DESIRE ARCHIVES 作:ベロベロベ
「ふぅ…………」
その日の夜、錠前サオリはいつもの様に日銭を稼ぐためのアルバイトに精を出していた。抱えている事情から素顔を大衆に晒せない彼女にとって、着ぐるみでの仕事は手放せない重要な収入源だ。
モモフレンズという会社がプッシュしているペロロというマスコットのデザインには狂気すら覚えるが、そんな事は彼女には関係ない。金さへ貰えれば何でも良い。むしろ裏社会では報酬をすっぽかされる事もよくあるため、しっかりと支払ってくれるこの仕事に文句など一つも無い。
荒事も少ない仕事など造作もない事であり、遊園地に来た記念にと、強請る子供にカラフルな風船を一つ一つ渡していく。
「お、何だ?」
一人の少年の声がした。そして周辺にいた老若男女が声の主へと目線を送る。
「あ、やべ。バレた?」
「「「英寿様!?」」」
(アイツは…………)
ペロロに群がっていた者もそうでない者も、一斉に浮世英寿のもとへと駆け寄っていく。あっという間に彼は人だかりに飲み込まれていく。
(そんなに人気なのか?奴は)
渡す相手を失った風船を玩びながらサオリは思考する。彼女は太陽の下を堂々と歩ける様な身ではない。生まれた時から復讐と憎悪を教えられ、駒として育て上げられた兵士。学園都市を謳うキヴォトスに似合わないものをくくりつけられた人間だ。それに疑問を持つまでに費やした時間は余りにも多い。
(だが、もうすぐだ)
風船を握る手に力が籠る。布越しから爪を感触を感じとりつつ、英寿を睨む。
障害を、理想を勝ち取るための敵をひたすらに。
「……い、おーい!」
「…………っ!」
気がつけば英寿が手を差し出していた。どうやら風船が欲しいらしい。サオリは静かな手つきでそれを渡す。
「サンキューな。 …………サインやろうか?」
笑顔を見せる彼に無言で背を向け、彼女は去る。例え相手が正しく自身を認識していなくとも、敵と馴れ合う道理など無い。
(Vanitas vanitatum.Et omnia vanitas……。後少しだ、後少しで…………お前達をそこから解放してやれる…………!)
《GATHER ROUND》
着ぐるみの中にしまっていた携帯端末から呼び出しが来る。理想を叶えるための戦場へと、彼女は赴いた。
▪▪▪
「新たなジャマーエリアが確認されました!」
デザイア神殿に集ったプレイヤー達の前で、ツムリは複数のホログラム映像を起動した。そこに映っているのは寂れた遊園地と奇妙な舞いを披露しているジャマト達。ジャマト達が踊っているそれはどこか神秘的で、それ以上の不気味さを感じさせる。
「これよりデザイアグランプリ第二回戦、イースターエッグ争奪戦を始めます!」
「イースター、って事は復活祭?」
「まさに」
景和の言葉にツムリは頷く。そしてホログラムを指して説明を始める。
現在、大いなる邪神を復活させようと修道ジャマト達が儀式の準備を執り行っている。
これを放置しておけば中からラスボスクラスのジャマトが生まれ、キヴォトスが大惨事に陥ってしまう。
「過去にもこの現象は確認されており、それらのデータから推測するに最大でも三日、儀式は続きます。そして卵は三日間で合計四つ出現します」
「成る程、つまりその卵を全て破壊しろ、という事か」
「その通りですサオリ様。四つ目が破壊された時点でゲーム終了。破壊出来なかった方は脱落となります」
そして破壊出来る卵は各プレイヤー一つのみ。破壊したプレイヤーはゲームには強制参加であるため、破壊した上で生き残らなければならない。
「あの遊園地って、なーんか妙な噂あったくね?」
「ああ俺も聞いた事あるぞ」
猿股の言葉に英寿が同調する。
「何でも昔あそこでショーをやってたぬいぐるみが夜な夜な動き出すって話だ。そいつらは常に観客を求めてて、目についた人間を全員拐っていくんだとか」
「ちょっと、やめてよ!俺そういうの苦手なんだからさ!」
「はっ、くだらねぇ」
英寿の芝居がかった話に怯える景和。そしてそれを鼻で笑う道長。
緊張を胸に抱く者やいつもと変わらず余裕を見せる者。各々が掲げる理想のための戦いが再び始まる。
「それではミッション─────!」
