DESIRE ARCHIVES   作:ベロベロベ

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天輪Ⅳ/嗤う司教

 

桜井景和は浮世英寿が苦手だった。

それは恐らく『姉』を連想するからだろうと、彼自身は解釈している。故に苦手ではあるが、嫌いではない。

彼も彼女も、自信に満ちたその態度に納得せざるを得ない程の実力を持っている。

その実力を持って道を切り開いていく。その様に景和は魅せられた。

 

桜井景和は浮世英寿を信じすぎている。

 

 

▪▪▪

 

「ジャマトがプレイヤーに擬態……?」

「はい……、その通りです」

 

ツムリの言葉が神殿内に響き渡る。その声色はこれまでの彼女からは考えられない程に重く、それが事態の深刻さを物語っていた。

 

集められたプレイヤーは英寿、景和、サオリ、道長の四人。しかし現時点で生き残っているのは五人であったと誰もが記憶している。

 

「ヴルドンナがジャマトだってのか?」

「はい」

 

本当に、本当に唐突にその事実が観測されたとツムリは語る。ほんの数時間前まで誰も違和感を抱いていなかった。

しかし思い返してみれば確かに不可解な点があった。

一つはどことなく覚束ない口調。もう一つはゲーム中に彼女の姿を見た者がいない事。

そして最後に一つ。

 

「思い出したぞ。毒島ベラ……確か前のデザグラで決勝まで残ってたやつだ」

 

英寿の口から出たそれは彼女の存在の異常さを証明する何よりの証拠であった。

 

「おい! 何でそれで気づかなかった!?」

「それは彼女がビショップだからです」

 

英寿が口を開くよりも早く、ツムリが答える。

ビショップジャマト。特定の姿を持たず、ゲーム毎にその姿と特徴を変える生態を持つジャマト。加えて対象への幻覚を見せ、撹乱を行う非常に厄介な存在であると彼女は告げる。

 

「つまり俺達はビショップに幻覚を見せられてた訳か?」

「はい。ご丁寧にドライバーとバックルまで盗み出し、今までゲームに参加していた様です」

「何でジャマト同士で争ってた?」

「デザイアグランプリという形態への適応、そして変化する際に参考にした人間の影響が出たのではないかと」

「…………確かにあの芸術狂いはおかしなやつだったが………… 本当にそれだけか?」

 

最後の部分は誰にも聞かれない様に、英寿はどこか納得のいかない様子でツムリを睨む。

暫しの沈黙の後、サオリが口を開いた。

 

「それで、何故私達は呼び出された」

「単刀直入に言えば、ビショップが動き始めました。今度は我々の敵として」

 

空中にホログラム映像が映しだされる。そこに映っていたのは景和のよく知っている場所だった。

 

「ここ、百鬼夜行の自治区……?」

「はい。現在ビショップは百鬼夜行自治区内で息を潜めている様です」

 

仮面ライダー達には隠れているビショップを見つけだし、駆除する。それがデザイアグランプリ第三回戦の内容であると、ツムリは告げた。

 

「それで、どうやって見つければいい?」

「ビショップはヴルドンナとしてのIDコアを独自に開発していました。それ故、こちらにそのデータが残っています。そのデータをあなた方のスパイダーフォンに転送しました」

 

近くにビショップが居るのであれば彼らの携帯端末がそれを教えてくれるらしい。

運営も今回の件は失態と捕らえているらしく、何としてでもビショップを消したいらしい。

 

転送された彼らの足元には一回戦で渡された物と同タイプの箱が置かれている。

中に入っているのは当然レイズバックル。

 

「ブーストバックル……! やった!」

「お前、いつもそれ手に入れてないか?」

 

景和が手に取った箱の中にはバイクのグリップが取り付けられた赤いバックルが納められていた。強力なアイテムであるブーストバックルの入手。幸先の良いスタートと言えるだろう。

 

「これなら絶対勝てる……!」

「へぇ? 気合入ってるなタイクーン」

 

どこか意外そうに英寿は呟いた。ここまで積極的にゲームに参加する彼を見るのは初めてだったからだろうか。

しかしここは百鬼夜行の自治区。『平和な世界』を願う程のお人好しが、自身の学校の危機を無視するはずもない。

 

