DESIRE ARCHIVES 作:ベロベロベ
ギーツおもろーい······!
皆さんはレイサ引きましたか? 私は裏切られたので引きませんでした。
ハフバまで待とう。まあその意思も玄武商会によって潰えるかもしれませんが
虚誕Ⅷ/混沌はいついかなる時でも
「英寿君はいつも唐突にどこかへ行ってしまいますよね」
合宿4日目の午前中。唐突にかけられたハナコの発言に英寿は参考書から少しだけ目を離した。
「何だ? 突然」
「いえ単なる興味本位ですが…………、いつもサクラコさんがぼやいているので」
「ああ…………」
今までの付き合いが皆無に等しかった彼女から何故その様な質問が出るのか疑問だったが、サクラコという名が出た時点で浦和ハナコという生徒は多方面に顔の効く存在だという事を思い出したのか、英寿は納得した様に頷いた。
「そりゃ仕事とか色々あるんだよ。スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズだからな。いつでもスケジュールはカツカツさ」
「その割りにはシスターフッドなんですね」
「……どういう事だ?」
「いえ、それだけ芸能の活動が忙しいならどうして業務の多いシスターフッドに入ったのか、少し疑問に思っただけです」
それはハナコにとって純粋な疑問であった。それをわざわざ彼に話した理由は今回偶々近くに居て、今まで大した交流が無かったためこの機に……という至極単純なものだった。
英寿の深い意味は無いと思ったのかいつもの表情を崩さない。
それを先生は遠目から見つめていた。
(…………………………)
思い起こされるのはミカの言葉。彼女がどれだけの真実を語っているのかは定かではないが、それでも見ておくに越した事はない。
裏切り者は浮世英寿。それが彼女の告げた言葉。ナギサやアロナが探している対象が本当に彼なのか、残りの合宿期間内で彼女は答えを出すつもりだ。
無論、先生として生徒である彼を信じるという事を前提にはしているが、もしもその疑念が確定した場合は──────
(
彼もきっと、何かを抱えている。武器を取って命がけの戦いに身を投じる。しかも戦いぶりから察するに何度も何度も何度も、あの戦場を駆け抜けているはずだ。それだけの事をして一体何をしようとしているのか、先生には知りようもない。
(少し、話してみようかな)
考えてみれば英寿としっかり会話する機会は今まで無かった様に思える。今では補習授業部として同じ屋敷内で暮らしているが、一昨日は人知れず出かけ、昨晩はさっさと寝てしまった。
ハナコはコハルやアズサとそれなりにコミュニケーションを取ってはいる様だが英寿はそういった様子もない。教室内では参考書を開いて黙々と勉強し、時折話しかけてくるハナコに応じる程度。
あの様子では校内に友人がいるのかすら疑問に思える。同じく不安だったコハルには気にかけてくれる先輩が居た事が昨日判明したため、殊更心配であった。
「お疲れ英寿」
お昼時。英寿は陽の当たる静かなテラスで1人昼食を取っていた。手にしているサンドイッチを齧り、風に揺られる深緑で視界を休めながら紅茶を飲む。彼の醸し出す雰囲気も相まってどこか浮世離れした様にも感じられる。
しかし先生が彼の背中へと声をかけた時には驚いた様な顔を見せた。
「先生?」
「勉強頑張ってるね。少しずつだけど成績上がってるよ」
「いや、まだ全然基準に達してない。今のままじゃ駄目だな」
「ストイックだね」
「別に、ただ俺が取れないとアイツらも落第行きなんだろ?」
その答えに先生は少しだけ目を見開いた。彼は立場相応にプライドが高い人間だと思っていた為に、その利他的な動機は少々意外だったのだ。
「……英寿もそんな風に考えるんだ」
「俺を何だと思ってたんだよ」
先生の言葉に英寿は苦笑する。
そこから2人の世間話が始まった。聞いてみると色々な事がわかった。彼の趣味や好きな食べ物、普段の仕事ではどんなものが多いのか、そのせいで勉強が疎かになってしまうのはよくない、といった本当に他愛の無いものばかり。しかしそれらは浮世英寿という人間を構築する上で、非常に重要なものである。
「それで、そこで温泉開発部が――――――」
「えぇ………………マジか。相変わらずとんでもないなゲヘナ学園は」
「――――ミレニアムのメイド部が提案した最新の掃除道具がね」
「はあ火炎放射機? 塵を燃やして灰にすれば量を減らせるって、滅茶苦茶だな………………。
───ああそう言えば、この間のおチビちゃん達はどうなったんだ? 廃部の危機だったんだろ?」
「それがどうにかなったみたいだよ。ヒロイックかつシビアな世界観とそれに準じた難易度が一部の層に受けたらしくてね。特別審査賞を貰ったってさ」
「へぇ、よかったな。じゃあ廃部は免れた訳だ。俺らも守った甲斐があったよ」
いつも飄々としていて、それでいて腹に一物抱えているというイメージが先行していた英寿の人物像。
しかしこうして話してみると、彼もまた1人の人間である事がよくわかる。何でもない事に笑い、未知に驚く普通の子供。それが見えてきただけでも先生は嬉しかった。
