DESIRE ARCHIVES 作:ベロベロベ
次回からは話数も増やしていこうかなと思います。流石に2話区切りはもう無理。
「調月リオ……!?」
「え、え? カンナさん達の知り合い?」
狼狽える景和にカンナの視線が刺さる。何故知らないのか、と彼女は呟き、言葉を発する。
「彼女はミレニアムサイエンススクールの生徒会長だ。つまりこの学園のトップという事になる」
ミレニアムの生徒会、セミナー。その頂点に君臨する彼女は『
その異名は決して誇張ではない様で、先程からコユキはずっと震えている。
「私の質問に答えてくれないかしら。何故、あなた達はここに? ここは連邦生徒会から直々に進入禁止令が出されている区域よ。勝手に立ち入っていい場所ではないわ」
彼女の声は鋭く、冷たい。思わず萎縮してしまうだけのオーラを僅かな口数だけで放ってくる。
景和とカンナの頬を冷や汗が伝い、コユキは大量の汗を噴き出している。
答えたのは、カンナだった。
「我々は調査依頼を受けたのです。ミレニアムの廃墟に何かがいる、と」
「調査……? 誰から?」
「……シャーレの先生から」
真っ赤な嘘だ。しかしこの廃墟に先生が来ている事は事実。部の悪い賭けではあるが、それでもまだ悪くない嘘ではあった。
何にせよ、デザイアグランプリの事を言う訳にはいかない。
バレれば失格の危機に陥る。何としてでも誤魔化さなければならないのだ。
「そして彼女、黒崎コユキさんにはここの案内をお願いしていました。……しかし我々はここに閉じ込められ、先生とはぐれてしまい、挙句に彷徨っていたのです」
「…………」
リオは顎に手を当て、思考する。
まず可能か不可能かで言えば、可能ではある。シャーレの事は彼女も聞き及んでいた。
自治区内での制限無しの調査及び戦闘行為の認可を持つシャーレならばここに入る事は可能だ。
次いで尾刃カンナが居る事にも納得はいく。例えヴァルキューレ公安局長の彼女であってもシャーレならば加入させる事は可能だ。
しかしそれでも腑に落ちない事が幾つもある。
「…………私は何も聞いていないわ。シャーレに、先生にどれだけの権限が付与されるからといってもせめて生徒会長である私に話を通しておくのが筋ではなくて?
ましてや、ここはあの廃墟よ?」
「……それは、そうかもしれませんが。それを行うのは先生ですので。我々は何とも……」
「それに、コユキがここに来ているのもおかしいわね。彼女は現在独房にて反省中のはずだもの」
「ええ!?」
景和が声をあげ、全員の視線がコユキに集まる。
「えぇっと、そのぉー…………」
「彼女はミレニアム内で指名手配もされていた問題児。幾らシャーレでも彼女を直接連れ出すのはセミナーが黙っていないはずよ」
例えそれが先生と信頼を築いているユウカであってもだ。
彼女はそれだけの事をしているし、元セミナーという経歴故に矯正局にも送れないという事情を抱えている。
それだけ扱いが難しい彼女を案内人としてわざわざ連れ出すだろうか。
別に他のセミナー役員を連れ出せば良いし、仮に無理でもヴェリタスや特異現象捜査部などの廃墟に精通している者達は他にもいる。
例え他が全て真実だったとしても、この1点だけはおかしいと言わざるを得ない。
「……………………っ!」
「もう一度聞くわね? あなた達はここに、何をしに来たの?」
沈黙が訪れる。
もう言い逃れの材料は残っていない。しかし真実を告げる訳にはいかない。
どうすれば良いのか。景和とカンナが頭を悩ませていた時、ツムリが前に出た。
「私達はここに現れた怪物達を倒しにやってきたのです」
「ツムリさん!?」
彼女は語る。勿論全てではない。デザイアグランプリというゲームの事は巧妙に伏せ、ジャマトと呼ばれる怪物を倒しに来ただけの者だと。
そして何故か閉じ込められてしまったのだと。
「尾刃カンナ様を始めとする様々な方に協力して頂いています。黒崎コユキ様を頼っているのは……こちらにも事情があります」
「その事情を聞いているのだけれど」
「怪しいのはお互い様では?あなたこそ、護衛の1人もつけずにこんな所で何を?生徒会長とはいえ、いくら何でも不用心でしょう」
リオの表情は変わらない。しかしここで漸く僅かな陰りを見せた。
「護衛も、護衛用のロボットも居たわ。……でもロボット達は突如として機能停止。1人いた護衛のメイドも謎の壁に分断されてしまったのよ」
(メイド…………?)
