DESIRE ARCHIVES   作:ベロベロベ

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罪過Ⅱ/ギーツ狩り

 ジャマトグランプリ第1回戦、『(ギーツ)狩り』。ジャマト繁栄における最大の障害を駆逐せよ。ギーツを討伐又は捕獲した時点でゲーム終了。生き残ったジャマトは2回戦進出となる。

 

 そんなものが開催されているとは露知らず、景和は1人買い出しに出ていた。買い物袋を腕に下げ、いくつかの食材を購入しとある施設へと顔を出す。そこは自治区内の子供食堂。様々な事情で孤食にならざるを得ない子供達に格安で食事を提供するこの施設で、彼は1年以上料理の手伝いを行っていた。

 店主である猫の女将が人当たりの良い笑顔で彼を労う。

 

「毎度わざわざありがとねぇ、景和ちゃん」

「いえ好きでやってる事ですし」

 

 修行部に所属している景和はこの他にも多数の場所で奉仕活動を行っているが、ここは特に思い入れの強い場所だった。かつて彼がまだ小さかった頃、よくここで食事を取っていたからだ。姉と2人で仲良く食べたたぬき蕎麦の味は今でも彼の舌に残っている。ここは姉に並んで、景和が人に対して何かをしてあげたいと思う原点の1つかもしれない。

 

「これも、修行ですから」

 

 修行。それは彼が所属している部活動の名前にもなっている言葉。部長のツバキ、副部長のミモリ、後輩のカエデと共に自らの理想に向けて邁進するという事をコンセプトに掲げ、皆が日々様々な観点から修行を積んでいる。

 しかし景和は最近、自らの行動に疑問を感じてならなかった。ここ最近はまさしく激動と言っても過言ではない程に変化に次ぐ変化が彼を襲った。仮面ライダーとして様々なゲームに参加し、戦い、散っていく様を見てきた。英寿もミカもカンナもリオも、皆が確固たる信念の下に動いているのは間違いない。

 

 では、景和は? 退場した人達を助ける。それが信念たり得ないとは思わない。立派な、誇るべき理想のはずだ。問題はその理想をただ追いかけているだけなのではないかという自身への疑念だった。

 戦わなければ、欲しいものは手に入らない。自身の中で幾度も反芻したその言葉を、彼は未だに実践出来ていないのだ。仮面ライダー同士での対決に変更された第3回戦。彼は直接傷つける事を躊躇いその手を止め、結果足手まといになった。その後覚悟を決めて動こうとしたものの、やってきたのはかつて退場したはずのプレイヤーの姿をした未知のジャマト。

 

 あれを見て以降、またしても景和の中には迷いが生まれる様になった。

 

(ジャマトって何……? どうして道長君の姿を? そういえば前にもあった。……確か、毒島ベラさん)

 

 あの時は必死でそんな事は考えられなかったが、今思えば自身はとんでもない事をしてしまったのではないかという不安が芽生えつつあった。

 こんな迷いの中で、理想に没頭して戦う事が出来るのか。答えは否だ。しかしそのせいで先生が怪我をした。サオリに対する攻撃を躊躇っていなければ、ああはならなかったのだろうか。

 

「……痛っ!?」

「あらまあ景和ちゃんどうしたの? 包丁で切っちゃうなんてらしくないじゃない。ボーっとしちゃって、疲れてるの?」

「えっと、その、すいません……」

 

 指先から流れる赤黒い血液。先生の背中からはこれとは比べ物にならない量の血が出ていた。生死に直結する程の夥しい量が、シミとして制服を染め上げていた。

 景和が戦わなければ、ジャマトによってより多くの人間が命を落とす事になる。元はと言えばジャマトに対抗するためのゲームがデザイアグランプリなのだ。

 

「そうだ、俺はただ世界を守るために戦えばいいんだ……。そうすれば理想はきっと叶う」

 

 怪我をした指を握りしめて、景和は自身に言い聞かせる様に呟く。その直後、彼の持つ携帯が鳴り響いた。それに出ようとする直前に、彼の耳を違和感が揺らす。

 

『おいおい、一晩考えて結局それかよ。進歩がねえなあ桜井景和』

「え…………?」

 