「英寿は優しいね」
「は?」
先生の唐突な発言に英寿は思わず声を漏らした。
表情すらも驚きに染まっており、何度も瞬きを繰り返している。
「俺が……………………? まさか」
英寿は笑って紅茶を啜る。
彼が思い浮かべたのは今までデザグラで蹴落としてきたライダー達。皆願いのために必死で戦っていた。ある者は呪われた宿命を壊すために、ある者は大切な人を殺した大人に復讐のために、ある者は己の弱さで見捨ててしまった友人のために。
そんな彼らを踏み台に様々な地位を手に入れてきた彼は、自身の事を優しいなんて考えた事など1度たりとも無かった。
別に世界平和を願っている訳でも、退場者の復活を願っている訳でもない。『優しいね』なんて言葉をかけられるに相応しいのは、そう桜井景和の様なお人好しだけだ。
「ま、アイツはちょっと過ぎるけどな」
「?」
自然と口角をあげて英寿は微笑む。甘ったれた理想のために愚直に進む彼は愚かしくもあり、同時に羨ましくもある。
「ねぇ、英寿。1つ聞いてもいい?」
「? どうぞ」
「君はここが好き?」
こことはどこの事だろうか。補習授業部の事か、トリニティ総合学園の事か、はたまたキヴォトス全体の事か。
英寿は頭を悩ませる。そんな事、考えた事もなかった。
トリニティはお世辞にも綺麗な場所とは言えない。少しシスターフッドとして活動しただけでも見えてくる権謀術数政争の数々。
幾度と繰り返す中で見てきた世界。表では笑顔を見せておきながらテーブルの下では足を踏みつけ合う、
外に目を向ければゲヘナと煽り、罵り、にらみ合う。
しかしその中にも、確かな陽があって。少し周りに目を向ければ、誰もが親しい友人と笑い合っている。合宿に来たばかりの日のプール掃除は、久しぶりに楽しかったと思える時間だった。あんな時間があるのなら、捨てたものではないかもしれない。
「…………ああ。嫌いじゃないよ、この世界は」
「そっか。───じゃあそろそろ行こうかな。午後も頑張ってこー!」
「ああ。そうだな」
先生は立ち上がり、教室へと歩いていく。
あの時ミカは言った。
『気をつけてね先生。ほら浮世英寿の仮面見たでしょ? 狐は化かすのが得意な生き物なんだよ』
確かに裏切り者として見ればそう見えるのかもしれない。しかし先生は彼の見せたあの穏やかな笑顔を信じたい。彼は心の底からこの世界を好いているのだと。
であれば、やることは1つ。
「退学になんてさせないよ」
決して生徒を陥れるためではなく。4人を無事卒業させ、いつもの教室に送り届ける。それだけが自身の使命だと、彼女は改めて胸に刻んだ。
「…………………………」
すっかり冷めた紅茶を飲み干し、英寿は穏やかに吹く風を顔に受けて目を細める。
彼にとっても先生と話す時間は心地よかった。
今まで彼が身を投じてきた世界は戦いの世界。勝つ事が全ての残酷なゲームの世界。近頃は随分なお人好しも出てきてはいるが、それでも残酷であるという事実が根本から書き変わるはずもなく。正直、疲れていないと言えば嘘になる。
「らしくないよな」
先生は妙な存在だ。彼女と過ごしていると、理由はわからないが心が落ち着く。心の底から生徒の事を案じているのだと確信出来る。
彼女の声が、顔が、雰囲気の全てが生徒を惹きつけるものであると、そう思えてならない。
例えるならばまるで母親の様な。
「母さん…………」
英寿はポケットからコインを取り出してそれを見つめる。いつもならばよく見える、表側に彫られた女性の横顔。しかし場所のせいか今日だけは真っ白な光で隠されていた。
▪▪▪
「ハッ!」
「よっと!」
繁華街の中心で2人のライダーが鍔迫り合いを演じている。長剣と銃がぶつかり合い、火花を散らして睨みあう。
第2ウェーブ開幕直後に開幕した戦いは繁華街の中心で人目を憚らずに行われていた。
「そこの2人、戦いをやめなさい!」
今回のゲーム、その第1ウェーブにおいてジャマトは出現しなかった。それは今現在も変わらないがそれとは別のお邪魔キャラ達がギーツとファルスの周辺を取り囲んでいる。
黒い制服に腕につけた紅い『正義』の腕章。トリニティ総合学園自治区においてその治安を守る武力組織、正義実現委員会が彼らに対して発砲を繰り返していた。
「ちょっとちょっと~、良いのスター君? 君の所のお役人達が騒いでるよ?」
「アンタが素直にどいてくれればもう少し穏便に行くんだけどな」
ライフルモードに変形させたマグナムシューターでファルスの肩を狙い撃つも剣で弾丸全てをいなされる。後方でそれらが爆発して周囲の物を壊していくのと同時に彼女は背中の装置から突風を噴かしてギーツへと肉薄する。キャノンモードによって強化された空間認識能力が彼女の優れた戦闘能力を更に向上させ、反撃を許さない。
徹底的に死角を突いていく彼女の前にはさしもの彼も防戦一方だ。
「ったく、本当に厄介な奴だな」
