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あとお話に影響はないですが4話の描写をちょっと修正しました。最終章でアレが出したアレのせいです。(ネタバレ回避)
明け方。誰も居ない市街地を...シッテムの箱に表示されるルートに沿って歩く。
対策委員会の部屋には、手紙があるのだろう。まだ誰も知らない、ホシノちゃんの...別れの手紙。
もしかすると、先生に宛てた部分は私に変わってたりするのだろうか。
なんて、考えても無意味なことを思いながら歩く。
今の私はどうだろう。悲しんでいる?怒っている?
分からない。でも足は動く。どれだけ手段がなくとも...動かない理由にだけは、ならなかった。
「......」
ドローンから送られてくる座標が、とあるビルに止まった。ホシノちゃんを追跡していたドローンを呼び戻し、深呼吸をする。
ここだ。ホシノちゃんが何度も通い、そしてついには契約をしてしまう場所。
そして...ゲマトリアの一人、『黒服』がそこにいる。
以前から考えていた、一つの可能性。
今の状況を覆せる、最後の手がかり。
きっと...アイツが一番、『先生』に近い。
―――――――――――――――
ドアを蹴破り、突入する。
「おや...」
「...!?シルベちゃん...!何でここに...」
居た。間違いようもない…スーツに身を包んだ、黒い異形。
「駄目だよホシノちゃん。そんな奴の話聞いちゃ。」
目の前のあいつを目一杯睨みつける。こいつこそがゲマトリアの一人『黒服』。子供たちを騙し、自らの利益のために利用する、『悪い大人』だ。
とにかく…とにかくホシノちゃんとの契約を阻止しなきゃ。
「...対策委員会が公認の部活動じゃないことを利用して、最後の生徒会メンバーがいなくなったアビドス高校をカイザーが奪う。そうでしょ、黒服!」
「...!」
ドローンを構える。怒りが沸々と湧いてくる。
思えばブルアカの大概はコイツらが悪いんだ。コイツらさえいなければ...生徒たちの小さなすれ違いを邪悪に利用するコイツらさえいなければ。
「ククク...これはこれは、はじめまして。トリニティ総合学園一年生、一色シルベさん。そしてシャーレの先生代理でもあるお方。」
「......」
ずっと思っていた。
結局のところ、先生はなぜこの世界に来ていないのか。
それはどう考えても...『ゲマトリア』のせいであるとしか考えられなかった。
「では、どうされますか?アビドス高校が背負っている借金は正当な契約によって課されているものです。まず目先のものとしてこれを解消しなければ、アビドスはすぐにでも、正式にカイザーのものになります。何か解決策をお持ちですか?」
先生と同じく、キヴォトスの外から来た不可思議な存在。こいつらしかいない!
「黒服...先生はどこ?」
「はい?」
「とぼけないで!どうせあなた達の仕業なんでしょ?先生を返して!」
「し、シルベちゃん...?」
ポケットから、最後の切り札を取り出す。
アイツに...『大人のカード』を突きつけてやる。
私のヘイローが一瞬、点滅する。
「!...」
『先生』はここで使わなかったとはいえ、黒服の前でこのカードを出した。ならばコイツにとって何かしら良くない効果はあるはずだ!
「ほう...そのカードは、
「...え?」
...?
待って。なんで、黒服がこのカードを知らないの?
原作では...黒服は、このカードは先生の人生と時間を代価にするから使うなって『先生』を、止めて...
「み、見て分かんないの...!?『大人のカード』だよ!」
「『大人のカード』...?クク、面白いことをおっしゃられる。『大人のカード』は、子供には使えませんよ。」
...じゃあなんだ。このカードは?