神殿の周囲にノイズが走り、気がつけば夜の遊園地。まだ特別遅い時間ではないにも関わらず、辺りには誰もいない。閉園して随分と時間が立っているのか周囲の遊具は汚れていた。
掠れた『UTOPIA』の文字、そして夜という時間帯が酷く寂しげな雰囲気を漂わせている。
「ジャァ~、ジャァ~、ジャァァァァ~~!」
周囲には踊り狂っていたジャマト達がプレイヤー達を感知し、構えをとっている。
彼らはバックルを取り出し、ドライバーにセットする。
《SET》《SET》《SET》
「変身」
《ARMED・MECHANICAL ARM》《READY?》
英寿は変わらず余裕さを孕んだ目で。
「変身!」
《ARMED・ARROW》《READY?》
プレイヤーの『死』。それを目の当たりにした景和は恐怖を孕み、しかし立ち向かう気概は確かにそこに存在している。
「変身」
《ZOMBIEィ……!》《READY?》
道長は淡々と、しかし勝ちへの強い執念を秘めている。
「…………変身」
《MAGNUM》《READY?》
サオリは幾重にも積んだ戦闘経験から生まれた冷静さ、そして激情を秘めた目で。
「へーんし~ん!」
《ARMED・CROW》
猿股はあくまで軽く、既に勝ちを確信した様な笑みで。
「ヘン、しん」
《ARMED・SCISSORS》《READY?》
ベラは無機質さと不気味さが入り交じった表情で。
「───スタートです!」
─────勝ちに行く。
▪▪▪
「たぁっ!」
《ARROW STRIKE》
タイクーンが放った巨大な矢がジャマトへと当たり、肉体を粉砕する。
周囲にまだ大量に蠢いているジャマト達から身を隠しながら、後方に居る少女達に逃走を促す。
「さぁ、今のうちに!」
「ありがとうございます!」
「行こう!肝試しなんて来るんじゃなかったぁ!」
タイクーンは幸いにも出口の近くに居たため、彼女達は無事脱出した。
同時に携帯端末から音声が鳴り響く。それは隠しミッション達成の知らせ。条件は『最初に一般人を脱出させる』事。
《SECRET MISSION CLEAR》
タイクーンの頭上に宝箱が表れ、中からは赤い大きなバックルが姿を見せた。それは前回のゲームにおいてギーツに騙しとられたブーストバックル。
「やった、ラッキー!」
現状の最強武器と呼ぶに相応しいそれを手に取り、彼はドライバーにセットする。
《BOOST!》《READY FIGHT!》
赤い鎧を下半身に纏い、タイクーンは加速した蹴りをジャマトに放つ。しかしその勢いは相当に強く、彼はジャマト達を巻き込み、近くのビックリ箱に激突してしまう。
「いてて…………! ……? 何だこれ、ってうわぁ!?」
中から猫の頭が飛び出てきた。それが光ると携帯端末が振動した。
「え? お金増えてる……。え、何なのこれ」
「「ジャァ~~!」」
「うわっ!」
襲い来るジャマト達を矢と蹴りで苦闘しつつも、退けるタイクーン。
他の場所でも仮面ライダー達は同じ様に戦闘を行っている。中でも際立っているのはサオリ、仮面ライダースーホだ。
彼女が使用しているのは以前ギーツが使用していたマグナムバックル。しかしその扱い方はまるで違う。軽快な動きで敵を蹴散らすギーツとは対照的な身を隠し、鋭い一撃で確実に相手を仕留める方法を取っていた。
「卵はどこにある…………?」
スーホがその手段をとっているのは優先事項はジャマトの殲滅ではなく、卵の破壊であるためだ。誰よりも早く目的を達成するために彼女は周囲の確認を念入りに行っていた。焦って勝ちを狙いに行くよりも、まずは慎重に。彼女はそれが目的を果たす最も確実な手段だと知っている。バッファやキンモーの様に手当たり次第に攻撃していては無駄な疲労を積むだけだ。
「邪魔をするな」
「ジャ!?」
勿論、観察に気を取られて後ろから迫り来る敵に気がつかないなどというミスもあり得ない。まともな戦闘経験の少ない素人ならば犯すかもしれないが、彼女は素人ではない。デザイアグランプリ以前にも数多くの戦闘や訓練をこなした紛れもない猛者だ。近接戦闘も難なくこなせる。
迫り来るジャマト達に流れる様に蹴りを浴びせ、即座に弾丸を叩き込む。
《BULLET CHARGE》《TACTICAL SHOOT》
放たれた一本の光線は複数のジャマトを巻き込み爆発する。この周辺には何も無い。それを確信したスーホは陣取っていた高台を降り、別の場所へと移動する。