 どこからか、声が聞こえた気がした。トーンは低く、耳の残る様なダンディーな声色。しかしその余韻を携帯の着信音が搔き消していく。

 画面に表示された相手の名前を見て、景和は少しばかり目を見開いた。そこに記された名前は『七神リン』。キヴォトス連邦生徒会の首席行政官が直々に彼に連絡をかけてきていたのだ。

 

「あ、もしもし? どしたのリンちゃん、久しぶりだね」

『ええ久しぶりね景和。いきなり悪いんだけど、今から連邦生徒会に来て頂戴。後10分程度で迎えが来るわ』

「え、待って、待ってよ。本当にいきなりじゃん、どうしたの?」

『悪いんだけどそれを今説明してる暇はないの。着いてから説明するから――――、ああアユム。はい、その資料はそこに置いておいてください。……良い? それじゃあ切るわね』

 

 リンは一方的に用件を伝えて電話を切った。電話越しからでも彼女の仕事量の多さが伝わる。この上に立つ連邦生徒会長の仕事量は如何ほどか、景和には想像も出来ない。

 彼は女将に断ってその場を抜け出し、迎えを待つべく広場に向かう。自宅に居候している英寿にも伝えておこうとモモトークを起動した直後、耳をつんざく様な悲鳴が辺りに響いた。

 

「何だ……!?」

 

 悲鳴を聞いてしまえば動かずにはいられないのが彼の性だ。駆け付けたその場所の光景を見て、彼は目を見開いた。

 

「ジャマト!? どうして、ジャマーエリアは展開されてないのに!」

「ジャジャジャジャ!!」

「ビオツルキョワススビビィ!」

 

 広場で暴れているのはいつもの不良集団ではない。今この時間に居るはずのないジャマト数体が思うがままに暴れていた。

 景和はドライバーを取り出し、バックルを構える。デザイアグランプリの秘匿の規則など彼の頭からは抜け落ちていた。

 

「変身!」《HIT MAGNUM》

 

 白い装甲を上半身に纏い、マグナムシューターで蠢くジャマトを狙い撃つ。ほとんど使用経験がない武器だが、やはり銃という形はキヴォトスで過ごす身としては馴染みやすい。

 ハンドガンモードで近くのジャマトを蹴散らし、ライフルモードで遠く離れたジャマトを撃ち抜いていく。ギーツの様に使いこなすまでにはいかないが、それでも複数の下級ジャマトを纏めて容易く倒せる程度には彼は成長していた。

 

「ジャジャジャアァ…………!」

 

 同胞を倒された怒りからか上級個体のルークが迫る。手についた砲に貯めこんだエネルギーをタイクーン目掛けて発射する。下級個体と比較してそれなり重さを体格を併せ持つルークですら反動を味わう程の勢いのある攻撃が、威力と速度を伴ってタイクーンへと迫る。

 咄嗟にレバーを引いた強化攻撃で対応するも大きく開いた威力はどうにもならず、彼に砲弾が直撃した。

 

「グッ…………ウアァァァァァァ!!!」

 

 変身が解除され、近くの店の壁に背中を打ちつける。鈍い痛みを発する肩を抑えながら、舞い上がった砂埃を払いながら景和は再びバックルを操作しようと立ち上がる。ルークもまた受けて立ってやるとばかりに彼を見据えていた。

 しかしその状態は即座に崩れる事となる。唐突にルークが頭に手を当てる。苦しむ様な素振りはなく、むしろほくそ笑む様な態度をとった後に踵を返した。

 

「レレルクビビピジゼラガファ…………………………、見逃しテやるヨ、タイクーン」

「え…………? ……待て!!」

 

 そう言い残し、ルークは去っていく。その背中を景和はふらついた足取りで追いかけていく。

 ジャマトが人語を喋った。その事実が彼に気味の悪い事実を連想させる。

 どうか、どうか外れていてくれと彼は願わずにはいられなかった。

 

 

▪▪▪

 

「ん…………?」

 

 インターホンが鳴らされた時、英寿は景和のパソコンを借りて調べものをしていた。チェックするのは主にSNS。今世間がどんな事になっているのか、どこが安全そうか彼は確かめていた。いつまでもここに居る訳にはいかない。迷惑になるというのも勿論だが、根本的に景和と彼は互いの理想を潰し合うライバルなのだ。どれだけ好感や感謝を抱いていても、最後に勝つのは1人なのだから。

 

(タイクーンか……?)

