの先輩達から逃げなくてすむ! それに一生楽して暮らせる…………! にヘヘヘ…………!」

 

もう1人の少女は黒崎(くろさき)コユキと名乗った。

どこか調子の良さそうな彼女は桃色の長髪に黄色のメッシュが入れられており、何故かウサ耳をつけている。

あれは間違いなく自前ではなく、後からつけたものだ。

 

「うへ~、君もしかして結構な悪党?」

「へぇ?やっぱ紛れ込んでるもんだな」

「いやいや、とんでもない!全然そんな事してません!」

 

実際はかなりとんでもない事をしでかしているのだが、本人に自覚がないため詳細は語られずじまいだ。

 

その他様々な場所に散らばったプレイヤー達。その姿をジャマト達が認識した瞬間、勝負は始まった。

 

「うわ、来た来た!」

「ちょ、待って…………」

 

プレイヤー達の中には配られたバックルを使用する事なく脱落していく者達もいる。

その中でも経験というアドバンテージを持つ者達や多くの修羅場を潜ってきた実力者達は最初の動きからして質が違う。

 

「よっと、ほっ!」

 

「たぁ!」

 

英寿は勿論、景和でさえも。

襲い来るジャマトを生身で退け、彼らはドライバーにバックルを装填する。

 

「変身!」《BEAT!》

「へ~ん、しんっ!」《ARMED HAMMER》

 

景和は姿は狸のタイクーンに。

そしてミカの姿は黄色の猫を模した、仮面ライダーナーゴへと変わる。

桃色のハンマーを見つめ、自らの姿に興味深々の様だ。

 

「猫?良いじゃん可愛い!」

「ビートってどんな能力だ?音?」

 

上半身にカラフルな装甲を纏ったタイクーンはその能力を考える。

しかし答えを出すよりも先に、ジャマトの攻撃が身体を揺らした。

 

「痛った!……しょうがない!行くぞ!」

《BEAT AXE》

 

彼は専用武器であるギター型の斧でジャマトに斬りかかる。

斧というだけあってそれなりの威力であるらしく、以前よりも簡単にジャマト達を蹴散らしていく。

 

「えい☆」

 

ナーゴも負けてはいない。渾身の力でハンマーを叩きつければ凄まじい勢いでジャマトを吹き飛ばしていく。

軽い声からは想像もつかない程に重い打撃音はそこらの人間の膂力を軽く超えている様に感じられる。

 

「うわ……、力強よ……」

「私、結構強いって言ったでしょ?」

 

異変を察知したジャマト達が銀行の中から次々と出てくる。

ジャマト達は皆、ビジネスマン風なスーツに身を包んでおり、それが徒手空拳の戦闘スタイルとどこかミスマッチを思わせる。

 

戦いはあちらこちらで行われている。当然英寿達にも襲い掛かっていた。

 

「変身!」《MAGNUM》

 

白い装甲が上半身に纏わせ、狐のギーツはジャマト相手に撃ちまくる。ただの乱射ではなく一発一発が急所を狙った一撃。

それを見たホシノは目を細める。

 

(成る程ね……。流石は不敗神話を築き上げるだけはある、か)

「変身……」《GREAT》

 

ホシノの姿が朝焼けを思わせる色合いと暗い緑が入り交じったの鷹の仮面をつけた姿へと変わる。

その仮面の上にオレンジと水色の縁色を持ち、視界部分をオレンジ色で覆っているマスクが取り付けられている。

 

「ありゃ、顔だけ?」

「……………………!?」

 

それ以外はほとんど変化が無い。固有武器と思われる長剣がある位で、後は黒のアンダースーツのみだ。

 

「おいおい、始めて見るバックルだな」

「ま、こういうのもあるって事じゃない?」

 

仮面ライダーファルスへと変身した彼女もまたジャマトに斬りかかっていく。

基本的には銃火器が扱われるキヴォトスにおいて剣なんて得物(もの)は現実離れした武器である。

彼女もまたアサルトライフルによる戦闘が主なのだが、それを感じさせない程の立回りを披露している。

それこそ、あのギーツが息を飲む程に。

 

「アイツやるな……」

 

ファルスとギーツが巧みな動きでジャマト達を蹴散らしていく一方で、コユキが変身した兎の仮面ライダー、ラビラビは必死で逃げ回っていた。

 