ただのクレジットカードではない。確かに私はこのカードを『使う』ことができる。
黒服のハッタリ?いや、アイツはそういう小細工はしない気がする。
虹色のカードが、怪しく揺らめく。
最初に持った時は何も感じなかったのに、これを見つめているだけで...なんだか神経を撫でられているような感覚に陥って、ヘイローが震える。
「私の知らないオーパーツにも興味はありますが、一つ誤解を解いておきましょう。私はあなたの言う『先生』なる人物を知りません。」
「......」
「クク...ですが興味を惹かれますね。あなたの言葉から推測するに、『シャーレの先生』であり、『大人のカード』の持ち主であり...そして、あなたが必死になって私から取り戻しにくるほどの人物である。」
黒服は余裕の笑みを崩さない。
コイツが先生を知らないのなら、私は...
「先生。先生ですか...そしてあなたは代理と。なるほどなるほど...いえ、今は話を戻しましょうか。ホシノさん?このままでは即日、アビドス高校はカイザーのものです。私の提案を受け入れてはいただけませんか?」
「...カイザーがアビドス高校を襲うのを、辞めさせて。」
どうするどうするどうする。一か八か。使うか?このカードを。
「それはあなただけでは釣り合いが取れませんね。では代案を。」
「...代案?」
「シルベさん、あなたも一緒であれば...カイザーのアビドス高校襲撃を止めて差し上げましょう。」
「...は?」
私...!?
「ええ、シルベさん。あなたも...随分興味深い神秘をお持ちのようだ。それに...何故だか分かりませんが、あなたは我々『ゲマトリア』と同じようなものを感じます。」
それは、私が転生者だからそう言っているのか?それだけでコイツらと一緒にされるのは心外だ。
とにかく、コイツの提案に乗っていいことなんて一つもない。
でも、乗らなければ借金で廃校になり、乗ればホシノちゃんは2度と戻ってこない...
「そして。代わりに我々が、『先生』を探し出しましょう。」
「なっ...!?」
「私もその『先生』という存在に会ってみたいのですよ。まだ全てを把握したわけではありませんが...ええ。見つけ出すと約束しましょう。糸口は掴みました。」
先生を、呼べる...?
「そ、そんなの...でも...」
「不安ではありませんか?」
…………。
「あなたがここに乗り込んでまで探すその『先生』。さぞ素晴らしい人なのでしょう。あなたが目の前にしている問題を全て片付けてしまえるほどに。」
私の代わりに、先生が来てくれる?
「あなたは頑張りました。大変だったでしょう、シャーレの先生代理。子供が大人の代わりをするなんて、とんでもないことです。」
「そ、そんなの...」
先生なら、助けられるだろうか。もう手遅れのように思える、こんな有様でも...私の後始末をしてくれるだろうか。
「そして、力不足を感じているでしょう。あなたではこの先対処できない問題がある。『先生』がいなければ解けない問題がある。あなたでは、乗り越えられない。」
「...う、うるさい...!」
「あなただけで可能ですか?我々も、この地に眠る神もどきも、邪悪な大人たちもいます。あなただけで乗り越えることは難しいと感じているでしょう?」
「うるさい!分かってる...!分かってるよそんなの!」
黒服の言葉が胸に刺さる。もう聞きたくない!
「それでも...!先生が来ないから頑張ってるの!私が...!私がやらなきゃいけないの...!」
「では、任せましょう。『先生』に。」
そんなの、だって...私は...
「あなたは頑張りました。あとは『先生』に任せましょう?」
「...先生...?」
「はい。親の帰りを待つ子供のように。迎えに来てもらいましょう。あとは『先生』が何とかしてくれます。力のないあなたの代わりに、『先生』が。」
「それ...は...」
先生が、迎え、に───
「ちょっと待ってよ。」
「......っ!」
ホシノ...ちゃん?
