DESIRE ARCHIVES   作:ベロベロベ

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天輪編ラストです。


天輪F/その手に勝利を掴むまで

 

「ホシノちゃ~ん! 道長くーん! 見て見て! アビドス砂祭りのポスター! やっと手に入れたよー!」

 

一人の少女、ユメが朗らかな笑顔で1枚のポスターを見せてくる。そこには美しい泉と何人もの笑顔の生徒が描かれている。

彼女らは皆アビドスの制服を着ており、かつてここは沢山の生徒が集まる学校であった事を示している。

 

「昔はオアシスが湖みたいに広がってたんだよねー。あ、このポスターは記念にあげる!」

 

心の底から嬉しそうに彼女はポスターを差し出した。

それを見るホシノの表情は全くの正反対。心底不愉快だと言わんばかりの表情で、彼女とポスターを見つめていた。

 

「えへへ、すっごく素敵でしょー? もし何かの奇跡が起こって、またこの頃みたいに人が集まったら────」

「奇跡…………?」

 

ホシノが勢いよく立ち上がった。椅子が床にぶつかり、がしゃんと音を立てた。

急激な空気の変化に、道長とユメは表情を固めた。

 

「そんなもの、あるわけないじゃないですか。それよりも現実を見てください!」

「は、はう…………」

「おい、そんなに怒鳴るなよ……」

「こんな砂漠のど真ん中に、大勢の人なんて来るはずないでしょう!? 夢物語もいい加減にしてください!!」

 

二色の瞳には現実味の無い話ばかりにする先輩への侮蔑と苛立ちが含まれている。その圧力に二人は何も言えずに気圧される。

彼女はユメの手からポスターを奪い取り、ビリビリに破り捨てた。

 

「あっ…………。うぅ、ごめんね?ホシノちゃん…………」

「そうやって、いつまでもふわふわと奇跡だの幸せだの何だの…………!」

 

散らばった紙片を踏みつけて、ホシノは怒鳴る。

 

「あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!?もう少し、その肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか!?」

 

アビドスでの日々はお世辞にも良いものとは言えなかった。

借金と砂に埋まっていく校舎に翻弄され、金策に苦心する日々。

在校生は既に二桁を切り、残る生徒達もアビドスを去る準備を進めていた。

残ったのは生徒会の2人と中学生1人。

 

「道長君、そっち行った!」

「よっしゃ、ぶっ潰す!」

 

時に指名手配の犯罪者を捕まえ。

 

「おい道長。お前、ちゃんと食ってるのか?」

「あ、はい。大丈夫っす」

「そうか。…………ほら、これ持ってけ!」

「あ…………、あざす!」

 

泥塗れになりながらアルバイトをこなす。およそ健全な学生生活とはとても言えない、そんな日々。

しかし、辛い事ばかりでは無かった。

 

「うわー、ホシノちゃんつよーい!」

「先輩が弱すぎるだけですよ」

「次は俺だ! 今度こそぶっ潰す!」

 

時折興じるボードゲームは楽しかった。彼はその性格故にユメにも負けていたが、それでも心地のよい時間だった。

 

ずっと、それが続くのだと思っていた。

 

それを見たのは本当に偶然だった。近くで銃声が聞こえたため見に行った、本当にそれだけ。

いつもの様にチンピラ同士の小競合いなのだろうと、道長は疑わなかった。

 

「………………?」

 

妙だと思ったのはその場にいた者が明らかに生徒ではなかったという事。

角張った装甲を身に纏う者達が一人立っていた。

 

「………!?」

 

彼は砂漠の大地を蹴った。

砂を踏み締める毎に強くなる心拍を抑えながら、必死に。

 

そして、その場にあったものは。

 

「ユメ、先輩…………?」

 

脇腹と心臓から血を流し、肢体を投げ出している少女の姿。

その赤黒い液体は凍える程に冷えた砂をゆっくりと染めていた。

 

「は、え、?」

 

脳が理解を拒んでいた。ここはキヴォトスだ。ヘイローがある限り死ぬなんて事はあり得ない───────!