視覚外からの鋭い一撃を何とか躱すも身体のバランスを崩して地面を転がる。脱出ゲームの『王女』とやらはチートをそのまま形にしてきた存在ではあったが、ファルスも大概だとギーツは心の中で悪態をつく。戦闘慣れは間違いなくあるのだろうが、それ以上にセンスが異常だ。回数も重なってきたとは言え剣という不慣れな武器、立体起動という不慣れな挙動。これらの要素が組み合わさっているにも関わらずこの強さ。これで初参戦というのだから恐ろしい。
しかし、付け入る隙が無いのかと問われれば、それはNOだ。
「嫌に焦ってるな、ファルス」
「そう? おじさんは結構余裕あるけどな」
「アンタ程の実力ならもっと巧くやれるだろうに。こんな人の往来のド真ん中で戦っても、ノイズが増えるだけだぞ」
その言葉を示す様にギーツは動き出した。その視界に入る存在はファルスではなく、正義実現委員会。可動式の包囲網を組んで様子を伺っていた彼女達の中から前髪で両目を隠した少女に目をつけた。彼女の姿恰好はその他の正義実現委員会のメンバーとコピーかと疑う程に全く変わらないのだが、右手に閃光弾を構えていたという点で異なっている。恐らくはギーツ達の動きを止められるタイミングを伺っていたのだろうが、その素振りは彼にしっかりと把握されていた。
「あぁ!?」
そしてそれを引っ掴み、ピンを抜いてファルス目掛けて投げつける。閃光弾自体はそこらのコンビニで売っている普通のものであり、とりたてて特別な武器ではない。しかし同時に強い光のみを発するという点で、仮面ライダーにも通用する武器である。
人間に限らず多くの生き物は目を使って情報を補足する。それが本能であり、故に飛来物に対して脳が把握するよりも速くに眼球が動いてしまうのは仕方がない事である。
「ぐぅ…………っ!?」
例え仮面ライダーだとしても、眼球を犯す強い光を浴びてしまえば成す術もない。情報を捕らえる上で最も重要な機関が不全に陥ればそこから全身の動きが硬直してしまうのは必然。結果彼女は空中での制御権を一時的に失い、地面に勢いよく激突してしまった。直前まで噴射を行っていた事も相まって全身がアスファルトを削っていく。止まったのは暫く進んだ後、周囲の光が和らいだ場所へと辿り着いた後だ。
「ここは…………」
ゆっくりと目を開いた彼女は広がる景色に思わず声を漏らす。
視界に広がるのは薄く照らされた室内に淡く輝く暗い青。その中には大小様々な魚達が気ままに泳いでいる。照明の光を反射して七色の輝きを見せる鱗を見て、変身を解除した彼女は思わず目を輝かせた。
意図せず脳内に蘇る、かつての記憶。
『あれーホシノちゃん、何見てるの?』
『あぁいや、これは…………』
『何々~お魚の図鑑?』
『あ? そんなもん見て何になるんだ。ここらは魚なんざ居ねぇだろ。砂漠なんだから』
『もう道長君~! そういう事言っちゃダメ! ここにだっていつかお魚さん達が来るかもしれないでしょ?』
『んなわけねぇだろ……』
まだ皆が生きていて馬鹿な先輩と向こう見ずな後輩に苦労させられていた頃の思い出。彼女の夢見がちな言葉にいつも怒鳴りつけていたけれど、ホシノだって年相応に夢を見ていた時期でもあった。いつか海へ行って青い世界を見てみたい。そんな淡い幻想を抱いていたのだ。
「綺麗……」
そこはまさしく長らく砂漠の中で過ごしてきていたホシノにとって幻想風景と呼ぶに相応しい場所だった。一面を揺蕩う海草に色とりどりの魚達。一見灰色に見える魚でもよく目を凝らせば細部の違いがあるのが見て取れる。群れを成して泳ぐ魚の他にも巨大な魚が彼女の顔を陰で覆った。
まるで鯨の様に大きい魚。しかしそれがジンベイザメという種である事を彼女は何となく思い出していた。
皮肉だ。失った者を取り返そうと足掻いている中でこの様な場所に辿り着くなんて。この美しい幻想の中に浸っていたい。心が確かにそう囁いている。
「ダメだなぁ…………」
自分に立ち止まる事など許されていない。ホシノにとって余りにもわかり切った事実を何度も何度も心の中で反芻させ、溶けそうになる身体に活を入れる。そうだ、後少し。もう少しなのだ。
あとほんの数回の戦いを勝ち抜けば全てが手に入る。いや、手に入らなくとも良い。黒服に言われた指令さえ達すれば後輩達と残りの日数を後悔無く暮らせる。
だから彼女は立ち上がった。
それと同時に響く足音。それがただの迷い人ではない事はホシノには瞭然だった。敵意の籠ったその音に改めてバックルを構える。
薄暗いが故にボンヤリとしていた輪郭が距離が近づいた事によって明瞭になった。
「え?」
またしても声が意図せず漏れた。しかし今回のそれは青い世界を見た時とはまるで違う、脳が受け入れを拒否してしまう様な光景を目にした時に零れる様な、そんな声。
現れたのは紛れもなくデザイアグランプリのプレイヤーのはずだ。その何よりの証明であるデザイアドライバーを腰に巻いている。着ている服はいつものサバイバルスーツではないが、それはホシノも同じだ。
肝心なのはその制服と首から下げた学生証。ギーツやナーゴはトリニティ、タイクーンは百鬼夜行、ロポはヴァルキューレでシーカーはミレニアム。
残る仮面ライダーの中に同一のものを持っているのはトリニティに2人であり、後は皆異なる学園。
