先生の居ないアーカイブ   作:ヒオルカ

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先生は未来のアーカイブ

 

 

「...ぐっ...!」

 

銃撃を回避した先に振り回された腕を避けきれず、大きく吹き飛ばされる。

どうにか受け身を取るも、体勢を大きく崩してしまう。

 

その隙をつき、二体の怪物が私を通り越して出口へと駆け出した。

 

「っ!逃しません...!」

 

咄嗟に仕掛けていた爆弾を起爆する。

しかし爆炎で足止めできたのは...一体だけ。

 

「......」

 

あれは、一色シルベの元へ向かったのでしょうか。

なお脱出しようとするもう一体に銃撃を与えつつ、扉の前に立ち塞がる。

 

残った怪物が唸り、重火器を構えた。

 

「これで死ぬなど、許しませんよ。一色シルベ...!」

 

あなた様。

このワカモ、なんとしてもあなた様の期待に答えて見せます...!

 

 

 

────────────────────

 

 

 

無線機に耳をすませる。

ノイズは増減しており...微かに足音まで聞こえる。

アツコちゃんの言う通りだ。すぐ近くまでスクワッドの誰かが来ている。

 

彼女たちの増援を当てにする他ない。

だけど現実的に考えて...みんなが来るだけでこの状況を乗り越えられるとは思えない。

 

「......」

 

懐のカードを握り直す。

原作では怪物と化したベアトリーチェも、先生の指揮であれば勝つことができた。

しかし今の私では、たとえスクワッドが揃ったとしても勝てる保証はない。

 

本当に最悪の場合、またこのカードを...

 

 

 

『...アツコ...!シルベ!聞こえる!?』

「!?この声は...」

 

 

 

突如、無線から声が聞こえた。

酷くザラついて聞き取りにくが、この凛としてかつキュートなボイスは...

 

「アズサちゃん!?」

『...!シルベ!』

 

アズサちゃんがバシリカに...!?原作では居なかったけど...なんにせよ、ありがたい!

 

「今アツコさんと一緒にいるの!」

『電波の強度的に...あっちか!すぐに...うっ!?』

 

無線の向こうから派手な音が聞こえた。

 

「アズサちゃん!大丈夫!?」

『何とか大丈夫...だけど、弾薬が残り少ない。そっちに行っても戦況を覆す方法がないかもしれない。』

 

どうしよう。正直ベアトリーチェから逃げられる気はしないし、否が応でも戦う羽目になるはず。

何か、何か無いか...?

 

『...シルベ。ここにヘイロー破壊爆弾というのがある。効果はその名の通りだ。』

「...え?」

 

ヘイロー破壊爆弾...?

 

何でアズサちゃんがまだ持っているんだろうか。

使わなかったの?もちろん良いことだけど...もしかしてペロロ博士生存ルート?それは素晴らしい...

 

『あのシスター達もヘイローがあるようだし、これで一網打尽にはできないか?それでどうにか隙を作って脱出を...』

「...待って!」

 

思い出す。ベアトリーチェが最後に見せたあの姿を。

確か背後に輪っかがあったような覚えがある。

 

ベアトリーチェといえば、ゲマトリアで唯一直接戦闘を行なった存在だ。ゴルコンダ曰く、我々は彼女のように戦う力を持たないという。

 

つまるところ、ゲマトリアはそれがデフォルトなのだ。ならばこそ...その戦う力はどこから来た?

 

あの力がキヴォトスの神秘に由来するものだとしたら...

 

 

 

『...シルベ?』

「アズサちゃん、作戦があるの。」

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

「馬鹿な...!私の力が崩れていく...っ!」

 

 

腕を振り翳そうとしたベアトリーチェは、その先からボロボロと崩れ去る自らの指を認識した。

 

「アズサちゃんっ!」

「っ!ありがとう、シルベ...!」

 

天井から降りてきたアズサちゃんを受け止める。

 

「そんな、私の、ワタクシの、チカラ...が...」

 

その巨大な身体はまるで幻影だったかのように、元の姿に戻っていく。

なおも立ち上がろうとするが、足に力が入らないのか...それは叶わない。

 

「お、おわりですか...?」

 

地に倒れ伏したそれは手を伸ばし、しかし空を切る。

 

「ベアトリーチェ。終わりだよ。」

「ありえない...二度までもッ...!『先生』に敗北するなど...!」

 

二度...そうか。

 

エデン条約編が原作よりも大きく乖離したのは、『先生』の情報がベアトリーチェに流れ込んだのがキッカケかもしれない。

彼女が先生を認識し、そして敗北の未来を覆すための施策。

 

ただ...一瞬出会ったシロコ・テラーだけは説明がつかないんだけど。

 

「...認められない。あなたは、先生は...あなただけは...っ!」

 

 

 

ベアトリーチェの伸ばされた手が、不意に私へと向けられた。

 

 

 

「...?何を...」

「一色シルベ、お前だけはッ!」

 

彼女はその手をこちらに向けたまま動かない。

 