「んぎゃーー! 無理無理無理無理!! こんな武器じゃ絶対ムリぃ!何で水道管!? せめて武器ちょうだいよぉ!」

 

彼女が装備しているのはアームドウォーター。これにも一応水辺近くであれば水圧が増す、という効果が付与されているのだが残念ながらこの場では何の恩恵も受けられない、ただの短く柔軟性もないただの管兼水鉄砲だ。

 

「うええええぇん!! 何で私だけこんなー! 誰か助けてくださーい!!」

 

「おいおい…………」

「うへ、開始早々災難だねぇ」

 

見かねた2人が助けに入り、3人一塊で歩を進めていく。

そして目の前のガラスを砕き割り、銀行の中へと突入する。

 

「動くな、大人しくしろ」

「両手を上げて、地面に伏せてねー」

『ジャジャ!?』

 

銃と剣を突きつけられたスーツを着たジャマト達。彼らが大人しく仮面ライダー達の脅しを受けるはずもない。彼らは拳を握り締め、一斉に彼ら目掛けて飛び掛かった。

 

 

 

「一気に行こう!」

 

タイクーンが胸部のスピーカーから大音量をながし、ジャマト達を牽制する。耳を塞いで立ち止まった所をナーゴが粉砕してゆき、驚く程順調に進んでいく。

 

「よいしょ、と☆」

 

ドゴンッ、と豪快な音が響く。タイクーンの視線の先にはハンマーを用いる事なく、拳でコンクリートの壁を発泡スチロールの様に砕いていくナーゴの姿が映っていた。

 

「えぇ…………、素手で?」

「へぇー、ジャマトも仕事するんだ?」

 

少々引き気味なタイクーンを気にもとめず、彼女は呟きながら近くのジャマトを葬る。

 

「あ、あの奥に金庫があるのかな?」

「そうみたいだね! よし!」《FUNK BLIZZARD!》

 

ビートアックスのドラムボタンを押せば軽快な電信音声が流れ出す。

すかさずレバーを押して演奏開始。ファンクなリズムと共に、凍てつく鼓動が周囲を包む。

 

《TACTICAL BLIZZARD》

「はっ!」

 

タイクーンがビートアックスを振るう。冷気を発するメロディーを聞いたジャマト達を凍てつかせ、1ヶ所に集める。

 

「おっ、良いね~☆」《HAMMER STRIKE》

 

エネルギーを纏ったハンマーを振り下ろされたジャマト達は、一様に氷片と化していく。

 

「金庫発見、よっと!」

 

そのままの勢いで金庫を砕くと、中から大量の紙幣が。しかしその全てにデザイアグランプリのロゴが入っている。

 

「これ、何?」

「アイツらこんなの集めてたの?趣味悪ーい」

 

何はともあれミッションクリアだ。運営からの通知が入り、2人はサロンへと帰還した。

 

▪▪▪

 

「ぶへーー! 疲れたーー!」

 

サロンには既にミッションをこなした者達が寛いでいた。

とはいえその様子も千差万別。どうにかジャマトを倒したらしきものも居れば、余裕そうに雑談をする者もいる。

 

 

トリニティが誇るスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズと言えば当然後者の様だった。

 

「お前、ほとんど何もしてないだろ」

「うぅ! だって、あんなに強いなんて聞いてませんよ! というか私だけ装備格差ありすぎです!私だってロボみたいになってみたい!!」

「あー……、あれか」

 

コユキのぼやきに英寿は少し同調する。思い浮かべるのはファルスが使用していたバックル。

デザイアグランプリを幾度と戦ってきた彼が今まで見てきた大型バックルはマグナム、ゾンビ、ビート、ニンジャ、ブーストとあと数個。

少なくとも、『コマンドツインバックル』なんてものは見た事が無かった。

突如あらわれた未知のバックル。訝しまずにはいられない。

 

彼が顎に手を当てていると、そこに景和達も合流する。

 

「ようタイクーン。お前もクリアしたか」

「うん。けどまだ第一ウェーブなのに……もうこんなに」

「まあ1回戦とはいえ甘くない。ふるい落とされる奴も多いだろうな」

 

景和は頬に汗を浮かべて周囲を見渡す。

神殿に集められた時点では30人以上はいたであろうプレイヤー達も既に半分以下。

わかっていた事ではあるが、やはり過酷な戦いであるということを再認識させられる結果だ。

 

「あれ? シスターフッドのスター君がどうしてここにいるのかな?」

 