「我々もその壁を解除したいのです。ここは1つ協力しませんか?」
ツムリとリオの視線がぶつかり合う。数秒間の張りつめた沈黙の後、リオが口を開いた。
「そうね。ここで言い合っていても埒があかないもの。脱出までは協力しましょう」
景和はホッと息を吐く。ここで生徒会長とぶつかってゴタゴタに…… などという事にはならずに済んだ事に安堵する。自分のせいで百鬼夜行に迷惑がかかるなど笑えない。
最も、ここから外に通報するという手段が取れるのは不明だが。
「それで手がかりは見つかっているの?」
「え、ああはい。これが関係しているのではないかと。このチップが出口らしき場所にあった機械の認証口にピッタリのサイズなんです。後2つ必要ですけど……」
リオは景和の説明にそう、とだけ返す。
残る2つのチップはどこにあるのか。それはまだわかっていない。
全員が頭を悩ませていた、その時だった。
遠くから凄まじいまでの爆発音が響いてきたのは。
▪▪▪
――side:GEATS
一体何が起きたのか、ギーツにはわからなかった。
周囲には炎と粉塵が舞い上がり、辺り一面は焼け野原と化している。
辛うじてわかる事は『何かが目覚めた』という事。それも決して目覚めてはいけない何かが。
咄嗟に変身したために身体に大きな支障はない。
しかし他の面々はどうなったのか。特に先生。彼女はヘイローもない脆弱な肉体しか持っていない。この規模の爆発に飲まれればまず無事ではすまないだろう。
「痛たた……!」
「先生!無事だったか!」
先生は血が滲んだ額を手で抑えつつ、煤で汚れた服装空いた手で払いながら立ち上がる。
幸いどこにも大した怪我は見当たらない。
「うん、何とかね……。それより他の皆は……!?」
彼女の眼前には瓦礫の山が広がっている。しかし彼女達が無事である事はすぐに確認出来た。
ナーゴとファルスが咄嗟に庇ったらしく、ゲーム開発部の面々も問題なさそうである。
「一体何が…………!? また化け物の仕業……?」
「いや…………」
ギーツはミドリの疑問を否定する。先程起きた大爆発はジャマトのものにしては規模が大きすぎる。
勿論ラスボスや上級個体ならば出来る可能性も無くはないが、乱入してきた個体は全て低級のジャマトばかり。
少なくともこの規模の攻撃出来る奴らではない。
であれば、考えられるのは1つ。
「あの椅子に座っていたやつの仕業だろうな」
「椅子って…………さっきの?」
思い起こされるのは赤紫色の瞳をした少女の姿。最もアレを単純に少女と呼称すべきなのかは疑問ではあるが、それでもゲーム開発部と似た体躯をした少女の姿ではあった。
ギーツの声は非常に重い。彼はこれまでの経験によるものか、本能レベルで察していた。
アレと戦ってはいけない。アレは人類の埒外にある存在であると。
「とにかくここから離れるぞ!」
先生の腕を取り、彼は駆け出す。
ここから一刻も速く離れなくてはならない。その衝動が前身を駆け巡り、心臓を激しく揺さぶっていた。
その行動を察知していたのだろうか。
ジャマトすら消し飛ばした爆発の中心からソレが空へと舞い上がる。
「現状把握。まだ来るべき時ではありませんが……、障害となるものは排除しておくのが妥当でしょう」
ソレは淡々と言葉を紡ぐ。ここにはいない誰かを見つめるかの様に視線を宙に浮かべた後、離れるべく走っている6人を視界に入れ、ソレは口を僅かに動かす。そこから発せられるのは人間では捉えられない音波。
「…………!? マズイッ!!」
しかし、ギーツだけはそれを明確に察知した。そして叫ぶ。
その叫びによってナーゴとファルスも避ける事が出来た。
地面が裂けるという異常事態を。
「な…………!?」
ファルスの戦慄した声はその音によって掻き消される。
今起きたのはあくまでも一部分。全てが裂けた訳ではない。しかしそれはとても通常の兵器などで起こせるものでない事も事実であり、それ故ただ純粋に恐怖する。
そして、起こるのはそれだけではない。
「な、何あれ…………?」
ファルスが抱えていたユズが声を漏らす。
そして彼女もそれを認識した。
それは一言で言い表すならばオカルト雑誌などに登場するエイリアンだ。
灰色と黒を基調にした球体の様なデザインに爪先の尖った2本の機械的な足。薄紫色の配線数本が触手の様に伸びている。
どう見ても現代にあるべきモノではないと、その異様な雰囲気から察する事が出来るそれが地面の中から夥しい数湧き出てくるその光景は見る者全てに生理的嫌悪と恐怖を煽るだろう。
