先生の居ないアーカイブ   作:ヒオルカ

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亡き楽園をかの背に映す

 

 

「お目覚めですか?」

 

この世界で一番危険なのは気絶から目が覚める時だ。

 

何も心の準備もないままで、美少女たちが視界に入ってくるのだから。

 

「っ...?」

 

案の定、私の心臓が跳ねる。

 

超絶美少女ナースのセリナちゃんで爆発する情緒。

しかし、激動する感情とは裏腹に、身体が全然動かない。

 

今どういう状況ですか?

 

「ああ、動かないでください!めちゃめちゃに重症なんですから!」

「ふぁい...」

 

諌められてどうにか心を落ち着ける。

言われてみれば全身からもう動かさんといて!という叫び声が聞こえる。

 

寝りゃ治るキヴォトスボディといえど、流石に今回は度が過ぎたのか...気絶明けの痛みとしては新記録達成だ。

 

身体が動かないので、口頭でできる簡単な検査を受ける。

 

「本当に...穴だらけ火傷まみれで、酷い有様だったんですよ...?再手術で傷は塞ぎましたので、あとは絶対安静で!お願いしますね?」

「りょ、了解です...」

 

ぷんぷんと怒る激カワセリナちゃんが、検査結果を持って退出する。

 

 

 

...ふぅ。

 

ちょっと落ち着こう。彼女がいるということは、ここはトリニティ総合学園か。

 

私はまたもや入院しているのだろう。天井に見覚えがありすぎる。

ベアトリーチェを倒した後...私たちは救護騎士団によって救出されたとみてよさそうだ。

 

 

「...もう終わったんだよ、ね?」

 

 

大きく息を吐き、改めてベッドに体を預ける。

 

目だけで何とか自分の身体を確認すると、もうギッチギチのミイラ女状態。道理で1ミリも動けないわけだ。

気になることがありすぎるけど、スマホすら開けないので何もできん。

 

あの後皆は無事脱出できたのだろうか?スクワッドは?ワカモちゃんは...?

 

 

 

「失礼するよ。」

 

「!...あ、えっと...!」

 

ぐるぐると巡る私の思考を断ち切ったのは、思いもよらない人物だった。

 

「せ、セイアさん...!」

「初めましてと言うべきかな、一色シルベ。」

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

「アズサ。聖園ミカ。私たちは...もう行く。」

「...!?サオリ、それは...」

 

気絶した一色シルベを救護騎士団へと引き渡した後、彼女たちへと別れを告げる。

 

「...どうして?私たちと一緒に来れば...」

「ううん。私たちが一連の騒動を起こした実行犯なのは変わらないから。」

 

ミサキもヒヨリも、荷物を背負い直す。

 

「それだけじゃない。今は少し、私たちだけで考えたいんだ。この先どう生きていくべきか...」

 

今まで私たちの視界に映っていたのは、このアリウス自治区と...トリニティやゲヘナへの恨みだけ。

開けた視界で何を目指すのか。その答えを手に入れたい。

 

未来があると言ってくれた少女へ、自信を持って...私の選んだ未来を見て貰いたい。

 

「なに、心配するな。アリウスで厳しい訓練を積んだんだ。どこでも生きていけるとも。」

「...うん、そうだね。」

「え...そう、かな...?」

 

聖園ミカがチラッと横のアズサを見て、死ぬほど不安そうな顔をしている。何故だ?

 

「では...色々と世話になった。」

「...待って!」

 

聖園ミカは小走りで近づき、一枚の紙を私に握らせた。

数字が書かれている。

 

「これ...シルベちゃんの連絡先。」

「一色シルベの...?」

 

モモトーク...というらしい。ヒヨリなら知っているだろうか?