そう言って英寿の前に立ったのはミカだ。その顔には笑顔が浮かんでいるが、どこか物々しい雰囲気を孕んでいる。

 

「おいおい……まさかティーパーティーの1人が御出座しとは、驚いたな」

 

英寿の顔に少ないながらも驚愕の色が浮かぶ。

 

ティーパーティー。その言葉が発せられた事でサロン内にどよめきが起こる。

それも無理からぬ事だろう。

彼女、聖園ミカが所属するその組織の名を知らない者などキヴォトスにはいないだろう。

 

学園都市屈指のマンモス校であるトリニティ総合学園を纏めあげる3人の生徒会長達。お茶会の名を冠するそれはトリニティの秩序と平和の象徴とされており、その1人である彼女の名もまた、聞いて大した反応を示さなかった景和が異端であると言える位には売れているのだ。

 

「それで? 生徒会長様が何でこんな場所にいるんだ? その立場に居れば大抵の物は手に入るだろうに」

「それはこっちのセリフ。あれだけの名声が手に入ったのに、これ以上何を望むわけ?」

 

まるで火花が散っているのではと錯覚する程の雰囲気を放ちながら、両者は距離を詰めていく。

ただならぬ雰囲気に集まる視線。

「ちょっと二人とも…………!」

 

景和が間に割って入ろうとしても二人、特にミカは止まらない。英寿に対する視線は道長とはまた違う憎しみを向けている様にも見える。

 

「うへ、早速衝突~?元気だね~」

 

重く沈む様な空気には不釣り合いなほんわかとした声が響く。三人は一斉に視線を向けると、どこか戸惑った様な表情のホシノが立っていた。

 

「でも程々にしといた方が良いよ。ここで暴れたら失格みたいだしね」

 

ホシノのその言葉を受けて、ミカは漸く殺気を引っ込める。ホ、と息を吐く景和。英寿も近くの椅子に座り直し、水を飲む。

その隣にホシノが腰かける。

 

「でもおじさんとしてはあの子の意見もわかるかな。……君はどうしてここにいるの?」

「聞いてどうする」

「別に? ただの好奇心だよ」

 

そういって微笑む彼女の瞳は静かなものだ。ミカの様な荒々しさはどこにもないという風に見える。

しかし、英寿にしてみれば彼女の奥底に『何か』があるのがわかった。

 

「……探しものだよ。スターになっても見つからなかったからここにいる。これで満足か?」

「ふーん……」

「で? あんたは何でここに来た?」

「……大切なもの取り戻しに、かな」

「……そうか」

 

▪▪▪

 

「それでは皆さん、第2ウェーブです。蓄えられた闇金を使ってジャマトが強化されています! 皆さん、くれぐれもご注意してください!」

 

「ぐっ………………! 本当だ、強くなってる!」

 

ビートアックスで放たれた砲弾を砕きつつ、タイクーンが苦悶の声を漏らす。砲弾とはいってもキヴォトスで日夜使用されているそれとは格が違う。変身してスペックは大幅に向上しているにも関わらず、腕が痺れてしまう程だ。

 

ナーゴも武装したジャマトには苦戦を強いられているらしく、膝をついている。ハンマーの一撃ではもう有効打を与えられないのか、ジャマトは多少ダメージを受けている風ではあるが倒すまでには至らない。

 

「あ、そうだ!」

 

何かを思いついたのか、彼女はタイクーンの下へと走りだす。そして彼のドライバーに取り付けられているビートバックルを唐突に奪い取った。

 

「ちょっと借りるね?」

「え!? ちょ、ダメに決まってるでしょ!? 返してよ!」

 

彼の抗議に耳を貸す事なく、彼女はハンマーバックルを投げ捨て、ビートバックルを装填する。

 

《BEAT》《READY?…………FIGHT!!》

 

ビートフォームの装甲を上半身に纏い、ナーゴは駆け出す。ロックな音を掻き鳴らしながら、迫るジャマト達に向けて武器を振り回す。それだけでジャマト達は吹き飛んでいく。少なくとも、タイクーンが使用していた時とは比べ物にならない強さを発揮している。

 

とはいえ、タイクーンはそんな事を気にしている場合ではない。エントリーフォーム、つまり仮面ライダーとして『裸』の状態では倒せるものも倒せない。

手元にあるのは彼女が投げ捨てたハンマーだけ。これでは強化されたジャマトを相手取るには不十分だ。

 