「明日はお祭りなんだ。百鬼夜行で一番大きいお祭り。色んな部活やお店のアピールにもなるし、これに賭けてる人は大勢いる。邪魔させる訳にはいかないよ……!」

《ARMED・ARROW》

 

変身して、タイクーンは駆け出す。

彼の所属する修行部では自治区の治安を守る事も活動に含まれている。今までは戦闘力が劣っている為にできなかったが、今回は違う。

その事実が少なからず彼の胸を踊らせていた。

 

「んじゃ、俺達も行くか。変身!」《ARMED・FIRE》

 

「勝つのは俺だ……!」《ZOMBIEィ…………!》

 

「任務を開始する」《MAGNUM》

 

ギーツ、バッファ、スーホもそれに続いていく。

 

今回のゲームは前回までと比較して難易度が高い。何せ単純な殲滅でも、わかりやすいヒントが用意されている訳でもない完全な手探りのゲームだ。携帯端末のレーダーはあるがその程度。

ジャマーエリアも決して狭くはなく、骨の折れる内容であるとギーツは感じていた。

 

「見つけたぞ……!」

 

しかしギーツの予想に反してビショップは存外早く現れた。相手はバッファ。

焦る様子もなく、木の上で来い、と手招きしている様子から恐らくわざと姿を現したのだろうと予測できる。

 

「なめやがって…………!」《POISON CHARGE》

 

ビショップが地面に降り立つ瞬間に合わせて、バッファはゾンビブレイカーを振るう。

勢いよく回転する刃が白い体躯に触れ、粉微塵に粉砕する。

 

「はっ、何だよちょろいな」

「ジャジャジャジャジャジャ♪」

「がっ!?」

 

倒したと認識した直後、バッファの背に燃える様な痛みが広がる。

振り向けばそこには粉砕したはずのビショップが嘲るように嗤っていた。

 

「このっ……!」

 

再び刃を振るい、おどけている所を粉砕する。しかし右側面から襲いかかる拳に吹き飛ばされ、ゾンビの装甲が土にまみれる。

 

ここで彼は自身に何らかの不調が降りかかっている事を認識した。

現に幾つかの樹木が木屑の化している。腐食の様な跡がある事からゾンビブレイカーの毒によるものである事は明白だった。

 

「これが幻覚か……! ふざけた能力しやがって!」

 

この戦いにおいてバッファが不利である事は明白だ。しかし彼は退かない。勝ち抜くためにはこの程度の敵を倒せる様でなくてはならないと、武器を握り締める。

 

とはいえそう簡単にどうにかなる訳でもない。ビショップの幻覚攻撃は奴が撒き散らす胞子にある。胞子は色つきなどではなく、無色透明。

見てどうにかするというのは不可能に近い。

 

(こうなりゃ……!)

《REVOLVE ON》《SET》

 

ゾンビだけでどうにかするのは難しいと考えたバッファは開始の際に配られたバックルを取り付ける。

それは奇しくもこの状況に適した物であった。

 

《ARMED・WATER》

 

上半身に水色の装備が取り付けられる。それは細い水道管の様な、本当に武器なのかと疑ってしまう程に貧弱なものだった。

 

「しっテルそれ、ハズれ……!ジャジャ……!」

「黙ってろ!」

 

ビショップの嘲りに怒鳴り返すと同時に水が放出される。その勢いは精々が水撒きと同程度のものであり、しかし確実に撒き散らされた胞子を地面に沈める役割を果たしていた。

 

「テメェの幻覚は長くは続かねぇらしいなぁ!」

 

油断している隙に距離を詰め、ゾンビの爪を利用した渾身の蹴りを見舞う。

 

「ジャジャジャ……♪」

 

しかし、それでもビショップは嗤い続ける。戦いが楽しいかとでも言うかの様に。

そして爆破性の胞子を撒き散らし、その場から撤退する。

 

まるで猿の様に軽やかに木から木へと跳び移り、続いて仕掛ける相手はスーホ。

 

「……来たか!」

 

卓越した戦闘経験を持つスーホはビショップが地面に降り立つよりも早くライフル射撃を喰らわせる。

腹から地面に落ちるが、差程堪えた様子はなく、あくまでも愉しそうに踊っていた。

 

「…………!」

 

スーホは攻めの手を緩める事はない。僅かな動きから格闘戦も得意な敵であると読み取った彼女は自らが最も得意とするゲリラ戦に持ち込もうとその身を隠す。

 