 

「あ……?ヘイロー、は?」

 

無かった。キヴォトスの生徒であれば誰しもが持っているはずのヘイローが影も形も無い事に道長は気がついた。

 

「おい、おいユメ先輩!?おい!」

 

「ん…………?何だ、まだ居たのか」

 

低い声が響いた。そこには道長の叫びを聞きつけた装甲の兵士が銃を構えて立っている。

 

「余計な仕事を増やさないで貰いたいんだがな…………」

「………………まえか?」

「ん?」

「お前が、やったのか…………?」

 

彼の声は震えていた。怒りによって彩られたその響きを、彼は鼻で笑う。

 

「ああ、そうだ。上からの命令でね。何でも…………」

「てめぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

銃を手に取り、道長は駆ける。顔を紅蓮の怒りに染め上げ、兵士の一人に銃口を叩きつけた。

 

「痛っ!? ちっ、このガキ!」

 

道長の身体能力が想定を遥かに超えていた事により、兵士は彼にマウントポジションを許してしまう。

 

道長は拳を何度も何度も変化の無い無機質な顔に叩きつけた。

理由なんてものはどうでもよかった。こいつが殺した。共に学校のために奔走した先輩を殺した。

その事実さえあればそれでよかった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………っ!!」

「ぐっ…………!」

 

殴る。殴る。殴り付ける。拳で銃でただひたすらに。

血が滲んでも、銃口が欠けても、構わず殴り続けた。

 

「いい加減にしろっ!!クソガキ!!」

 

そこから先は詳しく覚えていない。どうやって助かったのか、結局どうしてユメが殺されたのかは全く分からなかった。

ホシノに聞いても教えてくれなかった。

起きた時には重傷を負っていた。

 

ただそこには、明確な事実が1つ。道長が見たのは『カイザーコーポレーション』の系列のPMCであるという事。

カイザーとはアビドス高等学校から土地を買い取った存在であり、不当な契約によって借金の原因となっている企業でもある。

 

彼は憎んだ。己の弱さを。

彼は憎んだ。愉しかった想い出を血で汚したカイザーを。

彼は憎んだ。自分達から理不尽な搾取を続けていた『大人』という存在を。

 

「おめでとうございます! 今日からあなたは"仮面ライダー"です!」

 

ツムリと名乗る少女がそれを持ちかけてきた時、彼に迷いは無かった。

忌むべき相手を打ち倒し、ホシノやシロコ達を守れるだけの力。

『全ての敵をぶっ潰す力』を彼は願った。

 

勝ちさえすれば望んだものが手に入る。故に勝たなくてはならない。

どんな手段を使ってでも、絶対に。

勝たなくては、ならないのだ。

 

▪▪▪

 

その日ホシノはとある事情のためにカイザーコーポレーションへと向かっていた。

彼女にとっては紛れもない怨敵である彼らの根城に向かっているのは、勿論並々ならぬ事情があるからである。

 

しかし、今日に限ってはそこに辿り着く事は叶わなかった。

 

「何………………? これ…………?」

 

有刺鉄線に覆われた赤半透明の壁がカイザーの土地を覆い尽くしていたのだから。

 

▪▪▪

「ラスボスが確認されました! ライダーの皆さん、すぐに向かってください!」

 

ジャマーエリアがぐるりと土地を囲んでいる。今回の戦場はカイザーコーポレーションが所有する土地の近くであった。

既に大量のジャマトが湧き出しており、あちこちに陣地を形成している。

 

「この世界を変えるのは誰か……。運命の時が近づいています」

 

ツムリの呟きと共に、ライダー達が転送される。彼らの位置は違えど見つめる方向は同じ。

 

「ここで終わらせるぞ」

「…………ああ」

「ぶっ潰す」

「……………………行こう!」

 

「「「「変身!!」」」」

《NINJA》《MAGNUM》《ZOMBIEィ》《BOOST ARMED・ARROW》

 

仮面ライダー達は一斉に駆け出す。

その中でも最も荒々しく猛々しい者は、やはりバッファだった。

現状スコアはバッファとタイクーンの二人がワーストで並んでいる。勝ちを狙うには、他とやはりある程度の差をつけなければならない。

 

(陣地の数は3つか。やっぱ鍵はラスボスか………!)

 

現在の獲得数はギーツ・スーホが2つ。残りの陣地の位置関係的にその中から2つ以上の陣地を奪うのは厳しい。1つしか陣地を取っていないバッファからすれば、ラスボスを倒して3つ分を稼ぐ他ないのだ。

(倒す………………! ラスボスをぶっ潰して、俺が優勝してやる…………!)