「おいおい、少しは手伝ってくれよ」
「…………お前一人で十分だろう。それにそれは主目的ではない。私は私の目的を遂行するだけだ、邪魔をするな浮世英寿」
「堅いねぇ。少しは楽しもうぜ」
「ほざけ」
機械音を奏でる鉄の拳でジャマトを殴りながら、ギーツはスーホへと話しかける。軽い口調の彼に冷たい返事を浴びせて立ち去ろうとする。
しかし、彼の言葉に足を止めた。
「闇雲に探し回っても意味ないぞ」
「……何?」
「こういったものにはヒントが付き物だ」
「…………どういうつもりだ?」
「おいおい、綺麗な女性をエスコートするのは当然だろ?」
怪しさ満点の言葉だった。しかし事前情報ではギーツは幾度となく優勝を、『デザ神』を勝ち取っている実力者。デザイアグランプリに対する理解度ではスーホを大きく上回っているだろう。
「まあいい。お前の手は借りん。私一人で探す」
「『スランピア』って知ってるか?」
「?」
「かつてユートピアと呼ばれたそこにはショーを行うステージがあった。今は見る影も無いがそこはかつては非常に煌びやかだったって話だ」
「何が言いたい?」
スーホは声を苛立ちを込め、ギーツを睨む。彼の言葉は聞いているだけで彼女の神経をどこか逆撫でした。
「でもそいつはどこか不気味な奴でもあってな好き嫌いがはっきり別れた。今、怪談話みたいに語られてるのはまさにそれだろうな」
ギーツは構わず語り続ける。
「けど、確かに観客を歓喜の渦に巻き込まれたのも事実だ。まるで神様みたいだろ?」
「はぁ……?」
「わからないか? 神はいつだって人々に恐れられる。だけど神はいつだって人々を歓喜させる」
イースターとは復活祭。一度は失われた命がまた新たな肉体を得て再生する日。
「さっき言ったショーはな、目玉キャラクターが電車に乗って登場するんだ」
ここは廃線跡。しかし近くのトンネルの奥からは光が近づいていくる。
「何だ……?」
現れる列車。白目を剥いたネズミの顔が付けられたそれの貨物部分には巨大な球体が乗せられていた。それは卵の様な形をしているものの、透明で中身が見えている。形容し難い程に不気味なものが収められたそれは卵というよりもプランターと呼ぶ方がしっくりくる様な気がしないでもない。
「何!?」
「よっと」
ギーツは鉄の腕を伸ばし、列車を横転させる。球体は貨物から落ちて地面を転がる。
「くっ……!」
「遅いな」《MECHANICAL ARM STRIKE》
スーホが引き金を引くよりも速く、ギーツの強化攻撃が球体を貫いた。元々そこまでの固さは無かったのか、それは容易く破裂し、辺りに透明な液体が撒き散らされる。
《MISSION CLEAR》
ギーツの携帯端末から発せられたアナウンスは彼が真っ先に目的を達成した事を告げる。
悪いな、と去っていくギーツを背中を睨み、スーホは歯噛みした。
▪▪▪
「皆様、お疲れ様でした。ジャマト達が卵を隠してしまったため、今夜はここまでとなります」
サロン内でのツムリの言葉と同時に皆の緊張が解ける。彼らは疲労からソファに座り込む者や悔しそうに拳を握りしめる者、そしてひとまずの勝利に微笑む者の三つに別れている。
「お前もどうだ、タイクーン。一緒に勝利の美酒を味わおうぜ」
サロンに表示されているホログラム映像には第一夜のゲーム結果が記されている。各ライダー達の内、卵を破壊出来なかったのは、バッファ、キンモー、スーホ、ヴルドンナの四人。
そして破壊したのはギーツ、タイクーンの二人だ。これはライダー達、そしてナビゲーターのツムリにも予想外の展開であり、故に驚きを隠せない者もいた。
「おい、んでテメェみてぇなとろそうなのがクリアしてんだよ!!」
「うえぇ!?」
景和の胸ぐらを掴み、猿股が声を荒げる。見た目通りの行為に思わず萎縮してしまう。
「いや、俺はただ襲われてた人達を助けただけで…………、そしたら偶々…………!」
「はぁ!? んだよ結局これも運ゲーかよ! くっだらね!」
景和を突き飛ばし、猿股は近くの椅子を蹴り飛ばす。
「猿股様、いい加減になさって下さい。ここでの暴力・妨害行為は禁じられていると、再三申し上げたはずです。……次はありませんよ?」
