アヤネちゃんの要請を受けてアビドスに到着してから、大体一週間ほど。最初の襲撃を過ごすと、しばらくは平穏な時間が続く。事態が動くまでは私も対策委員会の皆と一緒に、ヘルメット団の残党を倒したりアルバイトをしたりして過ごす。
全員良い子なのは知っていたが、実際に話してみてそれを深く実感した。
この一週間で対策委員会のみんなとも結構仲良くなったように思える。
そして、そんな風にアビドスの日々を過ごす中で。
私がキヴォトスに転生して以来ずっと思っていた、トップレベルにやりたいことの一つを成し遂げることができたのだ。
それは、先生ならば誰しもが一度は夢見るであろうこと——
柴関ラーメン食いてぇ......っ!
そんな夢である。
「ここここれが柴関ラーメンッ!!ほ、本物!」
「本物ってなんですか?」
「美味しい......美味しいよぉ......っ!」
「な、涙を流すほどだった!?」
今の所、めっちゃ楽しい日々を過ごしている。
トリニティでなくアビドスに転生していたとしても、きっとウキウキで過ごしていただろうな。
だけど、私がここにきた目的を忘れてはならない。できるだけ原作通りに、この学校を救うんだ。
「セリカちゃん」
「ん?どうしたの?シルベ」
セリカちゃんとはもう立派なバイト仲間である。非常に頑張り屋でいい子で......もうお姉さん抱きしめてあげたい!
こう言ってはなんだが、セリカちゃんが稼ぐアルバイト代は、借金返済の足しとしては雀の涙だ。なんてったって9億ある。
それはきっと彼女だって理解してはいるだろうけど、それでも少しでも学校のためになればと日夜頑張り続けている。とても尊敬できる人だ。
この学校の借金問題は......残念ながら、原作通りに対策委員会編が終わったとしても解決はしない。どうにかしたい気持ちもあるが、先生が解決できなかった問題を私がどうこうできるわけがなく——
「この辺りで、ゲルマニウム麦飯石ブレスレットで一攫千金!って謳ってる人がいるらしいんだけど」
「え、ゲルマニウム麦飯石ブレスレット?よく分からないけど、一攫千金って、お金稼げるの?それだったらやってみても——」
「詐欺だから気をつけてね!!」
「そ、そうなの!?許せないわ!アビドスでそんな行為するなんて、見つけたらぶっ飛ばしてやるんだから!」
でも、何もかも原作通りにする必要はないよね。これでセリカちゃんのお昼代はどうにか守られたと言っていいだろう。
「あとこれ、幸運のブレスレットなんだけど。身につけると運気が普段の三倍になるから使って?」
「三倍になるの!?ありがとう!よーし、これでもっとアルバイト頑張るわよ!」
「......」
......本当に守られたかな?彼女の純粋さは筋金入りみたいでちょっと不安だね。
―――――――――――――――
「おまたせ〜」
「先輩!どうでした?」
ホシノちゃんと共に委員会室に駆け込む。
「見つかったよ〜。シャーレの権限で、連邦生徒会が管理してるセントラルネットワークにアクセスしてもらってね」
「セントラルネットワーク!?大丈夫なんですかシルベさん......?」
「えっと、バレなきゃOK!」
結論から言って、セリカちゃんが原作通り攫われてしまった。
一応事前に阻止できないかと見回ってみたが、日時がはっきりとしていないため、その場面に出会うことは出来なかった。
きっとこの記憶を持ったのが先生だったら、セリカちゃんに怖い思いをさせる前に解決できたと思うと、とても悔しい......
でも、助け出すことはできる。連邦生徒会のセントラルネットワークにアクセスすることで、セリカちゃんの位置を見つけ出すことができるのだ。
なんて。
そう思っていたのが三日前の私。試しにセントラルネットワークを覗いてみたら、さっぱり繋がらなかった。
それに気づいた私は慌てふためきつつどうにかしようと思いついたが——
セリカちゃんの純粋さにつけ込んだ、発信機付き幸運のブレスレット大作戦だ。
単純に私の権限が足りていないだけなのか、原作の先生がアロナちゃんに頼んでセントラルネットワークに接続していたのかは謎だけど。とにかく、発信機がしっかり位置を伝えてくれたおかげでなんとかなった。
これ以降セントラルネットワークとか出てきてないし......大丈夫だよね?
「見つけた!半泣きのセリカ発見!」
「そんなに寂しかったの?ママが悪かったわごめんねー!」
「!?な、泣いてないったら!」
「うう、ごめんねセリカちゃん......!セリカちゃんが悲しむ歴史を変えられなくって...っ...!」
『歴史まで!?』
後はカタカタヘルメット団を蹴散らしてアビドスに帰るだけ。さしたる問題にはならないだろう。
問題はここからだ。これからどんどんと敵のレベルが上がってくる。カタカタヘルメット団なんかは比べ物にならなくなってくるだろう。
不安はある。
だけど......無い知恵を絞ってやり切る他に、選択肢はないんだ。
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拉致と強盗とアイドルが挙がる会議を無事に終え、激おこなアヤネちゃんを柴関ラーメンへと連れて行く。セリカちゃんが引っ掛かるはずだった詐欺は話題には上がりませんでした。やったね!
「はい、お口拭いて。はい、よく出来ましたねー⭐︎」
「赤ちゃんじゃありませんから!」
「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」
「(もぐもぐ)ふぁい」
ぷんぷん怒りながらチャーシューもぐもぐするアヤネちゃん可愛すぎんか?ムツキちゃんが気にいるのも納得の可愛さだ。
ムツキちゃんといえばそう、このシーンの後——
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「あのぅ......ここで一番安いメニューって、おいくらですか?」
来た。ハルカちゃんだ!