実際、全員が言葉を失っていた。
「逃げるぞっっっっっっっっ!!!!!」
未だ嘗て聞いた事がない様な、絶叫にも似た声をギーツがあげる。その音波を言葉として認識するよりも速く、仮面ライダー達は動いていた。
光線を向けてくるそれらを最短で薙ぎ払いつつ、背中に迫る圧倒的な圧力を感じながら彼女達は駆ける。止まれば死んでしまうとわかっているから。
その脅威はジャマトとは比較するのも馬鹿しい程だ。
「ねえっ、何アレ!? まさかアレも……」
「いや、あんなものは俺も知らない!! 少なくとも今までのゲームにあんな敵はいなかった! 大体あれはジャマトじゃない!」
そうは言いながらも、ギーツはどこかに引っ掛かりを感じていた。
本当に何故かはわからない。しかしどうしても感じてしまう、この既視感はなんなのか。
「皆っ、落ち着いて!」
混沌とした戦場に凛とした大人の女性の声があがる。彼女の声はどことなく心地よく、熱した心と脳によく響く。それ故全員が耳を傾ける。
「私が指揮する! ……英寿、降ろしてくれる?」
「良いのか……?」
「うん、大丈夫。安心して、
大丈夫なのか。心配そうに見つめる生徒達に笑顔を見せ、宙に浮かぶソレを睨む。
正直、勝てと言われれば難しい。しかし、この場から逃げる方法くらいは既に彼女の頭で出来上がっていた。
「どんなゲームにも必ず攻略法がある……! 突破するよ、このクエストを!」
そこに居たのは武装が無いにも関わらず、圧倒的な存在感を放つ大人の姿があった。
▪▪▪
――side:TYCOON
廃墟に異変が起きている。誰しもがそれに気づいていた。爆発音だけではない。揺れる地面や突如として荒れ始めた天気など、異常な点が幾つも見つかっている。
何よりも異常なのはジャマト達の反応だ。仮面ライダー達から見たジャマトとは独自の言語体系などを持ちながらも、人間とは決して相容れぬ敵である。容赦なく人間の命を刈り取る正体不明の怪物。
そんなジャマト達は今、かつてない程に荒れ狂っていた。
それは獲物に飢えた獣としてではない。太刀打ちのしようもない圧倒的恐怖に脅え、慄く。そんな暴れ方だ。
景和達には目も暮れず、ただ狂乱するだけ。
「ジャ~~~~~っ!!」「クトアダ~~~~!」「ビレレポロ~~~!」
とあるジャマトは膝をつき、とあるジャマトはうずくまる。デザイアグランプリという舞台において極めて異例であるその光景に、仮面ライダー達は困惑を隠せない。
「これは一体……?」
「ジャマトが脅えてる……。どうして……?」
「そんな…… これは、あり得ません……!!」
ツムリから困惑と恐怖に満ちた声が漏れ出る。運営のナビゲーターである彼女にとっても想定外であるこの事態に、彼女はゲームマスターへ指示を仰ごうと連絡をかけようとする。
しかし、一向に連絡は繋がらない。まるでジャミングでもかけられているかの様なトラブルに彼女の顔はどんどん青ざめていく。
「ど、どうしましょう…………。ジャマーエリアそのものに、異変が起きているとしか考えられません……。これではデザイアグランプリどころでは……」
「嘘でしょ……?」
ツムリの呟きを聞いた全員が事態を正確に把握できた訳ではない。しかし、火を見るよりも明らかな事実が1つ。
ここから出られなければ、無事では済まない。
「何とかして脱出しなければ……!」
「残るアイテムは1つ……。英寿君達がどうなってるかだけど……」
この場の全員が取れる選択肢は英寿達を信じて出口に向かうか、アイテムを捜索するかの2つに1つ。
決断したのは、景和だった。
「……出口に向かおう。英寿君ならきっと大丈夫。デザ神常連だし、きっと何とかなってるよ!」
「……信じられるのか?」
「断言は出来ない。けどこのまま当てもなく探し続けるよりは、確率は高いと思うんだ」
景和のその言葉に異を唱える者はいなかった。唯一リオだけは何かを言いたそうに口を開こうとしたものの、優先順位を鑑みてかそれを止める。
今何よりも優先すべきはここからの脱出だ。
全員が出口の方向へと足を動かす。
しかしここで新たなる異変が巻き起こった。
ガタンッ、と何かが開く音がする。それは近くにあった廃工場の扉が開いた音だった。長年稼働していなかったとは思えない程滑らかに開いたその先には球体型の機械が鎮座している。
重々しい起動音と共にその球体部分が開かれ、オレンジ色に光る核部分を露出させた。