「タチば、あベコべ、ダね……」

 

辿々しい日本語とは裏腹に、足取りは軽い。

辺り一面に胞子を撒き散らすのではなく、あくまで自分の足でスーホを探すつもりの様だ。

現に彼女の狙撃は正確そのもの。すんでの所で避けられてはいるが、避けなければみごとなベッドショットが決まっていた事だろう。

 

「そこ……!」

「甘い!」

 

スーホを認識した箇所に拳を落とすが、既に側面へと移動した後。ハンドガンモードに切り替えたマグナムシューターが火を吹く、と思われたその直後。

 

「ぐあっ…………!」

 

彼女が地面に足をつけたその場所が爆発した。

弾ける様な音と共に彼女の前身に焼ける様な痛みが走る。

 

「地雷、だと……? ジャマトがそんな手を……!」

 

一度崩れた体勢を直すよりも先に、ビショップの蹴りが彼女の肩を撃ち抜いた。

巨大な樹木に背中をぶつけ、鈍い痛みが迸る。

 

しかしそんな彼女を追撃する様な真似はせず、再び木々を跳び移る。

目を付けたのは、ギーツ。

 

「へぇ、そっちから来てくれんのか」

 

彼の装備は四人の中で最も貧弱だ。アームド系の小型バックルが二つ。先程のバッファを見るに運営から支給があった様だがそれも恐らく小型だろうと、ビショップは推測していた。

 

ギーツを倒せばクリア同然。あの余裕綽々な表情を歪めてやるのはさぞ快感であろうとビショップは嗤う。

 

「来いよ」

「ジャジャジャジャジャジャ!!」

 

胞子と炎が同時に噴射される。それらは混じり合って弾け、周囲に硝煙の匂いを漂わせる。

 

炎を使用する以上胞子は効きにくい。そう判断した事により、ギーツとの距離を一気に詰める。しかしそれだけで簡単に勝負がつく程、彼は甘くない。

彼もまたデザイアグランプリを幾度となく経験してきた猛者である事に違いはない。

故にビショップの動きを読みきり、確実に攻撃を当てていた。

 

「ジャァ…………!」

「埒があかないな」

 

双方に苛立ちが貯まっていく。ビショップは攻撃を当てられず、ギーツは純粋な火力不足。普段の雑魚ジャマトならばともかく、奴の様な上級ジャマト相手には小型では不足だった。

 

「お前植物、きのこだろ? 燃えとけよ…………」

 

大袈裟な手振りで愚痴を溢すが、ビショップは即座に姿を消す。

そしてその直後、ツムリからミッション中断の連絡が送られてきたのであった。

 

▪▪▪

 

「結局捕まらずじまいか……」

 

あの後、ビショップは姿を消した。運営は暫くの間は何もしてこないと予想しているが、それは何らかの準備をしているからであり、決して油断は出来ないとプレイヤーに通達した。

 

彼らは一時帰宅が認められ、呼び出しがあるまで待機しく様に命じられている。

道長や英寿は各々が所属する学校に、サオリは新たに発見した拠点へと帰宅していった。

 

景和は浮かない顔でたぬきそばを啜る。本来ならば心地好いはずの出汁や蕎麦の風味も今日に限っては味気なく感じられた。

 

「……どうしたの」

「……あ、シズコちゃん」

 

そんな彼に声をかけたのは河和(かわわ)シズコ。

彼女は景和が今いる百夜堂看板娘である。

普段は『シズコたん』の愛称で常連客に親しまれている彼女だが、今の彼女はお世辞にも『たん』と呼ばれる様な愛らしい表情はしていない。

何か奇妙なものを見たかの様に、怪訝そうに顔を歪めている

 

「何、その表情」

「いや気味悪いじゃない。いつもは世界平和ー!、とか言って元気にやってる癖に。修行部らしいいつもの変さが消えてる」

「変!? 俺達そんな風に思われてたの!?」

「いやそうでしょ……。素敵なレディーになりたいからそこらのチンピラ追いかけ回したり、大和撫子になるために読心術身に付けてたり、寝ながらパズルしてたり。おかしいでしょどう考えても」

「………………」

 

確かに改めて言われてみればそうかもしれない、と景和は思った。思ったがそれ以上言及しない事に決めた。

 

「それで? 何に悩んでるの? またお姉さん?」

「いや、そうじゃなくてさ」

 