「黒服の人さ、随分言いたい放題言ってくれちゃってるけど...」
ホシノちゃんが、私の前に立つ。
「シルベちゃんってば凄いんだよ?自分の学校も満足に守れない私たちに、遠い学校から、手を差し伸べてくれたんだ。」
「......」
「一年生なのに、先生になるために頑張って、シャーレをやって...私は『先生』っていう人がどれほど凄い人なのか知らないけど、シルベちゃんだって負けてないんだよ。」
「ホシノ...ちゃ...」
彼女は振り向いて、笑った。
「ごめん、シルベちゃん。私、弱気になってたみたい。私たちのやり方とは違う方法で学校を守っても意味がない...そう言ったのは私だったもんね。」
「......」
その小さな背中は、あまりにも大きく見える。
「シルベちゃんもさ、私の知らない何かを背負ってるんだよね。誰にも言えなくて、悲しくて、苦しくて...私と一緒。それなのに、私たちをこんなところまで助けにきてくれたんだ。」
.....彼女が、いつのまにか目の淵に浮かんでいた涙を拭ってくれる。
「ここで私が行ったら、シルベちゃんも一人になっちゃうよね。でも今なら、一人じゃないって思えるかも。」
ああ、自分は一体何をしているのか。
ホシノちゃんを助けに来たのに、そのホシノちゃんの前で...こんな情けない姿を見せて。
「ね。自信持って、
「っ!!!」
思考がクリアになる。
手足に力が入る。
私の前に立つ彼女が、生徒が目の前にいる。
思い出せ、自分のやるべきことを。
「......」
「どうなさいますか?シルベさん。」
深呼吸をして、アイツを真っ直ぐ見据える。
「...あなたの誘いには乗らない。」
「何故です?『先生』に会いたくはないのですか?」
「黒服。あなたのおかげで思い出せたよ。」
「...ほう?なんでしょう、是非お聞かせ願いたい。」
私は先生を待っている。先生の代わりができるとは思えない。先生の居ない世界で戦っていける自信がない。
それでも今、私がこの地に足を踏み入れた理由は。
「私はここに...アビドスに『先生』を探しに来たわけじゃない。苦しんでいる生徒を、助けるために来たんだ。」
「...!ほう...」
███せ█──、█───███─█!
突然、シッテムの箱の電源が入る。
「...!?な、何...!?」
その画面には...カイザーがアビドス高校に向けて、軍を侵攻させ始めている映像が、映し出されていた。
何故...?ホシノちゃんはまだアビドスに所属しているのに、カイザーが侵攻を?
「ふむ...?電話もつながりませんね。これは、ジャミングですか?」
操作すると、一通のメッセージがカイザーに送信されていることが分かる。その内容は...『アビドスの副会長を確保した』というものだった。
そのメッセージを確認した途端、また電源が落ちる。
この一瞬で、カイザーと黒服のメッセージをハッキングし、妨害電波を発生させた...
アロナ、ちゃん?
黒服は一通りの通信を試した後黙り込んで...それから、楽しそうに笑い出した。
「クク...なるほど、シッテムの箱ですか。おみそれしました。この結果に終わったことについては、残念です。」
「あんまり残念そうに見えないんだけど...」
「ええ。私としたことが、あなたを過小評価していたようです。」
私ではなく...多分これをやったのは、アロナちゃんだ。でもどうして?何故あの一瞬だけアロナちゃんが起動したんだ...?
いや、今はそれを考えている場合じゃないか。
「...とにかく、ここにもう用はないよ、行こうホシノちゃん。」
「...そうだね。」
「シルベさん。」
部屋を出ようとすると、黒服に声をかけられる。
「どうかお気をつけて。ゲマトリアは、いつもあなたを見守っておりますよ...シルベ先生。」
「......」
ビルを後にする。
カイザーの侵攻は、原作通り。
そして隣には原作と違って...ホシノちゃんがいる。
何もできなかった私を、いろんな人たちが助けてくれた。先生が居ないのなら、一人ではなく二人で。
『先生』が言っていた、信じるということの意味が...ほんの少し分かった気がした。
このキヴォトスで生きる彼女たちは...思っていたよりもずっと、強い。
対策委員会編の終わりは、すぐそこだ。