先生の居ないアーカイブ   作:ヒオルカ

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UAが20万を超えました。にじゅうまん!?
こんなに読んでいただけるとは夢にも思っていませんでした。あまりにも感謝申し上げます!




ポストモーテム

 

 

「呼ばれたんだね、先生。」

 

“......”

 

彼女は、空間に開いた穴を見つめる。

彼の作り上げた世界を破壊するために、私たちが手を加えた起点。

 

あの世界で『先生』に助けを求めた代償。証明に反し、世界の目的に逆らってできた傷。

 

「どんな子だった?いや、その子の枠は元々先生のものだったから、お話はできないか。」

 

そして...世界に反する手段(カード)を封印しておくために、心だけを呼び寄せられた少女。

もっとも、今その手段(カード)は使われてしまったのだけど。

 

「どちらにせよ無駄だったね。もう穴は開いた。」

 

 

 

先生の居ない世界。そんなものは成り立つはずがない。

 

 

 

 

「これで私も、向こうの世界に介入できる。」

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

四方から飛び交う銃撃を、隠れてやり過ごす。

建物の至る所から現れる増援は、止まるところを知らない。

は、早くシルベを助けに行かないといけないのに...!

 

 

 

「...!ひ、姫ちゃん!時間みたいです...!」

「.........」

 

 

 

...?

緑髪とガスマスクの生徒が戦場から離れ、次第に増援の生徒も姿を消していく。

 

「あ、あれ...?みなさん撤退していきますね。これはもしかすると...この私、トリニティの堅牢なるガーディアンに恐れをなして逃げ出したのでは!?」

「......?」

 

状況は五分...いや、物量に押されてこちらが不利になっていた。

そんな状況で撤退?

 

 

 

...さっき別れた時に、シルベが言っていたことを思い出す。

 

『彼女たちが逃げ出したら、全力で学園の方まで走って。』

 

 

 

...嫌な予感がする。

 

 

「宇沢!走って!」

「え!?ま、待ってください...!」

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

「...っ!?」

「アズサちゃん?一体どちらに...?」

 

補習授業部が無事危機を乗り越えて、ゲヘナとトリニティの平和条約が結ばれるこの日。

 

青い空の下で、世界の安定のための第一歩を踏み出そうとするこの瞬間に...酷い悪寒を感じてしまう。

 

たまらず外に飛び出す。

 

「どうしたんでしょうか、アズサちゃん...?」

「そんなこと聞かなくてもいいでしょ!トイレよ!」

「ですが、トイレはあちらではなく...」

 

 

 

人混みをかき分けて、広い場所へ出た。なんだ...この胸騒ぎは一体...?

 

 

 

大きなモニターのついたビルを見上げる。そこにはちょうど、エデン条約が調印される瞬間が映し出されて───

 

 

 

音が、する。

 

 

何かが高速で飛来する音。

 

 

 

 

「サオリ...まさか、まだ...!?」

 

 

 

 

              

――――――――――――――

 

 

 

 

 

.........。

 

 

心地よい、揺れ。

 

 

「こんなところで、何しているの?」

 

「...なんでいるの。」

 

 

安心する背中。

 

 

「足、挫いたんでしょ。ほら。」

「ちょっ...い、いいから!自分で歩けるって...っ」

 

 

前にも、こんなことが。

 

 

「あの子の財布、取り返しに行ったんだって?」

「違う。私のまで取ろうとしたから...」

 

 

その背中が妙に照れ臭くて、眩しくって。

 

 

 

ちょっとだけ、憧れて───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「... うぉわ!?」

 

寝てた!?いや、気絶してた!?

今どうなって...?

 

「...し、シルベ...?」

「あ、ヒナちゃん!よ、よかった。無事みたいで...怪我は結構酷そうだけ──」

 

「シルベっ!!!」

「わっ!?あ、いてて...!」

 

ヒナちゃんがものすごい勢いでハグしてくる。何!?痛い!かわいい!好き!

 

「シルベちゃん!目が覚めたの!?」

「み、ミカさん!?ミカさんこそ目を覚まして...おふっ!」

 

駆け込んできたミカちゃんが後ろから襲来する。

 

「ぐおおお...!」

 

ヒナちゃんとミカちゃんに挟まれ、ヒナミカサンドイッチの具材にされてしまう。

なんすかこの状況。私は死んだのか?ここがエデンか?

 

「お二人とも。怪我人に追加ダメージを与えるのはやめてください。」

 

二人が誰かにひっぺがされ、幸せな圧力から解放される。

 

「...!セナさん!」

「はい、こんにちはシルベさん。どうやら本当に生き返ったようですね。」

 

よく見るとここは、救急車の中だ。まだ状況はわかってないけど、とりあえずスクワッドとの戦いは終わったの...?

えっと、最後の記憶は...

 

 

 

いや、あんま記憶ないわ。撃たれまくったことしか覚えていない。

ていうか今生き返ったって言った?いつものセナちゃんの死体ジョークだろうか。

 

「あの...生き返ったって、どういう...?」

「言葉の通りです。私が合流した際、あなたの体は既に死亡している状態でした。死体を見せていただきありがとうございます。」

 

...???