デザイアグランプリの事を口外する事は禁じられている。しかしこの燻る思いは吐き出したい。

故に景和は慎重に言葉を選び、口に出す。

 

「その、何て言うかさ。……もし明日百鬼夜行が滅びるかもしれないってなったら、シズコちゃんどうする?」

「…………はぁ?」

 

また妙な事を言い出した、とシズコは顔を顰める。

彼女からすれば景和の疑問は本当に突拍子もない。しかし彼なりに真剣な話なのだろうと言う事も察しがついた。

であれば、同じ様に真剣な答えを返すのがシズコという少女だった。

 

「どうするって、そりゃあ足掻くわよ。嫌だもん百夜堂が無くなるの。それに明日は百夜ノ春ノ桜花祭だし」

「…………実力が無くても?」

 

景和は今までの戦いを想起する。はっきり言って、彼は仮面ライダー最弱だ。

他三人には戦いを挑んだビショップにも、彼は見向きもされていない。いつでも倒せると思って舐められていてもおかしくはない。

 

これまで勝ち上がってこれたのは偶然。偶々クリア条件を達成出来た。偶々近くにギーツがいた。

ただ、それだけ。

景和自身の実力で勝ち上がってこれたかと聞かれれば疑問符がつく。

実際、ルルは死んでしまった。彼が近くに居たにも関わらず。

 

勿論、彼は戦いを放棄するつもりはない。

『平和な世界』という自身の願いが間違っているとも思えない。

それでもふと考えてしまう。実力不足の自分が何をしても、無駄なのではないかと。

 

「実力不足、ね。私はその言い分嫌い」

「…………え?」

「だって言い訳じゃない。勿論実力は大事。それがなきゃ何にもならないからね。

でも、そういう事を言う奴って大体が逃げたいだけか、具体性が無い癖に志だけは高い奴でしょ?」

「う゛」

 

可愛らしい顔から放たれる凄まじい切れ味の言葉に景和は思わず胸を抑える。

シズコはハァ、と溜め息を吐き景和の目の前に座る。

 

「あんたが他の修行部に比べて明らかに劣ってる原因はそこよ、きっと。何のために修行してるのかわからないもの。とりあえず何でもやりますとか、平和とか、漠然としすぎ」

「うぅ…………!」

 

シズコの指摘は辛辣だが、しかし的を得ている。

平和な世界とは何なのか。具体的に何をすればそうなるのか。

未だに答えは出ない。そもそもろくに考えてこなかったのだから、そう簡単に答えなど出るはずもない。

 

「何か、姉ちゃんやリンちゃんにも同じ事言われたなぁ……」

 

あの二人はもっと辛辣かつ端的に伝えてきたぶん、シズコのがマシではあるが。

 

「でも、やらなきゃいけないんだ」

「え?」

「漠然でも、不透明でも、今回ばかりは立ち止まって考えてる暇なんて無いんだよ」

 

景和の目には決意が宿っていた。決して道楽や理想を語っているのではない。

紛れもない本気の表情に、シズコは少し気圧され、呟いた。

 

「じゃあ、もう運に身を任せるとか?」

「う、運?」

「そう、運。ほら、必死に新商品とか新しいお祭りの演出とか考えても、結局最後は運じゃない? 気に入って貰えるかなんて、結局は個人の主観な訳だし」

 

であれば、もう信じるしかない。気に入って貰えると、美味しいと言って貰えると。

そうやって結果を信じて、降って沸いたチャンスを逃さず掴む。

究極的には、それしかないと彼女は言う。

 

景和はそうか、と頷いた。

ビジネス等の話は完全に門外漢だが、『信じる』というワードは心地好かった。

 

「ま、おいおい考えなさいよ。私は景和のひたむきな所は嫌いじゃないし。そばがのびる前に食べちゃってよ」

「………………うん。そうだね」

 

景和はすっかり冷めたそばを啜る。冷めてはいるが、さっきよりも美味しく感じた。

 

「良い友達じゃないか」

「え?」

 

シズコが去ったこの直後。唐突に背後から声が響く。

それはここ最近あらゆる所で聞いている声であり、ここで聞く事は無いであろうと考えていた声であった。

 

「英寿君!?」

「よっ」

 