 

「シルベちゃんが起きてたら、渡せって言うと思うからさ。元々トリニティの掲示板にも張り出されてるやつだし。」

「...そうか、ありがとう。」

 

紙を懐に仕舞い込む。

 

「サオリ...」

「......」

 

もう一度、聖園ミカと向き合う。

 

この数ヶ月間、怒涛の日々だった。

どこからか彼女がアリウスの場所を見つけ出し、和解を持ちかけたあの日から...私たちの全てが変わった。

 

後悔は数えきれないほどある。

それでも、今この場所でこうして彼女と向き合うことができるとは...奇跡としか言い表せない。

 

そんな奇跡を起こしてくれた少女は、これからも私たちのような生徒のために戦うのだろう。

 

 

 

...目指すべき背中、か。

 

 

 

「またね。サオリ。」

「みんな...元気で。」

「また会おう...アズサ。聖園ミカ。」

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

「───まあそういったわけで、君はトリニティの病院へと担ぎ込まれたということだ。アリウススクワッドの行方に関しては、ミカからの伝聞だがね。」

「...そっか。」

 

セイアちゃんに、私が気絶してからの顛末を教えてもらう。

原作通りアリウススクワッドのみんなは放浪生活に。サオリちゃんは離脱してブラックマーケットへと向かうのかな?

 

みんな、無事に暮らしているといいな...

 

「あの、救出された生徒の中に...狐の面をつけた生徒は居ませんでした?」

「狐の...?いや、保護した生徒の中にそういった人は居なかったと思うが。」

 

私を庇ってバルバラ二体と交戦したワカモちゃんは、大丈夫だろうか。

...心配だけど、連絡先がわからない。彼女が普段どこに居るのかさえ不明だ。

 

ただ、ベアトリーチェは手駒のバルバラは尽きたようなことは言っていた。ワカモちゃんはあれを倒したのかな...

 

「それと、ミカに関してだが...」

「...っ!」

 

ミカちゃんの処遇。

原作で彼女は...退学こそ免れたものの、酷いいじめに遭うことになる。

 

体育館の決戦前にセイアちゃんの無事を伝えることで、彼女に自首をしてもらい減刑を目指す...私が当初考えていた作戦だけど、それは私の力不足によって叶わなかった。

 

今の彼女は過去の過ちを反省し、友達の大切さを痛いほど理解している。あの世界でもこの世界でも、いじめを受けるなんてことがあってはならない。

 

どんな結果になろうと、私はそんなことを許しはしないけど。

 

「ティーパーティーからは外されるだろう。しかし、おそらく退学とまではならない。」

「それは、どういった理由で...?」

 

おそらく今の彼女であれば、聴聞会には出席してくれるはずだ。

だけどそれでは...原作と変わらない。

 

「理由の多くを占めるのは...君だ。」

「...私?」

 

何だろう...パッと思いつく理由が出てこない。

 

「エデン条約調印式のテロがあった際、ミカが君を助けに会場へと向かっただろう?会場にいたナギサにもその報告が入っている。」

「えっと...」

 

言われてみれば...原作のエデン条約編3章におけるミカちゃんは、一度も外に出ていなかった。

 

「君はトリニティでも顔が広い。一色シルベを助け出したという事実が、彼女の心象を良い方向へと傾ける。」

「じゃあ、デモとかも起きてない感じですか...?」

 

少しでも、原作より良い方向へと向かったのだろうか。

 

「デモ...?特には聞かないな。あとは目を覚ました君が証言してくれれば、そう悪いことにはならないだろう。」

「そ...っか...」

 

ああ、良かった...セイアちゃんがそう言ってくれるのであれば、きっとそうなんだね。

 

「さて、一色シルベ。君にはいくつか聞きたいことがあるんだが...」

「...!」

 

病室の外から、うっすらと話し声が聞こえる。

 

「君の友人が着いたようだし、今度にしよう。」

 

そう言うと、セイアちゃんはゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

「改めて礼を言わせて貰うよ、一色シルベ。君のおかげで...最悪の事態を防ぐことができた。」

「いえ。みんなが手伝ってくれたおかげです。もちろん、セイアさんも。」

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

「シルベちゃん、良かったです...!よく分からないところに連れ去られた時はもうどうなることかと...!」

「あはは...ハナコちゃんもお疲れ様。みんなのおかげで何とかなったよ。」

 