同時に飛び出してくるのは多数の機械生物や戦闘用ドローン達。それらは銃口を景和達にむけ、一斉に解き放った。
「避けろ!!」
カンナの声が響くと同時に全員が地面を蹴って各々の近くの瓦礫に身をひそめる。しかし銃弾の嵐が止む事はなく、確実に瓦礫を削っていく。
「なになに、何なの!? もういい加減にしてよ!」
景和が悲鳴染みた声をあげる中、隣にいたリオはその紅い瞳を存分に見開いていた。
その奥の大部分を占めるのは恐怖。そして残る僅かな好奇心が彼女の心を大いに揺さぶっていた。
「あれは、あれはまさか……!」
元々この廃墟にまつわる怪談話は幾つも存在していた。
例えば夜中に謎のロボットが何かを運んでいる。誰もいないはずの工場で夜な夜な何かを制作する音がするなどのありふれた
しかしそれらは一概に戯言と切り捨てるには妙に真実味のあるものもあった。勿論墓に比べれば程度のものではあるが、それでも1%でも可能性のある限りは見逃さないのが調月リオという人間であり、それは独断で専門の組織を設立するほどだった。
そして今、彼女は自身の考えが間違いでなかったと確信する。最もそれは決して喜べる様な事ではなかったが。
『――――――――――――』
かつてこの場所で研究していた組織が僅かに残した記録によれば、それは『慈悲』であると説いたらしい。
領域を犯した者、敬虔さに欠ける不届きの罪を数え、慈悲深き苦痛を持って断罪する裁定者。
神の存在を証明し、新たな神を創り出すべく造り出された
「
機械化されたジャマト達が生産されていくその光景は悍ましいを通り越してどこか神秘的な雰囲気を感じさせる。
一切の殺気も害意も無き裁定が仮面ライダー達へと差し向けられる。
「ぐっ…………!」
「1体1体が滅茶苦茶強い……!!」
鋼鉄という名の福音に浸食されたジャマト達は元が最底辺の階級である筈の個体ですらも通常ジャマトの上級に匹敵する強さを有している。
そのレベルの敵が今尚生まれ続けているという事実は戦意を減衰させるには十分なものであった。
「あっ、が……」
ラビラビが吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。変身が解除されたコユキの身体には無数の傷がつけられており、そこから発せられる痛みが彼女の立ち上がる気力を枯渇させた。
「うぅ……!もう、無理です……! あんなの勝っこありませぇん!」
彼女は瞳に涙を滲ませて叫ぶ。
元より大した戦闘力を持たない彼女にとってこの戦闘は荷が勝つどころの話ではない。何よりも彼女には理想に対する執念が、致命的に不足していた。
「私はただ楽して生活したかっただけですもん! 先輩達に追い掛け回されずに思う存分楽しみたかっただけですもん! こんな死ぬ様な思いしてまで戦いたくありませぇん!」
黒崎コユキという存在を例えるならば、『さいごのカギ』だ。どんな扉でも開けられる。しかし、『開けられる』だけ。その先に何が待ち受けているのか、強力な敵が居た時にどうするのか。そういった危機感が彼女には致命的に欠落していた。
コユキはただギャンブルを楽しめる環境と資金を欲しただけ。彼女にとってデザイアグランプリもただ宝の前の扉に過ぎなかった。そしてそれを開いた先に立ちはだかるのは、強大という言葉すら生温いボス。
己の才能に酔うだけの彼女には到底太刀打ち出来ないだろう。
故に、ただ脅えて涙を流す。
カギはあくまでカギでしかない。剣をとって立ち向かえる機能があるわけではない。
彼女はどこまで行ってもカギでしかないのだ。
「…………っ!」《GIGANT SWORD》
タイクーンがコユキを守るため、ジャマトを巨大な剣で斬り裂く。金属音だけを響かせ仰け反るジャマト。しかし然程ダメージを受けていないらしく即座に動き出す。
《SECRET・MISSION CLEAR》
携帯端末から発せられるアナウンス。『他の参加者を助ける』というミッションを達成したという知らせと共に現れる緑の箱。
その中には紅の切り札が収まっていた。
「ブーストバックル……!」《SET》
下半身に着けられた紅い装甲。通常のバックルに比べて遥かに高いそれを使用する事で撃破数は増えていく。
しかしそれでも減るよりも増える方が速いという事態は覆らない。
「クソッ、こんな奴らをどう倒せと言うんだ…………っ!!」
「ゲームマスターの言ってた特別アイテムさえあれば、どうにかなるかも……」
「どこにあるんだ!」
