先生の居ないアーカイブ   作:ヒオルカ

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バトンを渡す相手は

 

 

ヒッフッ↑ ヒ↓フ→ミッ↑ミッ↑ ヒッ↓フッ→ミッ↓ ヒッ↓フッ→ミッ↑ ♪

 

 

脳内でナギサ様が歌い出すほどの衝撃。目の前にいる彼女こそが阿慈谷ヒフミちゃんその人である。

 

「だ、大丈夫ですか?どこかお怪我でも……?」

「いえその、全然大丈夫です!はい、手帳!」

 

纏まらないままの思考を置いておいて、とにかく手帳を返す。

あっ今指が触れた!

 

「そうですか?良かったです……あの、もしかしてペロロ様のことご存知ですか?」

「えっああ……はい。知ってます、その……結構好きというか……!」

 

無意識のうちに好感度を稼ぎにかかる私の心も知らず、彼女の表情がパッと明るく輝きだす。うおっ眩しい!

 

まあ嘘を吐いているわけではない。最初はなんだこのイカれたチキンは?と思っていたが、彼(?)を愛するヒフミちゃんを見ているうちに、ペロロ様もなかなか味のあるデザインだと思えるようになっていた。

ぬいぐるみも注文したよ?まあ届く前に転生したんだけど。

 

「本当ですか!?まさかこんなところで同志に会えるなんて……!嬉しいです!」

 

本当に眩しい……なんだか罪悪感が湧き出てくる。

私はブルアカのストーリーで断片的にモモフレンズのキャラを知っているだけで、実際この世界で展開をしているモモフレンズを知っているわけではないのだ。

モモフレンズのアニメ映画を観たことはないし、Mr.ニコライさんの「善悪の彼方」を読んだこともない、ニワカもいいところだ。

 

ここは変に誤解を深くする前に打ち明けておこう。

 

「あの、ごめんなさい。キャラは知ってるけど、アニメとか本とかはよく知らなくて……」

「そうなんですか?でも嬉しいです!内容をよく知らなくても好きって思ってくれるのは才能があります!良ければ色々お貸ししますよ!」

 

天使か?いや、トリニティのモチーフは天使だから天使か。つまり天使の中の天使……?

 

 

 

 

 

それから、ヒフミちゃんに幾つかモモフレンズ関連の本を貸して貰った。

周知の事実ではあるがめちゃくちゃに良い子だった。とんでもなく良い子だった。こんな子が強盗団のリーダー?そんな訳ないでしょナギサ様!!!

 

「うへへ……」

 

はぁ、楽しかった。借りた本もあとでしっかり読まねばなるまい。

表紙は、ペロロ様と愉快な仲間達が描かれている。モモフレンズが活躍する物語が描かれた本だ。

こんな本、あっちの世界でゲームをやっているだけではまず読むことなんてできない代物。

 

改めて実感する。私は今、本当にブルーアーカイブの世界で生きているんだ。

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

それから私はしばらくの間、トリニティの学園生活を堪能していた。

 

放課後スイーツ部のみんなと一緒にケーキを食べに出かけたり、静かな図書館(シミコちゃんが同じ空間にいるので私の心音はうるさい)で本を読んだり、礼拝堂でシスターフッドの人達とお祈りをしつつチラチラとヒナタちゃんを横目で見たり……

 

 

まだトリニティの敷地からあんまり出てないけど、それでも大満足なスクールライフを送れていると思う。

 

 

そんな平穏で幸せな青春の物語が、思いもしない欠点を抱えたまま綴られていることを知ったこの日。

 

 

私はスイーツ部の皆に頼まれて、D.U.にあるお店限定のフィナンシェを購入しに出掛けていた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ほっ。買えた買えた」

 

到着した時に長蛇の列を見た時はどうしようかと思ったが、品切れギリギリのところでなんとか買う事ができた。

 

ホクホク顔で帰り道を歩く。D.U.にまでスイーツを買いに行ってカズサちゃん達と一緒に食べているのだから、もう思い切って放課後スイーツ部に入ってしまっても良いような気もしている。

ただちょっと、原作の形を崩したくないな……みたいな気持ちがある。もうこの世界で生きていくのだから、あんまりこんな思考を持っていくのはよくないとも思う。

 

帰ったらアイリちゃんやカズサちゃんに相談してみようか……そう考えていた、その時。

 

 

 

 

 

──けたたましい爆発音が、響き渡った。

 

 

 

 

 

「ひっ!な、何……!?」

 

続いて、複数の銃声、爆発音。

咄嗟に近くにあった建物に隠れ、窓から外を伺う。

 

そこから見えたのは……

銃を乱射する不良生徒達と、クルセイダー1型の戦車!

 

「おらおらぶっ壊せー!」

「連邦生徒会……あなたはクソだ!」

 

不良と戦車がD.U.で暴れだす事件──

 

 

これはもしかすると、あれか。ブルーアーカイブのチュートリアル?