注意すべきは他のライダー達の動向。

リスクを侵してラスボスを獲りにいくのか、それとも他の陣地を確実に奪うのか。

それに意識を割く間も無く、ジャマト達はやってくる。

 

「うらっ!!」

 

ラスボスによって強化されたジャマトはそう簡単には倒せない。

しかしゾンビバックルは単純な火力とは別の強みがある事を彼は知っている。

 

かつてギーツが使用していた光景を思いだし、彼は爪を振るった。

そこから滲み出た毒が傷口を通じてジャマト達の体内に侵入していく。

 

「ジャ…… あ…………?」

「ジャぶっ…………、」

 

耐久値の低いジャマトはそれだけで融けていく。強化されているのは外皮だけ。内部までは届いていなかった。

『内側から崩れるもの』。前回ギーツが残した言葉であり、それは正しかったのだとバッファは実感していた。

 

「ふっ! ……速く逃げて!」

「ひいぃ…………!」

「何だよアレ…………。銃も何も効かないなんて……」

 

顔面のスクリーンに困惑と恐怖からなる表情を映し出し逃げるロボット達を庇いつつ、タイクーンもまたジャマトを駆逐すべく矢を放っていた。

ブーストフォームによって強化されたアローの攻撃へ耐久力の上がったジャマト相手でも容易く撃ち抜いていく。

 

「はぁ…………! あ、旗だ!」《SCORE UP》

 

旗を掴めば、風に棚引くジャマトの紋章がタイクーンのクレストへと書き変わる。

彼は聳えるラスボスへと目を向けると、走り出した。

 

(俺に勝てるのかはわからない…………。でも、アイツを放っておく訳にはいかないよな……!)

 

これ以上被害が拡大する前に根本を潰してしまおうと、タイクーンはラスボスに矢尻を向ける。

ブーストによって強化されたのは威力だけでなく射程も同じ。

勢いが乗せられた矢がラスボスへと放たれる。

それは直線状の軌道を描き、綿毛を思わせるカプセルに激突した。

 

透明の液体が宙で弾ける。自らの危機を察知したラスボスはタイクーンへ向けてレーザーを放つ。

 

「うわっ!?」

 

間一髪、彼はそれを避ける事に成功した。地面に着弾したそれはコンクリートを砕いて巻き上げ、大規模な煙幕を発生させた。

 

「前が見えない…………!」

 

上半身のマフラーを吹かし、彼はその場からの離脱を試みる。

視界が完全に防がれたタイクーンとは対照的に、ラスボスは正確に彼の位置を特定して狙いを定めていた。

 

もし仮にブーストバックルを手に入れられていなければ、ここで退場していたかもしれない。

その推測が脳を過り、彼は背中が冷える錯覚を覚えた。

 

「遠くからチマチマやっててもダメか…………!」

 

大きな火力を持って一撃で倒さねばならないのだと、タイクーンは思考する。

とはいえ闇雲に攻撃しても意味は無い。

ブーストタイムによる超必殺は1度きり。逃せばもう、チャンスはこない。

 

「近づいて、根本から!」

 

近くの建物の陰から、彼は隠れ隠れ進んでいく。

視界から外れさえすればレーザーが飛んでこないのは幸いだった。

近くのジャマトを討伐しつつ、着々とラスボスとの距離を詰めていく。

 

「やっぱ数が多い……………!」

 

主の周囲を配下達がしっかりと固めている。ルークなどの上級個体も混ざっており、容易く突破は出来そうもない。

 

(ここからは…………無理か)

 

仮にラスボスを倒せたとしても、残るジャマト達をアロー1つで倒せる自信は彼には無い。

かと言って周囲から先に削っていくとしても、数が多すぎるという現実が立ちはだかる。

 

「こんなの、1人じゃどうしようもない…………」

 

少なくとも、タイクーンには不可能なものだった。

つまりは誰かと組まねばならない。

せめて1人。配下だけでも注意を引いてくれる仲間を見つけねば、ラスボスは倒せないと予感する。

 

しかし、それは役目によっては自らの勝利を諦める事を意味する。そんな役目を引き受けたがるライダー等、ここにはいないだろう。ここでそんな役目をする位ならば、最初からここにはいない。

