先生の居ないアーカイブ   作:ヒオルカ

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エリート

 

 

「......か。」

 

「...か?」

 

 

か?

 

 

「可愛い....!!!」

 

 

ヒフミちゃんの鞄から溢れ出てきた、モモフレンズのぬいぐるみを目の前にして...クールな彼女はただ純粋に目を輝かせている。

 

 

おまかわ〜!

 

 

――――――

 

 

合宿二日目。

 

朝は最高の目覚めだった。なんてったってヒフミちゃんとコハルちゃんのすやすやご尊顔を拝むことができるのだから、朝の苦手な私でもおめめパッチリ。

 

朝食を食べた後、前日にヒフミちゃんと準備をした模試を行なってみんなの学力を再確認し...

そして、ヒフミちゃんによるモチベーション向上作戦が敢行された。

 

そう、モモフレンズグッズ贈呈キャンペーンである。

 

残念ながらハナコちゃんとコハルちゃんには拒否されてしまったけど、どストライクした子が一人いらっしゃるみたいだ。

 

「良いモチベーション管理だ、ヒフミ。約束しよう。必ずや任務を果たして、あの不思議でふわふわした動物を手にしてみせる!」

 

ああ...今まで無表情しか見れていなかったアズサちゃんだけど、 笑うとこんなに可愛いんだからもうたまんないね!一生笑顔でいて...

 

「はい!ファイトです!えへ、えへへへへへ...」

「あら、何だかヒフミちゃんが楽しそうに...」

「ええ...」

 

そして同志を見つけて嬉しさが溢れ出てしまっている、ヒフミちゃんのとろけた笑顔もヤバい!

急激に面積当たりの可愛さ率を上昇させるのは危険だよ!私が!

 

「シルベちゃんもいかがですか?」

「え、私?私はほら、別に...」

「いえ、シルベちゃんから先生としてたくさん教えて貰っていますし...そうですね、みんなの成績が上がったら授与というのはどうでしょうか?」

 

うーん...いいのかな?

 

「じゃあ...その時は貰おうかな?」

「はい!みんなで頑張りましょう!」

 

ああ...ヒフミちゃん、天使過ぎないか?

こんな優しさを受けてやる気にならない生徒なんていないんじゃないかな?頑張りますヒフミ先生!

 

...か、可愛い空間の誘惑はそろそろ振り切るとして、ともかくここからは本格的な勉強だ。

正直地味で地道で楽しくはないこれを、手を尽くして乗り越えてもらう。先生っていうのはきっと、そんな仕事なんだろうな。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

...夜遅く、みんな素直に机に向かう。

こんな時間までちゃんと勉強してくれるのだから、みんな根は真面目なのだ。

 

「コハル、質問。」

「うん、え?私?私に!?」

「そう、コハルに。今同じところを勉強しているはずだ。この問題なんだけど...」

「ん?この問題はえっと...これ確か、参考書の問題で見たような...」

 

あっ...やべ!

 

 

「確か持ってきてたはず...んしょっ...!?」

 

「あーっ!!!こっちじゃないかな!?!?」

 

鞄からR-18な本を取り出そうとするコハルちゃんの手を掴み、別の参考書を指差す。

 

「...!?!?あ、えっと、そうね!その参考書だったわ!」

「?そうか、ありがとう。ページは...」

 

咄嗟にコハルちゃんのエロ本流出を止めてしまった...

まあ影響はないでしょう。ないよね?

 

「そ、その...!シルベ...これは...!」

「あれでしょ?押収品ってやつ。後で正義実現委員会に戻しに行こ?」

「あ...う、うん...」

 

とりあえずコハルちゃんの尊厳を守ることはできた。

原作通り、こっそりと本を戻しに正義実現委員会へ向かうとしよう。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

勉強を終えた後、コハルちゃんと二人でこっそりとトリニティ本館へと足を運ぶ。

多分ナギちゃんには見られてると思う。見逃してくれ、エロ本を戻しに行くだけなんだ...

 

「...その、言っておくけど、こればっかりは本当に間違いだから!」

「ふふ...バレないように、上手く隠さないとね?」

 

こっそりお取り寄せしたブルアカの薄い本を家族に開けられかけたあの日を思い出すと、今でも恐怖に打ち震えることがある。これが私の恐怖(terror)...!?

 

「!?な、何言ってるの!?それ、バレなきゃ持ってて良いって言ってるのと同じじゃん!?」

「うーん...いいんじゃない?誰に迷惑かけてるわけじゃないし。」

 

そう、可愛いものだ。

迷惑をかけてばかりで、しかもそれが別に自分のやりたいことという訳でもなかった...若かりし頃の誰かさんに比べれば。

 

「好きなこと、やりたいこと...それはコハルちゃんをコハルちゃんにしてくれるものだよ。」

「...?」

 

...エッチな本関連でこんな話するのもアレかもしれないけど。

誰かに否定されても、自分を形成するものだけは貫いていきたい。

 

「分かるような、分からないような...」

 

理解されなくても、迷惑さえかけなければ、止められる謂れはないのだ。

 

 

 

「.............」

 

「.......?」

 

 

 

 

 

迷惑さえかけなければ。

 

 

 

 

 

 

迷惑さえ──。

 

 

 

 

────。

 

 

 

 

 

──急に何?白けるんだけど。邪魔だから他所で──

 

 

 

 

―お前じゃちょっと無理だと思うぞ。受けるのはいいが、うちの進学率を落とすのだけは───

 

 

 

 

―そろそろ、いいんじゃない?この間親戚のおじさんが、良い会社をね──

 

 

 

 

 

 

迷惑、さえ─────

 

 

 

 

 

「...シルベ?」

「!...あ、ごめんね?ちょっとぼーっとしちゃって。」

 

気づけばもう本館だ。こっそり来ているのだから、一応バレないようにはしないといけない。

 

「...あの、シルベ。」

「ん...?」

 

コハルちゃんがもじもじしながら話しかけてくる。な、何...?スニーキングミッション中に可愛い攻撃はやめるんだ!

