DESIRE ARCHIVES   作:ベロベロベ

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天輪Ⅵ/ラスボスと陣取り

 

「それでは、アビドス対策委員会定例会議を始めます」

 

奥空(おくそら)アヤネの声が厳かに響く。

会議室というには些か狭い室内で、一つの大きな机を囲んで六人の生徒が座っている。

机の上には資料が置かれており、アヤネは自身の分を手に取り、議題を切り出した。

 

「本日の議題は我が校の最重要事項、『学校の負債をどのように返済するか』です!」

 

彼女は自身の資料の一部を叩き、宣言した。

 

彼女達の通うアビドス高等学校は様々な事情により借金を抱えかつ生徒数僅か6名という控えめに表現して崖っぷちに追いやられている学校である。

このまま行けば廃校は免れない。故に何とかこの窮地を脱しなければならない。そんな事態であった。

 

「はい!」

「はい、一年生の黒見(くろみ)さん」

 

真っ先に挙手を行ったのは黒見セリカ。一年生にしてアビドスの会計を担当している生徒である。

 

「会計担当としては、我が校は破産寸前としか言い様がないわ!」

 

彼女が取り出したのは借金の返済状況を記した資料。

そこには現在の借金と利息が印刷されている。

 

「現在、利息だけでも788万円! 今までのやり方じゃ到底追いつけない様な状態になってるの! このままじゃ本当に廃校になっちゃう…………!それは皆わかってるよね?」

「ん、勿論」

「はい…………」

 

だったら!とセリカは鞄から幾つかのブレスレットと一枚の広告を取り出す。

そこには学生が可能なアルバイトとはまた別の、何やら妙な事が書かれていた。

 

「『パワーブレスレットであっという間に億万長者に』………………?」

「そう!今のままじゃ、埒が明かないし…………、ここらで1発でっかいの狙わないと!」

 

セリカは講習会で得た知識を得意げに語り出す。しかしそれは彼女以外の誰が聞いても怪しいとわかる様な、そんな代物であった。

運気が上がるブレスレットを規定の人数に売りつければ儲かる。

今時ここまでわかりやすいのも珍しいくらいだ。

 

「お前、いくらなんでもそれは無いだろ…………」

「えぇ!?」

「はい、却下ねー」

「どう考えてもマルチだよそれは…………」

 

三人から矢継ぎ早に否定の言葉を投げかけられたセリカは目尻に涙を浮かべる。

どうやら彼女はサンプル品を買うだけでもかなりの金額を費やしたらしい。

 

落ち込む彼女を皆で慰めながら、続けて新たに手を上げる者が一人。

 

「ん、じゃあ私が」

「シロコ先輩ですか…………?」

 

砂狼(すなおおかみ)シロコの提案とわかった瞬間、アヤネは不安そうな表情を浮かべる。

そんな彼女を気にする事なく、彼女は自身の計画を語り始めた。

 

「ホシノ先輩と一緒に考えた計画なんだけど…………」

 

砂狼シロコと小鳥遊(たかなし)ホシノ。この二人が計画というワードを使う時は大体ろくでもない時であると相場が決まっている。

それでも会議の場ならば、と一縷の望みをかけてアヤネは詳細を聞く事に決めた。

 

「銀行を襲う」

 

聞かなきゃよかった。

一年生三人の思いがシンクロした。

銀行強盗など、物騒な事件の多いキヴォトスでも中々見ない。

ましてや生徒が実行するとなれば尚更だ。

 

「いやー、一週間くらいずーっと二人で考えててね~。これまたすっごい所見つけたんだよ~」

「ターゲットは中心街の第二銀行」

 

長い桃色の髪を揺らしながら、オッドアイの小柄な少女が笑顔で告げる。

その気の抜けた声とは裏腹に、提示された計画書は真剣そのもの。

どこに爆弾を仕掛けるだとか、どのタイミングで突入するだとか、逃走経路だとか、終いには警備員の視線など割りと『マジ』な事がびっしりと書かれている。

 

「マジの犯罪計画書じゃねぇか…………」

 

吾妻道長の戦慄した声を聞き流し、シロコはアヤネに得意げに見せつける。

 

「どう?アヤネ。これなら比較的危険も少ないし、一気に億単位で稼げるけど」

「却下です」

「え? でも、」

「却下です。その覆面もしまって下さいシロコ先輩」

 

一見すれば可愛らしい笑顔。しかしその奥には劇烈なまでの怒気が込められている事は彼女との付き合いが長い5人には簡単に察知出来るものであり、それ故にシロコは押し黙る他無かった。

 

「はいは~い☆」

「はい…… ノノミ先輩…………」

 

