エデン条約編第二章、終了です。
「......う...」
あれ、ここ何処だ?
病院...?
「...シルベちゃん...!?あの、セリナさん!シルベちゃんが目を...!」
誰かが慌てて病室を飛び出していく。
病院...ええっと...とりあえず、全部終わった感じ?
「けほっ...!」
「シルベさん、救護騎士団のセリナです。まずは落ち着いて呼吸を整えてください。」
何度か咳をしたあと、ゆっくり息をして...落ち着く。
転生して二回目の救急搬送的な感じだろうか。
「あ、ありがとうございます...えっと、私...?」
「シルベさんは第19分館で倒れてから、一週間ほど眠り続けていたんです。目覚められて本当によかった...」
一週間!?そんなにぐっすり...
「うう...!良かったです、シルベちゃん...!私、もう目を覚まさないのかと...!」
「ひ、ヒフミちゃん...!ご、ごめん、泣かないで...!」
―――――――――――――――
「...はい。とりあえずは大丈夫そうですね。後で検査をしますので、それまではゆっくり休んでください。」
「はい。ありがとうございます、セリナさん。」
セリナちゃんが病室を去って、ヒフミちゃんと二人っきりになる。
「...シルベちゃん。私、ハナコちゃんに全部聞きました。トリニティの裏切り者...その件について、ずっと一人で戦ってくれていたんですね...」
「え、っと...」
流石に一週間目を覚まさないほどの怪我して入院しているのだから、隠しておけるとは思ってないけど...何て説明したらいいんだろう?
「私、悔しいです。シルベちゃんやハナコちゃんに任せっきりで...なにも...」
「そんなこと...!」
実際ヒフミちゃんが居なければ補習授業部は回っていない。私は裏の事情ばかり考えていたから、通常の補習授業部の活動はほとんど部長であるヒフミちゃんが進めてくれていた。
「シルベちゃん!私は平凡で、あんまり役には立たないかもしれませんが...でも、シルベちゃんの力になりたいです...!」
「ヒフミちゃん...」
真剣な表情で、彼女は思いの丈を伝えてくれる。
...ヒフミちゃん。君にはこれから、大事な使命があるんだ。
トリニティの、自称平凡な生徒として...この物語を救う使命が。
「私こそ、みんなに助けられてばかりだよ。みんなが居なかったら...きっとどこかで心が折れていたもの。それに、その...」
...最後のテスト、合格できなかったし。
「...ごめん。第三次特別学力試験は...」
「あ、そういえばまだ結果を見ていませんよね?こちらです!」
...?ヒフミちゃんの端末を見せてもらう。
あれ、90点...?
自己採点だと89点だった気がするんだけど。
朦朧とし過ぎてて、採点も間違えてた?
えっと、つまり...
合格?
「やったああああああ!ごふぁ!?」
「うわああっシルベちゃん!?セリナさーーーん!」
―――――――――――――――
その後セリナちゃんにお叱りを受け...ヒフミちゃんは他のメンバーも連れてくると言って、トリニティ本館へと戻って行った。
うお、いっぱいメッセージ来てるな。ホシノちゃん、ヒナちゃん...
ん?
待てよ?今って二章と三章の間?
じゃあ...夏イベは!?
『...はい、天雨アコです。』
「アコさん!合宿は!?!?」
速攻で電話をかける。
『うるさっ...って、シルベさん...!?大丈夫なんですか?まだお目覚めになってないとの情報でしたが...』
「そんなことより、風紀委員会の合宿は!?」
ヒナちゃんのスク水は!?
『はぁ、つい先日終わりましたけど。ていうかあなたどうしてそんな状況になってるんです?そっちに協力要請をして、委員長にお休みを取ってもらおうという作戦が台無しなんですけど...!』
「そ、そんな...!」
もう、終わってるだと...!?
『合宿に行った途端トラブル続きで、全然休んでもらえなくて────あ、委員長?はい、シルベさんからです。』
うう...かくなる上は今度直接頼んで着てもらうとか...無理かな...
『ええ、どうやら目を覚まされたようで。というかすごい元気なんですけど...え、気が変わった?仕事を休む?後は優秀なアコに任せる...!?は、はい!お任せくださ───』
あ、切れた。
勢い余って即お電話してしまったが、忙しそうだ。また今度にしよう...
やべ、興奮し過ぎてちょっとクラクラしてきた。どのみちベッドの上ではできることあんまないし、ちょっと落ち着こうか...
