休みの日より、残業帰りのバスの方が執筆が捗るのは何故なのか?生存本能かな。
「シルベ、ちょっといい?」
「?どうしたの、シロコちゃん。」
退院して一週間ほど。
傷はまあ大体治ったと言って良いんじゃないかな。
原作通り、柴関ラーメン等がある土地...というかアビドスの土地の多くが、カイザーコーポレーションの所有になっていたことを聞く。
ちなみに柴大将は、手に持ってたC4が爆発した私と違って軽傷なのでとっくに退院なされている。あの一億円も無事、大将の手に渡ったようだし...問題はなさそうだ。
そんな訳で、アビドス高校に戻ってきたのだけど...
「これ、見てほしい。」
「......」
『退会・退部届 対策委員会 小鳥遊ホシノ』
シロコちゃんが一枚の紙を見せてくれる。...やっぱりここは原作通りか。まったくこの世界は、悲しい部分だけは原作通りにしてくれる。
「シロコちゃん、これは...」
「ホシノ先輩があそこまで長い時間席を外すなんてこと、今までなかった。それがどうしても引っかかって...先輩のバッグを漁ってみたら出てきたの。」
「......」
書類の左下、顧問のサインを記入する欄。ここに記入する人も、記入しない人も...今は居ない。
紙を持つ手に力が入る。
「...ごめん、悪いことなのは分かってる。ホシノ先輩はもちろん、他のメンバーにも.........シルベ?」
「!...なんでもない。その...そうだね、これはとりあえず秘密にしておいて、ホシノちゃんから話を聞こうか...」
「うん...ホシノ先輩、何か隠し事をしている。」
知っていたはずなのに、今更心臓の音が大きくなる。
ただのプリント用紙一枚。だけどこれは私の、時間切れ寸前を知らせる通達書だ。
―――――――――――――――
「もう!一体何なのよ...!」
「宝物を探していると言っていましたが...」
「あの砂漠には何もないはずです。」
数日後。
私たちは、私がヒナちゃんから聞いておいた座標を確かめるためにアビドス砂漠へと赴き...そして、手痛い反撃を喰らって帰ってきた。
「いやいや、今はそれよりも借金の方でしょ!3000%とか言ってなかった!?」
「補償金も要求してきましたし...あと一週間で、三億円だなんて...」
カイザーPMC理事はアビドス高校の信用ランクを下げ、大幅な利息率の上昇と補償金を課してきた。
これはカイザーがアビドスにとどめを刺そうとしているのと同時に、連邦生徒会の付け入る隙ともなりうる。
もっとも、それまでアビドスが存続していればの話だけれど。
「...行ってくる。あそこで何をしているのか、調べないと。」
「待ってシロコ先輩!それより今は、借金の方が先でしょ!」
「...借金はもう、真っ当なやり方じゃ返せない。何か、別の方法を...」
「ダメですよ...!それじゃ、また...」
「わ、私はシロコ先輩に賛成!もうなりふり構っていられない!」
「セリカちゃん待って!あの時ホシノ先輩が止めてくれたのに、自ら進んで犯罪者になるの!?」
「わ、私は...」
「......」
みんなの意見がすれ違い、対立し、争いになっている。止めなきゃならない。
でも私の頭はずっと纏まらないままで、心臓ばかりが高鳴っている。
まるで勉強をしていないのに大事なテストが迫っている子供だ。もう時間切れは近い。今日だ。今日の夜、ホシノちゃんはアイツと契約する。
どうすればいい?どう声をかければいい?先生ならどうする?先生はなんて言った?先生はなんで此処に居ない?