倒すペースの何倍ものスピードで増えていく
最早タイクーンにもロポにも兆しは無かった。
当初は変身したジャマトに驚いていたが、最早そんな事がどうでもよくなる程の大ピンチだ。
「これは仮説になるのだけれど」
そんな折、リオが口を開いた。
「ケセドを停止させればこの怪物達も停止するかもしれないわ」
「え……?」
彼女の仮説は実にシンプルなものだった。司令塔たるケセドを壊せばいい、それだけの単純軽快な策。
「それはそうかも知れない、がっ!そもそもどうするんだ!?この集団相手に、頭数が全く足りてないぞっ!」
「……そうね。可能性は低いでしょう。でも、0ではないわ」
リオはコユキに向き直り、彼女の瞳を正面から見据える。
「コユキ、あなたの腰のソレを頂戴。私がどうにかしてみせるわ」
「……え?」
「…………可能なのですか?相手は予言者……、神秘の一端を担う存在なのですよ?」
ツムリの疑問に彼女は答えない。明確な結論など、ここで出せる筈もない。何せ初めて使う武器であり、彼女自身真正面から戦うタイプではないのだ。まさしく未知の領域。
しかし、そうだとしても。
「動かない理由になるのかしら。私はミレニアムサイエンススクールの生徒会長なのよ?ミレニアムを、キヴォトスを守るために戦うのはおかしな事かしら?」
彼女は不可能と呼ばれる事象に幾度となくぶつかってきた。
いつの時代でも未知への挑戦は不可能であると言われ続けてきた。人は未知を恐れる。しかし人は未知に踏み込まなければ進めない。
そして、それを解き明かすのが、学者と呼ばれる者達。彼女もまた、自身の能力を以てしてあらゆる未知を既知へと変え、己が力として支配してきた。
故にこそ、調月リオはビッグシスター足り得るのだ。
「1%の閃きを100%の現実に昇華させる。それが私よ」
『わかった。君の参加を認めよう』
「ゲームマスター!?繋がったのですね!」
『ああ、どうにか制御権を奪い返せた』
コユキの携帯端末からノイズのかかった声が響く。リオはそれを手に取り、ジッと見つめる。
「やはりただの調査隊ではなかったのね。……あなた達は何者か、ゲームというのはどういう事なのか。疑問はあるけれど、今はよしましょう」
『感謝する。しかしこちらにも新規のドライバーを用意するのが難しくてね。君が参加するというのなら、仮面ライダーラビラビからエントリー権を引き継ぐという形になってしまう』
「いやもう全っ然、大丈夫です!!というかもう勘弁してください!!」
「…………だそうよ」
『了解した。それでは君のIDコアを移送しよう』
足元に現れた2つの黄色い箱。その箱の中にはオレンジであり、鹿の柄が彫られたコアが収められていた。
それを中心にはめ込み、ドライバーを腰に当てる。
《ENTRY》
参戦の合図が発せられた後、もう1つの箱を開く。そこには小さな小型バックル、シールドバックルが収められている。
「な…………、ゲームマスター!もう少しまともなバックルにしてください!!」
『黙れ……!こればかりはランダムだ!』
実に融通の利かない彼に怒りを燃やすツムリ。
それを遠くから聞いていたタイクーンが自らのバックルを投げ渡した。
「これ使って!」
「……ありがとう」《SET CREATION》
渡されたパワードビルダーバックルを右側に装填する。続けてその中にコユキが持っていたウォーターを取り付け、彼女は顎に手を当てる。
待機音が響く中、リオは思考する。敵の位置取り、どの程度のペースで
考慮すべきピースを全て観察し、分析し、仮説を建てる。
僅か1秒にも満たない刹那の間。しかし彼女が熟慮するには余りにも多い時間だ。
「変身」《DETROIT POWERED SYSTEM。 GIGANT WATER!》《GIGANT STRIKE》
その端正な顔を覆いつくすのは獲物を狩るべく目を光らせる鹿の仮面。
調月リオ改め、仮面ライダーシーカーは凄まじい勢いの水流を地面に叩きつけて体を浮かせる。さながらフライボードの様に舞い上がった彼女は続けて装備したブラスターから
手の届かない位置から打ち込まれる弾幕と水圧によって成す術もなく追い込まれていくジャマト達。
シーカー1人の手によって状況は一気に好転していく。
「よし!」
タイクーンがケセドに向けて蹴りを放つ。マフラーから噴出される勢いを右足に乗せた渾身の一撃。それをケセドの装甲は容易くはじいてみせる。
「硬っ!?」
「削り取ってやる!」《TACTICAL FINISH》