その事を彼はぼんやりと思い浮かべる。

存外、彼は冷静に物事を俯瞰出来る様になっていた。

 

「……………………………………!」

 

ふと横を向いた。そこには軽やかに宙を舞う狐が一匹。地面に降り立ち、周囲の様子を伺っている。

 

ここだ、とタイクーンは確信した。

立ち止まっても何も出来ない。ならば、ここで戦局を動かすしかない。

 

「ラスボスーーーッッ!! ここに居るぞーーっ!」

「はっ!?」

 

隠れていたギーツが声をあげる。彼もタイクーンが機を伺っていた事は把握していた。だからこそどこで出し抜くかの計画を練っていたというのに。

まさか自分から位置をバラすとは、さしもの彼も虚を突かれた。

 

タイクーンは走り出す。ジャマトの群れにでもなく、ラスボスでもない。他ならぬギーツに向かって。

 

「お前っ!」

「手伝ってよ英寿君! 君強いんだから!」

 

彼はギーツの右腕を掴み、逃がさないとばかりに強く引っ張った。

逃れようとした時にはもう遅く、多くのジャマト達が向かってきている。

 

「…………ったく、お前意外と自己中だな!」

「世界を守るためだからね! それに、俺を化かした仕返しもしたかったし!」

 

危険な状況に自ら飛び込むだけではなく、ギーツという他人を引きずり込む。

以前までの彼ならば決して行わなかったであろうやり方。それを行ったのはやはりギーツへの敵対心からだろうか。

否、それ以上に彼ならば生き残るであろうという信頼感が芽生えていたからなのかもしれない。

 

戦いに臨む前、彼はデザイアグランプリのログを見返していた。どうやら自らが参戦する以前のログも管理されているらしく、ギロリに頼めばいつでも見る事が出来た。

注目したのはやはりギーツ。時間の関係で過去三回分しか見る事は出来なかったが、彼の実力は圧倒的だった。

同じアームドアローを使用している時ですら、彼の強さに陰りは無く、常に首位をひた走っていた。

 

彼の強さは次第に目標に、そして信頼に変わっていった。

 

「これも、俺なりにやれる事!」

「成る程ね」

 

勿論、性格が苦手である事に違いは無いが。

 

分身したギーツ達が多数のジャマト達を切り裂いていく。

タイクーンもまた矢を撃ち込みながら、掻い潜るための『穴』を探す。

 

(少しでいい……! 少しでも開けば、ブーストで突破出来る!)

 

迫る群を後退させ、ラスボスとの距離を確認しつつ前身していく。

先程までのレーザーは飛んでこない。どうやらジャマトの中にも仲間を攻撃するのは躊躇する個体もいるらしい。

少なくとも、タイクーンにとっては微妙な展開だった。

 

(巻き込んで撃ってくれれば、もっと手早く倒せるのに…………!)

 

ビショップの様な利己的な行動をしない辺り、流石は騎士団長と言った所か。

白いカプセルから仲間を産み落とし、兵を増やす事に専念している様だ。

 

このままでは、ジリ貧となってしまう。

そう感じた時だった。

 

「行くぞッッ─────!」

 

不死の装甲を纏う牡牛が、疾走してきたのは。

 

「ギーツとタイクーンだけに集中しすぎだ、タンポポ野郎!! このまま刈り取ってやる!」

 

ラスボスの意識はギーツとタイクーンに集約されていた。

勿論バッファを無視していた訳では無いが、大部分が彼らに割り振られていた事は否定出来ない事実であった。

それを正確に読み取ったのか、はたまた野生の勘の産物か。

何にせよ、彼がジャマト達の動きを鈍らせたのは事実だった。

 

「勝つ! 勝って俺がデザ神になってやる!!」

 

猛毒が染み込んだ刃を乱雑に振り回し、彼は最短距離でラスボスに迫る。ニンジャやブーストに比べれば、そのスピードは速くない。

が、遅くもない。

初めからラスボスを倒すつもりで距離を詰めていたバッファにとっては十分に届く距離であった。

 

「…………いける!」

 

タイクーンも駆ける。勢い任せの正面突破。切り札によってもたらされたその豪快なスピードは確実に綻びを穿っていく。

 

「俺だって、世界平和を諦めた訳じゃない!」

「邪魔だタイクーン!!」

 