浮世英寿がそこにはいた。有名人がやりがちな変装等は一切しておらず、精々服装がカジュアルなだけだ。

その程度では彼から溢れ出るスターオーラをかくせていない。

 

「ふぇっ!? 英寿様!?」

 

去ったはずのシズコが騒ぎ、その他の客も彼の周りに集まってくる。

 

「けけけけけ景和!?あ、あ、あ、あんた英寿様と知り合いだったの!?」

「え?……あぁ、まあね」

 

こうして見ると彼女も年相応の少女なのだな、と景和は思う。頬を赤らめててんやわんやしている様はとても先程、辛辣かつ的確な発言をしていた者と同一人物とは思えない。

 

「しかし良い考えを持ってるなぁ。流石、長年続いてきた百夜堂を守ってる看板娘なだけはある」

「へ…………?…………あ!

い、いやぁ~シズコ~、大人な感じの場所とか~わかんなぁ~い!」

「もう遅いでしょ……」

 

唐突に始まった『シズコたん』ムーブに景和が呆れてツッコミを入れれば、シズコが彼の足を思い切り踏みつける。

そして景和のあげた小さな悲鳴を無視し、シズコはドジっ娘アピール。

 

百夜堂では度々起こる光景。

それを見た英寿は可笑しそうに笑う。

 

「何でお前が世界平和を願うのか、わかった気がするよ」

「え?」

 

食事が終わった後、彼は唐突にそんな事を言い出した。

その表情は明るく、そしてどこか羨望を含んだものであったが、景和はそれに気がつかない。

 

「あんなに良い友人、そうはいない。ああいう人間がいっぱい居るんだろ?お前には。

…………失いたくないよな、そういう奴ら」

「……そうだね、うん」

 

景和は今まで沢山の友人に恵まれてきたと自負している。

ミモリ達修行部やシズコ達お祭り実行委員会にはいつも世話になっている。

 

「よし! 腹も一杯になったし、後はここを守るだけだな!」

「………………ああ!」

 

だからこそ、ジャマトに好きにさせる訳にはいかない。

明日は百夜ノ春ノ桜花祭。

観光業で成り立ってきた百夜夜行連合学院の年一番のビッグイベント。

お祭り実行委員会などには一年間の総決算と言っても良いこのイベントを失敗させる訳にはいかないのだ。

 

(そうだ。俺が、皆を守るんだ。

その為のデザイアグランプリ、その為の仮面ライダーじゃないか…………!)

 

決意と共に夜は開ける。

ツムリからの連絡が届いたのは、夜明け直後だった。

 

▪▪▪

 

早朝の太陽から発せられる朱色の陽が林を包む。暗がりの多い木々の間を照らす木漏れ日は見るものの心を癒やす程に美しいものだ。

 

その陽の中に、ビショップは降り立った。後ろには大量の仲間を引き連れている。

全ては仮面ライダー達を攻略するため。そして、()の心を絶望の色で塗り潰すために。

 

「ジャジャ……」

 

既にあちらこちらにジャマトを放った。仮面ライダー達はその対応に当たるために各地へと分散するだろう。

その隙にビショップは目的を遂行する。

 

「居た…………!」

 

ビショップの目の前には桜井景和が佇んでいた。彼の瞳の奥には熱い闘志が燃えている。

それを踏みにじり、徹底的になぶり尽くす事はどれだけ気持ちの良い事だろうか。

挫折や後悔こそ、青春の本質だとビショップの中の『彼女』が言っている。

 

「ここから先へは行かせない……!

………………変身!!」

《BOOST!》《READY?…………FIGHT!!》

 

赤い鎧を上半身に纏い、タイクーンは地面を蹴った。

マフラーから噴射されるエネルギーがパンチの威力を格段に上昇させる。

その拳は確実にビショップの胴を撃ち抜いた。

 

「……え!?」

 

しかし、手応えがない。代わりに拳に伝わってきたのは何やら硬い感触。

見れば、そこには粉々に粉砕された岩があった。

 

「あれ?どこだ!?」

 

慌てて首を左右に動かすタイクーン。そこには大量のビショップが、嗤いながら手招きしていた。

 

「くっ!このっ!」

 

幻覚作用のある胞子が周囲にばらまかれる。バッファの様に対抗策を持っていない彼では、絶え間無く胞子を吸い込まざるを得ない。

一度、術中に囚われた彼に脱する術は無いに等しい。

 