分身したロポが火や水、土に風といった多様なエネルギーを纏わせた刃でケセドを斬らんと、周辺を縦横無尽に動き回る。
しかしその全ての斬撃は傷1つ負わせる事は叶わない。
ケセドは自らを守るべく、外骨格の中へと閉じこもっている。
シーカーも合流して必殺技を繰り出すも、それすら多少の凹みで済ませるだけの圧倒的強度。
「やっぱり、今のままじゃ……」
勝つためには、装甲を打ち砕くだけの超パワーがいる。現状それが最も高いのはブーストバックル。これを持ってして不可能だった以上はケセド攻略は不可能な様に思えてならない。
「いや、まだだ……っ!」
だとしても、諦められない。彼の脳内には常に犠牲になった人々が張り付いている。理想は様々だ。すぐに捨てて切り替える器用な人間もいる。しかし彼はそうではない。みっともなく、情けなく、しかしそれでも綺麗事を捨てられない愚か者だ。
そしてデザイアグランプリとは、そういった人間にこそ相応しい舞台。
諦めない者こそが、勝利を引き寄せるのだ。
「これは…………!」
足に何かが当たる。
それは先程シーカーのコアを移送したものと同タイプの黄色い箱だった。まるで誰かが落としたかの様に無造作に放り捨てられていたそれをタイクーンは咄嗟に拾い上げた。
「特別アイテム!!」
中に入っていたのは金色の派手な装飾に彩られた大型のバックル。どの様な効果かはわからない。
しかし、躊躇う理由などどこにもない。
《SET FEVER!》
「頼む!俺達に勝てる力をくれ!」
まるでカジノの様な、軽快な音声が流れ始める。端につけられたレバーを倒すと、スロットが回転を始める。
そして直後、スロットが『???』の画面で止まった。
《GOLDEN FEVER!》
《BOOST》《JACK POT HIT GOLDEN FEVER!!》
それが大当たりである事を示すかの様に、軽快かつ壮大な音声と流れ出るコインの中から現れた『BOOST』の文字。
それがブーストの装甲へと変化し、全身がブーストフォームへと変化する。それはまさしく、スロットゲームのフィーバー状態。その証拠に、彼の脚に巻かれているバンテージが金色に変わっていた。
「行くぞ!」
迫るジャマト達に対し、タイクーンが拳を振るう。通常のブーストより更に強化されたそれは
「ダアアッ!!」
飛び上がって放つ蹴りはケセドへと吸い込まれていく。簡単には破れないであろう装甲。しかしフィーバーブーストとなった今ならば、一撃でヒビをいれられる。
何度も何度も何度も、その拳と蹴りを叩き込めば必然装甲は崩れていく。
タイクーン達に灯った黄金色の希望。しかしそれを燃やし続けてやる程、ケセドは間抜けではない。神の慈悲を拒む不届き者には裁きを。
「タイクーン!お前はそいつを破壊しろ!コイツ等は私達が食い止める!」
「……!これは……」
シーカーがジャマトを蹴り飛ばした方向の先に、放置された箱に気が付いた。
次いでロポもまた別の箱を見つける。
《GOLDEN FEVER!》
《NINJA》《POWERD BUILDER》
2人もまた、同一の装甲を纏ったフィーバー状態へと突入する。以前の倍以上のスペックを発揮するこの姿ならば例え神秘を宿した存在であっても遅れは取らない。
それでも互角以上にはならないため、やはり相当に強力な存在ではあるのだろう。
しかし確実に状況は好転していた。
より速さを増した斬撃の応酬に続けて放たれる弾丸、高圧水流。
それらは倒すとまではいかずとも、存分に足止めという役割を果たしていた。
「終わらせる……!」《GOLDEN FEVER VICTORY!!》
レバーを倒した直後、タイクーンの全身にエネルギーが駆け巡る。次いで現れる、ブーストライカ―。タイクーンモードへと変形したそれは肉眼でハッキリと見える程の熱を纏い、ケセドへと突進する。それによって装甲に入る一際大きな亀裂。
既に内部が見える程にまで砕けたそこへ目掛けて、彼は全霊の一撃を放った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっ!!!!」
ブーストライカーを力任せに掴み上げ、そして叩きつける。実に乱暴な方法ではあるが、それでもトドメの一撃としては十分すぎる程の、まさに必殺技。
そしてタイクーンはその勢いを殺しきれずにバランスを崩し、近くの瓦礫の山へ頭から突っ込んでいく。
「うわああぁぁぁぁ…………!!」