伏し目がちなお顔に華奢な体......うーん甘やかしたい!撫で回したい!
「やっと見つかった!600円以下のメニュー!」
「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ。」
「はぁ......」
うおぉおお!便利屋68勢揃い!すごいなぁ......余裕そうなアルちゃんを筆頭に、一見カリスマ性のあるやり手のグループに見える。
その実、夕飯代をとっておくのを忘れて彷徨い歩いた金欠集団なんですけどね。
「ここのラーメンは本当に最高なんです!遠くからわざわざ来るお客さんもいるんですよ」
「ええ、わかるわ。色んな所で色んなものを食べていたけど、このレベルのラーメンは中々お目にかかれないもの」
ノノミちゃんが便利屋のみんなと話し始める。アルちゃんほんとニッコニコだなぁ。このアルちゃんの笑顔ほんと素敵です。
......でもこの後、アルちゃんたちと戦うんだよね。
なんだか気が重い。きっと私が銃を持てないのもそういう点に原因があるのだろう。画面越しでも、私は先生だったから......生徒に銃を向ける気になれない。
ラーメンを啜る。今から便利屋に事情を説明したら襲撃をやめてくれるだろうか?
......いや、原作での便利屋との共闘のきっかけは共通の敵がいたからだ。少なくともこの段階では、何を言っても無意味だろう。
「......ん?どうしたの、シルベちゃん?」
「い、いや、なんでもないよホシノさん」
ぐっと水を飲み干す。ダメだダメだ!欲張りはいけない。何もかも傷つかない道なんて存在しないんだ。
それに、アルちゃんたちは最終的には仲間になる。大丈夫。これは青春ドラマの、河原での殴り合いみたいなものだと思おう。
私がちゃんと、大丈夫にしなゃいけない。
―――――――――――――――
「くぅ......!?この......!」
「セリカ!」
「みんな!私の後ろに集まって〜!」
「ハルカ、四番の爆弾を」
「は、はい!皆さん吹っ飛ばしちゃいます!」
「ふふふ......中々粘るわね。そろそろ降参しても良いんじゃないかしら?」
戦場。
遮蔽物に隠れ、必死にドローンを操る。自動操縦では一対一が限界であったため、大人数での戦闘をするための手動操作を練習していたが——あまりに心もとない有様だ。
何せ相手の練度が違う。その辺のチンピラが迷惑行為の一環で戦闘を行なっているカタカタヘルメット団とは違い、戦うことで日銭を稼ぐ、言わばプロの傭兵。
そして普段の行動で誤魔化されているが、ヒナちゃん抜きの風紀委員会を倒しうるほどの戦力を持つ便利屋。
「っ......ドローン......!」
「おっと、させないよ〜?」
「あっ!?」
銃声がそこかしこから響き渡り、ドローンの操作に集中できない。
い、今ドローンの現在地ズレた......っ!?どこに───
「い、痛っ!」
「......!シルベちゃん!私の後ろに!」
ドローンの位置を目視で確認しようと遮蔽物からはみ出た瞬間、肩に弾が当たる。血は出ないけど痛い......!
ノノミちゃんが私の体を隠しながら、ミニガンを乱射する。
な、情けないっ!生徒に銃を向けたくないだのなんだの言って、このざまだ。
やはり先生と私では戦力の乖離が著しい。先生の指揮とアロナちゃんのバックアップ......これがないとこうも辛くなるのか。
アビドスは、戦力的には便利屋よりは上回ってそうだが...傭兵がついているとなるとその差は埋まってくる。カイザーPMCの予測は、先生を除けば正確なデータだったというのか?
それに私みたいなのが足を引っ張っていれば——
「社長。そろそろトドメの攻勢をかけた方がいい」
「え?ああ、そうね......そ、それじゃあ......」
「よっと!」
突然、物陰からホシノちゃんが飛び出した。不意をついた行動に反応の遅れた傭兵たちをすり抜けて、彼女は敵陣をひた走る。
「......っ!ハルカ!」
「はい......!?ああっ!」
ホシノちゃんは、ショットガンを構えて進路を塞ぐハルカちゃんを軽々飛び越え、傭兵の後方にいる他の便利屋に突撃する。
「ええっ!?ってうわっ!」
「っ!アルちゃん!」
敵の懐に潜り込んだホシノちゃんはその場で暴れ回り、傭兵や便利屋の動きを大きく乱していく。
『今です、先輩が暴れているうちに立て直しを!』
「ん......平気?シルベ」
「あ、ありがとう......」
やっぱりホシノちゃんは強い。あまりストーリー中に戦闘の描写は見られなかったが、『アビドス最高の神秘』とアイツに言わせるほどの力を秘めている。
「よっと、ただいま〜」
「やったわねホシノ先輩!よし、まだまだ負けないんだから!」
「くっ......!み、みんな!もう一度陣形を立て直して攻撃を──
キーンコーンカーンコーン
「あ、定時だ」
「え!?ちょ、ちょっと待ってよ!帰っちゃダメ!」
こうして私の、初めてのネームド生徒との戦いは......首の皮ひとつ繋がったレベルでの決着となった。
アビドスを守ることはなんとか成功したが、しかし私が何か貢献できたかというと——
私の肩には、ずっしりとした敗北感が残る結果となったのでした。
戦闘描写が上手くなりたいこの頃。