「な、なんて奴だ...!壁が...!」
おかしい。
浦和ハナコに発信機を渡されてから、順路も無視して最短距離でカタコンベ内を突き進んでいるはずなのに、シルベちゃんをさらった奴との距離が一向に縮まらない。
「どんどん離される...!どうして?」
...!
電波が途切れた...再接続は出来そうにない。
多分方向的にはアリウス自治区だと思うけど、流石にそこまで真っ直ぐ壊していくのは時間がかかり過ぎる...!
「お、おい!止まれ!」
「邪魔しないで!」
物陰から銃撃してきたアリウス生徒を、遮蔽物ごと殴り抜ける。
...あっちからも銃声?こっちに近づいてくる。ユスティナ聖徒会は同士討ちをしなくなったし、他に誰かいるの?
「誰?」
「っ...!」
出会い頭、お互いに銃を構える。
飛び出してきたのは、随分と見覚えのある人だった。
「...錠前サオリ?」
「っ...聖園、ミカ...!」
サオリ...まだ生きてたんだ。
ああ...良いところにいるね?カタコンベの道に詳しい人が。
―――――――――――――――
「ベアトリーチェ...っ!」
目の前に居るのは...悪辣なるゲマトリアの一人、『ベアトリーチェ』。
その彼女は...愉しそうにこちらを見下ろしながら微笑む。
「ようこそ、私のアトリエへ。一色シルベ...『先生』の人形よ。」
落ち着け...!まずは状況を把握するんだ。
きっとここはバシリカで...シッテムの箱も、ドローンもある。
...!アイツの背後に、磔にされたアツコちゃんが居る!
あの後攫われてしまったのか?原作だとアリウススクワッドを追い詰めるのに数日はかかっていたはずだけど...一体どうやって?
「アツコちゃんを放して!」
「お断りします。これは私が丹精込めて作り上げた生贄ですので。」
とにかく、このまま彼女をコイツの元に置いておくわけにはいかない。
ドローンを忍ばせる。隙を見てアツコちゃんを助け出さなきゃ...
「さて、まずは試してみましょうか。」
「...!?」
ベアトリーチェは私の胸ぐらを掴み、高く持ち上げる。
「な、何を...!」
上を向いた私の目には、怪しく煌めくステンドグラス。
瞬間、視界が白く染まる。
キラキラと輝く光が天井から降り注いで...
ま、まさか...!
「あなたの恐怖はいったいどのような色をしているのでしょう?一色シルベ。」
―――――――――――――――
「......」
「っ......」
お互いに睨み合ったまま、動きを止める。
果たしてこの銃を撃ったところで、聖園ミカにダメージを与えることなどできるだろうか?
一度引いて態勢を整えるべきか。しかしこの間合いでは逃げることも...
...彼女は私を見逃しなどしないだろう。確実に彼女は、私を恨んでいる。
結局のところ、私は今までの自分の行いに足を取られて...全てを失うのか───
「......」
「っ!?」
その時。
聖園ミカは銃口を降ろし。
私が構えた銃口を...自らの胸に押し当てた。
咄嗟に、トリガーから指が離れる。
「な、何を...!?」
「やっぱり、一緒だ。」
横に飛んで距離をとる。
一体今の行動は何だ?なぜわざわざ撃たれるような真似を...?
「一緒?何のことだ。」
「人を撃つのに一瞬躊躇うの、私と一緒。」
そう言うと、彼女は近づいてくる。
「あなたも、あれに干渉されて...シルベちゃんを撃ったんだね。」
―――――――――――――――
......?
あれ?何も起きない...?
「うっ...!」
ベアトリーチェに浴びせられた光を受けても特に変化はなく、地面に投げ捨てられる。
色彩の光...だと思ったんだけど。特に何ともない。
「まあ、予想してはいたことですが...あなた、本当に操り人形なのですね。あなたの神秘は遥か遠くにあると。」
私の神秘が、遠く...?それは私が転生者だから?
「あまりにも哀れな存在です。どうですか?私に協力するというのは。」
「何言ってるの...っ!」
とにかく助かったみたいだ。何とかして活路を...!
