DESIRE ARCHIVES   作:ベロベロベ

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皆さん映画観ましたか?
面白かったですねぇ。やっぱね、ああいう友情・絆って感じの作風も好きなんだなっておもいましたね、ええ。


罪過Ⅳ/過去と未来の天秤

《BOOST・MARK(ツー)!!》

《READY? ――――FIGHT》

 

 宣告が告げられた。通常ではあり得ない異常事態に、ジャマト達は狼狽する。それは今の今まで嗤っていたビショップとナイトも例外ではない。真紅の獣の如き様相と化したギーツが地面を踏みしめるただそれだけが、ジャマト達の恐怖を煽るに十分な要素となっている。全身から放たれる殺気とも異なる何か。強いて表現するのなら、『神気』だろうか。そう思ってしまう程に、彼の雰囲気は常人のそれを超越している。

 

「――――ジャアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 しかしジャマトから見ればギーツもまた1人の人間。ジャマトにとっては取るに足らない下等生物であるはずの彼に気圧されるという事態そのものが到底受け入れられるものではないと、ナイトは吼えた。例え訳の分からない力で強化されようが自身はナイト。デザグラによってはラスボスとして現れる事もあるナイトジャマトが人間風情に負けるはずもない。そんなプライドから生成される怒りが青い全身を駆け巡り、咆哮となって体外へと放出されていく。

 

 これも人間を肥料に成長した副作用だろうか。そんな事を考える時間はナイトには残されていなかった。

 

「ジャッ――――?」

 

 止まった。全速力でギーツ目掛けて駆けていたナイトの脚がピッタリと。そして同時に走る大きな痛み。それは自らの顔面をギーツが鷲掴みにしているからに他ならない。強大な握力とそこから放たれる全身が炭化してしまうかの様な熱。ナイトの咆哮は情けない悲鳴へと様変わりした。

 

「――――――――」

 

 拳が振るわれ、ナイトの腹に突き刺さる。必殺技ですらないたったそれだけでナイトの体は吹き飛び、立ち上がる事すらもままならないダメージに見舞われる。

 ナイトは見誤っていた。ギーツの実力とブーストバックルの潜在力を。片や幾度も世界を救ったデザ神であり、片やたった一度の使用で盤上の形成を書き換えてしまえる程の切り札。それを5つ分上乗せした姿が仮面ライダーギーツ・ブーストフォームマークⅡ。たかが世界を侵すラスボス程度が勝てるはずのない相手だ。

 

 漸くそれが理解出来たのか、ジャマト達はその勢いを完全に消滅させる。狼狽え脅え、戦慄するももう遅い。既に裁きの準備は済んでいる。誰一人として逃がしはしないと、神狐の瞳は告げていた。

 

《REVOLVE ON》

 

 ギーツがドライバーを反転させる。同時に変わる彼の姿はいつもの武装変換とは異なっている。バックル1つで全身を武装させるマークⅡは人型から獣型へとその姿を変換させた。

 ビーストモードと化したギーツは吼え、一瞬で逃げ惑うジャマト達の前にへと回り込む。そして全身を紅蓮の炎で包みこみ、その爪と牙を存分に振るい始めた。

 

「ジャアア…………」

「トアダジ……、トアダジィ!!」

 

 ギーツが放つ威光の前に、ジャマト達は脅えて赦しを請わんと跪く。しかしその懇願を獣が聞く事はない。理を犯した存在に裁きを下すそれが神獣の役割だ。故に吼え、ただ砕く。

 そこに居るのはいつも飄々とした浮世英寿ではなく、皆に笑顔を振りまくスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズでもなく、ただ勝利を積み重ねてきたデザ神のギーツでもない。まるで与えられた役割通り、機械的に凶器を振るう兵器の様だった。少なくともそこから彼の意志というものは微塵も感じられない。

 