最早疲れた様な表情で笑顔で手を上げる十六夜(いざよい)ノノミを指名する。

彼女はその豊かな胸とベージュのロングヘアーを揺らし、元気に自らの案を語ろうとする。

それを遮ったのは道長だった。

 

「もういい。お前らには任せておけねぇ」

「へ?み、道長くん…………?」

「どうせピクニックしようとかのろくでもねぇ案なんだろ?」

「違いますよ~! アイドルです、スクールアイドル!」

 

ノノミは腰に手を当て、頬を膨らませて怒りを表現する。

そんな彼女に動じる事なく、道長は椅子から立ち上がる。

 

「どいつもこいつも、やれ強盗だやれマルチだ! しょうもないもん持ち出してきやがって! 本当に借金返す気あんのか!」

 

彼の言葉に教室内の空気が冷えていく。放たれた声量は大きく、先程までそれなりに騒がしかった室内は静まり返っていた。

 

「大体お前らは…………!」

 

そう道長が言いかけた時、彼の制服のポケットが振動する。

震えていたのはデザイアグランプリから支給された携帯端末。

つまり、運営からのお呼びだしだ。

 

「…………悪い、バイト先からだ」

 

そう言って道長は足早に教室から出ていく。

残されたアヤネ達は彼の背中を黙って見送る。

 

「道長君…………」

「何かあいつ、最近妙じゃない? 急に居なくなる事多いし」

「はい。何かに追い詰められている様な…………」

「ん、確かに変」

 

口々に意見を交わしあうアヤネ、セリカ、ノノミ、シロコ。

 

「ん…………?」

 

その中で唯一、ホシノだけが空にある違和感を察知していた。

 

▪▪▪

 

「ラスボスが観測されました」

 

ツムリの声色はいつもよりも数段重い。

神殿内に集められたプレイヤー達を見渡し、彼女は映像を映し出す。

そこには前回ビショップが呼び出していた量とは比べ物にならないレベルのジャマトの軍勢が闊歩していた。

 

場所はD.U旧第2空港からアビドス学園自治区まで。それら全てがジャマーエリアとして指定されている、

 

「アビドスだと…………!?」

 

道長の焦った声を聞きつつ、ツムリはゲームの内容を語り始めた。

 

「これよりデザイアグランプリ最終戦、陣取りゲームを開始します」

「陣取り…………?」

「はい。今回のラスボスはジャマトを大量に使役する能力を持っており、それによって勢力を広げています」

 

映像の隣にまた新たな映像が出現する。真っ白な何かを飛ばしながら佇むその様は綿毛を飛ばすタンポポを彷彿とさせる。

その綿毛が地面に降り立った瞬間、その場に軍服を着たジャマトが出現した。

 

「ジャマト達は一定範囲内を陣地とし、そこにある程度の数を置きながらジャマーエリアを拡大しています」

 

奴らの陣地内のどこかには旗があり、それをライダーが上書きすればそこは上書きしたライダーの陣地となる。

 

「そうして陣地を奪い返してゆき、最終的に最も陣地の多かった方が今回のデザ神となります」

 

なお当然ジャマト達も陣地を上書きしていくため、そこは注意しなければならない。またジャマトを生み出しているラスボスを撃破しなければ敵の戦力は再現無く投入される事になる事も、また注意点と言えるだろう。

そしてラスボスを討伐した者には陣地3つ分の判定が下される。

 

「出来るだけ陣地を増やしつつ、ラスボスを倒せって事か」

「はい。ゲーム終了のタイミングは全てのジャマトを倒した時ですので」

 

サオリの言葉をツムリは頷く。

全ての説明が終わり、プレイヤー達はエリア内へと転送される。

そこはビルの市街地。既に侵攻は進んでおり、人々は恐れをなして逃げ惑っている。

 

彼らは皆過酷な戦いを勝ち抜き、ここまでやって来た猛者達。

己の理想を世界を掴むために強い執念を持って戦ってきた者達だ。

 

「私は負けない…………! 私達(スクワッド)の未来のために!」

「言ってろ…………! どんな手段を使ってでも、勝つのは俺だ!」

「俺は出来るだけ多くを人を助けないと……!」

 

《 SET 》

 

デザイアドライバーから発せられる電子音がシンクロする。

景和も、サオリも、道長も自らの思いを仮面の下に封じ込め、変身して地面に降り立った。

 

英寿は天高く聳え立つラスボスを見つめ、不敵な笑みを浮かべる。

彼にとっては幾度となく通った道。動じる事など何も無い。

 

「この世界も終わりが近い……」

《SET》

 