補習授業部の皆に囲まれる。

みんなあちこちに絆創膏が見えるけど、一応元気そうだ。

 

「シルベちゃん、枕元にドクターペロロ様とナースペロロ様を置いておきますね...!」

「何それ知らない。」

 

知らんペロロ様出てきた。どんな見た目をしているのか気になるところだけど、首が動かない。

 

「ナースペロロ様!?エッチなのは駄目!死刑!」

 

エッチらしい。き、気になる...!

 

はぁ...しかし、こんなやりとりも随分久しぶりに思える。

補習授業部での日々が終わってからすぐにエデン条約の調印式だったし。

 

たとえミイラだろうが、みんなの元気な声が聞けるのが一番だね。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

「またお見舞いに来ますから、ゆっくり休んでくださいね。」

「うん、ありがと。またね。」

 

去っていく補習授業部を見送る。気づけば窓の外は夕焼けだ。

 

先程までの姦しさを夕日と共に噛み締めていると、ふとアズサちゃんが立ち止まってこちらへと引き返してきた。

 

「そ、その...シルベ...元気になったら、一つ教えて欲しいことがある。」

「?」

 

何だろう。そりゃ私が教えられることならなんでも教えてあげるけど。

 

「裁縫を教えて欲しい。その...諸事情でペロロ博士のお腹に穴を開けてしまって...」

「...!」

 

ペロロ博士のお腹に...そっか。

 

「分かった。今度綺麗な縫い方を教えてあげるから、一緒にやろう?」

「...うん!ありがとう、シルベ!」

 

彼女は眩い笑顔を見せる。

 

...先生。

 

きっと先生は...私のこういう顔が見たくて、私もかまってくれたんだね。

 

もう二度と会えないけれど。

 

 

 

 

 

 

きっとあなたみたいな先生になってみせるから。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

希望の祝詞が鳴る。

世界の役目が終わろうとしている。

 

天秤が崩壊へと傾くたびに、一人の少女によって押し戻された世界が。

 

 

 

だけどその前に。

 

銃声。怒号。炎。

何も知らず、苦しみの最中で死を待つ哀れな命が今。

 

目を覚ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時計じかけの花のパヴァーヌ編へ、つづく。

 

 

 

 

 





1、2章で61000字、3、4章で65000字となりました。
対策委員会編が80000字でしたので...合わせて二十万字超えです。よくこんな量を書いたものです。まあ書いたのはほとんど1年半前の私ですが。

そして何より驚くべきは、二十万字を読んでくださる読者さんがこんなにいたことです。びっくり。

もちろんこの広いハーメルンを眺めれば二十万字の作品など、量で見れば木っ端であることこの上ございません。
しかし実際書くことで分かる...自分の文章を一文字読んでくれる、覚えていてくれることの嬉しさたるや。

遠くない未来でこの作品が完結した時、ああそういえばこんな二次創作あったな...といった感じで、ほんのり懐かしい気持ちが浮かぶ作品になれると良いですね。

さて、お話的には幕間を挟んでからのパヴァーヌ編になります。
過去話...というわけではなく、このお話では時系列が

対策委員会編→エデン条約編→パヴァーヌ編
となる予定です。

パヴァーヌ再開までまたお待たせするかもしれませんが、流石に今回のようなことにはならないでしょう!ええ!




こんなところでしょうか。
長らくお待たせしたエデン条約編も、何とか愛すべきベアトリーチェのデカケツをしばくところまで漕ぎ着けました。

改めて、読者の皆様に感謝を。

よければエデン条約編の感想や評価等を書き残していっていただけると、それが私の主食になります。



今後ともシルベ先生をよろしく。良いお年を。






パジャマが二人とも引けねぇ。
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