しかし今目の前で歩いてくるその人物が来ている制服は紛れもなくアビドスの物。しかしそれはあり得なかった。黒服によって提供されたひび割れた紫のIDコアを提供された時確かに見てしまったのだ。
彼が虚空に消えゆく一部始終を。だからあり得ない。あり得ない、はずなのに。
「なん、で…………?」
その姿を忘れるはずはない。コアを手にしたあの日から焦がれ続けてきた姿なのだから。
奇跡。その言葉がホシノの脳内を過る。
今彼女の目の前に居るのは死んだはずの後輩、吾妻道長その人である事は紛れもない事実だった。
▪▪▪
戦いの舞台は中心街を離れて人通りの少ない場所へ。箱を抱えて走るギーツに迫るのは仮面ライダーシーカーとタイクーン。フィーバーバックルのスロットから出現したマグナムの鎧を纏い、彼はギーツに肉薄する。
「その箱、貰う!」
「渡さねえよ」
互いに同一の武器を構え、弾丸を放つ。そのタイミングは寸分の狂いも無く同じ。しかし威力とスピード、そして何より技術に大きな乖離があった。
タイクーンが放った弾は避けられ、ギーツの放った弾はタイクーンの眉間に衝突して火花を散らす。それは技術よりも更に根本的なものの差の証明だ。戦いに対する覚悟の違い。結局の所タイクーンには他者を蹴落とすという覚悟が致命的に不足していた。
「いつまで迷ってんだタイクーン! そんなんじゃ退場した人達の復活なんて、夢のまた夢だぞ!」
「わかってる、でも…………!」
頭ではわかっているのだ。しかし実際に行動に移すとなるとやはり迷いが生じる。今まで彼が決めていた覚悟はジャマトから人々を、世界を守る覚悟。決して他者を傷つけるものではない。
だからこそ行動の1つ1つが甘くなる。拳が蹴りが、武器による攻撃が、どうしても鈍るのだ。
《TACTICAL THUNDER》
「ぐぅ………………!!」
彼の鈍い動きを嘲笑うかのように雷鳴が轟く。降り注ぐ電撃が彼の全身を貫き、筋肉を硬直させた。駆けるために動かしていた足は止まり、勢いを殺せずその場に倒れこんでしまう。
何とか首を持ち上げればそこには斧を振り上げるナーゴの姿が。しかしその斧はシーカーの放った高圧水流によって防がれ、彼女自身も流されてしまう。
「ああもぉ、邪魔だなあ……」
「それはお互い様。弱い者苛めに積極的なのはトリニティらしいと言えるけれど」
「へぇ、言うじゃん」
「あら違ったかしら? そちらの学園は権力争いで多量の策略が張り巡っていると聞いたけれど。時として命すら奪いかねない事を平然と行うのでしょう、あなた達は」
シーカーが放ったその言葉は淡々と紡がれており、そこに挑発の意図は感じられない。ただ純粋に己が知り得る事実を述べただけだとそう受け取ってもおかしくない様な彼女の発言は、ナーゴの心をこれ以上無く抉り取った。
斧を握る手の力が増していき、軋みだす。そして彼女が一歩を踏み出したその瞬間、荒く重い横薙ぎが空気を切り裂いた。
「うん、そこの狸も嫌いだけど、あなたも同じくらい嫌いかな」
荒い。直接的な戦いにおいて経験の不足しているシーカーでさえも対処出来る程の拙い攻撃。威力そのものは冷汗をかかせる程に凶悪なものだがそれだけ。生徒会直属のエージェント組織の戦闘記録を目にした事のある彼女であれば避ける事は容易だった。
「あなたはそこに居て頂戴。後は私が何とかするわ」
シーカーは膝をつくタイクーンに向けてそんな一言を放つ。その声色は変わらず無機質で、それ故心に深く突き刺さった。
「………………っ」
この戦場においてタイクーンは、桜井景和は役に立たない。それが彼女の下した結論であり、そこに躊躇いは無かった。
戦う意志の無い者が戦場に立てばそれだけで味方の邪魔だ。彼女はそれを知識として知っている。だからその結論を迷いなく下す。彼の事が嫌いだからではない。その行いが合理的か否か、それだけが彼女の判断基準なのだ。自身がそうだと判断したその瞬間に実行する。そうして今まで成果を出してきたのがビッグシスターなのだ。
「私としても、ここで全てを忘れる訳にはいかないわ」
シーカーにも果たすべき目的がある。そのために勝ち残る。どんな犠牲を払ってもそれは大事の前の小事だ。
シーカーが地面を蹴り上げる。同時に周囲に構築されていく鉄骨。それらは一見すれば雑に放出したかの様に思えるだろう。しかしそれらはナーゴを越えて箱を持って走るギーツの周囲をも囲んでみせた。走行ルートは完全に封鎖され、彼はその足を止める事を余儀なくされてしまう。
「うおっと!」
ブラスターから放出される弾幕がギーツの背後から迫り来る。寸での所でどうにか回避するも圧迫されたこの場所では本来の動きが大きく制限されてしまう。
加えて厄介な点がもう1つ。ギーツを捕らえ損ねた弾丸はそのまま鉄骨へと激突していく。しかしそれらはただぶつかった訳ではない。積みあがったそれらの支柱を崩した事により大きな雪崩となってギーツを襲う。
降り注ぐ暴力的な質量。ギーツはそれらに巻き込まれる自身を幻視した。
「ギーツ、こっちだ!」