 

 パソコンを閉じて英寿は思考を回す。扉の向こうの相手が景和でなければ少々マズい事になる。このまま居留守を使おうと彼は息を潜めてその場で沈黙した。

 ピンポーン、とまたインターホンが鳴らされた。彼は答えない。

 ピンポーンとまた鳴った。彼は答えない。

 ピンポーンピンポーンと連続で鳴らされる。答えこそしないが、段々と違和感を感じる様にはなってきた。電気が点けられておらず若干暗い廊下の奥は、どことなく不気味だ。

 

 ピンポーンピンポーン、ピンポンピンポンピンポピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン。

 

 マズいと英寿はこの場から脱出しようと窓を開く。同時に家の玄関が消し飛んだ。

 

「ジャジャアァ…………」

「ジャバッ!」

 

「ジャマトだと……!?」

 

 反射的に彼はベランダの柵に手をかけてその場から飛び降りる。そして降りた先で舌打ちを漏らした。

 周囲を取り囲む大量のジャマト達。待ち構えていたらしく、逃がさないという意志の感じられる布陣を敷いている状態に彼は少なからず驚愕する。まるで自身の居場所が特定されているかの様だ。周囲の地形を把握しているのか、完全に逃げ場が潰されている。

 

「ジュラピラ……」「ジュラピラァァァァ……」

 

 数体のジャマトがドライバーを装備する。続いて取り付けられたバックルを起動させて変身を終える。

 はっきり言って特大のピンチだ。ただでさえ強力な個体が犇めいているというのに更に数が多い。まさしく多勢に無勢。このまま真正面から戦おうとするのは愚策中の愚策だろう。

 

 しかしそれがどうしたというのか。四方八方から漲る殺意にも、英寿は怯まずバックルを構えた。

 

「舐めるなよジャマト共。俺はこの程度の窮地、幾らでも超えてきた」《SET》《SET FEVER!》

 

 右にフィーバーバックル、左にマグナムバックル。今の彼に可能な最大戦力で迎え撃つ。希望は薄いが。だからといって、それは諦める理由にはならない。

 

「変身!!」《MAGNUM》《HIT BOOST!》

 

 マグナムブースト。かつてラスボスを打倒し世界を救ってみせた姿。この力でもってして目の前に広がる絶望を砕いてみせる。複眼を光らせ、仮面ライダーギーツは銃を構えた。

 

「……さあ、ハイライトだ」

 

《――――――READY FIGHT!!》

 

 開幕と共にギーツは脚部のエンジンを噴かす。狙いはジャマトが最も密集している1点。僅かに存在する歪目掛けて、彼は突っ込んだ。勢いを纏ったその蹴りは群体を形成しているジャマト達を容易く吹き飛ばす。ブーストの脚力は58.5t。更に勢いが乗せられたその一撃を受ける事は容易ではない。

 身体を砕かれ、命を散らすジャマト達。残された個体の中には怖気づく者もいる。しかし同胞の不安を振り払う様に、ジャマトライダー2体が前に出る。

 

 今回は今までとは違うぞ。その意志を示すかのように2体はバックルを取り出した。小型のバックル、アローとチェーンアレイ。どうやらジャマトは着々と進化しているらしい。

 

「へえ、ジャマトも今までのバックルを使う様になったんだな」

 

 そう軽口を叩くギーツに向けてジャマトライダーの一体が鉄球を投げつけた。投擲そのものは単純で、避ける事は容易い。しかし狙いはそこではない事も、彼は理解していた。鉄球が地面に落ち、それにつけられていた鎖が彼の脚を絡めとろうと蠢いている。同時に迫り来るのはジャマト達の群生攻撃。拳、矢、鉈など様々な凶器が目の前に降り注ぐ。

 