無意味な言葉ばかりが頭をよぎって、思考のリソースを奪う。
「ほらほら、みんな落ち着いて〜。頭から湯気が出てるよ〜?」
言葉の飛び交うこの部屋で発せられた、ホシノちゃんの一言で...場が静まった。
「はい、すみません...」
「ん...ごめん、こんな風にしたいわけじゃなかった。」
ホシノちゃんは、こんな時でも...ゆったりとした表情を崩さない。でもきっと、この時点で彼女の心は決まっているのだろう。
「うへ〜、じゃあ解散解散〜。一回頭を冷やして、また明日集まることにしようよ。これは委員長命令って事で。」
「...そうだね、とりあえず、一旦帰ろう?」
―――――――――――――――
皆が一度帰宅した後、ホシノちゃんと二人で夜の校舎を歩く。
「うわ、ここも砂だらけじゃん。ま、仕方ないんだけどね。うへ〜、せっかくの高校生活が全部砂色だなんて、ちょっとやるせないと思わない?」
「...ホシノちゃんは、この学校が好きなんだね。」
「...今の話の流れで、本当にそう思う?シルベちゃんは変わってるね〜。」
原作でもこう言った先生にホシノちゃんは驚いていたけど...彼女が学校を見つめる視線は、例え砂まみれであっても、青春を感じているような優しい瞳だった。
その目を見ればわかる。彼女はこの学校が大好きで...だからこそ、どこまでも守ろうとする。
彼女に、あの退会届のことを聞く。
「私はね、二年前から...変な奴らから提案を受けてたの。」
「......」
二年前、つまりホシノちゃんが一年生だった頃だ。
黒服は彼女の神秘を目的としていた。ホシノちゃんが中学生の頃にその頭角を表していたのか、それともアイツらにそういったものを感じる力があるのか。
「アビドスを退学して、カイザーに所属すれば、アビドスの借金を半分近く負担するんだって。」
半分。半分だ。大体五億円あたり?それを返したところで、後四億残ってしまう。だけど受け入れないと...五億円を稼ぐ力も、それまでに課される利子を返す力も残っていない。
こう見ると連中の手口がよくわかる。目の前の危機は去るが、根本的な解決には至らず...気づけば大事なものを失っている。こうしてアビドスの前生徒会は泥沼にはまっていったのだろう。
「それは誰から見たって破格の条件だった。でも、当時は私はいなくなったらアビドス高校が崩壊すると思ってたからこそ、ずっと断ってたけど...」
...彼女が契約に踏み切った理由の一つに、対策委員会の存在があったのだろう。
私がいないとアビドスでなくなってしまうという考えから...彼女たちがいれば、そこはアビドスでいられるのだと思えるように。
「でもまあ、可愛い後輩たちにいつまでも隠し事をしたままっていうのもよくないし、明日、みんなにちゃんと話すよ。」
「っ......」
それは、あんまりだ。手紙の上で伝えるのは...話すとは言わないんだよ。
「実際のところ、今はあの提案を受け入れる以外、他の方法は思いついていないんだけどね...」
「...き、きっと何か、方法が...」
そんなものは、ない。
打破する方法を考えれば考えるほど...ホシノちゃんが決意をした理由を知れば知るほど、袋小路に追い詰められていることを悟る。
「そうだね、奇跡でも起きてくれればいいんだけど...」
もし奇跡が起こるなら、一分でも、一秒でも早く...先生をここに呼んでほしい。そう願って、私はもう長いこと過ごした気がする。
「...さ〜てと、この話はこれでおしまい。じゃあまたね、シルベちゃん。」
「...っ!」
「さよなら。」
「...ホシノちゃん...っ!」
呼び止める。原作の先生のように。
原作通りだ。それでもこんなに苦しいのは...根拠もなくただセリフをなぞっているせいだと、よく分かっているから。
「な、なに...?」
「......っ」
『私が大人としてどうにかする。』?
言えない。私はまだ
シャーレとして?先生の代理として?一色シルベとして?
どうするっていうんだ。何をもって、何もかも持っていないこんな私が、彼女の意思を遮る言葉を紡ぐのか?
「...シルベちゃん。」
「...う......」
「みんなのこと、よろしくね。」
「!...あ、待って....!」
彼女は微笑んでから背中を見せ、歩き去っていく。
原作でも先生の言葉はホシノちゃんには通じることはなかった。
でも私は...声をかけることすら出来ず、こうして彼女の小さな背中を見送っている。
何が覚悟だ。それをいくらしたところで、このザマか。
...分からない。私が彼女たちにしてあげられることが、何一つ。
戦闘能力がないとか、指揮能力がないとか...そんなんじゃない。根本的に、『私』という存在の力だけでは足りない。
暗い廊下。もう誰もいない。この静寂は、アビドス終焉の足音だけを鮮明に伝えてくる。
私さ、ここまで頑張ったよ。
だからさ先生。奇跡を起こしてよ。
お願いだから。
ホシノちゃんを、助けてあげて───