泣いても笑ってもこれが最後の戦い。

デザ神の座をかけ、ジャマトの陣地を奪い尽くせ。

 

《READY───────、FIGHT!!!》

 

▪▪▪

 

「オォラァッ!!」

 

勢いよく振るわれたゾンビブレイカーが周囲のジャマトを纏めて薙ぎ倒す。

バッファは聳え立つラスボス、ダンデライオンナイトジャマトに向けて一直線に突き進んでいく。

 

「アイツを倒すのが最優先だろ!」

 

際限無く戦力を投入してくる相手を先に潰す。その道中で見つけた旗だけ獲得していけば良い。それが道長の考えた戦略である。

ラスボスが存在している限り、陣地及びジャマーエリアは無限に拡大していく。

そのため先にその根本を絶ってしまおうというのは間違ってはいないのだろう。

 

「ジャジャ…………!!」

「ボスツカカキョ、ゼラガヅ!!」

 

しかしそれは周囲を囲む兵達を考慮しなければの話。

耐久力は然程高くない今回のラスボスには非常に多くの防衛兵が守護を固めていた。

多数のルークジャマトがバッファに目をつける。

 

「邪魔だ、消えろ!」

「ジャァ!?」

 

立ち向かってきたルークの一体に火花を散らしながら回転する刃を叩きつけた。大きく仰け反るルーク。しかしその程度では倒れない。

 

「ジャァ!!」

 

斧とチェーンソーがぶつかり合う。前回のゲームでも発生した対戦カード。

此度の勝者は、ルークだった。

 

「グァッ!?」

 

前回はブーストバックルを使用していたため、純粋な力としてバッファが上回っていた。今回の彼はゾンビフォーム。

しかしそれを差し引いても、ルークの力は増している様に感じられた。

 

「コイツら…………ッ、まさか強化されてんのか…………?」

「みたいだな」

 

なまじ強力なバックルを使用していたために理解が遅れたのだろうか。

彼は振り下ろされた斧を地面を転がって避けながら、距離をあける。

立ち上がったその横に現れたギーツに彼はこれまで以上の敵疑心を顕にした。

 

「何しにきたギーツ!」

「おいおい、随分とご立腹だな。猪突猛進っぷりに拍車がかかってる」

「おちょくりに来たのか…………!?」

「まさか」

 

ニンジャデュアラーに風を纏わせ、迫るジャマト達を一掃しつつギーツもまたラスボスを見つめる。

荒く吹き付ける風によって揺らされる綿毛の様な白いカプセル。そこには多数のジャマトが入れられている。

 

「けど、俺ならいける」

 

今のギーツはニンジャフォーム。マグナム程ではないものの、ある程度の距離を保ったまま攻撃が可能なフォームだ。

彼は操作盤を回し、刃にエネルギーを充填していく。

 

「させるか!」

 

しかしそれを妨害したのはジャマトではなくバッファだった。

彼はギーツからニンジャバックルを奪おうと押さえつけ、ドライバーに手をかける。

 

《プレイヤーへの攻撃は違反行為です》

「おい、やめろ!」

「うるせぇっ、勝つのは俺だ! そいつを寄越せ!!」

 

警告のアナウンスが流れるが、それでも彼は力を緩めない。

抵抗するギーツ、しがみつくバッファ。

揉み合う彼らに向けて、ラスボスからレーザーが放たれた。

 

「ぐあっ…………!」

「うお、危ね」

 

寸での所で変わり身を使用したギーツと異なり、バッファは吹き飛ばされて地面を転がる。

 

「クソが…………!」

 

懲りずに立ち上がり、彼は再びギーツを狙おうと駆け出す。

しかしそこに割り込んでくるジャマト達。状況はギーツvsバッファvsジャマト達の三つ巴へと変化していく。

 

「どういうつもりだバッファ!」

「どんな手段を使ってでも勝つと言ったはずだ!」

「こんな事して、運営からペナルティが無いと思ってるのか?」

「ラスボスを倒せばチャラだろ! これは世界を救うゲームなんだからなぁっ!」

 

ジャマトを斬り、刃をぶつけ合い、ジャマトを吹き飛ばし、互いに火花を散らし合う。

ジャマトそっちのけでライダー同士が戦うという、デザイアグランプリにおいて異様な対決。

 

それを制したのはギーツだった。

 

「ぐぅっ………………」

「………………焦ってんなよ」

「黙れ…………!」

 

怒りに染まった唸り声をあげ、バッファは再度立ち上がる。

 

「お前に出来て、俺に出来ないハズがない………………!いいから寄越せ!」

 