寸前で彼の鼓膜を揺らす声。見上げた先には起こした風によって浮遊染みた跳躍を行っているロポの姿が。両手を大きく伸ばしている彼女からは箱を寄越せというメッセージが込められている事は誰にでも理解出来た。
「させないわ……!」
「それはこっちの台詞」
ギーツと同時にロポの意図を悟ったシーカーは手にしたブラスターから再び高密度の弾幕を放とうとそれを構える。しかしナーゴはそれを黙って見過ごさない。彼女の胴体を蹴り飛ばし、冷気によって地面と彼女の背面を繋ぎ合わせた。
鉄骨に飲み込まれると同時にギーツが放った箱は綺麗にロポの手の中に吸い込まれていく。受け取り近くの建物の天井に降り立った彼女はそのまま目的地へと駆けようと、大きく地面を蹴りだした。
しかし、それを阻もうとする者達が彼女に向けて砲弾を放つ。
「ぐっ!?」
完全な認識外からの攻撃に当たりこそしなかったものの、着弾地点の近くに居た事が災いし爆風によって彼女の体勢は大きく崩れてしまう。箱は滑り落ち、アスファルトの上に落下した。
「あ……!」
それに反応したのはタイクーンだ。今まで積極的になれなかった彼も勝ちを捨てた訳ではない。戦わずに済むのなら、傷つけずに済むのなら、迷わずそれにしがみつこうと手を伸ばす。
「させない、っよ!」《BEAT STRIKE》
しかしその動きはナーゴの視界の範囲内。故に彼女は滑らかにタイクーンへの攻撃に移る。バックルのスクラッチを操作に肩のスピーカーからカラフルな音符が乱れる大音波が放たれる。箱を拾った直後の彼はそれを避ける事も受けきる事も出来ずに吹き飛ばされ、変身が解除された。
そして箱はナーゴの手の中へ。
「返して貰うわ」《GIGANT SWORD》
「元々あなたのものじゃないでしょ」
振り下ろされる大剣を回避し、彼女は目的地へと駆け抜ける。それを追わんと同じく駆け出そうとするシーカー。その足元に撒き散らされる弾丸。
視線の先には鉄骨から抜け出たギーツが銃を構えていた。隣に立つ双剣を構えたロポ。状況はシーカーにとって圧倒的に不利と言えた。
(遅い……。小鳥遊ホシノは何を……?)
仮面の下の動かぬ表情の上に汗を滲ませながら彼女はとっくに来ていてもおかしくないはずの味方に思考を馳せる。彼女の実力は折紙付きだ。シーカーの記憶にある猛者達と比較しても劣らないどころか上回っている節すら感じられる程に凄まじい。
すこし深い所まで調べて確認した彼女の戦歴は異常としか言いようがない。そんな彼女が来ない事はシーカーにとっての予想外の1つであった。
(この2人を直接相手していても仕方がない。であれば……)
シーカーは後方をちらりと振り返る。視界に捕らえたのは立ち上がる景和ではなく、自身達を拘束せんとする正義実現委員会。
その肉体強度は仮面ライダーには遠く及ばないものの、それでも十分だ。
彼女達を利用して戦場に混沌をもたらせば付け入る隙も生まれるかもしれない。そう思って行動をしようとしたその時。
後方で凄まじい爆音が轟いた。
『……!?』
仮面ライダー達と正義実現委員会、その場の全員の意識が爆心地へと移される。その場所はトリニティのアクアリウムである事が正義実現委員会の生徒が受け取った通信によってギーツにも伝わった。そこはギーツが彼女を吹き飛ばした先にあったもの。
「ファルス……?」
まさか爆発に巻き込まれたのか? 彼女が? 何があった?
仮面ライダーが通常の爆弾によって死ぬ事はない。しかし彼の胸には言い様のない不安が渦巻いていた。その謎の答えはまたしても正義実現委員会の通信によって明かされる事となる。
「え……嘘、どうして今この時期に!?」
通信を受け取った生徒が驚愕の声をあげる。治安維持組織である彼女達の焦りようは尋常ではない。ギーツも景和も、彼女の持つ通信機に耳を傾ける。内容は何者かの襲来。テロリストだとか強奪だとか拉致だとか、物騒な単語が並べられていた。
それを全て聞き終わった彼女はまた携帯を取り出して大急ぎで電波を飛ばす。そして電話口で悲鳴の様な叫びをあげた。
「美食研究会ですっ! ゲヘナのテロリスト集団がアクアリウムを襲撃しました!!」
▪▪▪
「っ……」
口の中にたまった砂と硝子の破片を吐き出し、ホシノはゆっくりと目を開けた。視界は未だ光に犯されており、聴覚も耳鳴りによって正常には機能していない。破裂した水槽から溢れ出た大量の水が彼女の全身を襲った事で水浸しになった全身を風が通り抜け、身体をブルリと震わせた。
身体そのものに支障は無い。使用された爆弾は然程殺傷力の強い物ではなく、あくまでも建物などを破壊するために作られた物なのだろう。その程度で生命の危機に陥る程、ヘイローの守りは甘くない。それでも間近でくらえば全身打撲の様な状態になる事は間違いない威力。しかしホシノは特に労も無く立ち上がった。
「――――――――――」
何が起こったのか、わからなかった。動きは問題無い。多少痛みはあるものの、それでもたいしたものではなく、彼女にとっては掠り傷に等しい。
しかし問題はそこではない。突如としてアクアリウムが爆発する少し前。ホシノの目の前に現れた道長の事で彼女の脳内は埋め尽くされていた。
何故、どうして生きている?