「ぐぅ……!あぁっ!」

 

格闘にも秀でたビショップの拳と蹴りのワルツがタイクーンに襲いかかる。

何とかカウンターを当てようにも、彼とビショップでは近接戦の能力に差がありすぎる。

 

普段の彼ならば、不利を察して撤退して状況を立て直す程度の判断はしたかもしれない。

彼とてキヴォトスの住人だ。有利不利の判断くらいは出来る。

しかし、今回ばかりは状況がそれを許さない。

自分が退いたら、百夜夜行が危ない。皆のお祭りが、終わってしまう。

その一心で、地面を転がる彼はもう一度立ち上がる。

 

「ハァ……! ハァ……!まだ、まだだ…………!!」

 

負けられない。負ける訳にはいかない。

全身に痛みが回り、最早どこが痛むのかもわからなくなった体でタイクーンは構える。

スペックはブーストフォームが圧倒的のはず。近づいてきた所に一発でも当てられれば、チャンスはある。

 

「ちっ! おいタイクーン! 何してる逃げろ!!」

「おい、来るぞ!!」

 

遠くでバッファとスーホの声が聞こえる。携帯端末を頼りにここまでやってきたらしい。

しかし二人の叫びも、今のタイクーンには通じていなかった。

 

「ジャジャァァァ…………♪」

 

構えたタイクーンにビショップは嘲りの声を返す。

何も、馬鹿正直に正面から行く必要は無い。

その本領は幻覚と爆破。

既にその胞子は彼の周りを漂っている。

 

「タイクーン!!」

「………………え?」

 

バッファの叫びに気づいた時にはもう遅く。

想像を絶する熱の本流が、彼の全身を蝕んでいく。

 

「ウワアアアアアアアアアァァァ!!!」

 

タイクーンの変身が解除されて景和は大きく地面を転がり、そして巨大な樹木に背中を打ち付ける。

その鈍い痛みにも気がつかない程に、ビショップの攻撃によるダメージは大きかった。

出血そのものはさほどでもないが、打撲に裂傷が数多く存在している。

 

「かはっ……、ハァ……ハァ……」

 

呼吸が荒く、か細くなる。痛みで体を動かせない。

ビショップはそんな彼の状態を見て、可笑しそうに手を叩き笑い転げる。

最早睨む事も出来ずに苦しむ彼の姿が滑稽で滑稽で仕方ない。

 

「これ、でオワリ……。し、シ、四、死!ジャジャジャジャ♪」

 

ビショップが拳を振り上げる。景和は思わず目を閉じた。

 

「よっとぉ!!」

《MECHANICAL ARM STRIKE》

 

ビショップの体が突如飛来した鉄の拳によって、吹き飛ばされる。

地面を転がるビショップ。

景和は目の前に立つギーツを見上げる。

 

「英寿、くん……。俺を、助けに……?」

「ん?あぁ、まあな」

 

《SECRET MISSION CLEAR》

 

「…………え?」

「「は?」」

 

景和、そしてバッファとスーホの声が意図せず重なる。

電子音が流れた直後、ゲーム開始時と同じ箱が出現した。

 

「アイツの攻略にはこれが必要だったからな」

 

そう告げたギーツの手の中には、マグナムやゾンビと同じサイズのレイズバックルが一つ。

黄緑色を中心に手裏剣やクナイの装飾が付けられたそれはまるで忍者の装備の様だ。

 

「え?…………まさか、その為に……?」

「ああ。このミッションのクリア条件はプレイヤーの退場を阻止する事。時に自己を犠牲にしてでも主人を守る、忍者らしいミッションだろ?」

「俺をその気にさせたのは……!」

「お前みたいなのは友情だとか平和だとかに弱いからなぁ。それに、狐は化かす動物だって教えたろ?」

 

その発言が全てだった。

つまり彼はニンジャバックルを手に入れる為に景和を唆し、自身は機を伺っていという事になる。

彼がビショップに痛めつけられている間、彼はじっとそれを見つめ、ほくそ笑んでいたのだろう。

 

バッファが目を反らす。スーホがギーツを睨む。

激情が、景和の中を駆け巡った。

 

「そんなにゲームが楽しいか!? 百夜夜行が……、皆が危険だって時に!!」

 

