DESIRE ARCHIVES   作:ベロベロベ

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天輪編
天輪Ⅰ/庭園でのサバイバル


 

 

「ねぇ、皆見なかった!? でっかい怪物とかヒト型の怪物とかが一杯出てきたでしょ? 本当に覚えてない?」

 

百鬼夜行連合学園、修行部。

そこに所属する二年生、桜井景和は朝食の場で必死に弁舌を振るっていた。

 

「えぇ~? でも私何も見てないよ?」

「えぇ、私達は昨日ずっと外に出てましたけど……、本当に何も見てません」

「zzz…………」

 

景和は味噌汁が注がれたお椀を置き、顔を顰める。彼女達が嘘をつくとは思えない。

己が描く理想の未来を掴み取る為に日々鍛錬。それが修行部のモットーであり、常日頃からそれを守っている彼女達が今更それを破るとは思えない。

しかし景和に降りかかったあの災厄も事実であり。

結局、一切の進展は無い。

 

「というか、ツバキは起きなよ。食事中だよ?」

「ツバキ先輩は今、寝ながら日常生活を送る修行の真っ最中!これはその為のファーストステップ、寝食事だよ!」

「器用だなぁ」

「もう、お行儀が悪いですよ」

 

平穏、日常。今の状態を表すならばこれら言葉が相応しい。

勇美(いさみ)カエデ、春日(かすが)ツバキ、水羽ミモリ。景和にとって彼女達と日々の食事を囲む事はまさしくその象徴と言えるだろう。

思わず、あの時はやはり夢だったのではないだろうか、とそう思えてしまう程だ。

 

「テレビ見よっ! ムシクイーンのアニメ始まっちゃう!」

 

カエデが最後の米を飲み込み、テレビの前へと走っていく。

現在時刻は7時58分。CMの後、番組は始まる。

その時、彼が映った。

 

『彼こそ、スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ! 世界よ、キヴォトスよ! これが浮世英寿だ!!』

「ああああああぁぁぁぁぁ!!!」

「ふえっ!?景和先輩どうしたの!?」

 

景和は思わずテレビに齧りつく。

それは間違いなく、あの時彼を助けた少年だった。

画面の向こうの彼はサバイバルスーツではなく、高級そうなスーツを着て、白と赤のストールを首から下げているが、それでもあの余裕に満ちた態度は間違いなく彼だ。

 

「やっぱり、やっぱり夢じゃない!!」

 

景和は叫び、自室へと駆け込んだ。

そして女性から手渡された箱を開け、中身を手に取る。

一つは狸のマークが描かれた黄緑色の物。更にギーツ、浮世英寿が腰につけていたあのベルトのバックルと同じ物、そしてその説明書。

そしてもう一つ、携帯電話。

 

「これを、こう、かな?」

 

《DESIRE DRIVER》

《ENTRY》

 

電子音が響き、ベルトが腰に巻かれる。そしてもう一つ黄緑色の器具、IDコアを中心に取り付けたその時点で、彼の退路は絶たれた。

 

「え!?」

 

そこはもう既に別の場所だった。周囲には様々な学校に所属している者達が集まっており、皆一様に同じベルトをつけている。唯一異なるのは中心に位置するIDコアのみ。

大体の人間は戸惑った表情をしているが、中には慣れた様子の者も存在している。

彼もその中の一人だった。

 

(…………あ)

「え!? 英寿様!?」

「ほんとだ! テレビに出てたスターだ!」

「いやいや、シスターフッドの英寿様でしょ?」

 

テレビに出ていた時と同じ姿で、浮世英寿はそこに立っていた。

相違点はベルトの有無。どこかミスマッチなその組み合わせをも優雅に着こなす様は確かにスターと呼ばれるに相応しい。

 

「ようこそ! デザイアグランプリへ!!」

 

中心から凛とした女性の声が響き渡る。皆一様にその方向へと顔を向けると、白と黒の衣装に身を包んだポニーテールの女性が笑みを浮かべて佇んでいた。

 

「私はゲームのナビゲーター、ツムリと申します。よろしくお願いいたしますね♪」

 

そう告げて、彼女は一切の前置きをする事なく語り始める。

 

「私達の世界は今、ジャマトの脅威に晒されています」

「ジャマト…………?」

 