 肉と血に塗れながら、獣は人型へと戻った。数十秒にも満たぬ時間の間にギーツはほとんどのジャマトを狩りつくしていた。

 その蹂躙の中でビショップが生き残ったのは、ただ元になった人間の臆病であるという性質を受け継いでいたからに他ならない。しかしそれも、ただ迫る時を遅らせただけに過ぎなかった。

 ビショップは半壊した矯正局内部に追い詰められ、半ば袋のネズミ。それでも出口を探して這いずり回るそれを、ギーツはゆっくりと甚振る様に彼は追い詰めていく。ビショップは後退りをするだけで反撃しようとはしない。既に力の差は明白、天地が翻ろうとも詰められない根本的な力の差が存在している。

 

 その様子を見ていたマエストロは、サロンの中で歓喜に震えていた。

 

「嗚呼……。私はそなたらに感謝しなくてはなるまい。そなたらの提案を断っていたら、この素晴らしき瞬間に立ち会えなかっただろう…………!」

「興奮しているとこ悪いんだけど、何アレ。あんなバックル知らないんだけど」

「でしょうね。たった今浮世英寿が生み出したものなのですから」

「――――――――ああ、そういう事。アンタがギーツに執着するもの当然ね、ベアトリーチェ」

「…………………………」

 

 ベロバの揶揄う様な口調に対して、ベアトリーチェは沈黙する。今はつまらない問答に付き合っている暇はないというのもあるだろう。しかしそれ以上にギーツを分析せねばならないという感情が先行していたのだ。

 自分の目に狂いはなかった。先程彼が行ったあれは間違いなく複製(ミメシス)だ。マエストロから提供された技術(もの)とは格が違う。彼が行ったのは増やしそれらを融合させ、全く新しい物を生み出すというもの。ただ増やすしか出来ないマエストロの技術はギーツのものと比較すれば陳腐にも程がある。

 無論当人が聞けば機嫌を損ねるであろうが、それでも否定はしないだろう。素人の工作とプロの創作を比べる事が馬鹿馬鹿しい様に、少しでも造詣があればわかってしまう。それほどに圧倒的なものであった。

 

(今はまだ元になるものが必要な様ですが……、いずれは全くの『無』から……)

 

 ベアトリーチェの口角が自然と上がっていく。やはり自分は正しかった。ニラム達との問答の後、頭を冷やして思考した甲斐があった。そう、行うべきは彼の排除ではなく、受容でもなく、利用する事。

 浮世英寿さえいれば自身の目的は果たされたも同然だ。より確実に、より強大な力が手に入る。この世どころかあらゆる世界の中で最も優れた神秘を手に入れさえすれば、必ずや『崇高』と呼ばれる座へと至れるはずだ。

 

 しかしすぐという訳にはいかないだろう。少なくとも今回は不可能だ。現にもう既に今回出撃したジャマトは壊滅寸前にまで追い込まれている。足掻く事すら出来ぬ一方的な蹂躙。圧倒的な力を有するギーツにどう対抗するのか。真正面からの力押しでは勝ち目はない。

 であれば――――――。

 

「ベロバ。第2回戦の相談ですが」

「ん、何々? 何か良いアイデアがあるの?」

「ええ、少々思い浮かびました」

 

 ベアトリーチェはベロバに囁く。次にゲームの内容を。それを聞いたベロバは歓喜の表情を浮かべ、それ採用! と笑みを返した。

 

「それにしても……アンタも悪い大人ねぇ♪」

「何を馬鹿な事を。私ほど世界を憂い、そのために尽力している大人が居ましょうか」

「ウフフ! まあ良いけど。アタシは不幸が見られればそれで良いから」

 

 ベロバはそう告げてその場を去っていく。手に持つヴィジョンドライバーを掲げ、新たな戦場を構成するべく思案を始めてた。

 

 