ここしかない。

タイクーンとバッファは互いに自身のバックルを操作しようと手を伸ばす。

しかし、その行為は間一髪で防がれた。

 

「ガッ!?」

「ウワッ!?」

 

重力に従い落ちてきた、謎の物質。それがジャマトを収容しているカプセルと同じ物であると気がついた時には、それは既に爆発していた。

 

爆発をもろに喰らい、吹き飛ばされる2人。

同じ方向の地面へと叩きつけられ、痛みに震える。

 

「くそ、マジかよ────!」

「これがラスボスの力か…………!」

 

カプセルの中にはジャマトが収容されていた。

仲間を犠牲にはしないと考えていたが、危険が迫れば躊躇いなく動く。

先入観によるミスに、タイクーンは歯噛みする。

 

「早まったなお前ら!」

 

彼らよりワンテンポ遅れて飛び出したのがギーツだった。

風の力で優しく舞い上がった彼は既に攻撃のモーションに入っていた。

レーザーは間に合わない。そう判断したラスボスはもう1つカプセルを投げつける。

 

「読んでるぜ……!」《TWIN BLADE》

《ROUND 1 2 3……FEVER!》

《TACTICAL────!》

 

《TACTICAL SHOOT》

 

「ヤバッ!?」

 

飛来した光線がカプセルを撃ち抜く。中身が零れ、直後爆発。咄嗟に空中を蹴ったが、完全には避けきれず。

斬撃は明後日の方へと放たれ、ギーツは地面に着地する。

 

「おいおい、ルール違反だろそれは」

「私はあのカプセルを狙っただけだ」

 

マグナムシューターをライフルモードに変形させたスーホが冷徹に言い捨てる。

彼女とてラスボスを獲られれば逆転を許す状況。指を加えて見ている道理は無かった。

 

「スコアはスーホと俺が3つずつにタイクーンが2つ。バッファが1つ、か。成る程、つまりこのゲームは最初からラスボス争奪戦だった訳だ!」

 

誰が獲るかで勝負が決まる。ラスボスの近くに4人のライダーが集まったこの状況は正しく最終局面。

立ち止まっている暇は無い。ここから先は押しきった者が勝者となれる。

 

「────────!!!」

 

ここにきて初めて、ラスボスが吼えた。今の今まで冷静に地上を俯瞰していたがいよいよ生命の危機を感じ取ったらしい。

逃走も間に合わないと判断したのか、あちらこちらに極太のレーザーを乱射し始めた。

 

「うわぁ!」

「いよいよラストって感じだなぁ………………!!」

 

バッファの声色は重い。窮地に立たされた獲物が最も厄介であるというのは、戦闘において半ば常識と化している。ホシノから教えられた戦闘の常識。

故に、持てる力を全力で叩き込む。

最早隙を探してる暇などない。乱れる戦場を真っ直ぐに突き破る。

 

「勝つのは私だ!!」

 

同時にスーホも動く。彼女もまた様々な訓練を経た猛者。何より、勝ちへの執念ならば誰にも負けてはいない。

火を吹いた小銃によって蹴散らされるジャマト達。ほんの僅かな綻び。

しかし彼女にとっては十分な隙となる。

 

「「うおおおおおおおおお!!!!!」」

 

《MAGNUM STRIKE》《ZOMBIE STRIKE》

 

根本まで躍り出た2人による必殺の一撃。

当たれば倒せる、そんな一撃をラスボスが警戒していないはずもない。

忍ばせていた伏兵が瞬時に迫る。

 

「「ジャアァァァ!!」」

 

放たれたエネルギー弾と必殺技が激突する。

それらに競り勝った必殺技はルークジャマトが身を挺して受け、ラスボスには届かない。

 

そして放たれるレーザー。

それは2人に降り注ぐ絶望の光。視界を犯す輝きを前に、時間は停止したかの様に思われた。

 

▪▪▪

 

「ホシノちゃんは奇跡なんて無いっていうけど、それは違うよ」

「は……? 何だよ急に」

「私ね、道長くんやホシノちゃんみたいに強くて頼れる後輩がそばに居てくれるなんて事、昔は想像もしてなくて…………上手く説明出来ないけど……」

 

後輩達と共に笑い合う。時に衝突し、すれ違う。そんな時間を送れる事が、まるで奇跡の様だとユメは言った。

 