どこから来るのか、何が目的なのか、それらは一切不明の怪物。

唯一はっきりとしているのは、明確な害意を持って進攻してくる事、並の銃火器や戦車程度ではびくともしない事、そしてヘイローすらものともせずに人々を殺害する力を持っているという事。

 

「そんなジャマトからキヴォトスを、ひいてはこの世界そのものを護るために誕生したのが、このデザイアグランプリなのです!」

 

片手を挙げて熱弁するツムリ。しかし彼女のテンションとは対照的に周囲の反応は芳しくない。

ここに集まった者達は蘇った記憶に恐怖するもの、そもそも何も知らない者、そして全てを知り聞き流すものの三つに分けられる。

しかし、その大半は怪物との戦いなど無縁の一般人。

勿論、キヴォトスにおいて多少の銃撃戦や強盗、抗争程度ならば日常茶飯事と言えるレベルで行われているが、そんな場所に住んでいる者達にも現実味に欠けると思ってしまう程の事を彼女は告げたのだ。

しかしそんな事は彼女にも織り込み済みの様で、そうですよねと彼らに理解を示した。

 

「無理もありません。ジャマトの悲劇を忘れて平和に暮らせる様、デザイアグランプリが終了するごとに記憶はリセットされているのです。それが蘇るのは、IDコアを手にした人だけ」

「だからミモリ達は覚えてなかったのか…………」

 

景和は同じく百鬼夜行の生徒である修行部があの時の惨状を覚えていない事に納得を覚える。

確かに彼の記憶が蘇ったのはIDコアに触れた後だった。

 

「先ほど申し上げた通り、ジャマトには並の攻撃では傷一つつけられません。しかしそのデザイアドライバーがあれば、話は別です!」

 

ジャマトに唯一対抗出来る武器であると、彼女は力説する。

そのドライバーを持つ者は世界を救う力を持つ"仮面ライダー"なのだと。その力を持ってジャマトと戦うのだと、彼女は告げる。

 

「そして、見事に勝ち抜いた通称、"デザ神"は! 自分の理想の世界を叶える事が出来ます!!」

 

周囲にどよめきが広がる。もしそれが本当だとすれば、どんな願いでも叶うという事を意味する。

普段ならば一蹴する与太話。しかし彼らの脳裏の記憶と今置かれたこの現状が合わされば、それには十分な説得力がある様に感じられる。

 

「それでは皆さん。お手元のデザイアカードに、願いをお書きください♪」

 

突如として手元に出現したカードと羽ペン。

戸惑いながらも、皆そこに願いを書き始めた。

 

「───うん」

 

景和もまた、おもむろに願いを記す。壮大な、しかしどこか空虚な願いを。

 

▪▪▪

 

そこはまだ雪が溶けきらない林の中。赤透明の壁に囲われたフィールド、"ジャマーエリア"の中にサバイバルスーツを着たプレイヤー達は転送される。

既にゲームは始まっている。彼らの手には大きなスコップが握られている。それ自体は何の変哲も無いスコップ。

第一回戦、『種掘りゲーム』にて使用される物だ。ルールは至ってシンプル。目印のある箇所を掘ってポイントが割り振られた種を取り出し、特定の場所に持っていくだけ。一定以上のポイントを集めると報酬が貰え、勝ち抜けとなる。

世界を救う、などと大層な事言っていた割には拍子抜けしてしまう内容だ。

しかし、そう簡単にはいかないという事をプレイヤー達は即座に理解させられる。

 

「ジャジャ」

「ジャジャァ」

 

あちこちから悲鳴があがる。出現したのは当然ジャマト。まるで土方の様な格好をしており、手にはつるはしや木槌など様々な得物が握られている。

 

「行くか」

 

大半の人間が狼狽える中、即座に行動を開始する者も存在する。英寿はその代表格だ。

彼は流麗な動きでジャマトを退け、目印のついた箇所を掘り起こす。

そして取り出した種をポケットに入れ、次の目印を探しに行く。

 

「ククケデ…… ククケデ…………」

「…………へぇ?」

 