 

「私その、シルベがツルギ先輩達と訓練してるところ、たまに校舎から見てたの。」

「あれ、そうなの...?」

 

一方的に知られていたのか。ツルギちゃんに秒で敗北していたところを見られていたのはちょっと恥ずかしいな...

 

「ま、まあちょっとはやるじゃないって思ったわ?ちょっと。毎日先輩と模擬戦したり、正義実現委員会のトレーニングに参加したり...」

「そ、そう...?ありがとう。」

 

もしかしてコハルちゃんが原作よりちょっと素直だったのは、私が訓練に参加してたから...若干の正義実現委員会仲間的な意識があったおかげ?

見てくれて...すごいって思ってくれる人がいる。それは、何よりも大きなモチベーションになるよね。

 

 

「だから、その...シルベも、何か悩みがあったら相談していいのよ!私も正義実現委員会の一員で、エリートなんだから!」

 

 

「...!」

 

こ、コハルちゃん...!?なんて良い子!さっき一瞬ぼーっとしてしまった私を気にかけて、恥ずかしさを堪えて私を励ましてくれたのか!?!?

 

「...うん、頼りにしてる!ありがとね...!」

「...わ!?あ、頭撫でないでよ...!エリートなのよ!?」

 

コハルちゃん。まったくもって君は立派なエリートです。力が足りなくても、勉強が苦手でも、その優しさがコハルちゃんの立派な武器だよ...

 

 

 

――――

 

 

「...コハル?」

 

「は、ハスミ先輩!?」

 

正義実現委員会の部屋に到着し、本を戻していると...原作通りハスミちゃんに見つかってしまう。

 

「それにシルベさんまで...確か合宿で別館にいると聞いたのですが、どうかしましたか?」

「その、違うんです、えっと...」

「授業で使う書籍があって、それを取りに来たんです。」

 

あらかじめ持っておいた教科書を見せる。

 

「なるほど...ですが、ちょうど良かったです。コハルに改めて伝えておきたいこともありましたので...」

「え?わ、私に...ですか?」

 

後はコハルちゃんとハスミちゃんがお話をして、また合宿所に戻るだけだ。

 

 

 

――――

 

 

 

 

ドアの外で、彼女たちの声を聞きながら...さっきのコハルちゃんとの会話を思い出す。

 

正義実現委員会の先輩、か。

 

今...ハスミちゃんはコハルちゃんの成長を手助けしているのだ。

そんな彼女の姿に憧れて、コハルちゃんは私にも手を伸ばしてくれた。

 

ああ、なんか言葉にできない感情だ...自然と頬が緩む。前世の高校ではそんなのなかったし。

 

しばらくは平和な日々だろう。いずれ来る危機を乗り越えるため、補習授業部のみんなと心を交わす...日常。

 

 

 

私って今、結構青春してる?

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

モモトークを閉じる。

明日の朝...別館のプールで、彼女と会うことになった。

 

裏工作を行なっているアリウスの部隊に幾つか命令を出してから、一つ伸びをする。

 

「んー…」

 

...何だか、頭がはっきりしない。

 

最近あまり眠れていないせいかも。まあ、あんなことしたんだから...当然かな。

 

 

もう一度、モモトークを見る。

その子は生徒の悩み相談なんかをやってるらしく、一ヶ月ほど前からトリニティの掲示板には彼女の連絡先が掲示されている。

 

...どうして、彼女にわざわざこのことを話す気になったのかは分からない。

 

この間、トリニティ総合学園に帰ってきた一年生、『一色シルベ』。

連邦捜査部『シャーレ』とかいう組織に所属していて、先生の代理をやっているんだって。

 

経歴を見る限り...すっごい良い子みたい。他人のために他の学校まで奔走するほどで、交友関係も広く、悪い噂はほとんど聞かない。

 

この推定良い子ちゃんがこのことを知った時、どんな表情をするのだろうか?

補習授業部に、裏切り者がいると。

 

...それはただの興味本位。

シャーレだかなんだか知らないけど、結局は連邦生徒会所属の組織だ。トリニティで動かせる裁量なんてないに等しい。

 

だから、彼女にこれを話したところで...どうにもなりはしないと思う。

 

 

 

でも何故か。

 

彼女には会わなきゃいけない気がする。

 

 

 

あの子を見た時、言葉にできない感情が私の心を駆け回った。

 

初めて会った...いや、会ったとすら言えないかも。早歩きで廊下の先に消えていく彼女の背中を視界に入れた、ただそれだけなのに。

 

 

一瞬。抗い難い感情が私を支配した。

 

私の遠い意識が、こう叫んでいる。

 

 

 

 

『彼女はそこに居るべきではない』と。

 

 

 

 

そこに、いるべきなのは─────?

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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