ギロリの本気の警告に舌打ちを溢し、彼は大股でサロンを後にする。
「大丈夫ですか?桜井景和様」
「うん、大丈夫」
「はっ、ボーッとしてるからだ」
「おいおい、バッファ。みっともないぞ」
道長の悪態に景和が反応するよりも速くに英寿が笑みを見せる。そして彼に向けて手痛い言葉を放った。
「そのボーッとしてる奴にお前は先を越されんだぞ? ルーキーを侮ってたのはお前らしいな」
「何だと?」
「ちょっと、ちょっと! やめようって! ギロリさんの話聞いてた!?」
違反が続けば、例え一度だとしても度を越していれば失格。道長の剣幕は間違いなく後者に該当するであろう行為を連想させた。現に彼は今ゾンビバックルを握りしめている。放っておけば戦闘経験行為に発展していてもおかしくはなかった。キヴォトスの人間は血の気が多い者もかなりいるが、どうやら彼のそれに当てはまるらしい。
「調子に乗るなよお前ら…………! すぐに追い付いてやる!」
道長はそう言い残し、扉の向こうへと消えていく。残ったのは景和達を除けばベラとサオリ。二人とも言葉を発さず飲み物を飲んでいる。
「……ウェ……じゃ、アね」
先に席を立ったのはベラだ。彼女は口に含んだオレンジジュースを不味そうに飲み込むと飲みかけを残して去っていく。
続けてサオリも去っていった。
「そんなにギスギスしないでよ…………」
喧騒が消え去り、居心地の悪い静けさの中で景和は呟く。
「仲良くする必要は無いだろ。全員ライバルだ。お前も明日生き残れるとは限らないぞ」
コーヒーを飲み干し、英寿も去る。残されたのは佇む景和ただ一人。
「嫌な事言わないでよ…………」
脳裏に浮かぶのは虚空に消えていくルルの姿。その形見のアローバックルを握りしめ、それでも迷いは晴れなかった。
▪▪▪
「くそっ…………!」
サオリは灰色のコンクリートを殴りつけ、地べたに座り込んだ。
甘かった。急ぎすぎた。彼女の思考を埋め尽くすのはあの一瞬での様々な後悔だ。あの時卵ではなくギーツを撃っていれば。いやそれ以前にあんな奴の話に耳を傾けなければ。
仮面ライダー同士での戦闘はルール違反というのがデザイアグランプリにおけるルールの様だが、それでも後悔せずにはいられなかった。
「残るは二つか…………」
己の不甲斐なさによって煮えたぎった脳を夜風で冷やし、彼女は天を仰いだ。空は曇天。今にも降りだしそうで降りださないこの感じが彼女の未来を暗示している様でならない。
生徒の未来は『教育』によって決定される。『教育』が悪意に満ちていれば、未来は暗雲に満ちたものとなってしまう。
『彼女』の言いなりのままではいずれ自分達は血の雨を浴びる事になる。そうなった時、既に後戻りする道は潰えているだろう。
「例え結末が虚しいものだとしても…………抗わない理由にはならない……!」
明日までに出来る事は何でもすべきだ。英寿の言葉を思い出す。彼はあの遊園地について、デザイアグランプリについてよく知っている様だった。過去何度も優勝を重ねてきた無敗のデザ神。であれば似たようなゲームに幾度と挑戦してきたのだろう。彼がひけらかしたのはあの遊園地についての知識。
彼女は『スランピア』について調べるべく、行動を開始した。
そしてそれを闇夜に紛れていて見た者が一人。
「へぇ? あいつ……そうだったのかぁ。ライバルは、出来るだけ消しとくべきだよなぁ……?」
▪▪▪
「それでは第ニ夜、スタートです!」
現在のスランピアには一切の人がいない。正体不明の化け物の巣窟であるとキヴォトス中で話題となり、誰も近づかなくいるからだ。
そこに降り立った仮面ライダー達は各々行動を開始する。
《POISON CHARGE》《TACTICAL BLAKE》
毒が染み込んだ刃が回転し、ジャマトの頭部を砕いていく。バッファはひたすらにチェーンソーを振り回し、我武者羅に卵を探していた。
「くそっ、どこだ!?」
スランピアは広い。闇雲に探し回っていてはとても見付からない。何かしらのヒントを見つけて攻略するしか手が無いことに彼も漸く気がつき始めた。
「そうだ……! 連中が卵を守ってんなら、その近くにはジャマトが多いはず!」
見渡せば周囲にはまばらにしかジャマト達は存在していない。少なくとも、ここではない。バッファは踵を返して走り出す。
