「ごきげんよう。」
「ごきげん...うぇあ!?」
病院附属のカフェでラテを啜っていると、可愛いお声が降り注いだ。
さあ私なんかをナンパしていただける可愛い子猫ちゃんは誰かな?と顔を上げると、そこにいたのは...
「ワカモさん!」
「......」
ワカモちゃんだ...!良かった、無事だった!!
「少々あなたにお聞きしたいことが───」
「ワカモさん!あの時は助けてくれてありがとう...!あの後大丈夫でした!?怪我とかない!?」
彼女はバシリカで、バルバラに襲われていた私を助けてくれた。その後行方知れずで、連絡先も分からずにめっちゃ心配だったんだけど...
パッと見大きな怪我はなさそうだ。良かった...!
「...余計な心配ですわ。あの程度、私の敵ではありません。」
「そっか...!」
...そういえば、結局ワカモちゃんがバシリカに居た理由がさっぱり分かっていない。
「あの、どうしてあの時バシリカに───」
「そんなことはどうでも良いのです!一色シルベ。」
ズイっと狐の面が近づく。怒られちゃった...
「貴方、あのお方とは一体どのようなご関係で?」
「...あのお方?」
誰?
「貴方を助けろという使命を私にくださったお方です。当然ご存知なのでしょう?」
...えっと。
私を助けるために、ワカモちゃんをバシリカに向かわせた人ってこと?
そんなことできる人がどこに居るって言うのさ。
それこそ『先生』くらいのものじゃ...
...あれ?
「もしかして、先生?」
「!あの怪物もそう言っていましたが...やはりご存知ですね!その『先生』なるお方、どちらに!?」
んー、でもワカモちゃんはその人が『先生』であることは知らないのか。
裂け目から流れた情報?
でもミカちゃんはそれが『先生』だって知ってたよね。
「ちなみに、どこで知ったの?その人。」
「ある日突然、私のモモトークに貴方を救ってほしい旨の書かれたメッセージが届いたのです。写真と地図付きで。」
写真付きのメッセージ?
「あ!!!」
古聖堂からトリニティに戻る救急車の中で聞いた、私が死んでる最中に降臨した先生の様子。
“えっと、自撮りしてたよ?
自撮りって、自分撮り?
...ええ。
せ、戦場の記録を撮ってたとかじゃ...?
すっごいキメ顔だったよ。“
「あれかぁ!」
「何です急に。」
唐突なる先生の自撮り!
てっきり先生の知られざる趣味だと思ってたけど、そりゃそうだよね!切羽詰まってるであろう状態でそんなことしないよね!
納得がいった。
エデン条約編以降の先生であればバシリカの構造も分かるだろうし、あそこで先生が干渉できるとしたら...先生を一目見てぞっこんラブしたワカモちゃんを置いて他に居ない。
...あれ、その写真ってシッテムに入ってる?
「...いや、無いな。」
ログを見るに、送信後消しているみたいだ。
なんでだろ...でも先生のしたことだし、きっと必要なことなんだろうね。
あ、でもワカモちゃんの携帯には残ってるよね?
「あの、その写真見せてくれません...?」
「...!?い、嫌です!」
え、嫌なの...?
「ライバルが増えると困りますので!」
「あー...」
その発想はなかった。流石恋する乙女だね。
「...お知り合いなのでは?」
「知り合いと言いますか...まあとにかく、恋敵になる可能性は0だから安心してください。」
当然ながら、私が先生に惚れるといったことは無いといって良い。
そりゃ人間として尊敬する部分は多いよ?多いけどさ。
だってあの人女子高生の脚喜んでペロペロするんだよ?ちょっとヤバいって。
...私?私は良いんだよほらピチピチのJKいちねんせいですから!
年齢の話は禁止!
「うぅ...信用なりませんわ!だってこんなに魅力的なお方なのですから...!」
「だ、大丈夫ですよ。無理に見たりしませんから。」
気にはなるけどね?きっとイケメンなんだろうなぁ。
私にとって一番馴染み深い『先生』の顔といったら、やっぱりアロナちゃんの落書きなんだけど。
...まさか本当にあのまんま出てきたりしないよね?
もしそうならどんな顔して会えば良いのか分かんないよ。
「...ワカモさんはその写真のどの辺が好きになっちゃった感じですか?」
「え?それはその、整った目鼻立ちはもちろん...写真からでも溢れ出る素敵なオーラが...って何を言わせるんですか!?」
仮面越しでも分かる。きっと素顔は真っ赤だ。
キヴォトスに居ると忘れがちだが、青春には恋愛がつきもの。
そして少女たちはそんなお話が大好きなのだ。
「良いじゃないですか。教えてくださいよ〜!」
「や、やめてください...!うぅ...!」
シャーレで衝突したあの日が嘘のよう。
カフェテラスで2人、恋の話をする。
いいね。青春の最中に恋する少女は、一層輝いて見える。
...恋、か。
私の初恋は塵と消えたけど、ぜひ彼女にはその恋心を燃やして頑張ってほしい。
私は居なくとも、ライバルは多いぞ...?