 ギーツはそれらにも恐れる素振りは見せない。むしろ全てを捌いてやるとばかりに銃を構えた。

 まずは手前の雑魚数体の眉間に銃弾を撃ち込み、衝撃でそれらの背後で武器を構えている個体にぶつけていく。撃ち抜かれた個体達が爆散し、肉片と血で残りの視界を汚していく中で、彼はドライバーを反転させる。上半身と下半身の武装を入れ替え、彼は宙を舞った。

 上級ジャマト数体が気づいて撃ち堕とさんとするがそれよりも先に脚の銃口が火を噴いた。

 

《MAGNUM STRIKE》

 

 乱れ乱れる銃乱射。雨の様に降り注ぐそれを受け、更に複数体のジャマトが散っていく。

 たった数分の攻防で、戦況は確実にギーツ有利に変わりつつあった。多勢という圧倒的有利が覆されつつあるこの状況に、徐々にジャマト側にも焦りが浮かび始める。一方のギーツは仮面の下で不敵に笑う。

 彼は幾度となく世界を救った不敗の男。この程度の窮地、乗り越えずしてなんとする。

 

《HYPER GOLDEN VICTORY!》

 

 フィーバーバックルのレバーを倒し、ギーツは更なる必殺技を発動させる。上半身に集められていくエネルギー。1点に凝縮されたそれは彼が地上に勢いよく着地すると同時に凄まじく爆ぜた。

 熱エネルギーのドームがジャマト達を覆い、その肉体を焦がしていく。

 圧倒的多数という状況から始まったこの戦い。ジャマト側の目論見としては今までの鬱憤を晴らすべく嬲っていくつもりだったそれは、いざ蓋を開ければギーツにひたすらに蹴散らされるという結果へと変わりつつあった。

 

「ジャアアアアア…………ッ!」

 

 一体のジャマトが苦悶の声を漏らす。こんなはずではなかったとでも言いたいのだろうか。しかし後悔先に立たず。既に勝ち目は薄い。狩る側から狩られる側へ。数に胡坐をかいた彼らの末路はギーツによる退場であると、彼らも予感していた。

 

 しかしその状況に一石を投じる存在が一体。

 トドメを刺そうと銃を構えるギーツの背中に高火力の砲撃が突き刺さった。背中を襲う熱と衝撃に、彼は地面を転がされる。

 

「よお、ギーツ。探したゼ」

 

 その声は彼にとって聞き馴染みのあるものだった。しかし以前のものと姿が違う。ドライバーも巻いておらず、体はルークジャマトそのもの。しかし発せられる声は変わりない。それを証明するかの様に、全身が蔦に覆われる。そしてギーツの前に現れたその姿は紛れもなく吾妻道長のものだった。

 

「バッファ……」

「アア。お前をぶっ潰すためにここに来た。今は俺達の時間だからナ」

「…………どういう意味だ」

「さあな。ま、ここでやられる奴に何言っても意味ねえだロ」

 

 道長から再度ルークの姿に戻り、彼は砲を構えて駆け出す。手に持った紫色の斧は専用の武器として作らせた特注品だ。どこか甘い香りを漂わせるそれを振るい、ルークは吼える。

 

「ここでお前の神話も終わりダ!」

「それはどうかな。少なくとも、今のお前らじゃ俺は倒せない」

 

 ギーツの言葉は少なからず的を得ていた。数さえ揃えれば勝てる踏んでいたのなら甘いと言わざるを得ない。それはルーク本体の感覚ではなく、道長の持つ記憶から抽出した情報だ。自身を含めてジャマトには血気盛んな者が多い。しかし真正面からの戦闘でギーツに勝てる存在はそうはいないだろう。

 だからこそ、勝負するのは単純な戦闘力とは別の部分。

 

「…………!」

「チッ! 避けんナ!」

 

 斧がギーツの頬を掠めた。白い仮面に紫の粘液が付着し、その部分から煙が出る。仮面が融解している。その事実に気がついた時には既にルークは砲弾を放っていた。

 ブーストの加速で間一髪それを避けると、彼は溶けた部分を手で触れる。

 

「毒か」

「ああ、そうダ。勝つためなら俺はどんな手段だって使ウ」

 