「大袈裟すぎだろ。いつだって俺達は一緒にいる。別に特別でも何でもない」

 

奇跡とはもっと珍しかったり、すごかったり、日常を超越した煌びやかなもの。

それが道長にとっての『奇跡』であり、それ故彼女の言い分を鼻で笑った。

相も変わらずオーバーな先輩だと呆れすら含めていた。

 

「むー…………、ホシノちゃんも同じ事言ってたよ。けど、私はそうは思わないよ」

「え?」

「日常ってのは奇跡の連続なんだよ。私達にとっての日常は誰かにとっての奇跡。キヴォトスだけでも沢山の学校があって沢山の人がいる。そんな中からあなた達と出会えた。それって、スゴい奇跡だと思わない?」

「…………そうか?」

 

そうだよ、と彼女は笑う。そして道長の目を真っ直ぐに見つめ、はにかんだ。

 

「ねぇ道長君。これから先、道長君にもかわいい後輩ができたら────」

 

▪▪▪

 

なんだこれは。

バッファの脳内に溢れ出す、在りし日の記憶。この命懸けの戦いとは対極に位置する、和やかな日常の記録。

そこから脱した時と、レーザーがバッファを撃ち抜いた時は全くの同時だった。

 

「ガ───ア───………………」

 

膝に込められていた力が一気に空中に放り出されるのを感じながら、彼は地面に倒れ伏す。

 

「サオリさん、道長君! 逃げて!!!」

 

タイクーンの絶叫が響く。

スーホは意識を失なっており、バッファは誰の目から見てもボロボロだった。

ゾンビブレイカーは破壊され、鋭かった爪も砕き割られている。

牡牛の象徴とも言える大きな角は無残にも圧し折られていた。

 

無機質な動きで迫るジャマト。それらをタイクーンとギーツが薙ぎ倒していく。

 

「これ以上は止めとけ! 後は俺に任せろ!」

「うるせぇ!! テメェは引っ込んでろ!!」

「何言ってんだよ! そんな体で…………!」

 

自らを慮るタイクーンをバッファは突き飛ばす。そして震える足取りで尚を立ち上がり、ラスボスを見据える。

 

「体なんて知るか……………………! ゾンビってのはなぁ…………!死にかけてからが本番なんだよ!!」

 

例えそれでこの身が朽ち果てようとも生きる。その手に勝利を掴むまで、何度だって戦うと彼は全霊で吼えた。

 

再びレーザーが放たれる。今度の狙いはギーツとタイクーンとバッファ。

周囲のジャマトの対処に追われていたギーツとタイクーン、そしてシンプルに動けない彼ではそれを避けきれない。

 

地面を転がるギーツ。背中に打ち付けるタイクーン。そしてなお屈しないバッファ。

 

「どうしてそこまで…………? これ以上は無茶だよ!」

「うるせぇつってんだろ! そんなもんどうでもいい! 俺は、負けない……負けられない! それだけだ…………!」

 

意思は強く、踏み出した1歩もまた力強い。

再度灯る絶望の光。同時に迫るジャマト達。

 

《BOOST TIME!》《NINJA STRIKE》

 

ジャマト達をギーツの光刃が斬り裂き、放たれたレーザーをタイクーンが迎え撃つ。

 

「2人は死なせない…………!!」

 

強大なエネルギーを纏った矢がレーザーを掻き消し、ラスボスの上部にダメージを与える。しかし倒すまでには至らない。

「良いから逃げよう…………! 死んだら終わり………………なん、だか、ら…………?」

 

タイクーンの動きがここで止まる。

前身から力が抜けていく。

何故ならば、既に彼のIDコアには、

 

ヒビが入っていたのだから。

 

「うそ、でしょ…………?」

 

それを口にした瞬間、バッファの変身が解ける。

前のめりに倒れる彼の体は痛々しい傷に塗れていた。

 

彼はラスボスの攻撃を2度も喰らっている。一発だけでも凄まじい火力を誇るレーザーを、2度。

その事を考えれば、この結果は残当なのかも知れない。

しかしタイクーンは目の前の事実を受け入れる事は出来なかった。

 

彼と道長は特別仲が良かった訳ではない。しかし、それでも何度も共に戦った者が目の前で死にゆく光景を良しと出来るはずがない。

 