彼は死亡したはずだ。前回のラスボスの攻撃によってこの世界から消滅したはず。まさかアレは黒服が見せた幻だったのか? いやそれはない。
天使と悪魔ゲームが始まる少し前にホシノは英寿と景和に対して彼の話題を振ったのだ。そして2人の反応は明確に重苦しいものであった。それはあの光景が紛れも無い現実であった事を示しているはずだ。
勿論、ただ生きていただけならば良い。寧ろ喜ぶべき事であり、事実当初のホシノには筆舌に尽くしがたい歓喜がその小柄な体躯を震わせた。しかし駆け寄った彼女に対し、道長がとった行動は彼女の想像を大きく裏切るものであった。
「―――ヤメロ。触るナ」
「え?」
行動に返された返答は拒絶。そして殺意。
以前の道長では決して持ち合わせていなかったかの様な異質な殺意を向けられた事でホシノは異変に気がついた。
「オ前も、仮面ライダーか?」
呟かれたその言葉と共に彼は1つのバックルを取り出す。サイズはマグナムなどの大型バックルと同一。しかしその巻きつく蔓の様な紋様は明らかに異質だった。
「それって……」
そしてホシノはそれを知っている。それ故に、混乱最中の彼女の脳内に1つの疑問が浮かんだ。
それは人間に扱える代物なのか、と。
《SET》
狭い空間に響き音声の裏にノイズが走っている。それに構う事なく、道長はそのバックルを乱暴に叩いた。
「待って道長君!」
「変、シン」《JYAMATO》
召喚された茨が彼の全身を覆い、その身体を変容させる。現れた仮面ライダーは間違いなくバッファだ。バックルが同一でも以前のジャマトライダーとは頭部が明確に異なっている。しかしその瞳に相当するはずの箇所には片目には黄色い光が宿っているものの、もう片方には宿っておらず灰色のままだ。
「ライダー、仮面ライダー……!」
特に彼が苦しむ様子はない。しかしホシノには最早目の前の生き物があの吾妻道長だとは、人間だとはとても思えなかった。
「仮面ライダーは、纏メテ消えロ!!」《JYA-JYA-STRIKE》
構えた拳が茨によって覆われ、倍以上の大きさへと膨らむ。直後に容赦なく繰り出された棘まみれの一撃は最早パンチと呼べるものではない。凶器だ。
「っ!」《GREAT》
ホシノはバッファの股下に滑り込み、ジェットバックルを装填して変身を完了させる。先程から全く晴れていない混乱の中でも迫る脅威を前に棒立ちを決め込む程彼女の戦闘経験は浅くなかった。
しかしそこまで。拳を振り上げ、周囲を蹴り散らすバッファの猛攻を凌ぎきるので精一杯。反撃をする隙がない。
否、違う。正確には反撃出来ない。
「オラッ!」
壁を叩いていくつも出現する極太の茨。それらはファルスを仕留めようと迫ると同時に周囲のものを破壊していく。
美しく輝く硝子も、中のサンゴ礁も、色とりどりの魚達も全て。足元に水が溜まってゆき、動きの1つ1つを鈍らせていく。
目の前で起こる光景に仮面の下に顔を顰めながら、彼女は脳を必死で回転させる。その回転はまるで乱雑に蹴り飛ばされたボールの様に荒く、彼女にまともな思考を許さない。
(とにかく、ここから離れ―――――)
今の自分は到底戦える状態ではない。何とか絞りだしたその答えを実行に移すべく、彼女は背後の出口目掛けて駆け出した。後方から迫る殺意の籠ったノイズ塗れの電子音。それを何とか回避すべく長剣を構えた瞬間、視界を閃光が覆った。
直後に想像を絶する量の水が周囲を埋め尽くし、そして今に至る。いつの間にか変身は解除され、ジェットバックルはどこかに流れてしまっていた。
ホシノの身体はとうに冷え、両手両足は悴んでいる。既に二色の瞳からは戦意は喪失、ただただ道長の現状に思いを馳せるばかり。結局ゲーム終了まで、彼女が動く事は無かった。
▪▪▪
「うわぁ!!」
景和の近くに放たれた砲弾がアスファルトに着弾し、その地点には荒い亀裂が形成される。それを放ったのは正義実現委員会でも仮面ライダー達でもなく、1人の少女、鰐淵アカリ。金髪にグラマラスな体を黒い服でラインが浮き出る程にピッチリと包んだ彼女は着弾箇所付近で慌てる少女達を見て愉しそうに笑っている。
彼女は『給食部』と書かれた車の後部座席に座っており、それを運転している軍帽を被った銀髪の少女、黒舘ハルナに今ですよー、と声をかけた。
「ありがとうございますアカリさん。さあ駆け抜けますわよ皆さん! 魚は鮮度が命。早くフウカさんにこのゴールドマグロで御作りを作って頂かねば!」
ハルナはその口調に似つかわしくまるでお嬢様の様な優雅な雰囲気を漂わせている。何も知らない者が見ればトリニティの生徒と勘違いしてもおかしくはないかもしれない。しかしその行動は狂気奇天烈と言い表して間違いない。現に隣の愛清フウカの全身は縄で縛られ、猿轡を噛まされているのだから。最早一部の言い訳の隙もない完全な拉致状態だ。
ハルナは後部座席の獅子堂イズミが手にしている金色のマグロに視線を寄越し、そして微笑む。
「しかしこれほどまでに美しい魚をまさか鑑賞用として飼い殺しにするなんて。全く、トリニティの皆様は美食に対する礼儀がとんとなっておりませんわね。フウカさんもそうお思いになるでしょう?」
「むー! んんんんんん!!!!」
「ええそうでしょう、そうでしょうとも!」
どこから見ても助けを求めている風にしか思えないその表情を見て、ハルナは満足げに頷く。