 自分達の拠点から見捨てられたとも知らず、ビショップは単独で必死に逃げ回っていた。まだゲーム終了の鐘は鳴らない。いつもなら鬱陶しく感じてしまうその音色も今だけは求めてやまない。

 最早ジャマトは自身だけ。半狂乱で爆発性の胞子や幻覚作用の胞子を投げかけるの追跡してくるギーツにはまるで効かない。まるで同じ空間にいないかの様な無効ぶり。威力に決して不足はないはずだ。にも関わらず効き目が皆無だという事は必ず特殊な何かがあるはずだ。しかしそれを思案する余裕が、ビショップには存在していない。

 今ギーツがどこにいるのかすら狭窄に陥った視野で把握するのは困難だった。

 

「――――」

「アアぃ!?」

 

 焼ける様な苦痛が背中に走り、次いで腹に、脇腹に、顔面に、脚に腕に心臓にと数多くの部位に苦痛が走る。それらを認識するよりも早く次の痛みが走るという異次元の感覚。気がつけば既に痛みすら感じなくなっていた。

 ただ浮遊感があるだけ。それは自身が死に絶えているという何よりの証拠だった。

 

《BOOST TIME》《BOOST STRIKE!》

 

 最期に見たのは紅く染まった拳。生きている時間が違うかの様な速度でもって繰り出されたそれはビショップの肉体を貫いていく。そして勢いを振り切り地面に叩きつけられると同時に爆発四散、大きな火柱が上がった。

 

 舞い上がる血液と飛び散る肉片。狩りを終えた獣はその場に佇む。まるで役割を終えた機械の様に、ただその場に立っているだけ。にも関わらず、気圧されてしまう程のオーラを惜しむことなく発している。

 戦いが終わり、戦場の敵は滅された。ギーツの体は光に包まれ、そしてその姿を消したのだった。

 

▪▪▪

 

「ふっ! はぁ……はぁ……!」

 

 ニンジャデュアラーを振るい、ルークジャマトを斬り伏せる。無数の切り傷を刻まれ、動けないルーク。しかしその後方にはまだまだ多数のジャマトが控えていた。無論ギーツに対して差し向けられた数程多くはない。ジャマトの目的はあくまでギーツ。ロポは言うなればお邪魔キャラ程度の存在でしかなく、そこまで本腰を入れて対応する相手ではない。

 だからこそ、想像以上にやるというのが、ジャマト側の率直な感想であった。

 

 彼女が倒したポーン数体に上級2体。大型バックル1つでこれだけの数を仕留めたという事実は彼女の実力を十分に物語っている。しかしそれでも彼女自身が置かれている状況を打開する事は叶わなかった。

 

「きょ、局長…………」

 

 部下の1人が震え声をあげる。ジャマトによって脚を怪我し、走る事はおろか歩く事すら困難な看守は他にも何人も存在していた。ここに来ているジャマトはギーツ討伐を諦めて人間を甚振る目的を有して集まった個体達。故に簡単に殺してしまうのではなく、徐々に痛めつけつつ殺していくのだという意図が見え見えの連中だ。

 彼女達は恐怖と痛みで動けない。ロポが地に伏せた瞬間、悍ましい拷問の様な虐殺が繰り広げられる事は想像に難くなかった。

 だが、今目の前のジャマト軍団に勝てるビジョンが全く見えない。このままジリ貧になって最後には殺される。それ以外の結末のどう辿り着けば良いのか、彼女には想像も出来なかった。

 

「…………っ」

 

 しかしそんな中でもジャマトからの攻撃は止む気配がない。既にロポは細かな傷を重ねた手負いの獣。どう足掻こうが駆られるのは避けられない、そんな状態だった。

 

(何とか、あいつ等だけでも………………)

 

 連絡手段は完全に封じられており、武装の提供を受けている企業からの救援は見込めない。どうしようもなく手詰まりな状況で、ロポが思考するのは己の保身でも敵の打倒でもない。ただひたすらに後ろで震えている彼女達の安全を案じていた。それは尾刃カンナの原点であり、決して譲れない理想。これを諦めてしまえば彼女は彼女でなくなってしまう程の、消えてはならない灯火だった。

