こちら女子高生です。S級ヒーローに目をつけられています。 作:災害レベル『狼鯨』
「俺は好きな漫画が打ち切りになった怒りで産まれた怪人、打ち斬レッド様だァ!この災害レベル『鬼』の力でテメエらの人生も打ち切りにしてやるぞおッ!」
「うわあっ、助けてくれェ!ヒーロー、ヒーローッ!」
怪人が現れて、街は混乱している。
……警報が鳴り響く街中で、私は漫画本を片手に、そっと息を吐く。
なんであれ、本はいいものだ。
頭の硬い知識人なんかはよく漫画をバカにするが、私は漫画を愛している。
母親には漫画を読んでるだけでよく叱られたものだが、怪物の警報が鳴った後しばらく後は週刊誌を買いに行って、読み終えられるだけの自由が生まれる。
その時間のために死線を潜ってきた私は、何度も怪物と死闘を繰り広げてそれなりの強さを手に入れている。
つまり漫画は人を強くもしてくれるのだ。
「俺は……『サムライ
「うん。『サム
だが、今日は完全に自分のミスだった。
……避難せずに、いつものように現場に留まって漫画を読み続けていたのが悪かったのだろうか。
無意識に彼の叫びに返答してしまい、思いっきりこっちを向かれる。
だが、『怪人』と対話できるという奇跡的な状況は作り出せた。
なので、冷や汗混じりながらノってみる事にした。
「お前……サム
「好きだよ。SF的なメカニックの設定や書き込み、スチームパンク的な世界観に合った敵の兵器、クールだけど熱い主人公に、性格は王道の献身的キャラなのに体の四十八部位が武器に改造されているとかいう斬新すぎる設定のヒロイン……大衆受けはしないかもしれないけど、アレはとても打ち切る漫画じゃないよ。明らかに
「ああ……!」
ひしゃげたペン先が全身から飛び出た四肢に、全身に浮かんだ『バツのつけられた漫画本』のモチーフ。
怪人の見た目は、異形そのものだった。
だが、私の言葉に頷く彼の心は……間違いなく『人間』で。
だから私は、彼と分かり合えるような気がしたのだ。
「……そうだよなぁ!そうだ……そうだよな……」
「そんな面白い漫画でも、打ち切られるときは打ち切られるんだよ。世の中は不条理に溢れてて、……そういう不条理に抗うためにはさ、私たちには
「この漫画……ああ……!」
徐々に、怪人の体から邪気のようなものが消えていく。
……その姿を見て、私は思った。
もしかして怪人と人間も分かり合えるのではないか、と。
彼が買わなかったであろう今週号の漫画の新連載『怪奇!電ノコヒーロー!』を見せ、そっと微笑む。
タイトルで損をしているような気がするし、周りのみんなもタイトルで読み飛ばしてしまったこの新連載。
……彼なら、きっとこの作品の良さも理解してくれる気がしたから。
「いや……絵が汚いな、その上、主人公も品性に欠けている。サム
「やっぱ死ね!必殺……
「ガハァッ!」
私は、気がついたら怪人の鳩尾に全力のボディブロウを打ち込んでいた。
否、それだけでは止まらない。
よろめいた怪人の体を前に、私は止められない殺意を込めた拳を何度も叩きつける。
私は、自分の好きなものを上げるために嫌いなものを下げる人間が嫌いだ。
そして、目の前の怪人は的確に私の地雷を踏み抜いた。
……もう、殺し合いしか残っていない。
大好きなものを共有した一瞬だけは、きっと忘れないけど。
それはそうと、もう殺すしかないのだ。
コイツは心まで怪人になった。
なんか理解し合える気がしたが、そんなことはなかった。
絶対に、この場で殺してやる。
「ゴフッ……おい……何故だ⁉︎俺が怪人だからか⁉︎」
「違う!他人に
一発一発に、渾身の殺意を込めて。
漫画のヒーローから貰った勇気と、ヴィランから貰った悪意。
ダークヒーローから受け継いだ殺意を乗せた拳は、これでも『虎』クラスの怪人なら無数に屠ってきた。
「
トドメに放った、必殺のアッパーカット。
だが、それを怪人は両腕をクロスさせる事で、右腕の骨折と引き換えに受け止める。
……まずい、まだ意識があったか。
どうやら私のラッシュを食らってもなお動けたらしい怪人は、そのまま歪なペン先のトゲをダメージの少ない脚に密集させる。
左腕も表面から大量の汚い血を垂れ流すような形で腫れている、骨折とは言えないまでも、腕へのダメージは大きかったのだ。
もっとも、両足が無事な時点であまり大きな成果とは言えまいが……
「グッ……効いたぞ。だが、無意味だ──!」
「
反撃される。
そう思って咄嗟に右手を挙げて身構えたが、しかし怪人が再び動き出すことはなかった。
恐らくヒーローが登場したことによるもの。
そして、武器は日本刀。
より、正確に言うならば……
「えっ……
「──貴様……素人にしてはいい視力だな」
あまりの早技に驚いていた私に、しかし彼は背後から声をかけてくる。
何やら褒められた。
……ので、ひとまず姿勢を正しながら振り向いた。
まず目に映るのは、高速で動いていても流れ星の軌跡のように瞳に映る……そんな長い金色の髪だ。
次に整った顔立ちと整ったボディラインに目を惹かれ、最後に彼の
「あっ……『閃光のフラッシュ』⁉︎S級ヒーローがこんなとこに⁉︎」
「こっちのセリフだ。何故、一般人が怪人と交戦している?」
「はい、
実際は
……まあ、しかし私は何かを下げないと好きなものを語れない人間が大嫌いだし、そういう人間は建設的な議論をする上ではいなくなったほうがいいと思っている。
「そうか……名前は?」
「はい、ショーコと言います」
例えば、『アマイマスク』の『シークレット仮面』の下積み時代を引き合いに出し、眼前のフラッシュを『ビジュアル売り』と叩く声がある。
私は、そういうアンチが嫌いなのだ。
何故なら、アマイを語る上でもフラッシュを語る上でも、その声はノイズにしかならないからだ。
私の
キングスレはキングの圧倒的強さと実績を前にしてなおも糾弾しようとする人間がいなかったため、あそこだけは平和だったが……
「ショーコ。お前は素人にしてはなかなかの身体能力と″目″をしている……だが、動きが洗練されていない」
「はいっ、動き……ですか」
嫌な思い出の事を考えていた私に、フラッシュさんが突然先ほどの戦闘を見ていたのかアドバイスをくれる。
確かに、洗練されていなかったからブロックされてしまったのだ。
……そう考えると、本当に致命的だ。
実際、さっき戦った相手は人間時代に何かやっていたのか動きも洗練されていたし、対する私は授業ですら格闘技なんてやっていなかった。
確かに、これは課題と言えるかもしれない。
「優れた師が必要だろう。そこでお前、この閃光のフラッシュの弟子になれ」
「はいっ。……はいっ⁉︎」
「いい返事だ、ついてこい!」
「ぴっ……」
唐突で強引な、少しばかりの歓喜も含んだ声色。
それを前にして、私は思わず素っ頓狂な悲鳴を上げるのだった。
17歳女子高生、ヒーローオタクです。
……今日、