視界の隅に一瞬だけ映ったものから目を反らし、また動き出す。

動いているのは英寿だけでは無い。様々な理由により戦闘慣れした者達は既にポイントを稼ぎ始めている。そんな中、景和は背を向けて、必死にジャマトから逃げ回っていた。

 

「待って、待ってぇ!? 変身出来ないのかよーー!!」

 

彼の脳裏で恐怖が反芻される。あの時と比べればその数は大きく劣るものの、それでも紛れもない怪物だ。今の今まで比較的平和に暮らしていた景和がいきなり立ち向かっていけと言われる方が酷というもの。

目印を見つける暇もなく、景和は近くの木陰に隠れて様子を伺う。

 

「ヴォテチャ? ヴォテジュケカカト!?」

「ボビビアヅ!」

 

人間にはさっぱり理解出来ない意味不明な言語でコミュニケーションを取りつつ、二体のジャマトは彼から遠ざかっていく。

 

「ふぅ………… 助かったぁ…………。…………あ!」

 

景和の目の前には目印が。まるで植木の様なそれを外して掘り出すと、その中から平らかつ小さな物体が姿を現す。

全面には何かの絵らしきものが描かれている様な、そうでもない様な。

 

「………………似てる?」

 

自らのドライバーにセットしたコアを思い返し、景和は首を傾げる。

しかし気のせいだと思い直し、再び目印探しへと歩を進めようとして、立ち止まる。

 

「来ないで! 来ないでよっ!!」

 

そこには手に持ったスコップを必死に振り回しながら、ジャマトを追い払おうと苦心する少女が一人。

 

「あの娘は…………!」

 

景和は彼女を知っていた。百鬼夜行を襲った大量のジャマト。それから共に逃げ回ったトリニティに所属している少女だ。

 

「やめろっ!」

 

目の前で襲われている人間を放っておく訳にはいかない。それは彼の掲げる理想に反する。

彼はスコップを握りしめ、ジャマトへと突撃していく。

 

「キョジ!?」

「速く逃げよう!」

「へ…………?う、うん!」

 

一体にタックル、もう一体にはスコップで顔面を殴打。

ジャマトが怯んだ隙に、彼は少女の手を取り駆け出す。

そして、直ぐに茂みの中へと身を隠す。

 

「はぁ、はぁ、……大丈夫?」

「うん……。はぁ……はぁ……、ありがとう」

「また会っちゃったね」

「え……?あ!あの時の?」

 

頷く景和。少女もまた、助けてくれた彼に対して微笑みかける。

 

「君も参加してたんだ」

「うん、色々あってね」

 

少女は子熊(こぐま)ルルと名乗った。身長はおよそ150cm程度であり、頭頂部からは丸い熊耳が生えている。その小さくも愛らしい外見はまさしく子熊と形容するに相応しい。

しかしこの様な場所で再開するとは、随分と奇妙な縁もあるものだ。

 

「ねぇ、君は幾つ種見つけたの?」

「……それが、逃げ回ってて、全然見つかんなくて……」

 

彼女は目印を全く見つけられず、ただ逃げ回るだけだったと言う。キヴォトスで暮らす以上多少の荒事には縁があったようだが、それでもあの時の恐怖を思い出すと足が竦んでしまう、とそう溢した。

 

「……だったら、俺と一緒に探さない?困った時は助け合い、でしょ?」

「…………いいの?」

「勿論!」

 

ルルは安心した様に息を吐き、景和に礼を告げた。

とはいえ、探そうと言ってもずっと走ってきた為にここがどこかもわからない。

周囲を警戒しながら、二人はゆっくりと歩き出す。

 

「あ!」

「どうしたの?」

 

歩き始めて数分、景和は茂みの向こうを見て、思わず声をあげた。

そこには多くの目印が配置されていた。今まで見た中でも一際、というよりも唯一、規則正しく等間隔にそれらは配置されている。

まるでここが、庭園か畑でもあるかの様に感じられた。

 

「やった! ラッキー!」

「良かった、これで一回戦突破だ…………!」

 

二人はスコップを使い種を掘り起こす。五つ目を掘り終えた所で、ポケットの中の携帯端末から音声が鳴り響いた。

 

《MISSION CLEAR》

「おめでとうございます」

「あわっ……!?」

 