 

「アアアアアアッッッ――――――!!」

 

 折れたくない。その一心でロポはジャマト相手に立ち向かう。吹き飛ばされ、殴られて、斬られても、その膝をつく訳にもいかなかった。せめて、せめて彼女達だけは。こんな個人的な戦いに巻きこまれてしまった罪の無い少女達だけは、助けねばならない。

 しかし現実は無情だ。どれだけ彼女が心の火を燃やそうとも、戦いにおいて最も大きな力には敵わない。圧倒的な力で握り潰され、数という圧力に阻まれる。ロポの人生は、ずっと変わらない。

 

 入学当初に抱いていた青い正義(かじつ)は現実という名の手入れによって決められた通りの形に熟していく。それが社会の在り方であると気がついた頃には抵抗する気力だけが削られていく。

 

「ガハッ…………」

 

 心であろうと肉体であろうと、痛みは平等に削っていく。思考を鈍らせ、動きに錆を入れ、ねっとりと流れる酸の様に、強固な信念を溶かしていくのだ。その事実をロポは今までに味わい、そして行き着いた。何かを得るためには何かを妥協しなければならないのだという現実に。

 仮面の中の彼女の額は汗と血液で濡れていた。肉体から沸き上がる悲鳴がジワジワと彼女の心すらも蝕んでいく。

 視界の隅に入ったものを認識した瞬間、選択の時は来たのだとどこか納得を覚えた。

 

 『凶悪犯罪者収監室』。

 キヴォトスでも屈指の犯罪を犯した生徒達は閉じ込められているその部屋の看板を見た瞬間、ロポの脳内に過る。それはとても恐ろしく、人に道から外れたとても正義とは呼べぬもの。しかしそこにある『凶悪犯』という肩書が、彼女の思考を汚染していく。

 

(私は、彼女達を助けなければならない……。今必死に助けを求めている看守達を…………)

 

 良いのか? それは正しい事なのか? そんな考えがグルグルと駆け巡っていく。彼女には今迷いしかない。しかし時間は有限だ。幾ら望む結末ではなくとも、決断しなければならない。人生の納期はいつだって当人を苦しめる。だからこそ、その中で可能な限りの最良の結果を出せる様に努めていかねばならない。

 

 何かを得るためには何かを妥協しなければならない。生きていく中で、天秤は必須だ。今自分は何を得たい? 何を失いたくない? 意識せずとも見えてくる。それを得るために、彼女はただ手を動かした。

 

「――――――」

「え? 局長…………?」

 

 ガコッ、と扉が開かれる様子を見ていた看守から声があがる。彼女は今ロポが行った行動を理解出来たのだろうか。少なくとも声色はただただ疑問だという印象を受ける。しかし彼女とてあの扉がどういうものであるかを知らないはずがない。

 

「あ――――」

 

 どうやら理解したらしい。声が震えている。目の前の秩序を統率する立場についているはずの存在が行った事実を余す事無く認識した彼女は戸惑いを隠せない。痛む脚の事すら忘れているのか、おもむろに扉の方向に手を伸ばしていた。

 

 そんな彼女を抱えて、ロポは走り出した。逃げ遅れた者達を率いて必死に駆けた。己の脳内を浸食せんとする何かを振り払う様に、必死に。脚に蓄積する疲労と傷の痛みで思考を満たしていなければ、どうにかなってしまいそうだったから。

 ジャマト達は追ってこない。やはり奴等は皆殺せれば何でも良かったらしい。

 吹き抜ける風と土砂降りの雨音が鼓膜を揺らす。今だけは、この仮面があって良かったと心に底から思う。自分自身でさえも今の自分を認識しなくてすむのだから。

 