 

『先生!バルバラが接近しています!』

「っ!?」

 

シッテムから、慌てた声が聞こえる。

 

...見えないが、アロナちゃんがそう警告するというのであれば本当だろう。どこか、壁でも突き破ってくるか。

 

『4時の方向です!』

「オッケー...!」

 

予想通り、壁を壊して襲いかかってくるみたいだ。

しかし今の私には超強化されたドローンと安全装置のアロナちゃんバリアがある。

 

うまく避けてドローンで大勢を崩しつつ、みんなで一斉射撃を─────

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ...あ...!?」

 

 

突如、耳鳴りが響く。

 

頭痛。吐き気。目眩。銃声。怒号。炎。

精神がけたたましく警鐘を鳴らす。

 

「........ぁ.....!?.....」

 

全ての血液が氷水に換えられたのかと錯覚するほどの寒気。

心臓を鷲掴みにされたような、致命的な感覚が全身を駆け巡る。

 

『先生?シルベ先生っ!?』

 

 

死ぬ。

このままでは。

逃げなければ。

何処へ?

逃げ場など何処にもない。

 

足元が崩れていく。

 

世界が。

 

私は。

 

私たちは。

 

 

世界と一緒に塵と消える─────

 

 

 

 

 

「避けろッ!先生!」

 

雑音が耳を塞ぎ、辛うじて開いた視界。

そこでは既に私がバルバラの至近距離に居て、振りかぶられた右腕が私目掛けて────

 

 

 

 

 

 

「私の大切なお姫様になにしてるのっ!」

 

それが私に届く寸前に...煌めく流星が、私の心を引き戻した。

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「...!セイアさん!良かった...」

「...ナギサ?」

 

目が覚める。

先程のは...当然、ただの夢ではないはずだ。

 

ゲマトリアに夢の中で捕まり、なんとか逃げ延びた先にいた一人の少女。

 

クズノハと名乗ったあの少女。

彼女は一体...

 

 

いや、今はそれどころではない。

 

 

「ナギサ。すぐに正義実現委員会と救護騎士団を地下墓地(カタコンベ)へ。それとそこにある、図書委員長が発掘した地図も取ってくれないか?」

「はい。ミカさんも...そこへ?」

「その可能性が高い。」

 

地図を広げて線を引く。

...彼女が言ったように予知能力は消失しているようだが、記憶を頼りに書き出していく。

果たして一色シルベは、まだ生きているだろうか。

 

 

 

数分後、出来上がった地図を渡す。

 

「...セイアさん、私も行ってきます。指揮もそうですが...彼女たちを迎えに行きたいのです。」

 

彼女は地図を受け取ると。真剣な顔でそう言って立ち上がる。

 

「なら、私も連れていくといい。」

 

続いて、私もゆっくりと立ち上がった。

 

「...セイアさんは病み上がりですし、ここで休まれては?」

「いいや。君だけ行ったとなれば、ミカに何を言われるかわからないだろう?」

 

 

そう呟くと...ナギサは少し、微笑んだ。

 

 

「やっぱセイアちゃんは私のこと許してないんだーって、泣いて暴れるかもしれませんね。」

「...無いとは言い切れないから、困ったものだ。」

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

壁を破壊し飛び込んできたミカちゃんが、勢いそのままにバルバラを拳で殴り飛ばす。

 

「はっ...!は...っ...!」

 

 

なんだ、今の...?

かつて見た、先生の小っ恥ずかしいセリフが脳を通りがかったおかげで戻って来れたけど...

 

 

「...!み、ミカさん!」

「大丈夫!?シルベちゃん!」

 

彼女の腕に抱かれる。

私を助けてくれたミカちゃんは、もう血塗れで服もボロボロの酷い有様だった。

当然だ。私の気絶時間にもよるけど、彼女にはヒエロニムス討伐をお願いしていたはず。その足で私を助けに来てくれたのか。

 

埃まみれの翼は、それでいてあまりにも頼もしい。

 

 

「聖園ミカ...無事だったか。」

「......」

 

 

ミカちゃんは少し視線を下した後...

 

サオリちゃんへと一歩、踏み出した。

 

「錠前サオリ。」

「......っ。」

 

彼女は一度、大きく深呼吸をして。

 

 

 

「...ありがとう、シルベちゃんを助けてくれて。」

 

「あなたを信じて...良かった。」

「...!」

 

 

 

...これは。

きっと二人の間何かあったんだ。私の知らないところで。

私の知る世界では互いに恨み合い、憎み合う定めだと...そう信じて戦いあった二人。

 

でも、そっか。

思えば二人はあの世界でも、『先生』が居なくたって...ちゃんと仲直りしてたもんね。

 

 

「ぐっ...!聖園、ミカ...!?バルバラはどうしたのです...!?」

「バル...ああ、あのでっかい奴?頑張って倒したよ。」

 

...ん?

バルバラを倒した?