 斧から染み出した粘液を見つめてルークは再度斧を振るう。発生した毒のエネルギーで形成された斬撃がギーツの居た空間を縦一文字に切り裂いた。周囲の木々や景和が普段過ごしている部屋すらも毒に犯されていく。

 

「タイクーンの、他所様の家だぞ」

「知るカ、あんな奴の家なんざ。今頃アイツもやられてる」

「……何だと?」

「俺を追っかけて来やがったんでナ。代わりの奴が相手してル」

「……タイクーンはお前らが思ってる程弱くないぞ」

「知ってるヨ。だがそりゃ普通のジャマトが相手だった場合だロ? ……俺みたいなのが相手ならどうだろうナ?」

 

 仮面の下の顔が歪む。ルークと同じ。つまりそれが意味する事とは。

 

「お前らは本当に進化が速いな。いきなりどうした?」

「お前らと同じダ。少しやり方を工夫すれば爆発的な進化を遂げル。ただし、その幅は比べ物にならねえがナァ!」

 

 ルークが再度斧を振るった。その軌道はギーツの蹴りによってそらされ、明後日の方向へと突き刺さる。しかし同時に背中から伸びる幾重にも重ねられた蔓。それが彼の四肢に絡みつき、一瞬その動きを封じた。

 

《JYA-JYA-JYA STRIKE!》

 

 その一瞬を待っていたかの如くに放たれた茨の一撃。示し合わせたかの様に放たれたそれをギーツはただ受ける事しか出来なかった。

 全身を痛みが駆ける。立ち上がろうにも一瞬足がもつれてしまい、上手く立ち上がれない。次いで撃ちこまれるルークの一撃。それを脚からの銃撃でどうにか押し返し、彼は何とか立ち上がった。

 

「…………しぶとい奴ダ」

「お前が言うなよ」

 

 彼は今まさに満身創痍。にも関わらず未だに軽口を叩くその様子がルークの癇に酷く障った。その感情には道長のものも少なからず含まれている事を、ルークは否定出来ない。しかしそれと同じくらいルーク自身が憤りを感じているのも事実だった。今の今まで散々同胞を葬ってきた彼の屈辱に染まる顔が見たい。そう思ってしまうのは極めて自然な成り行きだ言える。

 

「まあ良イ。どうせ立ってるのがやっとだロ」

 

 今度こそ確実にトドメを刺す。ルークは斧を振り上げて飛び上がった。そして紫色の刃がギーツの頭を捕らえようと唸りをあげる。もう動けないと高を括っていたからこそ、ルークは驚愕せざるを得なかった。

 

「――――ハアアァ!!」

 

 ギーツの拳が自身の顔面を捕らえた事に。

 

「ジャギャ!?」

 

 顔全体を殴り潰すかの如き勢いにルークの体は大きく吹き飛んだ。ジャマトライダーとぶつかり地面を転がる中でルークはあり得ないと思考する。

 凄まじい数を相手にして疲労していたはずだ。自身の砲撃とジャマトライダーの一撃によって少なくないダメージを負ったはずだ。にも関わらず、何故奴は平然と立てている? つい数秒前までは立ち上がるのにも苦心していた男が何故。

 

「っチ…………!」

 

 ルークは地面に砲弾を撃ち込んで一帯を砂埃と枯れ葉で埋め尽くす。唐突に視界を防がれたギーツは反射的に仮面を覆い、そして晴れた時にはルークとジャマトライダーが消えているという事に気がついた。

 周囲を見渡し、彼は思考する。何故唐突にジャマトが大量に動き出したのか。今回はいつものゲームの様な決められた法則性がない。ただジャマトが出現して仮面ライダーを襲うという事は、今までなかった事だ。

 

「ジャマトがほとんど出なかったかと思えば今度はああも大量に……。一体今のデザグラはどうなってる……?」

 

 ここで考えても答えのでないそれを片隅に留めギーツは後方に視線を向ける。

 すっかり廃墟と化した景和の家の事をどう言おうか。彼にとっての最悪に近い事実に顔を顰めながら、彼は動き出した。

 

▪▪▪

 

「ぐっ…………」

 

 タイクーンは周囲を見渡しながら苦悶の声をあげる。ぶれる視界に痺れる手足。即効性のある毒をばらまくビショップジャマトは彼に限らず多くの者にとって極めて厄介な相手だと言える。加えて場所も木々が複雑に乱れる林の中。そんな中で攪乱に長けた敵と戦うのは無謀に近い事だった。

 

(やっぱり前より強くなってる……!)