「ぁ、ああああぁ……、うああああああぁっぁあああああああぁ……………………!!」

 

 冷たい雨が降り注ぐ中で、仮面の奥だけが熱く火照っていた。

 

 

 

 

▪▪▪

 

 

 

『ま、悪くねえ。だがちと赤すぎる。やっぱ俺はもっと青臭ぇのが好みなんだよなぁ…………。てな訳でとっとと起きろ桜井景和! 気持ちよさそうな顔で眠りこけやがって!』

「ふぇ!?」

 

 消毒液の匂いが漂う寝室の中で、景和は目を覚ました。時刻は夜。病院に運ばれた時刻が朝11時頃だった事を考えると相当な時間眠っていたらしい。午前中の戦いはそう長くなかったはずだが、やはり今までの疲れが溜まっていたのだろうか。特に昨晩は英寿を探して、トリニティの自治区を駆け回った事もある。そのまま倒れる様にフローリングも上で寝てしまったために眠りは浅く、しかも全身が痛くなってしまったのだ。因みに英寿はちゃっかり布団を敷いていた。そういう所が好きになれない所だったと回想していたら、いつの間にか眠ってしまった様だ。

 

 景和は耳元で聞こえてきた声の出所を探ろうと周囲を見渡す。しかし誰もいない。あるのはお見舞いとして持ってきてくれたであろう果物をカエルの置物だけだ。頬杖をついて偉そうに椅子に腰かけているそれは謎の大物感を放っている。おもむろに持ち上げてみると、質感は随分とリアルだという事がわかった。

 

「何か、キモイな……」

『はぁ!? キモイだぁ!?』

「うわぁ!!」

 

 反射的に景和はカエルを放り投げた。宙を舞うそれは彼の足元のシーツの上に着地し、跳ねる。貰い物と思わしき物に対して随分と失礼な対応だが、いきなり人怒鳴りかけてくれば驚きもするだろう。

 

「……スピーカーかな?」

 

 もう一度、景和は恐る恐るカエルを持ち上げる。そして声の出所を探ろうと全身を触っていると、またしても怒鳴り声が彼の鼓膜を震わせた。

 

『気安く触んじゃねえ!』

「やっぱり喋った! スピーカーは…………」

『んなもんねぇよ! オラ、とっと戻せ椅子に!!』

「は、はい!」

 

 カエルから発せられる声はまるで年を重ねた男性の様に低く、迫力がある。随分とご立腹らしく彼(?)は自身を戻させた後、景和に正座する様に促した。

 

『俺はテメエのサポーターだ。礼儀を知りやがれ』

「は? サポーター?」

 

 聞きなれない単語に景和は眉を顰める。そんな彼の様子を気にも留めずにカエルは語る。今まで自分がどれだけ彼に目をかけてきたかを。曰く、毒島ベラに擬態したジャマトが引き起こしたゲームで景和が最後にブーストバックルを入手出来たのは彼のおかげなのだとか。彼がプレゼントをしたからこそ景和は百鬼夜行の自治区を守れたのだと、彼は誇らしげに語る。

 

「えっとつまり、あなたが俺にバックルをくれた……って事ですか?」

『おう、そういうこった。わかったか? お前はもっと俺に感謝しなきゃいけねえんだよ』

 

 わかったか? と問われれば、よくわからないとしか答えようがない。そもそもサポーターとは何なのか。どうしてバックルのプレゼントなんて事が出来るのか、情報を与えられれば与えられる程、より多くの疑問が積み重なる。それに対して景和が質問するよりも先に、カエルは更なる話を切り出した。

 

「だってのに、何だ3回戦のあのザマは。2回戦じゃあちょっと良いとこみせたかと思やぁ、すぐにだらしなくなりやがって! 理想を叶えたいんならもっと必死になりやがれってんだ! ナーゴやシーカーに言われっぱなしになってんじゃねえよ、たく! んでさっきはジャマト相手にもボロボロだったじゃねえか!」