対するフウカはすっとぼけた事を抜かしているハルナに対する怒りと早く誰か助けてほしいと懇願する気持ちがグルグルと渦を巻き、結果として必死に身を捩らせる。
周囲への破壊を振りまき突き進む美食研究会+α。しかしいつまでもそんな狼藉が許されるはずもなく、周囲に集まる正義実現委員会。そしてその奥から見えるのは、ハルナも噂に聞いた事のある人物だった。
「あれは確か、シャーレの先生?」
「ええ!? マズいじゃん! 確かあの人連邦生徒会長のお気に入りでしょ!?」
先生だけではなく、大きな黒羽を携えた長身の少女、副委員長の羽川ハスミもいる。
その光景に赤髪ツインテールの少女、赤司ジュンコが悲痛に叫ぶもハルナは笑みを崩さない。何を脅える事があるというのか、とでも言いたげに彼女は自らの愛銃を構えた。
「上等です! 例え相手がキヴォトスの頂点に君臨する相手であろうと、私達の飽くなき美食への探求を邪魔するなど言語道断ですわ! この世はまさしくEAT or Die! さあ皆さん、参りますよ!」
車の上でフウカを除いた全員が武器を構える。そして4つの銃口が火を噴こうとするその瞬間に、近くで何かが爆発した音が全員の鼓膜を揺らした。
硝煙の中から浮かび上がるシルエット。それは生身の人間のものではない。
「あれは……」
「あちゃマジか」
ハスミと先生が同時に声をあげた。飛び出てきたのは白い狐と緑の狼。先程通信からの報告により、居る事は知っていたがまさか美食研究会とブッキングするとは思わず、彼女の顔が顰められる。
次いで現れたのは黄色い鹿。先日の報告にあった抗争を未だに続けているのかという疑問と怒りがハスミの胸中を駆け巡る。
「全く、今がどれだけ大変な時期だと……!!」
「先生どうしますか?」
後方に控えていた浦和ハナコが先生に疑問を投げる。その問に彼女はノータイムで答えた。
「美食研究会を優先しよう。あの子達の方が被害が大きそうだし」
「……そうですね。了解しました。コハル、よろしくお願いしますね」
「は、はい! 頑張ります!!」
尊敬してやまない先輩からの言葉にコハルは心底嬉しそうに返事を返す。
迅速かつ確実に。テロリストの掃討が始まった。
「おいおい、混沌の極みだな」
すぐ近くで繰り広げられる戦闘を横目で見ながらギーツは呆れた様に呟く。美食研究会が激しく抵抗しているその戦いは凄まじく、彼らにも流れ弾が飛んでくる程の規模だ。
最早デザイアグランプリどころではないが、この状態はギーツ達にとってはチャンスでもあった。様々な武器や生徒がそこらかしこに散らばって煙をあげる今の状況はまさしく
「…………!!」
一方の景和は今の状況を見て歯噛みする。このままでは負ける。それは彼の目から見ても明らかだった。拳を握りしめ、彼は己の不甲斐無さを呪う。
ついこの間戦うしかないと思い返したばかりにも関わらず、自分は結局こうして這い蹲っている。それじゃあ駄目だ。今一度思い出せ。あの日芽生えた思いは消えたのか? 否、消えるはずがない。
「……まだだ」
「!」
「まだゲームは終わってない。今度こそ……勝ち抜く!」《HIT BOOST!》
紅い鎧が上半身に装着され、タイクーンは走り出した。スロットから出たのはブースト。ここにきて初めて彼は自身が幸運であるかもしれないと感じた。これならまだ、ナーゴに追いつけるかもしれない。
「いかせないぞ、タイクーン!」
その追走を防ごうとするのはギーツ。タイクーンの腕のマフラーが火を噴く前に肉薄し、彼の体を取り押さえる。
「いや、行かせて貰う!」
それに構わず、彼はマフラーを全力で噴かした。轟音をたてて噴射される熱波と炎。そこから発揮される凄まじい膂力にはギーツであろうと取り押さえ続けるのは困難を極める。呻き声を漏らし、それでも足掻くギーツ。しかしその努力は虚しくタイクーンは拘束を脱する。しかしギーツも諦めた訳ではない。マグナムシューターをライフルモードに切り替え、タイクーンの急所目掛けて狙撃を開始した。
《REVOLVE ON》
その行動は予測済みだったのか、タイクーンはドライバーを反転させ自身の背部にリングを出現させる。それがドライバーと同じ様に回転すればそれに従って彼の上半身と下半身が入れ替わった。弾丸もリングによって防がれ、彼自身はノーダメージ。そのまま背を向けてナーゴが駆けた方向に向かって彼は駆け出した。
その速さたるや凄まじく、一瞬でギーツの視界後方へと消えていく。そしてタイクーンが闇夜の中に溶けようとしたその時。
《JYA-JYA-JYA-STRIKE》
「…………!?」
彼の側方から茨の奔流が押し寄せてくる光景を、ギーツは確かに捕らえた。
「うぁっ…………!?」
予想だにしなかったその一撃の前にタイクーンの変身が解除される。一体何者の仕業なのか、確かめようとその方向に瞳を向け、絶句した。
「え…………!?」
「な――――」
遠方からそれを見ていたギーツも思わず声を漏らした。
そこに居たのは確かにバッファ。居るはずのない存在が現れた事により、彼らの思考は一瞬止まる。
「道長、くん? 何でジャマトのバックルを…………!?」
バッファがその疑問に答える事はない。疑問なんざ知るかとばかりに、彼は拳を振り上げる。
「させるか!」