──────────────────
ワカモちゃんと女子会をする数日前のこと。
「どうかな、体調は。」
「はい、おかげさまで順調に...」
車椅子を押して貰い、病室を出る。
立つまではできないけど...多少なりと動けるようになった。
しばらく進むと、病院内の休憩スペースへと辿り着く。
「すみません、車椅子押してもらっちゃって。セイアさんも病み上がりなのに...」
「遠慮する必要はない。そのくらいはできるとも。」
そう言うと、彼女は鞄から取り出したティーセットを並べる。
給湯室から持ってきたであろうお湯を注ぐ。ふわりと広がる花の香り...
「わぁ...良い香り...」
「これでもティーパーティーだ。紅茶には多少のこだわりもある。」
アールグレイかな?ベルガモットの爽やかな香りが優しく鼻腔を満たす。
...一応生徒会長とお茶会してる一年生だよねこれ。
「すみません、その...作法とか...」
「ここは公的な場ではない。君は気にするようなことは何もないさ。」
黄金色に輝く瓶詰めのアプリコットジャムと、おそらく目を見張る値段であろうオーラを放つクッキーが手際良く並べられる。
「さて、一色シルベ。改めて自己紹介をさせてもらおう。私は百合園セイア。トリニティ総合学園生徒会長の一人であり、サンクトゥス派のリーダーを務めている。」
「はい、よろしくお願いします...!一年生の一色シルベです...!」
...あれ、待てよ?
自己紹介したところでふと衝撃の事実を認識する。
目の前でセイアちゃんが喋ってる!!!
すごい今更だけどふつくしいお声だ...!私中国語で喋るセイアちゃんしか聴いたことなくって...
みなさん日本語版のボイスはこんな感じです。
聞こえない?それは残念、実装までお待ちください。
「君の活躍によって、トリニティおよびキヴォトスに迫り来る脅威を跳ね除けることができた。君には感謝しても仕切れない。」
「ど、どうも...えへへ...」
セイアちゃんは結構物事をすっぱり言うタイプなものだから、目を見てしっかり言われると流石に照れる。
「さて、単刀直入に言わせてもらうけれど...君は未来を見ることができる、という認識でいいのかい?」
「えっと...はい。」
彼女がどの部分でそう判断したのかは分からないけど、今更隠すこともない。
セイアちゃんの未来視は実際起こる未来を見るもの。
私は別世界の未来を知っているだけなので、結構別物だったりするんだけど。
ゲマトリアギスギス会議を覗き見した時のように、現在進行形の別地点を見れたりもしたはずだ。強くない?
「そうか...同じ未来を見るもの、とは残念ながらもう言えない。私は未来視を喪失してしまったからね。」
「っ!も、もしかしてクズノハさんですか...?」
やっぱり、彼女は原作通り能力を失っている。
セイアちゃんの能力を守るべきか...そのことについては随分と悩んだ。
まず一つは、未来視という力は原作との大きなズレになるのではないかという不安。
二つ目に、その能力自体が彼女の負担になっているんじゃないかとも思っている。
原作でのエデン条約編で...滅びに向かうトリニティ総合学園を目の当たりにした彼女は、希望を失っていたから。
最後に...これはナグサちゃん達に聞けばいいかもしれないけど、クズノハちゃんとの接点を失ってしまうということ。
...まあ、それを引っくるめて私に何ができたかは分からないけど。
「ふむ、そこまで知っているとは...その通り。私はゲマトリアに攻撃を受けた後、クズノハと名乗る少女に導かれて目覚めることができた。」
「すみません、お役に立てず...」
実際エデン条約編の間、セイアちゃんの動向を知る暇もなかった。
ハナコちゃんに聴いた話では、巡航ミサイル着弾後の混乱するトリニティを纏めてくれたらしい。
「...私は元々、変えられもしない結末に干渉する気はなかったんだ。しかしどういうわけか未来が変化してね。」
「未来が変わった...?もしかして、私の行動で?」
原作において、セイアちゃんの未来視が覆ることはなかったはずだ。
それが変わったってことは、同じく未来を知る私が関係していると考えて良いだろう。
「いや、違う。君の取った行動自体は見た未来と同じだ。」
違うんだ...普通主人公じゃないこういうの?転移/転生モノとしては。
「未来が変わったのは、ミカだ。」
「ミカさん?」
ミカちゃんがセイアちゃんの見た未来を変えた?