 

「是非、死体から蘇る方法を教えていただきたいものですね。」

「はい...?」

 

一回死んで生き返った?

 

「そんなまさか...ねぇ?」

「えっと...」

「......」

 

ヒナちゃんとミカちゃんが視線を逸らす。え?マジ?

 

 

 

「...いやその前に、今何時...!?」

 

シッテムの箱を立ち上げる。調印の時間は...過ぎてる!

 

ニュースでは...

 

 

崩れた尖塔を正面に捉えた、炎に包まれる古聖堂。

 

...間違いない。巡航ミサイルが古聖堂に撃ち込まれた。

 

「い、行かなきゃ...うぐっ...!」

「いけません。絶対安静です。」

 

セナちゃんに止められる。

 

...れ、冷静になろう。私が何に変えてもやらなきゃならないことは、『補習授業部と共に古聖堂で宣言をする』ことだ。

 

「...この救急車、トリニティ学園に向かってる?」

「はい。一番近い医療施設ですので。」

 

...なら、このまま少しでも体を休めて...トリニティで補習授業部と合流するべきだ。

 

で、でも...私が調印式に行けなかったせいで、爆弾解除ができていないのでは...!?

 

『...はい、便利屋68です。』

「アルさん!?シルベです!そっちは無事...!?」

 

すぐに便利屋に電話をかける。

 

 

『!あなた、無事だったのね!良かった...こっちはその、ちゃんと依頼は完遂したわ!』

「...?私の手引きなしで、古聖堂に入れたの?」

 

完遂したということは、古聖堂の爆弾の解除ができたということだろう。どうやって...?

 

 

 

 

 

『えっと、あなたが来なかったから...その...ハルカが警備の風紀委員を背後から...ガツンと。』

 

「......あー。」

 

 

 

 

ガツンと。

 

『その...私が慌ててるうちに、気づいたらムツキが気を引いてハルカが...いや、全部計画通りなのだけれどね!?』

 

「......上手くいったからよし!」

 

その時の風景がありありと浮かんでくる。

オロオロ慌てるアルちゃんを尻目に強行突破を始め、例の顔になって例の音楽を流すアルちゃん...あまりにも鮮明に見える。

 

「みんなにもありがとうって言っておいてください!後は手筈通りに!」

『ええ、分かったわ。任せてちょうだい!』

 

古聖堂の爆弾が止まったのであれば、正義実現委員会や風紀委員会の戦力が多少は残っているはずだ。

今頃沸き始めているユスティナ聖徒会との戦闘でも有利に働くはず。

 

「それと...わわっ!」

 

すっごい着信履歴きてる...!

 

「も、もしもし?」

『シルベ!?やっと繋がった...!大丈夫なの!?』

 

カズサちゃんの心配する声が聞こえてくる。彼女も無事、ミサイルの範囲からは脱出できたみたいだ。

 

今は救急車でトリニティに向かっていることを伝える。

 

『良かった...もう、ほんと無茶ばっかり『シルベさん!?無事でしたか!』

「あれ、レイサちゃん!?レイサちゃんも来てくれたの?」

 

この元気いっぱいな声の持ち主は...レイサちゃん!

彼女とは、私がアビドスから帰ってきて補習授業部に入る間に知り合った。

ここでの出来事は、ご存知放課後スイーツ部のイベントストーリーと同じ内容である。

 

『ええ!このトリニティのグレートシューターこと宇沢レイサに───!『宇沢うるさい!耳元で大声を...!』

 

あ、切れた。元気そうで何よりだ。

 

...もう一度、深呼吸をする。

色々あったが、とにかく状況は最悪ではない。

どうせまだまともに動けないのだし、トリニティに着くまではこれまでの情報を整理しておくべきだろう。

 

「ヒナさん、ミカさん。私が倒れたあと、何があったの...?」

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

「これが、これまでの経緯。」

 

 

二人に、私が気を失ってからのことを聞いた。

 

 

アリウスに追われて私が倒れた後に、謎の『大人』が現れたこと。

その彼は特殊な力で銃弾を捻じ曲げ、ドローンを操りつつヒナちゃんと私を抱えて逃走。その後ミカちゃんと合流し、アリウスは撤退していった。

 

そして私たちをミカちゃんに引き渡し終えた彼は、粒子になって消えていった...らしい。

 

それって。

 

絶対。

 

 

「先生...だ。」

 

 

ドローンを動かしたということは、このシッテムの箱を使用したということ。それに銃弾を逸らしたその力は、紛れもなくアロナちゃんのもので...

 

先生...!

黒服から別の場所に居ると聞いてはいたけど、やっぱりこの世界にも存在はしているんだ!

ああ...よかった。まるっきり先生の存在がない世界じゃないっていうのは、一つの安心材料になる。

 

ただ、問題は...