完了の報せと同時に響いた声に、ルルはびくりと肩を震わせた。

声の方向には一人の男性が立っていた。学生ではない、ある程度年を重ねた大人。それだけでも珍しいが彼には誰にでもある筈のヘイローが存在しないという大きな特徴がある。

彼はニコリと微笑み、手に持った二つの箱を二人に差し出す。

 

「どうぞ、こちらをお受取り下さい」

「ど、どうも……」

 

二人は同時に箱を開く。ルルの方には薄黄緑の弓矢の装飾が付けられた小さなバックルが、景和の方には赤い大型のバックルが入っていた。

 

「これって…………何か凄いやつ!」

 

景和が手に入れたそれを、彼は知っている。あの日ギーツが使用していたブーストバックル。あの巨大な亀ジャマトを倒した際に使用していたのだからさぞ強力なアイテムなのだろう。

 

「お二方、どうぞこちらへ」

 

何も無い空間に穴が開く。まるでフィクションの様なそれを見つつ、二人はその中へと入っていく。

入った先はサロン。デザイアグランプリの休憩所であるそこはまるで高級ホテルのロビーの様な荘厳な場所だ。

 

「お前は……」

 

既に何人かのプレイヤーはポイントを貯め終え、休憩している様だ。その中から一人、景和に声をかけてくる人物が居た。

 

「まさかお前まで参加してるとはな」

「え……?」

 

それは黒に幾つかの茶色が入り交じった髪の少年だ。ぶっきらぼうなのだろうと容易に想像がつくその態度や彼の声は、景和には覚えがある。

 

「…………あ! あの時の牛の!」

「仮面ライダーバッファな。お前は、タイクーンか」

 

携帯端末の画面を見ながら、彼は景和を見つめる。そして即座に目を反らし、鼻で笑った。

 

「ま、モブはすぐにリタイアだろ。精々足掻けよ」

「モ、モブ…………!?」

 

そんなに失礼な言葉をかけられた記憶は、過去一度しか無い。景和は思わず顔を顰め、そして彼と同じく携帯端末を確認する。

 

吾妻(あづま)道長(みちなが)君…………、ったく何なんだよ」

「全くだな。お前はまだまだデザイアグランプリの事をわかってない」

「へ?」

 

突如とした景和の肩が誰かに掴まれる。一瞬ルルかとも考えたが、彼女の手はそこまで大きく無い。振り向くと正体は今朝とその後の集会で見た少年、英寿だった。

 

「ギーツ…………!」

 

道長が敵意に満ちた目で英寿を睨む。

 

「随分と遅かったなギーツ。ルーキー達に先を越されるとは。お前の手に入れたアイテムは何だ?」

「試し打ちをしてたのさ。中々珍しいアイテムだったからな。ファイアーとメカニカルアーム。お前見たことあるか?」

 

英寿が見せた二つのバックル。それを見た道長は鼻で笑った。

 

「お前、それどっちも外れだろ」

「「外れ!?」」

 

道長の言う事は正しい。バックルには当たり外れがあり、その基準は基本的に大型であるか小型であるか、というものだ。

英寿が見せたバックルはどちらも小型。

それを知ったルルともう一人、金髪色黒で複数のピアスをつけた肩幅の広い少年は声をあげてしまう。

 

「お前が欲しかった物は、もう手に入れてる奴がいる」

 

道長の言葉と同時にサロンの扉が開く。そこから黒いマスクとキャップをつけた背の高い少女が姿を見せた。

 

「水をくれ」

「かしこまりました」

 

彼女はギロリに対して注文を済ませ、近くのソファーへと腰かけ、タオルで汗を拭う。

手には大型の白いバックルが握られており、それをしげしげと見つめて呟いた。

 

「…………悪くない」

 

(錠前(じょうまえ)サオリさん…………)

 

景和は携帯端末で彼女の名前を確認する。何とも近寄りがたい雰囲気を放つ彼女だが、そんな事を気にもせず、色黒の少年は近づいていく。

 

「なぁ、お姉さん。俺ちゃんのと交換してくんね? もし譲ってくれんならぁ、優勝した時に悪い様にはしねぇぜぇ?」

「……交渉がなってないな。お前のそれを飲んで私に何のメリットがある?失せろ」

 