「そんな、道長くんしっかり!!」

「………………何でだよ……! 俺は、まだ、」

 

戦える。

そう紡ごうとした口は止まり、体の支えが崩壊する。前のめりに崩れさる彼をタイクーンは必死に受け止めた。

 

もしこれが物語の中であるならば、彼の身に奇跡が降りて助かったかもしれない。

彼が物語の主人公であるならば、不思議な事が起きて超常現象が引き起こされたかもしれない。

しかし、これは現実だ。一切の幻想(フィクション)を排した、究極の真(リアル)

 

運命とは善悪の観念を持たない。時として人に微笑み、時として人を嘲笑う。

神は賽子サイコロをふらない。ただ厳然と審判を告げるのみ。

 

道長に下された審判は世界からの『退場』。

 

「───────」

 

手が、足が、侵食されていく。

道長を取り巻く世界が壊れていく。空は欠け、色が落ち、塵となって虚空に溶ける。

残された僅かな時間の中で彼の中を駆け巡るは走馬灯。

 

初めてアビドスに出会った日の事。ユメやホシノとの日々。

ユメが死に、入れ替わる様にノノミが入ってきた。当初のノノミは彼らにずっと謝ってきていた事を覚えている。

ホシノの人柄が変わり始めてしばらく後、シロコと出会った。

何もわからないと呟く彼女の首に柔らかなマフラーを巻くホシノはどことなく嬉しそうで。

アヤネにセリカが入学し、道長も高校生となった。

アビドスで過ごしてきた思い出は彼にとって掛け替えのないものだ。

 

「俺は、俺達から日常を奪ったアイツらを許せなかった…………!他人を蹴落として利益を貪る大人って奴らが、許せなかった………!」

 

消えゆく顔を怒りと無念に染め、道長は言葉を吐き出していく。

 

「どうしてだ…………? どうしてギーツに出来て俺に出来ない……?アイツと俺の何が違う……!?」

 

今まで参加してきた戦いの中で、彼の強さは圧倒的だった。どれだけかけても辿り着けないと思ってしまう様な差を感じてしまう程に。

いつしか勝利のイメージが彼に染められてしまう程に。

 

「………………」

 

タイクーンは何も言えない。先の戦いで戦う理由を見出だしたつもりだった。

間違っているとは思わない。それでも、死にゆく道長の表情から滲み出る悲痛なまでの想いは支えている掌を通して伝わってくる。

彼にもまた命を燃やして叶えたい願いがあったのだと。

そんな彼が塵と化していく光景に思わず目を剃らそうとして、止めた。

 

ここで剃らしてしまえば、自分の中に芽生えかけている『何か(りそう)』が消えてしまう気がしたから。

だから見る。タイクーンでは死にゆく彼を救えない。ならば記憶に焼きつける。

見ている事しか出来ないのであれば、見続けるしかない。

 

「畜生……! 畜生ぉ………………!!」

《MISSION FAILED…………》

 

無慈悲な宣告と共に身体は消え、道長は『退場』した。

僅かに残る彼の体温を噛みしめ、タイクーンは立ち上がる。

理想の世界を叶えるためには、勝つしかない。

 

「行くぞラスボス………………!!」

 

既にブーストバックルは無い。残された弓を携え、彼は神経を研ぎ澄ましていく。

 

「……………ここからがハイライトだ」

 

ギーツも道長の死に思う所が無い訳ではない。それどころか、それなりに堪えていた。

降りかかった理不尽に抗おうと足掻く彼の姿は決して嫌いではなかったのだから。

 

その感情を仮面の下に押し込め、彼は双剣を構える。

 

《ARROW STRIKE》《TACTICAL FINISH》

 

ラスボスがレーザーを放つ。ジャマト達が押し迫る。

ギーツとタイクーンは全力を込めて飛び上がり、渾身の一撃を放った。

爆風が周囲を覆う。

それらは偶然にも全く同じ部分に照準が定められており、故にギーツが放った技が勝つのは必然だった。

 

「───────!!!」

 

ラスボスが苦悶の声をあげる。それが断末魔だと認識するのに数秒とかからず。

 

《MISSION CLEAR》

 

ただ淡々と戦いの終焉が告げられた。

 

 

 

 

▪▪▪

 