飛び込んできたギーツがバッファを突き飛ばす。地面を転がり、自身を突き飛ばした彼に向けてバッファは憎悪の声を漏らす。
「なんでお前が生きてるバッファ。そのバックルはどうした?」
「ギーツ、ギーツ……! ぶっ潰ス、ブッつぶス……!」
「おい、大丈夫か?」
彼の声色は明らかに正気のものではない。その様子に一瞬ギーツの警戒が緩むが、それと同時にバッファは襲い掛かる。振るわれる攻撃は以前にも増して激しく、荒い。大振りで防御の事を欠片も考えていないと思わせられるその動きはギーツにとっては労する事なく対処出来るものだ。
突き出された拳を受け流してカウンターを腹に一発。バッファは少し後退るが攻撃を休める事はない。激しいラッシュに腕の銃で吹き飛ばそうとしたその時、後方から迫る殺気に気がついた。鋭く先が尖った茨の槍を避けるも、その攻撃が休まる事はない。粗雑ながら厄介なその攻撃はギーツの動きを確実に制限していく。
「ぶッ潰す、ツブス!」
止まる事の無い憎悪の勢いは増すばかり。やはり一度倒さなければならない、そうギーツが感じた次の瞬間。大きな榴弾が彼の背中を打ち抜いた。
「グッ……!?」
それを放ったのは恐らく美食研究会の誰かだろう。威力は中々のものであり、これなら確かに正義実現委員会の雑兵ならば薙ぎ倒せるかもしれない。しかしギーツは仮面ライダー。この程度では多少体が揺れる程度で決定的なダメージにはならない。よって彼の脅威となったのは隙をついて放たれたバッファの必殺技の方だった。
「ウアァッ!」
胸を打ち抜く茨の一撃。勢いよく吹き飛ばされたギーツもまた、その変身が解除される。そしてその直後、ゲーム終了のアナウンスが響き渡った。
▪▪▪
「………………!?」
先生の指揮の下、美食研究会は無事鎮圧された。今は時期が時期なだけに正直危機的な状況だと言えたがそれもシャーレの介入によって避けられそうだと皆が胸を撫でおろしている中、1人だけ驚愕に目を見開いている少女が1人。
「ハナコ? どうしたのよ」
「あ、コハルちゃん……。いえ何でも……」
そうは言うものの、ハナコは視線を離す事が出来ないでいた。彼女の視界には確かに映っていた。先日ネットに取りあげられた動物マスクの不良集団。その内の白い狐の姿が解除された先に現れたのは、紛れもなく浮世英寿だったのだから。
▪▪▪
ミカが辿り着いたのは普通の家だった。何も特別なものはない、小さな古民家。1つ特異な点を挙げるのならば、ここが異様に人里離れた場所であるという事くらいか。そのせいか周囲は不気味で、季節は夏だというのに寒気を感じて身体がブルリと震えてしまう。
「これで、良いのかな?」
帰る時は物音を立てずにこっそりと。誰に見られている訳でもないが、状況も相まって思わず忍び足になってしまう。
《MISSION CLEAR》
第2ウェーブ終了の知らせと共に天使ライダーズの勝利が通知される。同時にミカの手元に、1つの箱が出現した。いつものミッションボックスと異なり、蓋の中心にはナーゴのロゴが描かれている。
「なになに? もしかして私専用のプレゼント?」
蓋を開くと、ミカにとって初見のバックルが顔を出した。ベースカラーは青と蛍光イエロー、星のついたキャップを被った熊にも猿にも見える動物の形をしたそのバックルは大型のものであり、つまりはアタリだ。
間違いなく自身を勝利に近づけてくれるそれを見た瞬間、彼女の顔は輝いた。
「やった…………! これがあれば勝てる、よね…………?」
零れ出た彼女の声色はとても自信に満ちたものではない。どこまでも不安気で、何かに縋る様な声。新たに獲得したバックルを胸に抱き、彼女はかつて共にテーブルを挟んだ彼女の姿を思い浮かべる。
小難しい言い回しを好み、事ある事に小言を挟み、悪口を言い合った大切な友達。
「待っててねセイアちゃん……、絶対、絶対生き返らせてあげるから…………!!」
掲げた願いを譫言の様に何度も何度も呟きながら、ミカの姿は闇夜に溶けていく。
そろそろ22時にさしかかろうという時刻、周囲に響くのは虫や鳥の声のみ。しかしそこに1人の少女がやってくる。艶やかな水色の長髪と真っ白なナース服。キリッと締まった表情とピンと張った背中の翼は彼女の意志の強さと鋭利なまでの真っ直ぐさを象徴している様にも見える。
この様なトリニティはおろかキヴォトスでも外れと呼んで差し支えない場所に来るなど通常ではありえない立場にいる彼女だが、その事に疑問を持つ様子は無く、寧ろ当然だと言うかの様に階段を上り、扉を開けて中に入っていく。
家の中は真っ暗だが、玄関の電気をつけるとそれほど広くないためかそれだけで中の様子はハッキリと見えた。
玄関を抜けた先には簡素なキッチンと机、丸椅子、そして大きなベッドが1つ。そのベッドは女子高生が普段使いする様なものではなく、まるで病院の入院室に備えつけらえているかの様に漂白されている。実際衛生面にはかなり気を使っているのか、室内には消毒液の匂いが僅かばかり漂っていた。
そしてベッドの上には、1人の小柄な少女が眠りについていた。その顔はまるで死んでいるのかと錯覚する程に青白く、寝息は耳を澄ましても聞き取れない程に弱弱しい。
「こんばんはセイアさん。休めていますか?」
そうして夜は更けていく。その声にゆっくりと細く目を開けた