「ジャマト達が、止まった……」
「私の仮説が真であると、証明された様ね」
項垂れ、膝から崩れ落ちるジャマト達。
仮面ライダー達は変身を解除し、未だに大地から発せられる大きなな振動を全身で感じていた。
▪▪▪
――side:GEATS
《MAGNUM》
《JACK POT HIT GOLDEN FEVER!!》
ブーストマグナムフォームへと姿を変えたギーツの二丁拳銃が火を噴いた。放たれた弾丸は常識では考えられない様な曲度を描き、彼が狙い定めた箇所へ寸分違わず突き進む。
しかし、『彼女』は右腕を振るい、いとも容易くそれを弾いてみせた。
「無駄です。王女の身体には何人たりとも傷をつけられません」
「それは、どうかな!」《TACTICAL RAISING》
ジェットフォームのファルスが通常よりも更に増した勢いそのままに剣を振り下ろす。それは『彼女』の皮膚の様な装甲を多少切り裂き、電流と火花を散らせる。
しかし直後にそれは回復、放たれた光弾によって地面に叩き落されてしまう。
「強い…………!」
「数も多すぎるし、あんなのチートだよ……」
先生とモモイが声を漏らす。
先生の指示は非常に的確であった。ギーツやファルスですら異論を挟む余地もない、考えられる限り最善の策。
しかしそれ以上に、目の前の敵が強大であった。
途中、ジャマトライダーが乱入してきた。しかし『彼女』の視界に入った事でその動きを停止。即座に逃走を始めたのである。
そして背を目掛けて高密度の光線で跡形もなく消し飛ばされた。仮にも大型バックルを使用した仮面ライダーと互角以上に渡り合ったジャマトライダーがだ。
先生が『戦いながら逃げる』という指示を飛ばしたのは正しい判断だと言わざるを得ない。
しかし逃げるという行動すらも上手くいかない程に『彼女』の力は圧倒的であった。加えて配下である謎のロボットの数も半端ではない。
これ程絶望的な状況でなお全員が生き残っていられるのは、キヴォトス屈指の強さを持つ3人と先生という存在あってこそだろう。
それも、限界に達しようとしているが。
「やっばい……」
数えるのも億劫になる程の数を蹴散らしたビートフィーバーのナーゴが疲れた様に声をあげる。
このままでは死ぬ。間違いなく終わる。
しかし、仮面の奥の瞳は死んではいない。それはギーツも、ファルスも同じだ。
最も、この3人の場合は『死んでなどいられない』という方が正しいのだろうが。己に纏わりつく
倒れるのは、全てが終わった後で。その一心で震える身体に鞭を打つ。
「…………?」
『彼女』はその様子を心底理解出来ないとばかりに訝しげな表情を浮かべる。思考中枢に現れる疑問。それを解消すべく、『彼女』は口を開いた。
「何故立つのですか?あなた達の勝ち目は0%。状況、状態を鑑みれば結論は明白のはずですが」
ナーゴもファルスも馬鹿馬鹿しいとばかりに鼻で笑う。
0%になったくらいで諦めるくらいならば、初めからこんな戦いに参加しないというのに。
疑問に答えたのはギーツだった。
「叶えたい理想の世界があるからな……。人間、そう簡単に諦められないんだよ!!」
(人間……?)
一瞬、彼女の動きが完全に停止した。
その一瞬は彼が攻撃を叩き込むには十分過ぎる隙となって露呈する。
《GOLDEN FEVER VICTORY!!》
何発、何十発と放たれた弾丸。1つ1つは明後日の方向へと飛んでいくそれは、『彼女』の周囲を埋め尽くす檻へと変化する。
「…………!?」
そして四方から放たれる弾の嵐。『彼女』は即座に対応しようとするも既に嵐は鼻を掠める距離までになっていた。
「ぐっ……!」
小癪な攻撃だ。確かに数は多いが、それだけで倒されるほど柔ではない。耐えて再生。それで振り出しに戻るだけ。
そう思考し、再び腕をかざそうとして───
「………………!?」
止まった。正確に言えば、止められた。
それは弾丸によるものではない事は、『彼女』にしてみれば明白だった。
直後、『彼女』の全身から急速に力が抜けていく。
「…………これは、やはりあなたは……!」
初めて『彼女』の表情が明確に歪む。鈍った肢体を見つめ、『彼女』はギーツに視線を戻す。
「……停止命令が受理されました。これより休眠状態に移行します」
その言葉が最後だった。先程まで破壊の限りを尽くしたソレはまるで儚げな少女かの様な寝顔を晒す。
『彼女』が最後に思考したのは、自身の中に渦巻いた疑問についてだった。
(何故彼は自身を人間であると……?