 

「お前...あれを倒したのか...?」

「うん。サオリを信じたとはいえ、出来ることなら自分でも助けに行きたかったし...死ぬ気でやれば何とかなったよ?」

 

あれ、原作だとミカちゃん負けそうになってたよね?

そこを先生が華麗に守護るはずだったんだけどぉ...

 

それなのに...原作よりメンタル良好なおかげかバルバラを突破して、私を助けに来ちゃったと。

 

 

...私本当にお姫様みたいでちょっと情けなくない?

 

 

「お揃いだね。」

「お揃いなら良いかぁ!」

 

 

アツコちゃんとお揃いになれるなら何でもヨシ!

 

 

「...馬鹿な...!私のバルバラが、全て...ッ!?」

「よく分からないが。」

 

吹き飛ばされて動けないバルバラ目掛けて、一斉射撃を浴びせかける。

 

「これで手駒は尽きたようだな、マダム。」

 

苦しむベアトリーチェは、なおも強気な姿勢を崩さない。

 

「よくも...わ、私にはまだアリウスの兵力も、複製(ミメシス)も残っています...!たった一度の勝利で、終わりになど...っ!」

 

 

「いいえ、この話はこれで終わりです。」

「っ!?」

 

 

誰もいなかったはずの背後から、急に聞こえた声に振り返る。

 

そこに立っていたのは、茶色のコートに額縁を抱えた人型。

何より頭部のないその異形は...

 

「ああ、落ち着いてください。私は『ゲマトリア』のゴルコンダ...マダムを連れ戻しに来たのです。」

 

 

...ゲマトリアだと1番よくわかんない人だ。

総力戦の冒頭とかで会う人。ヘイロー破壊爆弾もコイツが作りやがったらしい。

 

彼はベアトリーチェに歩み寄りながら呟く。

 

「...舞台装置とはよく言ったものです。これほどまでに相応しい呼称があるでしょうか。マダム。あなたも...私も、彼女も。」

 

倒れ伏すベアトリーチェは、彼を睨みつける。

 

「ゴルコンダ...!私はまだ...ッ!」

「マダム、こちらをご覧ください。これは黒服が算出した...この世界のテクストを表層化した際に浮かび上がる図形です。」

 

懐から何かを取り出したゴルコンダ。

幾何学的な...法則性の見出しにくい立体物に見える。

 

 

「な...!?」

「あなたなら...よくご存じの形をしているでしょう?」

 

 

それを見たベアトリーチェが、言葉を失っている。

な、何だ...?テクストの形...?

彼が何を言っているのかさっぱり理解できない。

 

ゴルコンダは手に持ったそれをしまい込み、彼女を立ち上がらせた。

 

 

「ではシルベさん。私たちはこの辺で失礼いたします。」

「待っ...!」

 

 

言い終わる前に、二人の姿は...まるで最初からいなかったかのように消失していた。

何だったんだ...アイツらはいつもそう。難しい言い回しでのらりくらりと、プレイヤーにまともな説明をしてくれない。

 

 

でもアイツらが撤退して、ミカちゃんも此処にいるってことは...

 

 

 

エデン条約編、終わった...?

 

 

 

 

 

「...!?シルベ!」

 

 

膝をつく。

 

終わった...って言っても、いいよねこれ。エデン条約編。

 

 

 

気づけば遠くから沢山の人の声がする。

 

一番聞こえる通りの良い声は...ミネ団長かな。

だとすれば、正義実現委員会も...ティーパーティーも来ているだろう。きっともう安全だ。

 

「シルベちゃん...!しっかり!」

『シルベ先生...!』

 

全身から力が抜けていく。気力の前貸しを回収するかのように。

 

改めて、自分の状態を認識する。

半日前の施術跡は多分開いちゃってるし、なんか一回死んだらしいし、私の体力は0なんて生優しいレベルじゃなく搾り取られている。

よくもまあ立っていられたものだ。

 

「...!.....!」

 

 

色んな声と共に、ぼやける脳で今までのことを思い出す。

 

 

 

 

 

ブルーアーカイブの、エデン条約編。

 

長い月日を駆け抜けたけど...此処がこの章の終着点だって言っても良いはずだ。

 

補習授業部との日々。

調印式の戦い。

そしてこのバシリカ。

 

嵐の壁を乗り越えて今隣に...

 

ミカちゃんがいる。

スクワッドのみんなが、いる。

 

誰も彼もが血塗れで、それでもみんなが立っている。

 

「ああ、良かっ...た。」

 

沈みゆく意識の中で...ゆっくりと安堵を噛み締める。

次に目が覚めたら、また忙しない日々が始まるはずだ。

 

「シルベ!」

 

私の手に握られた、一枚の煌めくカード。

実感はない。皆に先生と言って貰えたって、私があの人みたいに人を導けるって...自信があるわけじゃない。

 

それでも諦めずに。自分の目指す背中を追って。

あなたの人生に、未来に、不可能なんてないんだよって。

 

 

 

いつかの私に、言ってあげるために。

 

 

 

 

 

 

 

 





エデン条約編、次話で完結です。
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