「役目が終われば消えるだけの人形でしょう。悔しくはありませんか?『先生』に利用され、多くの試練を課され...」
「消える...?一体何のこと!?」
彼女の言うことがよく理解できない。役目ってなんだ...?
...いや、今はそんなことは関係ない!
「それすら教えていないのですか。よっぽど『先生』には余裕がなかったのでしょう...どうです?私と手を組めば──」
「私は!」
何とか立ち上がって、大声で叫ぶ。
「あなたの味方になることなんて絶対にない!」
目の前のコイツがどんなことを口走ろうとも、子供たちを騙して操る奴の味方なんかしてやらない...!
「...そうですか、では。」
ベアトリーチェが何か合図を出す。すると...
拘束具をつけたシスターが、姿を現す。
その威圧感に...空気が震えるのを感じた。
「な、なんで...!」
あれは、バルバラ?
それが二体!?
「提供がありましたので。あのねじ曲がった人工天使シリーズ程ではありませんが...これを止める術がありますか?」
げ、原作では終盤に一体が完成しただけだったのに...
シロコ・テラーがこの時期にこっちへ来ているのと何か関係が?
「っ...!」
「きっとあなたを取り戻しに何人かの生徒が来るでしょう。それが叩き潰される様を特等席で鑑賞する権利を差し上げます。」
これを突破するのは...
「絶望に染まったあなたを、『先生』は一体どんな目で見つめるのか...楽しみですね?」
ベアトリーチェが手を伸ばしてくる。何も思いつかないけど、一か八かドローンで────!
「伏せなさい。」
「っ...!何者ですか?」
凛とした声に反応して、咄嗟に頭を下げる。
私へと伸ばされた魔の手は...一筋の弾丸によって弾き飛ばされた。
だ、誰が...?
「......え!?」
暗いバシリカにゆらめく着物...
僅かな光を反射して煌めく仮面をつけたその少女は...
「ワカモちゃん!?」
「はぁ...」
何で!?
―――――――――――――――
「私も一緒。私もあの力に唆されて...シルベちゃんを撃ったの。」
聖園ミカは無防備に、近くへ座り込む。
あれは...あの時の私の殺意は、何かの力だったのか?
それでも...それ以前にも私は彼女を騙し、取り返しのつかないことをさせた。それはどう考えても、私の罪だ。
「...何故だ。それがお前にとって関係があるのか?お前には、私に数えきれないほど恨みが──」
「うん。でも私、シルベちゃんに教わったの。人を信じることでしか得られないものがあるって。」
教わった?
ああ...そういえば彼女はシャーレの代行で、先生代理なんだったか...
「沢山撃っちゃったの。酷いことも沢山言った。それなのにシルベちゃんは私を信じてくれた。だから私は...私が貰った救いを、あなたにもあげたい。」
...聖園ミカには、救いがあったのか。
あの一色シルベという存在が。
それが今...私を救おうとしている?
「っ!?」
突如壁が吹き飛んだ。
「あれは...!さっきの...!」
あれは...最初に私たちを襲った強大な力を持つシスターだ。
それにユスティナ聖徒会も湧いてきて...!
いくら聖園ミカでも、あれを相手には...
「...?」
聖園ミカが、一歩前に立つ。
「行きなよサオリ!私はあなたのこと、もう一度信じるから...!」
私を、信じる?
間違った選択と、幾つもの不幸を振り撒いてきた私を、まだ信じてくれる人がいるのか。
...昔の記憶が、蘇る。
最初に彼女と会った日。彼女はアリウスと和解がしたいと言った。
私はそれをありえないと思いつつも...どこかで、そうなるんじゃないかと───
疑念に満ち、反発した私たちがもう一度信じあうことで。
生まれる何かが、あるだろうか。
「シルベちゃんを救って!」
彼女の強い言葉を受けて反射的に走り出す。
銃弾の嵐を潜り抜け、駆ける。
自分にそんな価値はないと。私は信じるに値する人ではないと感じながらも。
それでも、私が裏切った人たちが、もう一度と叫ぶ。
私は...