「彼女が別人のように豹変し君に襲いかかる...そんな未来は見えなかった。つまり何者かがミカに干渉する時、そこで未来が変化する。」
つまり、裂け目からの干渉によって未来が変わったってことか。もしくは『先生』という存在が未来の変化をもたらしているのかも。
「あの、聴いて欲しいことがあるんです!別の世界と、裂け目について!」
「ぜひ、聞かせてもらおう。」
とりあえず『先生』や色彩に関して、色々と話すことにした。
私の出自は除く。実在とか非実在とか絶対ややこしいことになるから。
「『先生』の居る世界に、ベアトリーチェの言っていた色彩...」
一通りの話を聞いたセイアちゃんが考え込む。
「...これは私の感覚でしかないが。あの時見た未来の変化は...まるで世界ごと書き換えられるような、強大な力を感じたんだ。」
「?...えっと...」
セイアちゃんの細い指がコップの淵をなぞる。
「裂け目の先から干渉を受けたとして...その世界とは明確な上下関係があるように思えた。」
「上下関係...」
難しい話だけど、つまり...
「この世界は...向こうの世界に内包されている、ってことですか?」
「私の感覚と、『君ではなく干渉を受けたミカが未来を変えた』という事実からの推測でしかないがね。」
先生の居る世界と...私の居る世界の関係。
考察させるようなアニメやゲームは大好物だけど、いざその場に立つともどかしくなって頭を抱えてしまう。
「おそらく『先生』なる存在であれば知っているのではないかな。いずれにせよ…世界の構成を今無理に考えたとしても、今の我々では手の出しようもない話だ。」
「まあ、そうですね...」
確かに、それはそうだ。
私はその前にやることが沢山残っているのだから。
「君もその人物に出会うことを目的の一つとして居るのだろう?何か手伝えることがあればなんでも言ってくれ。」
「ありがとうございます。あ、でもその前に!」
今思い出したけど、『先生』はセイアちゃんと色彩襲来時に関して話し合っていたはずだ。
一応それもやっておこう。
「最後の未来視でみた、キヴォトスの空が赤く染まる事件なんですが...!」
「...ん?」
それを聞いた彼女は、小首を傾げた。
「待ってくれ。私はゲマトリアに捕まって以降、未来視をしてはいない。」
「あれ?」
あれ、見てないの?
何か...タイミングとかがズレちゃったのか...?
これなんか影響あるかな。私の証言だけじゃリンちゃんが会議してくれないとかある?
「す、すみません...変なことを言ってしまって...」
「...いや、待ってくれ。」
ふと、セイアちゃんの目が少し開かれた。
「私が能力を失ったその時...記憶違いでなければ一瞬、視界が真っ暗になったんだ。」
「...真っ暗?」
真剣な表情で、彼女は記憶を探っている。
「あの時は未来視が消えた反動かと思っていたが...君の知る未来で私は、そのタイミングで最後の予知をしたのだろう?」
「...え。」
...彼女は原作では赤い空を予知した。虚妄のサンクトゥムタワーがキヴォトスに出現する異常事態を。
そのタイミングで、視界が真っ暗になった?
「一つの可能性としてだ。その時私が未来を見ていたとしたら?」
「...っ!?」
ま、まさか...
「私が視たのは...この世界の消滅。その可能性がある。」
───────────────────────────
走る。
もはや見慣れない街並みを。
「誰か…!ひ、ひぃっ!?」
脳裏にこびりつくのは、へし折れた知り合いの銃。
モブのような人生を歩んできたのだと、こんな状況になって初めて理解した。
あの平和な日々で、私は何をしていた?まるで『トリニティの一般生徒』という要素だけを放り込んだだけの概念として生きていたのだと思い知る。
知り合い。そうだ。
同室の彼女は知り合いだ。100歩譲ったら友達って言えるかも、程度の関係だ。
「嫌だ…!なんで、なんでこんな…!」
どうしてもっと話さなかったんだろう。どうしてもっと仲良くなろうとしなかったんだろう。
後悔は渦巻き…私の胃を掻き回す。とはいえ、もう吐き出すものなど残っているはずがない。
目を瞑るたびに浮かぶのは、そんな知り合い程度だった私を庇ったその─────
「うっ…!?うぇぇっ…!げほっ!」
頭が痛い。疲れた。死にたい。死にたくない。
「はぁ…はぁ…っ!?」
物陰から一匹。
ボールに触手の生えたような機械がこちらを狙っている。
咄嗟に銃を向けて発砲した。運良くコアに直撃したのか、それは煙を上げて動きを止めた。
「…もう、ここまで来たの。」
そういえば、背後でずっと聞こえていた派手な銃声は消え失せている。
さっき私を逃がしてくれた…あの人も死んだんだ。
代わりに足音が聞こえる。
死ぬ。
このままでは。
逃げなければ。
何処へ?
逃げ場など何処にもない。
足元が崩れていく。
世界が。
私は。
私たちは。
世界と一緒に塵と消える─────
次話より、時計じかけの花のパヴァーヌ編になります。
そもそもパヴァーヌの記憶薄れすぎ問題で先生ちょっとお時間いただくと思いますが、気長にお待ちいただけると泣くほど嬉しいです。
それでは!