 

 タイクーンは心の中で脱出ゲームの時にゲームマスターが告げた事を思い出す。

『ジャマトは進化する生き物』。様々な肥料(データ)を取り入れてより強靭な個体へと進化してゆく。そうして改良を重ねる毎に強く、恐ろしくなっていくというのがジャマトなのだろう。

 

 タイクーンはゾンビブレイカーを構えて何とか立ち上がる。視界には複数のビショップが映っているが実際にいるのは1体である。それを除いた全ては幻覚。しかしその本物が彼にはわからない。一番近くに居た個体に振るってみるも攻撃はただすり抜けるだけ。そうしてよろけた隙を本物のビショップが殴り飛ばすというパターンに対して、彼は何も出来ていなかった。

 

「アハハハハハハハっ!!」

 

 ジャマトが嗤い、また胞子を飛ばす。アレを浴びたらまずい。そうとわかっていても体が動かないのではどうしようもない。またしても思うがままに痛めつけられる。そう覚悟したその時、巻き起こった突風が胞子とビショップを吹き飛ばした。

 

「…………!」

「無事か」《ROUND 1・2・3 ――FEVER!》

 

 現れた仮面ライダーロポはニンジャデュアラーのディスクを回転させながらタイクーンに問いかける。そして即座にビショップへと視線を戻し、そして回転する刃を投げつけた。

 

《TACTICAL FINISH!》

 

 乱回転するそれをまともに受けたビショップは大きく宙を飛び、地面を転がる。その様子を見て、タイクーンは小さく声をあげた。

 

「ああ…………!」

「? どうした?」

 

 訝しんだロポは煙の中から現れたそれを見て息を飲む。あり得ない、何故? そんな疑問が彼女の中を駆け巡る。それは先程タイクーンが抱いたものと同じ感覚だった。

 

「……………………ルルちゃん」

「あはぁ、覚えててくれたんダ? 嬉しいな景和くン♪」

 

 そこにいたのはビショップではない。しかし声は間違いなく同一のものであり、加えてルルの顔には何か蔦や根の様なものが浮き出た血管の様に走っている。とてもまともな状態とは言えない様子の中、彼女は心底愉し気だった。

 

「……どうして、君が」

「んー、何でだろネ? いじめっ子への復讐の気持ちが私を蘇らせたとカ? アハハ!」

 

 目の前の彼女は偽物だ。タイクーンは半ば確信していた。小熊ルルと話した時間は短い。しかし彼女は誰かを痛めつける事を楽しむ様な下衆な性格ではないはずだ。デザイアグランプリに参加した理由も、自らの心の弱さによって引き起こされた事態の落とし前をつけるため。他人を慮る優しい少女だったはずだ。

 だから偽物だ。しかしでは彼女に手をかけられるかと問われれば別の話である。中身が異なっていても外見は間違いなくルルなのだ。自然と拳や武器に込められていた力が弱まってしまう感覚があった。

 

「……おいタイクーン、これは一体」

「わかりません……。でも、前のデザグラでも同じ事がありました……」

「何だと? まさか私達が倒してきたのは人間だった、なんてオチじゃないだろうな……。そんな三流台本は勘弁願いたいぞ」

「でも、この前の道長君の時とはまた違う気もします……! ぅぐッ……、あのルルちゃんは何か違う……!」

 

 ルルの姿がビショップへと戻る。第2ラウンド開始とでも言うかの様にビショップは勢いよく胞子の塊を打ち出した。風の斬撃で切り裂かれたそれは爆発し、周囲に小型の爆弾を撒き散らす。ロポはかろうじて全てを弾いたものの、タイクーンは避けきれない。まともにくらった彼の変身は解除されてしまう。