 

 

確か……連邦矯正局で停学中の学生が脱走、連邦生徒会に恨みを持つ彼女達が、連邦捜査部『シャーレ』の部室を襲撃。

 

そこに颯爽と現れた『先生』が、スーパー指揮パワーを発揮して彼女らを突破し、シャーレの部室とシッテムの箱を奪還。

サンクトゥムタワーの制御権を取り戻し、一時の平和を取り戻す...そういったストーリーだったはず。

 

 

うう……D.U.まで出かけたのは不用意だったかもしれない。

まあでも大丈夫。このまま待っていれば、先生がその主人公パワーでなんとかしてくれるよね。

 

閉じていたカーテンの隙間からもう一度外を見る。ゲームでもよく見た、スケバン姿の不良生徒達。黒髪ポニーテールのスケバンちゃんすごい格好だよね……たまりません。

ゲームとして見ていたことはそんなことも思っていたけど、目の前で、銃を構えたり爆弾を投げたりしている姿を見ると、正直かなり怖い。

 

「っ!うう、また爆発した……!」

 

やっぱり私、戦闘は無理みたいだ。これは前世持ちのデメリットと言えるかもしれない。

銃を受けても痛いで済むキヴォトスの人達は、そういうものとして生きているからこそ、一般人であっても銃を持って戦う事ができる。

その点私は銃口を向けられれば怯んでろくに動けないだろうし、近くで爆発音が聞こえれば足がすくむ。こんな体たらくでは銃なんて無用の長物だ。

 

幸いこの建物は空きテナントで、不良にも目をつけられなさそうな地味めのビルだ。ここでとにかくやり過ごして、先生が華麗に解決してくれるのを待とう……

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

爆発が、一向に止まない。

 

不良達の侵攻が始まってから随分経つ。時刻は午後四時。

……先生、まだ?ゲーム的な都合というだけの可能性はあるが、描写的には日中に決着がついていたように思われる。

携帯端末を起動してクロノススクールのニュースを見る。速報、速報……

 

あった、リアルタイムの報道ヘリ映像だ。先生は今どの辺だろう。

 

「これは大変な事態です!シャーレの建物に不良生徒が侵入しています!シャーレってなんですか?よく知らない?多分連邦生徒会関連の何かです!」

 

シャーレに不良生徒が侵入?

確か原作ではシャーレに入り込んだのは、狐面の彼女だけだったはず...

 

「せ、先生まだ来てないの……?」

 

もしや遅れてる...?こ、このまま不良生徒達がシャーレに攻撃を続けたら?

 

 

シッテムの箱も、クラフトチェンバーも壊されたら。

 

 

お、終わりだ!全部!いかに先生といえど、それら無しでこれから襲い来る危機に対処できるとは思えない!

どど、どうしよう……!シャーレの地下に大事なものがあるなんて、私と生徒会長代行のリンちゃんくらいしか知らないはず……

 

わ、私しか動けない?

 

「い、行くか……!」

 

とにかく先生が来るまで時間を稼ごう!

 

大丈夫、撃たれても死なない撃たれても死なない撃たれても死なない……

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

「ここ……かな」

 

目立つ大通りを避けて辿り着いたそれなりに高いビル。チュートリアルでも外観は出ていたから分かる、ここが連邦捜査部シャーレの建物だ。

 

「ひゃっはー!」

「連邦生徒会は消毒だー!」

 

その正面玄関には沢山の不良生徒達が、思い思いの破壊行為に勤しんでいた。

 

「ひゃ、ひゃっはー……!」

 

彼女らの隙間を縫って、シャーレに突撃する。ちょっと小声の不良演技を添えて。

大根な私の演技はしっかり無視され、あっさりとシャーレに入る事ができた。

 

急いで階段を見つける。とにかく重要なものは全部地下にある。不良生徒達は一階二階を中心に破壊活動を行なっているため、すぐに追いつかれることはないだろう。

後は……クラフトチェンバーは流石に持っていけないが、シッテムの箱だけでもちゃんと守って───

 

 

 

「あら、ネズミが一匹。」

「ひえっ……!?」

 

 

曲がり通路を挟んだ先。軽やかに降り立った彼女が、どうでも良さそうに呟く。

 

 

 

地下の廊下で待ち構えていたのは……災厄の狐、ワカモちゃんでした。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

「.......」

「うぅ.……」

 

ワカモちゃんが持つ銃剣が、こちらにピッタリと狙いを定めている。ここから足を一歩でも動かしたら、その瞬間激痛が走ると全身が警告する。

 

全く動けない。怖い。

足が震え、冷や汗が噴き出る。私は一体何をしに来たのだろうか。

無謀だったのだ。私ができることなんて何もない。きっと先生ならここからでもなんとかしてくれるから、絶対に隠れていたほうがよかった。

 

 

「はぁ……どきなさい」

「っ……え?」

 