(あの人は猿股(さるまた)玉夫(たまお)さん…………)

 

低く、冷たい声色で猿股の提案を切り捨てるサオリ。

その態度が癪に障ったのか、彼は青筋を浮かべて彼女に近づいていく。

 

「あ?んだてめぇ、ナメてんのか?」

「…………何だ? やる気か?」

「ちょ、ちょっと…………!」

 

一触即発。ピりついた二人の間に景和が割って入るよりも速く、ギロリが口を挟んだ。

 

「ここでの戦闘はいかなる理由があっても禁止されております。違反者は即失格となりますので御注意を」

 

その言葉で二人は距離を取る。猿股は舌打ちを溢したが、それでも即失格という言葉は響いた様だ。

同時に似たような敵意を放っていた道長もそれを落ち着かせた。

 

「いよいよお前の命運も尽きたらしいな」

 

それだけ言い残し、彼は英寿から離れていった。

挑発を受けた英寿は苛立つ訳でも、怒る訳でもなくただ笑う。

その視線はおろおろと狼狽える景和、その手の中のブーストバックルへと向けられていた。

 

▪▪▪

 

「皆様、緊急事態です」

 

ギロリのその言葉が始まりの合図だった。突如としてツムリに呼び出されたプレイヤー達は、開始前に集められた場所、デザイア神殿へと集められていた。

 

「何と先程、ジャマトが大量に出現した様です! このままではこの先の各学校自治区に多大な被害が出てしまいます! そこで、種掘りゲームはここまでとし、残った皆さんには事態の収拾にあたっていただきます」

 

つまり、この時点でポイントを貯めきれていないプレイヤーは皆脱落という事になる。

 

「残るは六人か」

「イヤ、七人、ダよ」

「うおっ!?」

 

どうやらもう一人、ギリギリで滑り込んだ者が居たようだ。

ボサボサな緑色の髪に不健康そうな青白い肌、そして虚ろな瞳を持つ少女はゆっくりとした足取りでツムリの前に立ち、その肩を叩いた。

 

毒島(ぶすじま)、ベラ。ワタシ、もカ面ライダー、ダから」

「…………………………はい」

「…………?」

 

一瞬、彼女の表情が硬直した様に英寿は感じ取った。

しかしそれを考える間も無く、説明は進む。

 

「生き残った方が一回戦勝ち抜けとなります!」

「……はぁ?生き残ったらって、どういう事だよ?」

「これは命をかけたゲームですので」

 

あくまで笑顔でツムリは告げる。それを聞いて動揺する者が少なくとも三人。

 

「ざけんな!んな事聞いてねぇぞ!」

 

真っ先に声をあげたのは猿股だった。どうやら彼は他人より少しばかり怒りやすいらしい。とはいえ、この状況ならば誰でもそうなる可能性はあるのだが。

 

「落ち着けよ。勝てば良いだろ?」

 

今にもツムリに掴みかかっていきそうな彼を英寿が諌める。猿股もそれに納得したのか渋々といった様子で引き下がった。

その様子を見て、ツムリは頷いた。

 

「それでは皆さん、変身してください!」

《ENTRY》

 

音声が響くと同時に景色も切り替わる。先程まで神殿だった場所はジャマト蠢く戦場へと切り替わっていた。

プレイヤー達の身体は黒い装甲に覆われ、各々同時の仮面が取り付けられた。

 

「ギーツ、バッファ、スーホ」

 

英寿は狐、道長は牛、サオリは馬。

 

「タイクーン、キンモー、ワムーン」

 

景和は狸、猿股は猿、ルルは熊。

 

「……ヴル、ドンナ」

 

そして最後に滑り込んだ少女、毒島ベラは緑色の人の様な。

彼らこそ、世界を守る為に選ばれた仮面ライダー達である。

 

「それでは──── ミッションスタート!!」

 

《MAGNUM》

 

真っ先に動いたのはスーホだった。精製された白い鎧を上半身に纏い、彼女は即座に身を隠す。

複数体が蠢くジャマトの群れに真正面から突撃していくのではなく、最適なポジションを取り続け、確実に殲滅していくつもりの様だ。

 

「さっさと終わらせるぞ」

《ZOMBIEィ……!》

 