決着はついた。

『デザ神降臨』を宣言したツムリの顔はどこか不満げだったが、彼らがそれを気にする事はなく。

そこには勝者と敗者が存在するのみ。

 

「くそ…………っ!」

 

サオリは己の無力を噛みしめ地面を殴り、景和は今までの戦いを反芻していた。

 

「お前らと戦えてよかったよ」

 

英寿はそう呟いた。それは偽り無き彼の本心。

その言葉に2人は答えない。

 

「諦めない人間には希望がある。それがデザイアグランプリだ。…………また来いよ」

「当然だ…………!」

 

サオリは立ち上がり、英寿の瞳を正面から見据える。

汚れた拳を握りしめ、声を震わせ、激情に任せて彼女は叫ぶ。

 

「私は諦めない。虚しいだけの世界など認めない…………! 憎悪だけの世界など認めない!! 次こそは必ず、私達の未来を掴んでみせる…………!!また戦う時は、覚悟しておけ…………!」

《RETIRE》

 

スーホのIDコアが消え、サオリの体も消える。ドライバーの落ちる音だけがその場に響き渡る。

 

「俺もまた戦うよ。欲しいものができたから。それを必ず手に入れてみせる」

 

景和の声は力強い。

彼の中の脳裏にはルル、猿股、道長の3人が浮かんでいた。

理想を求めて、道半ばで倒れた者達。それぞれの願いの中には大衆的には『悪』とされるものもあるのかもしれない。

それでも抱いてしまったのだから、引っ込める事など出来ない。

 

「負けても戦うよ。俺が勝つまで、何度でも」

《RETIRE》

 

景和の体は消え、残るは英寿、栄光のデザ神のみ。

神の領域に人が立つ事はない。それを証明するが如く、勝者1人を残して世界は光に覆われる。バラバラになっていく世界が再び1つへと再構築されていく。

取り出したコインを見つめ、彼は笑った。

 

「さあ、始まるぞ。新しい世界が」

 

 

 

▪▪▪

 

「ゲームマスター。本当にこんな願いを叶えるのですか?」

 

薄暗いサロンの中で、ツムリは心底不服そうに問うた。『ゲームマスター』と呼ばれた人物は仮面をつけたまま、淡々と彼女に告げる。

 

「どんな願いであれ、ギーツは世界を救った。であれば、相応の対価は支払って当然」

「しかし…………」

「それよりも優先すべき事がある。まさかプレイヤーの中にジャマトが混ざっていたとは。デザイアグランプリ始まって以来の大失態だぞ……! すぐに対処を行わなければ…………」

「お待ちなさい」

 

渋るツムリに苛立ちを見せ、さっさとやれと彼女に告げようとしたその時。

サロン内に女性の声が響き渡る。

それはツムリのものではない。しかし現在この中には自分とツムリしか居ないはず。

そう考えていたゲームマスターは声のした方向へと首を向ける。

 

そこには1人の女性が立っていた。

否、正しくは女性のシルエットを持つ『何か』だった。

深紅の肌の上に真っ白なドレスを被せ、スラリと長い長身に黒い髪。

そして目玉が貼り付いた翼の様な頭部を持つその姿を見て人間だと認識する者はいないだろう。

 

禍々しい雰囲気を放つ彼女(と形容していいのかは不明だが)は不機嫌という態度を隠そうともせずに佇んでいた。

 

「…………勝手に上がられては困る」

「まあ、この私に対して何と無礼な……! まして客を前にしておきながら素顔も晒さないなど、不躾にも程があるのでは?」

 

心底面倒な輩が来た、とでも言いたげに溜め息を吐いた後、彼はつけられた仮面を外す。

ゲームマスター、改めギロリは突如として来訪した異邦人を睨む。

物々しい雰囲気がサロン内を覆い尽くし、ツムリは息を飲んだ。

 

「何の用だ、ベアトリーチェ」

「ニラムを、プロデューサーを呼びなさい。我々ゲマトリアから要求があります」




何とか一章書き終わりました。
が、色々な反省点ばかりが残っています。
とりあえずギーツの持ち味であるバックル交換を全然してないのはマズイですよね。
次回からはガンガンやってこうと思います。

何はともあれ、ここまで読んでくださってありがとうございます。

次回からはブルーアーカイブの物語とも密接に絡んでいく予定ですのでお楽しみに!
それでは!
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