「どうしよう、何とかしないと…………!」

 

何か無いかと見渡していると、その場の一点に目が留まる。そこには一体のジャマト。しかも他の個体とは異なり、ヘルメットにツルハシを持ち、タンクトップを着ている何とも奇妙な存在だ。

それはタイクーンと目が合った瞬間、勢いよく襲い掛かってきた。

 

「……っ! 来るなら来い!」《HAMMER STRIKE》

 

降り降ろされたツルハシを避け、必殺技で殴打。それだけでそのジャマトは爆散した。

 

《SECRET MISSION CLEAR》

「え?」

 

頭の上に出現した箱。その中身は彼も知らない新たなバックル。黄色の、どこか工事現場を思わせるそれは今までの大型バックルよりも更に大きく感じられる。

そして3つの小型バックルが同梱されている。紛れもなくアタリだ。

 

「何だかわからないけどラッキー!」《SET WARNING》

 

警告ブザーが鳴り響くといういつもとは異なる音声だが、それを気にしている暇などない。タイクーンはすぐさまそれらを装填し、バックルのレバーを引く。

 

《WOULD YOU LIKE A CUSTOM SELECTION!》

 

そのフォームの名はパワードビルダー。新たな力を得たタイクーンは走り出した。

 

 

 

「よっと。お、きたきた~!」《FULL CHARGE》

 

ファルスが残るジャマトを斬り捨てた時、レイジングソードから電子音が流れる。彼女は点滅しているレバーを抜き取り、バックルとしてドライバーの左部分に装填する。

 

《TWIN SET》《TAKEOFF COMPLETE! JET & CANNON》

《READY? ………………FIGHT!》

 

通常のバックルとは違う、腹の底に響く様な重い音声。上半身には肩に2対のキャノン砲が乗せられた銀と水色の装甲、下半身には銀とオレンジの装甲を纏っている。

他のフォームとは違う、その重厚な姿には所謂ロマンというものが感じられ、見る人が見れば大喜びするかもしれない。しかしファルスにそのような趣味は無い。ただ自らの使用する武器の性能の向上を喜ぶだけである。

 

「ああ! またそれズルい!」

 

後方でラビラビが騒いでいるが無視する。コマンドフォーム、そのキャノンモードへと姿を変えた彼女はバイザーを通して目標に狙いを定める。

仮面の奥の視線が鋭さを増していく。その先にはジャマト銀行、そして背を向けているギーツの姿。

 

「………………」《LOCK ON》

 

キャノン砲にエネルギーが充填されていく。その奥に光の粒子が収束していき、───一瞬、躊躇。

しかし、すぐにそれらは解放された。

《COMMAND TWIN VICTORY!》

 

「………………っ!」

 

直後、凄まじい威力の爆発が発生する。銀行はほとんどが破壊され、中にいるジャマトも全滅。もうもう煙が立ち込め、それが晴れる時をファルスは待ち続ける。

 

「………随分と乱暴だな」

「───ああ、ごめんね?慌てちゃってつい」

 

ギーツとファルスが睨みあう。ギーツからすれば巻き込まれそうになったのだから怒るのは当然だ。

ファルスは、今どんな顔をしているのだろうか。それは彼女自身にもわからない事だった。

 

《MISSION CLEAR》

 

戦いの終わりを告げる鐘がどこか空虚に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

「邪魔だからどいてくれない?」《TACTICAL THUNDER》

 

雷撃に変換されたメロディーがジャマトの群れを穿っていく。ナーゴは第1ウェーブ以上に積極的に突き進み、銀行の扉を殴り壊す。

 

「ヒーロー登場☆、って感じかな?」

「ケトヅ!ツジ!」

 

中で待ち構えていたジャマト達が一斉に銃弾を乱射する。視界を埋め尽くす弾幕に対し、彼女は炎熱で応戦する。それは大部分の弾丸は吹き飛ばしたが完全に防ぐには至らず、ある程度の攻撃は喰らってしまう。

 

「ああ、もう……。痛いなあ……」

 

彼女の声に含まれる苛立ちが大きくなっている。僅かながらも痛みを発する箇所に手を当て、アサルトライフルを構えているジャマト達を見つめる。

 

「もうこれでも私お嬢様なんだよ? もうちょっと丁寧にもてなすべきじゃない?」

 