一方のバッファは紫の鎧を上半身に纏い、恐れる事無く、群れの中へと突き進んでいく。

専用装備のゾンビブレイカーを振り回し、ジャマトを身体を豪快に打ち砕いていく。

対照的な戦いを見せる二人を見つめ、残りの仮面ライダー達も動き出す。

 

「せっかちだなおい」

「はっ! 雑魚が群れやがって! 精々俺ちゃんの経験値になってくれよぉ?」

「…………」

 

《ARMED・FIRE》

《ARMED・CROW》

《ARMED・SCISSORS》

 

ギーツは赤い火炎放射器を、キンモー両手に爪を。ヴルドンナは鋏を。それぞれが上半身に纏った武装を用いて戦いに参加する。

しかし、ワムーンとタイクーンだけは一向に動かない。

 

「うわっ! ヤバい来た!」

「や、やらなきゃ……いけないのに…………」

 

ギーツ達が漏らした数体のジャマトが二人に襲い来る。

タイクーンはワムーンの手を引き、逃げる。

彼に戦うという発想は無い。

これは命をかけたゲームで、生き残った者は勝ち抜け。つまり勝ち抜け無かった者は死ぬ、という事である。

 

(命を賭けてまで戦うなんて、そんなの無理でしょ…………!)

 

タイクーンからすれば今戦ってる彼らは理解出来ない存在と言っても過言ではない。

人の幸せが自身の幸せ。そう公言する彼にとって最も大事であり、守るべき物は命だ。幾ら願いが叶うからといって、肝心の命を失えば元も子もない。

だから逃げる。戦いを放棄し、生き残るために足を動かす。

しかしそれでも追いかけてくるジャマトの数は増える一方だった。

 

「ヤバい…………! これじゃキリがない!」

「やっぱり、やらなきゃ…………」

 

《ARMED ARROW》

 

彼が狼狽える中、ワムーンが動いた。黄緑色のクロスボウを装備し、ジャマトに対して矢を放ったのだ。

 

「ルルちゃん!?」

「あ…………」

 

ワムーンが弱々しい声を漏らした。

彼女の視線の先には一体のジャマト。ウツボカズラを彷彿とさせるその姿はそこらに大勢居るジャマトとは明らかに雰囲気が異なっている。簡潔に表現するならばボスという言葉が相応しいその他よりも強靭な印象を強く受ける身体からは一筋の煙が立っており、そこに矢が当たった事を示している。

 

「あ、あぅ……」

「キョトキョラサ…………!」

 

攻撃のために近づいていた事でタイクーンとは距離が開いている。つまりはジャマトの間合いには彼女一人。

恐怖で足が完全に竦んだ彼女はなす術もなく、攻撃を喰らってしまう。

 

「かは…………!」

「ルルちゃん!」

 

タイクーンは思わず走り出す。ワムーンが死んでしまう。その未来を幻視した彼は恐れも何もかもをかなぐり捨てて走る。

しかし彼女の元に辿り着く事は叶わない。

複数のジャマトによる妨害が入ったためだ。一体の戦闘力は差程高くはないものの、それでも特別強くもない彼を足止めする事くらいは容易だ。それも複数体となれば、無我夢中でバックルすら使用していない彼に突破出来る見込みなど無い。

 

「やめろ!どけよ!」

 

ジャマトに囲まれ踠くタイクーン。彼の視界には仮面を掴まれ、何度も何度も殴られているワムーンの姿が映っていた。

 

「やめろ、やめろぉ!!」

「ジャバッ!?」

 

憤慨したタイクーンの必死の拳がジャマトの一体の顔面を捕らえ、大きく仰け反らせる。

その隙に空いた隙間から、彼は吹き飛ばされたルルの所へ駆け寄った。

あまりにも大きく吹き飛ばされたせいか、近くにジャマトは居ない。

しかしその事を確認している暇も無い程、タイクーンは慌てていた。

 

「うぅ…………」

「ルルちゃん!」

 

既に変身は解除され、子熊ルル本人の姿が曝け出されている。しかしその様子は酷いの一言だ。傷だらけかつ痣だらけ。右瞼は大きく腫れ上がり、口の端からは血が流れている。

同じく変身を解除した景和は彼女を両手で抱き起こす。

 