既に意識は朦朧としており、それでも叫ばずにはいられなかった。

百夜堂で見せたあの表情すらも化かしていたと言うのなら、景和はギーツを許せなかった。

 

彼は、自身の思いを踏みにじったのだ。

 

「安心しろよ。百夜夜行やお前の友達は俺が守ってやる。

────理想の世界を叶えるついでにな!」

《SET》

 

ニンジャバックルをドライバーにセットした瞬間に浮かびあがる『NINJA』の文字。

クナイをひいて、その鎧を上半身に装着する。

 

《NINJA》《READY?》

 

緑の銀を中心にした色どりに、赤い風車の装飾。そして複眼は紅く染まっている。

 

「さぁ、ここからがハイライトだ」

《────FIGHT!!》

 

一瞬にして、ギーツが5人に分裂した。分身全員が右手を上に翳し、エメラルドグリーンの手裏剣が出現させる。

そしてそれをビショップへと投げつけた。

 

「ジャジャッ!」

 

避けるのは困難と見たビショップは一歩下がり、爆発性のエネルギーを纏わせた拳で迎撃を選択する。迫る手裏剣を砕こうと拳をぶつけたその瞬間。

 

「ジャバァ!?」

 

手裏剣が細かく分割され、360度の方向からビショップを切り裂いた。

続けて迫る大型の手裏剣。それら全てに衝突し、ビショップは大きく吹き飛ばされる。

 

反撃として放った胞子も攻撃の余波で全てかき消された。

 

「ジャ、ジャァ!!」

 

金切り声をあげ、辺りに散らばっていた配下のジャマトを呼び寄せる。

いつもの雑魚だけだが、それでも数は膨大だ。

そしてビショップは逃走を開始する。

 

「……! 逃がすか!!」

 

追いかけるべくバッファが走るが、大量のジャマトが壁となって進めない。倒しても倒しても沸いてくる。

しかし、ニンジャフォームに変身したギーツならばこの程度は窮地ですらない。

 

「逃がさないぜ?」

 

ギーツが胸の前で忍者よろしく印を結ぶ。

それによって発生した鎌鼬がジャマトを切り裂いていく。

雑魚を蹴散らせば、後はボスを倒すだけ。

出現したニンジャデュアラーの操作盤を回転させ、刃にエネルギーを収束させていく。

 

《ROUND 1・2・3!》

 

ニンジャデュアラーが高速で回転を始める。朱色の炎を纏い、ギーツの手の中で敵を仕留める牙を丹念に研いでいた。

 

「盛大に打ち上げだ!!」《TACTICAL FINISH!!》

 

決め台詞と同時に投げられた必殺の一撃。

ビショップがギーツによって負ったダメージは決して少なくない。

これを受ければ死ぬ。

そして、こうなる可能性のある事を奴は読んでいた。

タイクーンならば警戒に値しないが、敵はギーツだ。

 

「ジャ!?」

 

故に近くの味方を投げつけ、肉壁として利用する。

あげられた戸惑いの声を無視し、ビショップは走る。爆発の熱に背中を痛めながら、その姿を消していった。

 

▪▪▪

 

「ビショップは再び姿を消しました」

 

ツムリの宣告が響く。

英寿を除き、プレイヤーの表情は曇っていた。

 

「おい、浮世英寿。お前は知っていたのか? ニンジャバックルの存在を」

 

静寂を破り、サオリが疑問を口にする。鋭い視線をぶつける彼女に英寿は怯む事なく、いつも通りの口調でそれを肯定した。

 

「ああ。お前らとはデザグラの経験も知識も違うからな」

 

そして自身を睨みつける景和と目を合わせ、微笑んだ。

 

「そんな顔すんな。ちゃーんと俺が守ってやるさ。…………お前の代わりにな」

「ハァ……ハァ……!もう、信じないよ……!君の事は………………!」

 

景和は英寿が憎かった。自らの気持ちを弄んだ彼を、どうしても許せなかった。

そのいつも通りの表情が、自身を嘲っている様で、本当に腹立たしかった。

 

「う、あ…………!」

「おい、タイクーン!」

 

意識が途切れる。

最後に景和が感じ取ったのは自らの左半身にぶつかる、硬い床の感触だけだった。




ギーツopでプレイヤー達が出てくるサビ、あるじゃないですか。

あれ良いよね······。カッコいいだけじゃなくて妄想もしやすい。
完璧。
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