「…………でも、ライダー同士で戦うなんて。それに、ジャマトもルルちゃんや道長君と同じ姿でした……」

 

 カエルの説教に言葉尻を窄めて景和は俯く。とても犠牲者を救うと意気込んでいた仮面ライダーには見えない彼の様子に、カエルは深く溜め息を吐く。しかしそれはまるで彼がそういうとわかっていたかの様でもあった。

 

「んな事言ってもな、デザグラは元々そういうゲームだろうがよ。良いか? お前がやらなきゃ他の誰かが願いを叶えるだけだ。綺麗事言うには結構だけどな、まずはそれを成し遂げるための努力をしろよ」

「そんな、俺だって………………」

「頑張ってる、とでも言うつもりか? 攻撃してくるライダー1人まともに倒せないでか」

「……それは」

 

 事実だった。自分の願いを掴むために他人の理想を阻む。それがデザイアグランプリの本質である。景和の言い分は結局の所、そこから目をそらした現実逃避に過ぎない。他人に対して非情になろうとしないのなら、それは確かに努力の放棄と言えるだろう。

 

『お前は世界と犠牲になった奴等を救って、本物の仮面ライダーにならなきゃいけねえんだ。わかってんのか? ちんたらやってる時間はもう無いんだぞ』

「…………そうか。もう次で、最終戦」

 

 デザイアグランプリは全部で4回戦。つまり次はラスボスと対峙する事になる。

 

(勝てるのか、今の俺で……?)

 

 ラスボスは世界を滅ぼす力を有した強大なジャマトだ。当然今までの個体とは格が違う。大きさであったり能力であったり、どの個体もそれぞれ世界を破滅に導きうる存在だ。

 そんな存在に勝てるのか。今朝景和はビショップに負けた。手も足も出ない一方的な勝負内容。ロポやギーツが来なければ、その時点で彼は退場していてもおかしくなかったかもしれない。

 しかも行動には迷いが生じている。そんな自分が英寿やミカを出し抜いて勝てるのか。景和には、自信が無かった。

 

 だが、カエルから放たれた言葉は彼の予想の斜め上を行くものだった。

 

『いや、今はデザイアグランプリじゃねえ。ジャマトグランプリだ』

「は、ジャマトグランプリ…………?」

 

 今度こそ景和の思考は『?』に支配される。一体どういう事なのか。彼の疑問を晴らすかの様に、カエルは語る。今運営がどうなっているのか、何故仮面ライダー同士での妨害行為が良しとされる様になったのか。

 それらが全て悪意のある介入者の仕業だという事に。

 

『本来なら運営が対処すべき案件かもしんねぇが、ゲームマスターはベロバにやられ、ニラムは不思議な事に来やがらねぇ。まあつまりは誰も頼れない状況ってこったな』

「………………そんな事に。じゃあ、さっきいきなりジャマトが出てきたのも…………?」

『ああ。ジャマグラが開催された影響だろうな。今はジャマトがプレイヤー、お前ら仮面ライダーは敵キャラって訳だ』

 

 景和の表情が沈んでいく。文字通りの世界の危機。立ち向かえるのは仮面ライダーだけ。だがやはり今の自分では――――。そんな思考が頭に張り付いて剥がれない。彼はどうしようもなく自信を喪失していた。

 

「俺に、出来るのかな……? 俺は姉ちゃんみたいな超人じゃない。偶々選ばれただけの一般人なのに……」

『いいや? お前が選ばれたのは偶々じゃねえさ』

 

 零れ落ちた弱音。今までの自身の戦いからくるその発露を、カエルは面と向かって否定する。その声色は力強く、そして優しい。まるで景和が一般人などではないと断言するかの様なその口調に、彼は頭をあげてカエルを見つめる。

 