コンコン
病室のドアがノックされる。
「どうぞ〜?」
「失礼します...」
遠慮気味にドアが開かれる。
「...シルベさん。」
おや、ナギサちゃんだ。
うん、心なしかしょんぼりしてる気がする。
おいたわしやナギちゃん様...
―――――――――――――――
「シルベさん、どうかきちんと謝らせてください。私はシルベさんのことを疑いました。その結果、このような大怪我に繋がって...」
「いえ、 しょうがないことですよ。私は───」
「シルべさんとヒフミさんが、水着姿の犯罪者集団だなんて...私はどうして、そんなことを...」
.........なんもいえねぇ。誤魔化しましょう。
「それよりその、ミカさんは...?」
彼女が呪縛を打ち破って気絶した後...どうなったのか。今私が一番気になっていることだ。
「それは...ミカさんはまだ、目覚めていません。セイアさんも同様で──」
「え...!?」
目覚めて、ない?
これは...どういうことなんだろう。あれを打ち破った反動?とにかく、一週間以上眠り続けているなんて...
...彼女のことは、ナギサちゃん達にどう伝わっているのだろう。
「ミカさんは、その...」
「はい、聞いております。彼女が裏で手を回し、アリウスをトリニティに侵入させていたこと...正義実現委員会に出された待機命令も。」
...そうか。
自分から言い出すってことは、できなかったか。
「正直言って、この件はミカさんが目覚めるまで...進展はしないでしょう。公にはアリウスの襲撃に巻き込まれて意識不明ということになっていますが、ミカさんがそう簡単にやられるとは思いませんし、外傷もほとんどありませんでした。」
シスターフッドに拘束されることがなかったから、トリニティの裏切り者であるという情報までは公には出回っていないのかな...?
「救護騎士団に連絡をしてくださったのはシルベさんでしたよね?ミカさんに何があったのか、ご存知でないですか...?」
「それは...」
それは、きっと。
私が言うべきことじゃない。
「ごめんなさい、言えないです。」
「......」
アズサちゃんがみんなに『告白』をした時のように。
彼女もまた、勇気を振り絞って...自らの心を打ち明ける機会が必要なんだ。
「でも、ナギサさん。」
「......」
「ミカさんが起きたら...きっと答えてくれます。恐怖を飲み込んで、曝け出してくれるはずです。なので、その時は...ちゃんと、聞いてあげてください。」
「...はい、分かりました。ありがとうございます、シルベさん。」
...む、電話だ。
『あ、シルベちゃん?皆さん本校にいたので、すぐにそっちに向かいますね!』
「はーい。ゆっくりでいいからね...」
電話越しから、友人達の賑やかな声が聞こえる。
「ナギサさん。私なんだかんだで、補習授業部...とっても楽しかったですよ。」
「......」
「大変なことも沢山ありました。急にゲヘナに行くことになったり、合格ラインが90点になったり...」
「うっ....」
「でも、みんなで手と手を取り合って、話し合って、信頼しあって。それで私達は今...大切な友達として、ここにいます。だから...」
「シルベ、さん...」
「補習授業部を作ってくれて、ありがとうございます。ナギサさん。」
「!......そんなことを言っていただけるなんて、思ってもいませんでした。」
ナギサちゃんが作った補習授業部は、強い絆になった。ミカちゃんが連れてきたアズサちゃんは、かけがえのないものを手に入れた。
結果だけ見てしまえば...うん。いい先輩かもね?
「...私も。あなた達を見て、助け合うことの重要さを知った気がします。疑うのではなく、信じることから。入口を変えることで、きっと良い方向に進むこともあるのでしょう。」
「...はい!ぜひ、やってみてください。」
『で、電話してるのってシルベ!?』
『はい!あ、皆さんも代わりますか?』
『もしもし?シルベちゃんですか?目を覚まして本当によかったです...!ベッドにずっといて欲求は溜まっていませんか?今お薦めの本を───』
青春の音色が聞こえる。
「良い友人たちを、手に入れたのですね。」
「...はい!」
『シルベ?ヒフミがシルベの退院祝いだって言って12万円のペロロ様ぬいぐるみに入札しようとしてるんだが。』
『あ、
あはは...
「ごふっ!ごほっ、けほっけほっ...!」
「...あー。」
...残念なことに、ナギサ様の脳はこの世界でも破壊されてしまったようです。おのれファウスト...!
「その、頑張ってください...」
「いえ、その、お気になさらず...けほっ...」
いつの日か彼女のトラウマが消え去ることを信じて...!