「どうして、どうしてあんな無茶を! 勝てる訳無いだろ!?」

「だって、だって……」

 

涙を流してルルは語る。

彼女には親友が居た。幼い頃から仲が良い、大切な幼馴染み。

高校生になり、一緒にトリニティに入学してもそれは変わらなかった。ルルが達の悪いグループに見つからなければ。

 

「虐め…………?」

 

ルルは頷く。

気の弱い彼女はそいつらにとって格好の獲物だった。毎日何かを捕られ、返して欲しければアレをやれコレをやれ。

巧妙に立ち回るせいで正義実現委員会にも発見されず、彼女は追い詰められていった。

 

「でもあの娘だけは助けてくれた………… なのに、なのに私は……!」

 

ある日、ルルは目撃してしまった。数多くのスケバンに囲まれて暴行を受ける幼馴染みの姿を。

近くには彼女を虐めていたグループが笑いながら写真を撮っており、これが彼女達の仕業である事を端的に示していた。

幼馴染みはルルを視界に入れると力の限り叫んだ。「助けて」と。

その瞬間、一斉に彼女を視線が集まった。スケバンも、虐めグループの少女達も彼女を見つめて睨んでいた。

 

「それで、私、怖くなって、」

 

逃げたのだ。睨まれた瞬間、彼女は踵を返して駆け出した。背後から幼馴染みが叫んでいるのが聞こえたが、無視した。

我が身可愛さに、長年の幼馴染みを見捨てたのだ。

 

「それ以降、会ってなくて、でも、私の事絶対恨んでるから、無かった事にしたくて、」

 

ルルの身体にノイズが走る。彼女のIDコアは破損している。それはゲームに敗北した何よりの証。

そうでなくとも、彼女の息は既に絶え絶えだった。

 

「でも、罰が当たったんだよね…………。見捨てたから、あの娘怒ってるだろうなぁ…………。

…………ごめんね、ごめんね…………!」

《MISSION FAILED》

 

彼女の身体が粒子となって宙に溶ける。崩れゆく命を見て、景和は愕然とする他無かった。

無力感やもっと速く駆けつけられていればという後悔、それが出来なかった自分への失望。

様々な感情が渦巻き、ただ呆然とルルが居た箇所を見つめていた。

 

「…………何してる?そんなとこでぼうっとしてたらジャマトに殺されるぞ」

 

いつの間にか、英寿が後ろに立っていた。景和は彼を見ようともせず、言葉を漏らす。

 

「ねぇ、どうしてこうなっちゃったの……?」

 

それは彼に言っても仕方の無い事。しかしそれでも溢さずにはいられなかった。胸中に貯まった鬱々とした感情を吐き出さねば、どうにかなってしまいそうだったから。

 

「叶えたい世界があるから、命を張った。それだけだ」

「何だよそれ、訳わかんないよ……」

 

ルルは優しい少女だった。ただ勇気を出して腹を割って話せば、ほんの一歩を踏み出せていれば、仲直り出来たかもしれないのに。

景和には命を賭ける程の事とは思えなかった。

 

「ここはそういう場所だ。どんな願いだとしても、それを叶える為に戦う奴らが集まる。戦わなきゃ世界は変えられない。───だったら戦うしかないだろ」

 

英寿の言葉には強い力が込められていた。まるで幾つもの経験を積み重ねてきたかの様な、重みのある言葉。

 

「デザイアカードに何て書いた?」

「平和な…………世界……」

 

そうか、とだけ英寿は答えた。そのどこか共感した様な声のトーンに、思わず景和は彼に尋ねる。

 

「君は、どんな願いの為に戦うの?」

「…………世の中には満足に勉強も出来ずに腐っていく子供達が沢山居る。そんな奴らの居場所を作ってやりたい。だから俺は戦ってる」

 

彼の瞳は力強い。ただ漠然と戦いに身を投じた自分とは正反対の強さが宿っていると、少なくとも景和にはそう思えた。

 

「そっか、君も誰かの為に戦ってるんだね」

「これでもシスターフッドなんでね」

「ジャジャジャ…………!!」

 

ルルを殺したジャマトが数体の下僕を引き連れて荒々しく向かってくるのが見える。

英寿は景和に向けて右手を差し出した。

 