 

ワカモちゃんはそう言うと、銃口をこちらから外した。

 

「あなた、連邦生徒会の犬でもなさそうですし、本当にただ迷い込んだだけのネズミでしょう。あなたみたいなのにかまうほど暇ではないので」

「っ......」

 

み、見逃してくれる?良かった。ならばここから一目散に早く逃げよう。

次からはストーリーには関わらないよう徹底して、トリニティの友達と平和な生活を──

 

 

 

……でも。

 

 

未だ先生は姿を見せない。もし彼が致命的なほど遅れてしまったら。

 

彼女達の平和な未来が、潰える可能性がある。先生が間に合わなくて、シッテムの箱を失ってしまったら。

 

アビドスは砂と借金に埋もれて、アリスはヘイローを壊され、ゲヘナとトリニティがキヴォトスの地図から消える、そんな最悪の未来が……僅かな可能性でも、今私の手にある。

 

「ご……」

「?」

 

 

だったら私の取るべき選択肢は、こっちの道だ。

 

 

「ごめんなさいいいいいい!」

「.……はぁ」

 

全力で出口とは反対の地下へと駆け降りる。早く、アロナちゃんの元へ!

 

「うぐっ……!?いっった!」

 

背後から放たれた容赦のない銃弾が無防備な背中に当たる。すごい痛い。

ワカモぉ……先生の前だとあんなにデレデレちゃんなのに、先生いないとこうも無慈悲になってしまうのか。

思えば先生、銃弾一発で死ぬ状態でワカモちゃんの前に出て、彼女を一目惚れさせて撤退させたんだよな。いやおかしいでしょ!

 

背後からワカモちゃんが追ってくる気配を感じる。というか銃弾が結構掠めてくる。いたい!

 

 

何度も転びそうになって必死に駆け抜け、どうにかあの部屋にたどり着く事ができた。

転がり込んで鍵を閉める。ぶち破られるのも時間の問題だろう。

 

「えっと、タブレット!どこ!?」

 

階段を駆け降りて辺りを見回す。真ん中に鎮座するクラフトチェンバーと……あった!シッテムの箱!

タッチをすると、パスワードの入力画面が映る。えーっと……思い出せ!

 

 

我は望む、7つの嘆きを。

我々は……

 

 

なんだっけ!?記憶を呼び起こすんだ!あのリセマラでヒビキちゃんを狙った日々を……!

 

あ!我々は覚えている、ジェリコの古則を!

 

──システム接続パスワード確認──

 

よ、よく思い出した私!

リセマラでヒビキちゃん当てて始めた一ヶ月後にすり抜けでヒビキちゃん引いて、あのリセマラはなんだったんだ……?ってなったあの日々は無駄じゃなかった!

 

 

パスワードが通り、ローディングが完了した画面には、すやすやと眠るこのオーパーツのメインOS、アロナちゃんの姿が映し出された。

 

『むにゃ...カステラには...』

 

アロナちゃんだーっ!前世でも大変お世話になった彼女を、小一時間ほど眺めていたい気持ちはあるが、今はそれどころではない!

原作で多くの先生方がやったであろう、アロナちゃんのほっぺつつきを十倍の速さで行う。

 

「アロナちゃん起きてえええ!助けてえええ!」

『わひっ!?』

 

びっくりしたアロナちゃんが、椅子から盛大に音を立てて転げ落ちる。

 

「ご、ごめん!でも助けて!ワカモちゃんが来ちゃう!」

『あ、あれ?先生!?……先生?あ、えっと……?』

「その、先生というか先生じゃないと言うか……ひぃっ!?ドアが!」

 

分厚く頑丈な扉が、外部からの衝撃でくの字に曲がりかけている。破られるのも時間の問題だ。

 

「今超ピンチなの!このままだとシッテムの箱もクラフトチェンバーも壊されちゃう!」

『……!えっと、はい!分かりました!今すぐ認証を終えて対処をします!こちらに指を置いてください!』

 

アロナちゃんと人差し指を重ね合わせる。彼女の目視による指紋認証だ。指紋よく見えないしこれで良いか……で通してもらえるガバガバスキャンだったはずだ。

 

『はい!これでこのアロナがいる限り先生に弾丸が届くことは……あれ?』

「ど、どうしたの?」

 

タブレットの画面にノイズが走る。

 

『え!?に、認証が!あわわ……!起動状態が維持できな──』

「アロナちゃん!?ま、待って……!」

 

ノイズはだんだん酷くなり、画面の半分が見えなくなってしまう。

 

『どうしましょうどうしましょう……!?あ、あれはダメだし……あ!あれを使──!』

 

画面からアロナちゃんが消えて。

 

シッテムの箱はうんともすんとも言わなくなってしまった。

 

 

「アロナちゃ……きゃあっ!?」

 

 

それと同時に。

ついにこの部屋の扉が、完全に吹き飛んだ。

 

 

 

 

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