吼え、ゾンビブレイカーを構えるバッファ。しかしギーツからすれば彼を相手にする必要などない。

彼はラスボスを見据えて地面を蹴った。

 

「よっと!」

 

彼は投げたニンジャデュアラーを地面と平行になるように回転させ、その上に飛び乗った。

そしてそのままラスボスへと直行する。

 

「決めるぞ!」《NINJA STRIKE》

 

足場から飛び上がり、ギーツは右足をラスボスに向けて突き出し、照準を合わせる。

そしてそこに全力の必殺技を叩き込むために、空気を切り裂き突き進んでいく。

 

「マジか!?」

 

必殺技を放つ、その進路上に複数のジャマトが現れた。

その背中には花弁が生けられており、それをプロペラの様に回転させる事で空中の飛行を可能としていた。

 

空中での動きを咄嗟に止められるはずもなく。飛行ジャマトは全て撃破したものの、ギーツは狙った場所とは異なる箇所に蹴りを放つ事となった。

しかもその勢いは殺されており、ラスボスに与えるには余りに心許ない威力へと減衰していた。

 

「まさか、空を飛んでくるとは。随分と魔改造されてるなぁ。流石ラスボス」

 

強力だ、とギーツは心の中で一人ごちる。

かつて参加したデザイアグランプリの中でも上位に入る部類である事は彼の中で疑いようも無かった。

 

「とはいえ、缶けりよりはマシだな」

 

過去に戦った強力なラスボス達の記憶を思い起こしながら、彼は頭の中で攻略法を練っていく。

周囲の防御を単独で崩すのは難しい。例え分身を使用したとしても、真正面からの戦闘は流石に無理がある。

 

「やっぱ、まずは全部の陣地を上書きしないとか」

 

現在の陣地獲得状況はスーホが2つ、ギーツとタイクーンが共に1つ。そしてバッファは0。

ジャマト陣地は後2つ。

 

「速く行かないとな。……バッファ、お前もそこから離れた方が良いぜ」

「あ、待て! ギーツ!」

 

ギーツが去った後にバッファはラスボスを見つめる。その周囲に蠢く大量のジャマトの相手を単独で行うのは、今の状態では難しい。

 

そして他でもないギーツが撤退という選択を行ったのが、彼の思考を冷やす一端となっていた。

 

「…………………………クソ!」

 

バッファも地面を蹴り、陣地を探して砂に塗れた大地を駆ける。

携帯端末でおおよその位置は確認出来る。せめて1つだけでも確保しなければ敗北は必至だ。

 

そうこうしている内にジャマト陣地の1つがライダーの印に変化した。

 

「またアイツか…………!」

 

白い狐の印が増えた事に苛立ちを感じつつも、視界にジャマトの群れが入った事でバッファはその苛立ちを込めてゾンビブレイカーを振るった。

 

《TACTICAL BREAK》

 

刃に染み込んだ毒が回るよりも速くジャマトを砕いてゆき、そして旗を掴みとった所で揺れる大地に気がついた。

 

「何だ…………?」

 

見ればラスボスの真上に妙な光の輪が出現していた。

ラスボスはそこに吸い込まれていくかの様に浮いていき、そしてその姿を完全に消滅させた。

 

「ラスボスが消えた…………!?」

 

その様を遠くから見ていたタイクーンが呟く。彼は自身の陣地に助けた人々を集め、迫るジャマト達を討伐していた。

姿はアローからシークレットミッション報酬によってブーストフォームへと変化している。

 

「じゃあ、これで終わり?」

 

「いいえ。ラスボスを討伐していないため、最終戦は終わりません。ライダーの皆さんは陣地を取り返しにくるジャマトを殲滅してください」

 

戦いはまだまだ終わらない。世界を滅ぼす力を持つ怪物は未だ健在だった。

 

▪▪▪

 

「くそっ!!」

 

夜。

道長はアビドスの使われなくなった教室の壁を殴り付ける。

溜まりに溜まった苛立ちの全てを乗せて壁にぶつけたために拳の皮膚は裂け、血が滲み出ていた。

しかしそんな事は気にならない程に彼の心は荒ぶっていた。

 

「何でだ……! 何で俺は勝てない…………!?」

 

彼が仮面ライダーバッファとしてデザイアグランプリに参加するのは今回で3度目。その全てで立ち塞がってきたのがギーツ、浮世英寿であった。

 

何度挑んでも彼は余裕の笑みと共に優勝をかっさらっていく。

そして下らない願いを叶えていくのだ。それが道長にとってはとてつもなく腹立たしかった。

 

「何がスターだ! チャラチャラした世界を叶えやがって…………!」

 

認めたくない、認められない。自身の願いが彼に劣っている事など、決して許容出来るものではない。

 