一方それには早期に気がついていながらも、運に恵まれず発見出来なかったスーホもまた走り回っていた。
手には何とか手に入れたユートピアのマップがあり、既に見た箇所にはチェックがつけられている。
先に見つけたのは、スーホだった。
「よしっ……!」
城のアトラクション跡に大きな卵が鎮座している。周囲にはジャマトが防御を固めているが、マグナムバックルを所有している彼女にはさしたる問題では無かった。
《BULLET CHARGE》
バックルをマグナムシューターに装填し、目標に狙いを定める。
────その時だった。
「はい邪魔~!」
「…………!」
『プレイヤーへの攻撃は違反行為です』
背後から襲いかかる奇襲。彼女はそれを素早く避け、その相手に銃口を向ける。
「…………何の真似だ?」
「見ればわかるっしょ。ライバルを蹴落とす。普通の事だ」
「今のアナウンスを聞いていなかったのか?」
「知らね~。てか従う必要ある? ナビゲーターちゃんがごちゃごちゃ言ってきたら黙らせりゃいいっしょ! 女なんて殴りゃ黙んだから」
聞くに堪えない。キンモーの下劣な発言に顔を顰め、しかし攻撃は躊躇う。ルール違反による失格。それは現状において彼女が何よりも恐れる事態だった。
しかし、戦場でそんな甘さを見せれば殺られる。
少なくともキンモーは本気で落としにきているのだから。
「…………来るなら来い」
「はっ、えらそーに!」
殺意を伴って振るわれる爪をスーホは軽やかに避けていく。彼の爪は当たればそれなりに痛手だろうが、あくまで当たればだ。
ガタイの良い彼の力は強いのだろうが、それだけでどうにかなる程戦いは甘くない。愚鈍な雑魚ジャマトた異なり、こちらは人間。その様な攻撃を喰らう道理が無かった。
「ふっ、はっ!」
「グェ!?ぎっ!」
爪を避ける事で生じた隙をついて蹴り、銃撃。警告のアナウンスが鳴り響くが、構ってなどいられない。文句ならキンモーに言え、と心の中で吐き捨て、スーホは攻撃を続ける。
「ちょおしに、のんなぁ!!」《CROW STRIKE》
エネルギーを纏った爪が勢いよく彼女の顔面へと迫り来る。
彼女がそれに怯える事はない。威力はあがっていてもスピードは同じ。避ける事は容易かった。
「終わりだ」《MAGNUM STRIKE》
勢いを乗せた拳がキンモーを背を打ち、前腕に取り付けられた短銃が同時に火を吹く。
短い感覚で連射された弾丸もまた背を打ち、キンモーは完膚なきまでの敗北を喫した。
その証明に彼の変身は解除され、猿股玉夫を姿が野晒しになる。
そして彼女は急いで卵を確認する。
「何だと…………!?」
しかし、既に卵は影も形も存在していなかった。辺りに液体が飛び散っていない事から誰かに破壊された訳ではなさそうだが、それでも逃した事には変わり無い。
「くっ……、貴様!」
充満していく悔しさと怒り。それらは全て猿股へと向けられる。
地べたに伏せている彼目掛けて攻撃を放とうとして、それをギーツによって阻止された。
「仮面ライダーへの攻撃はルール違反、知らない訳じゃないだろ?」
「……………………!」
「もう今夜は終わった。けどゲームが終わった訳じゃない」
確かにそうだ、と変身を解除するサオリ。未だ彼への怒りで震えているが取り逃してしまっては仕方がない。
このような失敗も経験が無いわけではないのだ。
「────って顔してんなぁ? 錠前サオリちゃん?」
「…………何だと?」
「残念だけどぉ! お前はもう終わりだぜ?」
「え?何言ってんだよ」
いつの間にか来ていた景和が口を挟む。隣には道長が存在し、勝ち誇った様な顔を浮かべていた。どうやら卵を破壊したらしい。
「後一つ、卵は残ってるだろ?」
「ああ。だから俺とあの毒島とかいう陰キャとだ。ははっ!」
「どういう事だ?」
サオリは思わず聞き返す。本当に意味がわからなかった。もしも違反した事を言っているのであれば猿股も同じはず。しかし彼はサオリだけを除いている。それがよくわからなかった。
「ああ悪い悪い。お前が、じゃなくて
「何?」
『お前ら』。その複数形を使用されて、彼女は一つの可能性にたどり着いた。同時に嫌な汗が大量に吹き出てくるのを感じた。
「まさか、お前…………!」
「ひゃははっ!そう言うこった!偶々見かけちゃったんだよぉ!