文言とは裏腹の低い声。苛立ちのままだという事がよくわかる程に乱雑に武器を振るい、手前のジャマトの頭部を破壊する。

 

「ジャ……!」

 

リーダー格と思しきジャマトが一歩後ずさる。まるで恐ろしいものを見るかの様に。

その行為がナーゴの癪にひどく触った。

 

「ええ、何それ。まるで私が悪役みたいじゃん」

「「「「ジャッ!!」」」」

 

彼女の発する濃厚な殺気を感じ取り、部下らしきジャマト達が一斉射撃を開始する。

再び解き放たれる弾幕。

それを防いだのはナーゴではなく、タイクーンだった。

 

「危ない!」

「……!」

 

彼女の口から間の抜けた様な声が漏れる。巨大なハンマーを手にした彼は開口一番、彼女に安否確認の声を飛ばす。

 

「大丈夫!? ……もう、勝手にガンガン行かないでよ!」

 

ハンマーを盾に弾幕を防ぎつつ、とんだお嬢様がペアになったものだと彼はぼやく。最初は上手くやれるかと思ったら、いきなりバックルを強奪されるわ追いて行かれるわもう散々だ。

 

「……どうして助けたの?」

「え?」

 

ナーゴからそんな疑問が自然と漏れ出た。彼にとって自分は敵でしかないはずなのに、どうしてなのか。

今の彼女には全く考えが及ばなかった。

 

「俺の理想のためだよ」

 

答えは至極単純だ。彼は先の戦いで多くの死を見てきた。間に合わなかった。だから救う。例えそれがどんな者でもまずは助ける。

ただそれだけだ。

 

「…………」

 

彼の言葉が彼女にどう響いたのか。もしかしたら戯言として片づけられるのかも知れない。所詮は敵同士、競う相手には違いないのだから。

しかし、あの日抱いたこの理想は生半可な事では消えないだろう。

 

「……行こっか」

 

ナーゴは歩き出す。その仮面の下にはどのような表情が隠されているのか、タイクーンには知る由もない。

 

 

 

▪▪▪

 

「皆さん、お疲れ様でした。第1回戦は終了です!」

「はあ、疲れた……」

 

景和がソファに背中を預ける。全身から溢れ出る疲労感によって動く気力は既に無い。今回のゲームはいつにも増してハードだったと感じる程に疲れていた。

 

「あれ、そういえばミカさんは?」

「もう帰ったよ」

「ええ!? 俺のビートバックル借りパク!?」

 

そう言って辺りを見渡すが居るのはアイスティーを飲む英寿と同じ様に伸びているコユキ、そしてコーヒーを啜る犬耳の少女。彼女は最初にも見かけたヴァルキューレの生徒だ。

 

「生き残ったのは6人か」

「たった6人……」

 

第一ウェーブ終了時から更に減り、今や片手で数えられる程度。前回とほとんど変わらない人数にまで絞り込まれた。

ここから更に減っていく事を考えると憂鬱になってしまう。

 

戦いは始まったばかり。これからも困難な試練が待ち受けている事だろう。それを乗り越えた者だけが"デザ神"の座を手に入れる。世界を造り変える"神"の座はそう易々とは手に入らない。

 

 

 

▪▪▪

 

「強いね……彼」

 

小鳥遊ホシノは薄暗い部屋の中で呟いた。その表情はいつもの彼女を知る者ならば別人ではないかと思ってしまう程のオーラを放っている。

もしくは、昔に戻った、と考える者もいるかも知れない。

 

彼女の目の前の映像には生き残ったプレイヤーが映し出されている。

思わず目を疑う程の大物ばかりで、さしもの彼女も緊迫感に駆られてしまう。

否、参加者がどうであろうとこの感覚が消える事は無いだろう。アビドスの生徒会長が死亡した時の様に。

 

「……ほんと馬鹿だよね」

 

散々大人に弄ばれてきたにも関わらず、彼女が縋るのは結局大人が垂らした糸だ。他人を蹴落とす事を強要され、いつしか蜘蛛の糸の様に千切れてしまうのではないかと言い様の無い不安に駆られる。

 

それでも奴らの、黒服の言う通りにするしかない。在りし日の光景を取り戻すために、愛おしい後輩達の未来のために、そして狂おしい程に恋焦がれてしまった彼を取り戻すために。

 

暁のホルスはその目を光らせ、狩りに行く。




次回こそは絡みます。ご安心を!
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