彼は間違いなく王女と同一、もしくは似通った
それを知る者は『彼女』を除いて誰もおらず。
戦いは静かに終わりを迎えた。
▪▪▪
「結局、全部タイクーン達任せになっちまったな」
英寿が溜め息を吐いた後、ぼやく。
彼らはジャマーエリアから脱出し、廃墟を後にしていた。
「まあ、全員無事でよかったじゃん!ね?」
景和が笑顔でそう告げる。前回の脱落者が死亡ばかりであったがために、今回の未だ死者0という結果は彼にとって、非常に喜ばしいものであった。
カンナも口にこそ出してはいないが、同調するような雰囲気だ。
しかし英寿達の顔は晴れない。特にホシノは何とも言えない、複雑な表情を作っている。
「それで?ミレニアムの生徒会長も参加するの?」
全員の視線がデザイアカードを記入し終えた調月リオに集まる。
お世辞にも歓迎しているとはいえない視線も多く混じっている中で顔色1つ変えない辺りは流石『ビッグシスター』と言った所か。
「そうよ。何か問題でも?」
「いやぁ、別に?……凄い大物が参戦したなって思っただけだよ」
鋭い視線が交差する。とはいえそれでリオの参加が無くなる訳でもなく、何よりも疲労が貯まっていた事もあってか、ミカはそれ以上の言葉を紡ぐ事は無かった。
「いや、もうホント災難だったよね……。結局目的のお宝は手に入らなかったし……」
「どうしよう、このままじゃ廃部になっちゃうよ……」
「いや、今回の件でアイデアが浮かんだよ!イマジネーションが溢れ出てる!」
落ち込むミドリとユズとは異なり、モモイは脳内を満たしている空想を具現化すべく走り出す。
彼女を追いかけるミドリ達。
一方で先生だけは英寿達に向き直る。
「……それで、君達は結局何なの?」
彼女はどこまでも真っ直ぐな眼差しでプレイヤー達を見つめる。そのどこまでも力強い瞳にはどんな嘘も通じないであろうという確信を、全員に抱かせた。
故に、何も伝えずはぐらかす。知った所で意味はないのだから。
「あんたが知る必要は無い。どうせすぐに忘れるし、忘れた方がいい。あんな思い出」
英寿の言葉が全てだった。景和やカンナは目線をそらし、ミカにホシノは背を向け、リオは英寿を見つめる。
誰もそれ以上何かを言おうとはしなかった。
「……そっか」
先生もそれ以上の追求はしないと決めた。勿論、大人として教師として、生徒達が命を賭ける事を良しとする訳ではない。その様な状況への怒りは内に秘め、今はただ頷くのみ。
「私は先生だから。……困った事があったらいつでも頼ってね。私は生徒の味方だから」
そういって彼女は去っていく。
何も知らない、知ってあげる事が出来ない己の無力さを噛み締めて、一歩一歩を踏みしめていく。
「大人に頼ってどうにかなるなら、初めからここにいないよ」
誰かがボソリと呟いた。
その声は、はたして彼女には聞こえていたのか。それは彼女のみが知る事だ。
▪▪▪
「これ以上の荒らし行為はやめてくれないかな、ベロバ」
「あらジーン。あなたも来たの」
閑散とした廃墟。既に役者が下りた舞台ともいうべき場所で不敵に嗤う少女が1人。彼女は『兵器』を目覚めさせた張本人であり、再び目覚めさせようと『兵器』が安置されている場所へ向かおうとしている最中であった。
その背中に1人の青年が声をかける。そこには溢れんばかりの怒りと非難の感情が込められている。
「全く、君は何を考えてる訳?わざわざあんな古臭い2つを解除して、あまつさえデザグラに放り込むなんてさ」
「あら、刺激が足りないと思ったのよ。時にはあんな強力なギミックボスがいてもいいと思わない?」
「そういうのはゲームマスターに任せておけばいい。俺達は
彼らにはヘイローがない。それだけで彼らが不可解な存在である事の証明として十分に機能している。
「デザイアグランプリはジャマトと仮面ライダーが戦うゲームだ。妙なものを持ち込まないでくれないかな」
「だからぁ、マンネリ打破だって。ギロリのゲームスタイルは飽きてきたのよ。もうハッピーエンドはお腹一杯。私はいい加減、絶望と悲鳴が入り乱れる不幸な結末が見たいのよ」
青年の顔が不快そうに歪む。やはりコイツとは相容れないと、腰に装着した銃を構える。それはキヴォトスにて流通している物とは大きく異なっている。
そのどこか玩具めいた武器に怯む事なく、少女は口元を歪めた。そして全く同じ銃を彼女も構える。
「やり方が下手糞なんだよ君は。やるにしてももっと上手く絡ませられないかな。今のままじゃデザグラが崩壊しちゃうよ。
………………それにもう終わった
「そんなの、この箱舟が舞台な時点で今更じゃない」
殺意と殺意が交差する。お互いに一歩も譲る気が無いであろう2人が立つその場所は、既に戦場といった雰囲気になっていた。
そして数秒後、廃墟一帯が更地と化していた。
これはまだ誰も知らない、表と裏の狭間の一幕だ。
天輪Ⅴ/ワイルドブースト の一部を修正しました。
修正前:シズコや姉の言う通り~
修正後:シズコ達の言う通り~ となっています。ご確認ください。
そにしても最新話の英寿 、お前マジか~!
そろそろ原作通りいくか、こっちオリジナルに舵を切るかの決断が迫っている予感·····!
そして次回、エデン条約編始動。
英寿やミカ、そしてホシノの動向にもご注目を。話数も一気に増えると思います。