 ここでどこからか低い音程の電子音が響いた。同時にジャマトの紋章が入った毒々しい色の箱が出現する。

 

《SECRET・MISSION CLEAR》

「え……? 何でジャマトにシークレットミッションが!?」

 

 景和の疑問に答える事はなく、ビショップは中身のブーストバックルを取り出して満足げに笑い声をあげる。そして目の前の2人を排除せんと動き出した。狙いは景和。満足に動く事も出来ない彼を狙えば必然的にロポの動きも制限できる。彼女もまた人並の優しさを有しているが故に扱うのは簡単だった。

 爆発する胞子を2人目掛けて放出する。それを防いだのは、景和を探してここまでやってきたギーツだった。

 

「よお、無事かお二人さん」

 

 脚を振るって胞子を掻き消し、ギーツは尋ねる。これで借りは返した。そう言ってビショップに銃口を向けた。その直後、周囲に鳴り響く謎のサイレン音。彼らにとって全く聞き覚えのないそれを聞いたビショップはその場から一目散に駆け出した。

 

「……待て!」

「よせロポ。今はコイツの安全確保が先だ!」

 

 地面に寝転がるタイクーンを見て英寿が告げる。

 変身が解除された景和には露出された部分だけでも多くの傷があり、見ていて痛々しい傷を負っている。いつかの日を思い出す様な生傷にギーツは仮面の下の顔を顰めた。

 

「……立てるか?」

「はい、ありがとうございます。英寿君も、ありがとう」

「…………気にすんな。ジャマトを倒すついでだ」

「どうも」

 

 景和は微笑むもやはりどうしても体が痛む。近くの診療所に連れて行ってほしい。そう言おうとしたその瞬間、その場に多数の生徒がやってくる。彼女達の着ている制服はこのキヴォトスに住んでいるのなら一度は見た事のある制服であり、それ故に驚いた。どうしてここにヴァルキューレ警察学校が押し寄せてくるのか。その答えを知っているのはただ1人。

 尾刃カンナを除いてここには居ない。

 

「来たか。発見したぞ」

「…………ロポ?」

「悪いなギーツ。私はここに来たのはジャマト討伐のためじゃない。……トリニティを裏切り、混乱に陥れた下手人の捕縛を言い渡され、ここに来た」

「…………え?」

 

 ギーツの動きが固まった。危機感を感じた時にはもう遅く、周囲は彼女らに囲まれている。普段ならば今日はよく囲まれる日だなと、そんなズレた事を考えるくらいの余裕は見せていただろう。

 しかし今彼を囲っているのは、紛れもない人間。ジャマトの様に攻撃する訳にはいかないという事実が彼の動きを鈍らせてしまう。

 

「動くな浮世英寿!」

「まさか一般生徒の家に転がりこんでいたとはな! だがここまでだ! さあ、早くその武装を解いて両手をあげろ!」

 

 その声と同時にカンナが拳銃を取り出す。そしてギーツのこめかみに銃口を向けた。腰についていたはずのベルトはいつの間にか隠されているのを見て、ギーツはカンナに皮肉を飛ばす。

 

「……部下に内緒で世界平和貢献してたのか。結構な事だな」

「黙れ。今のお前はただの犯罪者に過ぎない。大人しく投降した方が身のためだぞ」

「待ってカンナさん! あの爆発の事や先生の事なら英寿君は関係ない! あれは……」

 

 錠前サオリが関わっている。その言葉を発する直前で、彼は咳き込んだ。どうやら想像以上にダメージを受けていたらしい。しかしそれでもギーツの疑いを晴らすべく言葉を出そうと苦心する。それを遮ったのは他ならぬカンナだった。

 

「……どうやら洗脳されているらしいな。おい、彼は被害者だ。急いで病院へ運んでやってくれ!」

『はい!』

 

 両肩を支えられ、景和は運ばれていく。残ったのは拳銃を突き付けられる狐と、犯人に牙を向ける狼とその部下達。

 ヴァルキューレの狂犬は悪意によって罪を背負わされた存在であると知りながら、彼に冷たい視線を突き刺す。正義と言う名の猟銃を掲げた狩人が罪なき獣へ向けて引き金に指をかける。