―――――――――――――――
「では、皆さんも来るようですし、私はこの辺りで失礼します。私が言えたことではないかもしれませんが、お大事になさってください。」
ナギサちゃんが本館へと帰る。エデン条約前で忙しいだろうに、合間を縫ってお見舞いに来てくれたのだからありがたい話だ。
「ナギサさん。」
「...はい?」
そうだ、これも言っておかなきゃね。
「第三次特別学力試験の点数...90点にしてくれたの、ナギサさんでしょ?」
「...なんの、ことでしょう?」
ナギサちゃんが振り向く。
テストを見返してみたけれどやっぱり89点。合格まで...1点足りない、はずだった。
「単位を間違えてた問題...一次と二次の採点だったら0点でした。でも三次だと半分の1点扱いになってましたよ。」
「......」
最後が締まらなかった私の手を、彼女は掴んでくれたみたいだ。
「ありがとうございます。私の青春、守ってくれて。」
「...いえ。」
彼女はこちらを向いて、笑った。
「あなた達が自らの手で掴んだ、青春ですよ。」
―――――――――――――――
「...補習授業部の皆はしっかりと、合格を勝ち取ったのだね。」
「コハルはこの後、晴れて正義実現委員会に戻れるはずだ。」
「ハナコは、自らをさらけ出せるような良き友を見つけられた。」
「この補習授業部で真摯に努力を積み上げてきたヒフミは、今までの日常に戻れるだろうね。」
「...ミカは未だ目を覚まさない。それはきっと、あの現象が関わっているのだろうか。」
「ナギサは...予定通り、エデン条約に調印しに行くだろう。」
「でもまだ、エンドロールには早すぎる。」
「誰の手にも負えないような、二度と太陽を拝めるとは思えなくなるような...そんな暗雲が、今ゆっくりと押し寄せてきている。」
「白洲アズサの、この先の結末。そして...」
「一色シルベの死。」
「未来を見て...それでいて諦めることなく、その身を犠牲に戦い続けた少女の祈りは、あまりにも簡単に踏み潰される。」
「......」
「ああ、でも。」
「観測された中で三回、未来が変わった。予知夢の通りにはならなかった。そんなことは今まで起こったことのない現象。」
「未来が、変えられると言うなら。」
「私も。」
「この先の未来を、諦めてはならないのかもしれない。」
―――――――――――――――
「準備しろ、みんな。」
「あ、あぁっ...、ついに始まるんですか...!?ようやくこの時が...でも苦しいんですよね、辛いんですよね...?」
「...うん。でも大丈夫、苦しいのは生きてる証拠。」
「......」
トリニティ自治区の何処か。暗がりで...四人の少女達が、空を見上げる。
「手はずは整っている。だが、その前に...」
「...マダムの指令、だったね。一色シルベを先に処理する。」
「ああ、そうだ。」
長身の、黒い帽子を被った少女のヘイローが、
「【一色シルベだけは、必ず殺さなくてはならない。】」
「......。」
「...!なんだ、姫?いや...私は大丈夫だ。」
「...なんだか雨が降りそうですねぇ...嫌ですね、雨はジメジメして...」
いつのまにか星は消え、黒い雲が流れる夜空。
暗い雲が、悪夢を運んでくる。
...アズサ。どれだけ足掻こうとも、お前は抜け出すことはできない。
思い出すはずだ。この世界の真実を。
Vanitas vanitatum et omnia vanitas.
全ては虚しい。どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ。
待っていろ、アズサ。そして...
一色シルベ。
まずはエデン条約編の一区切りです。大体十五万字行かないくらい。
対策委員会編終了時が八万字だったので、Vo.3前半でVo.1の全量近くになっちゃいました。
嘘やん。書き過ぎ。みんなも読み過ぎ。嘘ですもっと読んでください...⭐︎
と言ってもVo.3後半はこれほど長くはならないんじゃないかなと思います。知ってますか?三章も四章もアレ1日の出来事なんですよ?濃すぎる...っ!
まあ今回のミカの話とか2/3くらいプロットになかったので何があるか分かりませんけどね!
さて続きの投稿ですが、まあそんなに間は開かずに投稿すると思います。たぶん。
それまではエデン条約編の感想や評価等をいただけるととっても嬉しいです。もれなくレイサをお迎えできる確率が上がります。(効果には個人差アリ)
ともかく、ここまでお読みいただきありがとうございます!
今後ともシルベちゃんをよろしくお願い致します!