「お前の持ってるバックルを貸せ! 俺がアイツを倒してやる!」

「え?」

 

景和は手の中に収まっているブーストバックルを見つめる。これは強いアイテムだ。そして当然、強い者が使えば更に強力な武装としてその真価を発揮する。

漠然とした自身よりも、確固たる決意を持って戦う彼の方がこれを使うに、このゲームを勝ち上がるに相応しいのではないか。そんな風な考えが脳内を過り、そして彼はそれを投げた。

ブーストバックルは英寿の手に渡った。

間髪容れず、彼はドライバーにそれを取り付ける。

 

《DUAL ON》

《ARMED・FIRE》《BOOST!》

 

上半身に火炎放射器、下半身に赤い鎧。迫り来る手下達にギーツの渾身の蹴りが炸裂する。マフラーから噴射される炎を勢いを乗せたそれは手下達を容易く葬った。

 

「喰らっとけ!」

「ジャっ!?」

 

そしてボスジャマトの顔面に向けて炎を浴びせる。ジュウ、と肉の焦げる音と共大きく仰け反るボス。

その隙を見逃さず、ギーツは更に蹴りを一発。ボスは足裏が腹に突き刺さり、大きく吹き飛ばされ、近くの木に激突した。

 

「盛大に打ち上げだ!!」

《REVOLVE ON》

 

ドライバーを回転させ、ギーツは上下半身の武装を入れ替える。そしてブースト部分のグリップを捻り、そしてファイアー部分を操作する。

 

《BOOST TIME!》

《BOOST!FIRE!GRAND VICTORY!!》

 

狐型のブーストストライカーの出現と同時にギーツの周囲で炎が踊り狂う。

猛る煉獄を拳に集約、それを勢い良く突き出したそれから凄まじい濃度の炎が一気にボスへと襲いかかる。

 

「ジャァァァァァァァァァァ!!」

 

それを避けられず、一身に受けたジャマトはその身を灰塵へと変えた。

 

「凄い…………!」

 

レベルが、強さの次元が違う。それは仮面ライダー一人を葬り去ったボスジャマトをあっさりと倒してしまったギーツを見て、自然と溢れてしまった言葉だった。

彼は景和へと歩み寄り、肩に手を乗せる。

 

「サンキューな」

「いや、そんなこちらこそ…………「──化かされてくれて」…………え?」

 

乗せた手を景和の眼前へと移動させ、指でギーツは狐を形作る。

 

「えっと、どういう事?」

「知らないのか? 狐は人を化かすって、昔から相場が決まってる」

「え、じゃあさっき言ってたのは───」

「お前みたいな奴はああいう話に弱いからなぁ。案の定、力を譲ってくれたよ」

 

景和は眼を見開く。あの表情が嘘だったという衝撃、そして騙され、弄ばれた事への怒り。それらが一気に駆け巡り、彼はギーツへと掴みかかった。

 

「騙したの!? …………ちょっと、俺のブーストバックル返してよ!」

 

ギーツのドライバーに付けられたブーストバックルに触れようとした瞬間、それが勢い良くドライバーから離れ、どこかへと飛んでいく。

そしてその過程で近くに位置していた景和の顔面に激突した。

 

「ぶべっ!?」

「ああ、アレは必殺技を使ったらそのゲーム中はおしまいだぞ」

 

景和は血が流れる鼻を抑え、土にまみれながら去っていくギーツを悔しそうに睨む。

その目尻には涙が浮かんでいる。しかし彼の中にはギーツへの怒りよりも、ルルを死なせてしまった自身への怒りが強く渦巻いていた。

 

「くそぉ、くそぉ…………!!」

 

▪▪▪

 

後日、クロノス報道部がネットに数名の生徒が矯正局送りになったとの記事を発信した。

彼女らはトリニティ、パテル分派の生徒であり、実家の権力を盾に極めて悪質な虐めを同校の多数の生徒に行っており、それがティーパーティーにリークされ事に至った。

リーク情報を流した人物は不明。ただトリニティ内部の生徒である事は確実であり、その時点での時間を照らし合わせるとシスターフッドである可能性が高いと見られている。

その人物はただ、『名無しの狐』とだけ名乗っていたそうだ。

 

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