「必ず、必ずぶっ潰してやる…………」

 

瞳に憎悪の炎を燃やし、彼は呟く。自身がデザイアグランプリに参加する事になった経緯を思いだし、闘志を滾らせていく。

 

「うへ、どしたの道長君? そんな物騒な顔して…………」

 

突如として教室内に明かりが灯された。

ドアの方向を見ると、そこには彼の先輩である少女、ホシノが驚いた様な顔をしながら立っている。

 

「…………ホシノ先輩」

「ちょっと、血が出てるよ ?一体何があったってのさ」

「別に、アンタには関係ない」

 

小走りで駆け寄ってくるホシノに対し、道長はぶっきらぼうな言葉を投げる。

拳をポケットの中へと突っ込み、彼は近くの椅子に腰かけた。

 

「なあ、ずっとアンタに聞きたかった事がある」

「ん~? どうしたの急に改まって」

 

彼は窓の外に点々と光る星々を見つめ、口を開いた。

いつにも増して重めのトーン。普段とは一際違う彼の様子に、ホシノも思わず身構える。

 

「何でアンタはそんなにヘラヘラしてられる……? アンタも知ってるはずだ。セリカ達と違って、俺とアンタだけはユメ先輩の事を」

「……………………………………」

 

道長の声が、体が、拳が、瞳がゆっくりと震え始める。

 

「アイツらは俺達やアビドスから全部奪っていった。小難しい理屈をつけて、理不尽に奪い去っていくアイツらをどうしてアンタは野放しに出来る…………!?」

 

ホシノは困った様な表情を浮かべ、道長を見つめる。窓ガラスに映る彼の顔を悲しそうに、そしてどこか愛おしそうに。

 

「おじさん達にはどうにも出来ないって、分かったからかな。大人には大人のやり方がある。私達子どもには到底太刀打ち出来ない様な、悪辣で冷酷なやり方がね。

………………頑張ってる皆には申し訳ないんだけどね、もうアビドスの土地もほとんど取られちゃってるし。

……………………………………内緒にしてね?」

 

かつては『暁のホルス』とまで呼ばれ、各勢力からも畏怖される程に攻撃的かつ排他的な存在であったホシノも今では牙を折られてしまっていた。少なくとも、道長にはその様にしか感じられなかった。

 

「関係あんのかよ…………! 子どもとか大人とか!」

「え…………?」

「ムカつくんだよ! 御託並べて奪い取ろうとする大人も、アンタみたいに終わったみてぇに全部諦めてる奴も!!」

 

道長はお世辞にも頭が良いとは言えない。故に自分を誤魔化す事を知らない。偽る事が出来ない。

自分が信じるもののため、愚かしいまでの一直線で突き進む。

バッファという名前は、彼の気質を実によく表しているだろう。

 

「道長君、あんまり無理しないでね? おじさん、お金を稼ぐ方法ならちゃんと考えてるからさ。借金も大分マシになると思うよ?」

「…………アンタには頼らねぇよ。俺は俺のやり方でケリをつける」

 

道長はホシノの事ならば対策委員会の誰よりも理解している。

彼女は自身を犠牲にする事に一切の躊躇いがない。それさえすれば何とかなると思っている。先代の生徒会長と同じだ。

 

「アンタは甘い。そんな奴に任せる程、俺も馬鹿じゃない。……それに無茶しなきゃもうどうにもならねぇだろうがよ。俺は諦めねぇぞ」

 

それだけ言い残し、道長は教室から去っていく。

残されたホシノは携帯の待ち受け写真を、そこに写されている1枚のポスターを見つめる。

それはテープで補強されても尚綻びが見て取れる程に、ボロボロだった。

 

『アビドス砂祭り』。それはかつてアビドスがキヴォトス一のマンモス校と呼ばれていた栄光の証。

しかしどこまでいっても過去の残滓でしかなく、今はただただ虚しいだけの存在だ。

 

「………………………………」

 

ポスターに指を這わせる。蘇る在りし日の記憶。

 

もし奇跡が起こればと先代生徒会長は言った。ホシノはそれを馬鹿馬鹿しいと一蹴し、怒鳴り付けた事をよく覚えている。

 

何も知らないまま、諦めずに奔走にし続け、最後には………………。

 

ホシノはそこで、思考を止めた。




まさかの限定2人実装とは······。
とりあえずトキを狙うとしてもナギちゃんも欲しい···!

ギーツもめちゃ面白い展開になってますね。ベロバ超デカイ。
道長君の不器用なまでの愚直さも好きですし、何より彼の「いや、願いだ!」のセリフはカッコよかった!
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