 

「私...このカード、使ったよね...」

 

懐から、虹色のカードを取り出す。朧げな記憶の中で...これを『使った』気がする。

ヒナちゃんが死んでしまうのが嫌で。サオリちゃんに、人殺しになって欲しくなくて。

 

世界に穴が開いたって構わないと...

 

「これ使ったら、先生が来るってこと?どゆこと...?」

 

それに、私が死んだというのも謎だ。これを使った後に私が事切れた?じゃあ何で生きてるんだ?

 

「...彼は、入れ替わっているだけだと言っていたわ。」

「入れ替わってる...」

 

つまり、私が死んだら先生が来る?

いや、今回の場合は...先生が来たから、私が一時的に死んだのか。生き返ったわけだし。

 

 

 

 

 

これ使ったら、全部解決するんじゃ...

 

 

 

 

 

いや、待て。

 

 

カードが引き起こした現象は『先生が来た』以外には見当たらない。

つまり先生がこっちに来る為には、私がカードを使って死ぬ必要がある。

 

ならば、これだけははっきりと言える。

 

 

 

 

このカードは、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

だってあんな生徒想いの先生が、生徒が死ななきゃならないカードを渡すはずがないもの。

 

世界に穴が開くっていうのも気になる。これはきっと...何かしらの罠。

誰が何のために...といった所までは分からないが、やっぱりこれは使うべきではないのだろう。

 

「はぁ......」

 

ごめん、先生。私が弱いせいで一回使ってしまいました。

昔にカードを使いかけてヒビが入った時は、ゲマトリアたちやミカちゃんたちに先生の情報が流れた。穴が開いたら一体何が起こることやら...

 

「その人は、他に何か言ってなかった...?」

「...全部自分のせいだと。あなたを助けて欲しいと言っていた。」

 

...まあ、そうだよね。この世界を見ている?のならば、先生はきっとすぐにでも駆け出して生徒を救いたいと思っているはずだ。

 

でもこれは先生のせいじゃない。そして彼は私たちを守ってくれたように、今も抗っている。

 

「それと、タブレットを凄い操作してた。」

「......!」

 

そうだ、シッテムの箱!私のような仮認証ではなく、機能をフルに開放して戦ったはずだ!

 

「あと、その...」

 

ヒナちゃんとミカちゃんが、何だかバツの悪そうな顔で口籠る。

 

...?

 

意を決したかのように、ミカちゃんが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、自撮りしてたよ?」

 

「...はい?」

 

 

 

 

 

自撮り?

 

「自撮りって、自分撮り?」

「...ええ。」

 

??

 

 

「せ、戦場の記録を撮ってたとかじゃ...?」

「すっごいキメ顔だったよ。」

 

 

 

自撮り。キメ顔で自撮りかぁ...

 

 

 

 

 

 

 

え、何で!?

いや別に、私は先生のこと知ってるわけじゃないから、趣味に自撮りがあってもおかしくはないんだけど...そんなタイミングで!?

 

いやむしろ、戦場に立つ私カッコいい...みたいなアレかもしれない。だとすれば絶好のチャンスですけど!

 

 

...ん?待って!

 

 

「じゃあシッテムの箱に先生の顔写真入ってるってことじゃん!」

 

 

慌ててタブレットを操作する。

どうしよう、なんか緊張してきた。私これから先生のご尊顔を拝むことになるのか。

 

やっぱ便利屋漫画の、眼鏡をかけたイケメン先生みたいな感じだろうか。アロナちゃんの似顔絵そのまんまのモンスターが出てきたら...ちょっとやだなぁ!

 

緊張で震える指を抑え、どうにか写真アプリをタップする。ええい、 ままよ!

 

 

 

 

 

........。

 

 

 

 

 

「管理者権限で撮られたもの、仮認証じゃ見れないじゃん!ちくしょう!」

 

 

写真一覧には、トリニティの聖地巡礼写真や放課後スイーツ部と撮った写真が並ぶのみであった。残念なような、ちょっと安心したような...

 

 

ああ、先生よ...姿を現した結果、あなたの謎がもっと増えた気がします...

 

 

 

 

 

 

「...ねえ、シルベ。」

「...?」

 

ヒナちゃんが、真っ直ぐこちらを見つめる。

 

「あの人が、シルベの言っていた『先生』なのよね?」

「...うん、たぶんね。」

 

十中八九、そのはずだ。

 

「...彼は言っていたわ。自分にもっと力があれば。もっと手を尽くしていればって。」

「.....」

 

 

 

「凄い人だというのは、なんとなく分かるわ。優しく、強い人だとも。そんな人が...あんな表情をするような戦いに、あなたはまだ挑むの...?」

「ヒナ、ちゃん...」

 

 

 

 

深い感情が伝わってくる。あまりにも真剣な、彼女の思い。

 

 

 

「シルベの目指すものが彼なのだとしたら、きっとこれからも大変な目に遭うわ。これまで何度も死にかけたでしょう?それでもあなたは、まだ立ち上がるの...!?」

 

 

 

 

懸命にぶつけてくれる...彼女の想い。

 

 

答えないわけには、いかない。

 

 

 

 

 

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