 

「テロリストと通じてトリニティ総合学園を混乱に陥れ、聖園ミカ生徒会長とシャーレの先生への暴行。更には自治区内での違法戦闘行為の罪で浮世英寿、お前を逮捕する」

 

 ギーツのこめかみに銃口を突き付け、カンナは感情を殺した声でそれを告げる。周囲を囲んだ彼女の部下もまた一斉に銃口を向けている。通常の犯人であれば絶対に逃げるのは極めて困難な状況だ。しかしギーツは普通ではない。本人の力量というのもあるが根本的に通常の生徒との身体能力が大きく異なっている。

 同じ力を持つ者としてカンナがそれを理解していないとも思えなかった。

 

「悪いが、俺はまだ捕まる訳にはいかない」

「……そうか」

 

 カンナは目を閉じ、指を鳴らす。それと共に彼女の部下の1人が通信機らしき機械を取り出し、そのスイッチを押した。同時に響き渡る大きな駆動音。何か黒い物が空からやってきているとわかるのに、そう時間はかからなかった。

 

「あれは……!?」

「最新の兵器だそうだ。我々ヴァルキューレ警察学校は常に最新の兵器を有している。これを実戦に投入するのは初めてだが……喜べ浮世英寿。お前のために用意したものだ」

 

 表情を一切変えず、まるで台本でも読み上げるかの様な口調でカンナは告げた。ギーツがヴァルキューレの装備に然程詳しい訳ではない。しかしそれでもあのような大規模な兵器は見た事がない。精々戦車と最新式の銃火器くらいではなかったか。その疑念が彼の脳内を駆け巡る。

 

「……KAISER?」

「………………」

 

 ギーツは視界を覆いつくす程の巨大な兵器のロゴを見て疑問の声を漏らす。黒塗りの駆体に描かれた白文字のロゴ、『KAISER』。そのロゴには見覚えがあった。それは別段彼が多くの知識を有しているという訳ではない。キヴォトスで生活している者であれば誰もが一度は見た事があるであろうロゴ。カイザーコーポレーションとはそれだけ身近にある企業なのだが、その一方で随分と黒い噂を聞く企業でもある。

 そして今この状況を見るに、一概にガセであるとも言えなさそうだ。

 

「おいおい。まさか天下のヴァルキューレ警察学校が企業と癒着か? これはとんでもない物を見たな」

「…………だからどうした? これから捕まるお前が何を騒いだ所で無意味だろう。大人しく投降して牢獄に入れられる事だ。でなければ痛いでは済まないぞ」

 

 まさかこれで仮面ライダーに対抗する気なのか。馬鹿なとは思いつつも、ギーツには即座に切り捨てる事は出来なかった。尾刃カンナは優秀な人間だ。今まで余り活躍の機会に恵まれてこなかったが、単独での戦闘能力や判断力には油断ならないものがある。少なくとも初見でもない相手との力量差を見誤る程馬鹿ではないのは確かだ。

 ここで油断する程、彼の経験値もまた甘くはなかった。

 

「これがどんなものにせよ、俺はここでは捕まらない」《GOLDEN FEVER VICTORY!》

 

 下半身に蓄積されたエネルギーを開放し、ギーツは飛び上がった。そしてオーバーヘッドの要領でカイザー製の兵器を蹴り飛ばそうとして、違和感。

 

「な……っ!?」

 

 手応えがまるでない。油断せず放った全力の蹴り。しかしそれによって発生した蹴りの衝撃は兵器の装甲によって完全に吸収されてしまった。空中での勢いを完全に失い、地面に落ちていくギーツ。その隙をついてヴァルキューレの生徒達が一斉に動き出し、ギーツの四肢を抑える。そしてカンナがベルトをはぎ取れば仮面ライダーギーツはただの無力な一般人へと逆戻りだ。どれだけ彼が強くとも、相手もまた訓練を積んできた警官達。英寿1人相手に遅れを取るなどあり得ない。

 

「10時45分。浮世英寿確保。これより本部へ連行する」

 

 ガチャリと、腕に手錠が嵌められた。

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