「どういう事ですか…………?」

『お前を仮面ライダーに選んだのは、この俺だからな』

「え…………?」

 

 卑屈の無い純粋な疑問が浮かぶ。景和は一体どうして自分が選ばれたのか、その理由が一切わからなかった。何かを成した訳でもない。誰かに求められている訳でもない。ただ漠然と人助けをしていただけの自分に何故。彼はとても自分が世界を救うに値する存在だとは思えなかったのに。

 

『お前がジャマトに襲われているワムーンを助けた時にビビッときたのさ。お前ならこの世界を変えられる男になるってな』

「俺が…………?」

『ああ!』

 

 カエルの表情や動きに変化はない。しかし彼が嘘をついている様にはとても見えなかった。その屈託のない言葉は景和の心に僅かながらも熱を灯した。

 選ばれた。その言葉が持つ力を彼はとてもよく知っていた。彼の姉が今まで秩序を担ってこれたのも、選ばれたから。

 皆に求められているという思いがあったから。彼はそう信じている。

 

『良いか桜井景和。見失うなよ。お前が勝たなきゃ犠牲者は救われない、お前がやらなきゃいけないんだ』

「俺が、皆を…………」

『そうだ! 真の意味でこの世界を救うのはギーツでも、お前の姉ちゃんでもねえ! 他ならぬお前自身なんだよ!』

 

 カエルの言葉に景和はゆっくりと頷いた。これからキヴォトスは未曾有の危機に陥る事は想像に難くない。きっと姉が被る負担は尋常ではないものになるだろう。その負担を自分が減らせる、姉の役に立てる。そう思った瞬間、彼の心が満たされていく。

 

「わかった……。こんな俺でも、誰かの役に立てるなら……」

 

 やってみるよ。

 景和の声には力が宿り、瞳は恐れを秘めながらも活力が沸き上がっているのがわかる。カエルからしてみれば、それだけで十分だった。

 誰だって最初は勢いに任せた小さな勇気から始まるものだ。しかしその勇気がいつしか大きく花開く時が必ずくる。その瞬間こそが世界が救われる時だと、彼は誰よりも深く理解していた。

 

『そのためにも、ジャマトに怯んでちゃ話にならねぇ。お人好しの自分とおさらばするんだ。お前が真の仮面ライダーになるためにな………………』

 

 己の理想への情熱に燃える少年をカエルは見つめる。その視線は彼の背中を押す先達の様でもあり、どこか愉しんでいる様にも見受けられる。

 これから景和には数多の試練が降りかかるだろう。その中で彼は傷つき、絶望し、己の無力を味わうはずだ。そのための一手はもう始まっている。

 病室の照明に照らされる彼の瞳は、どこまでも歪んでいた。

 

 

▪▪▪

 

 それは丁度ギーツが紅く染まった頃。少女はゆっくりと瞳を開いた。彼女の視界に映る一糸纏わぬ自身の姿を見て、無表情に、しかしどこか満足げに頷く。かつてつけられた傷は既に癒えている。そして同一の使命を有する片割れも動き出した。それが意味する事は1つ。

 

「――――――起動命令を確認」

 

 来る時に向けて、忘れ去られた揺り籠に中で眠っていた魔王が目を覚ます。それはかつて目覚めてしまった時とは違い、どこか穏やかな笑みが浮かべている。

 だが彼女から発せられる雰囲気は穏やかには程遠い。それは王女と呼ばれた存在、しかし今この場に佇んでいるのはそんな優し気なものではない。

 ジャマトと目的は似通って、そして根本的に異なっている。目的ではなく、本能。この方舟から忘れ去られた者達の復活のためにあらゆる種を根絶する。彼女はその先陣を切る存在だ。

 

 廃墟で、砂漠で、未知なる力が目覚め始める。

 混沌の中に叩き込まれる新たな突風。それは災害という概念をも上回る滅亡の光となって、キヴォトスを包み込もうとしていた。

 

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