「——奴らのデータ自体は正確なものだったはず」
とあるビルの一室。受話器を置いた男は、端末に表示される戦闘データを見比べる。
「計算ミスか?しかしあの力は......」
「お困りですか?」
大柄なその男、カイザーPMC理事に向けて、スーツ姿の男が声をかけた。
「......いや、困ってはいない。少し計算にエラーが生じただけだ。アビドスの連中がデータよりほんの少し強かったというだけのこと」
「そうですか」
漆黒の男は少し黙り込んで、手に持つタブレットへと目を落とした。
「アビドスにどのような変化要因があったか調べてみましょう」
「......待て」
理事がその男を引きとめる。
「データと実戦の数値を見比べたが、この『シャーレの先生代理』とやらの戦力評価が高すぎるように感じられる......これは必要なのか?」
「......そうですね、申し訳ございません。修正をしておきましょう」
彼は怪しく笑い、姿を消す。その背中に不気味なものを感じながら、理事もまた何処かへと立ち去っていった...
ああ、先生。シャーレの先生代理。
今のところ大した影響力はないように思われる、ごく一般的なキヴォトスの生徒。
しかしなぜかその言葉を聞いただけで......それに期待し、希望し、評価する自分が存在することに違和感を覚える。
理由の分からないこの精神的な揺らぎを心地良く感じながら、この先がより楽しくなりそうだと、漆黒の男は静かに笑った。
―――――――――――――――
「はいいいい!?」
「わあ⭐︎そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」
さあ皆のもの、我らが義賊『覆面水着団』初作戦の記念日である!刮目せよ!
「ふぅ......それなら、とことんまでやるしかないか!」
『はぁ、了解です。こうなったら止めても聞く耳持たないでしょうし......』
それにしてもこう、みんな覆面姿が妙に似合っている。いくら美少女だからって覆面被っても可愛いとかそんなことある?
やっぱり個人の髪型等に合わせたアレンジがあるからかな。
これを手作りで準備したシロコちゃんは......これをみんなで被って銀行強盗をすることを夢見ながら、夜なべしてこれを縫っていたんだろうか?
対策委員会のみんな一人一人を思いながら、心の篭った手作りの縫い物をプレゼントする。言いようによっては心温まるハートフルなエピソードだ。言いようによってはね。
「ごめんヒフミ、シルベ。あなたたちの分の覆面は準備がない」
「うへー、ってことはバレたら全部トリニティのせいって言うしかないねー」
実際、ヒフミちゃんが銀行強盗しました!なんて報告が来たらナギちゃん泡吹いてぶっ倒れるだろうな。
「それは可哀想すぎます。とりあえずこれでもどうぞ⭐︎」
「おー、たい焼きの紙袋!それなら大丈夫そう!」
ガサガサ
「あうう...」
覆面水着団5番、リーダーのファウスト、爆誕。
いやぁ......なんか感動する。だってファウストが目の前にいるんだよ?ファウストを360度眺められるんだよ?みんなヒフミちゃんのフィギュア出たら紙袋の換装パーツ付けてくれって言うでしょ?
「見た目はラスボス級じゃない?悪の根源だねー、親分だねー」
「でも紙袋一個しかないですね...私もう一個たい焼きを買ってきます!」
「あ、私の分の覆面はあるので大丈夫」
『え?シルベさん!?どうして持ってるんですか!?』
「ん......シルベ、準備バッチリ」
事前に用意していた黒の覆面を装着する。通販で買ったやつに数字のワッペンを縫い付けてあるものだ。
原作の先生がどうしていたのかは謎だが...イラストでは先生の分の覆面はなかったし、後方待機だったんじゃないかと思う。
いかに原作でガバガバ変装が通っていたとしても、流石に大人の先生が強盗に入ってきたら絶対バレるし。
そんな訳で用意しました覆面!それにちょっと覆面水着団入ってみたかったの......追加戦士枠でいいから......
「じゅ、準備万端すぎるわね......あれ?6番?5番じゃないの?」
「えっあっ......その、アヤネちゃんが5番だって勘違いしてたの!偶然うまいこと行ったね!」
あ、危ない......覆面水着団は5人と言うイメージが先行して普通に6番にしてしまったけど、よく考えたらシロコちゃんが作ったのは4番までだった。でもヒフミちゃんが6番になるのはなんかやだし。
「わ、私もご一緒するんですか!?闇銀行の襲撃に!?あの......シルベちゃん......!」
「あー、その......しょうがないんじゃないかな?うん。頑張ろう!」
......冷静に考えると止めるべきじゃないか?
原作の先生はノリノリで「銀行を襲うよ!」とか言ってたけどそれでいいのか?
でも襲わないといけないんですこの先の展開的に。なので私目を瞑ります。私まだ先生じゃないもーん。
「問題ないよ!私らは悪くないし、悪いのはあっち!だから襲うの!」
「はい、出発です!」
「あ、あうう......」
『ふぅ......では覆面水着団——』
アヤネちゃんが覆面を被る音がする。ちなみに音声だけなのでこっちからは見えない。覆面を被ったアヤネちゃんが見られるのはゲームをプレイしているあなただけ!
『出撃しましょうか!』
Let's go!
―――――――――――――――
「融資の承認は降りませんでした。お力になれず申し訳ございません」
「えっ!?ちょ、ちょっと待ってよ!」
銀行内部では原作通り、便利屋68が融資の相談に訪れていた。
とりあえずバレないように配置につく。事前にシロコちゃんから配られた銀行内部のマップと計画内容を再度確認する。うーん何度見ても隙のない計画だ。
こと銀行強盗においては先生よりも指揮能力を発揮するかもしれない。
ロビーではアルちゃんがいつも通りオロオロしている。さっきはソファーで他の三人がすやすやお眠りになってて非常にキュートでした。
......合図がきた。ドローンを操作して裏にある銀行内の電源を、落とす!
「な、何事ですか、停電!?」
「パソコンの電源も落ちて......うわぁ!?」
銃声が響き渡る。まあ真っ暗な中で誰に当たるか分からないし空砲だけど。
暗いうちに指定の位置につく。しばらくすると銀行の予備電源が作動し——この銀行を襲う恐怖の軍団が姿を表す!
バァン!
「全員その場に伏せなさい!持ってる武器は捨てて!」
「言うこと聞かないと、痛い目に遭っちゃいますよ⭐︎」
「あ、あはは......みなさん、怪我しちゃいけないので......伏せててくださいね......」
後は原作通り。突如平和......?な銀行に強襲をかけて書類と一億円とアルちゃんの心を攫った覆面水着団は、華麗に追跡をかわして姿をくらましたのだった。
―――――――――――――――
『無事封鎖地点を突破しました。ここから先は安全です』
「やったぁ!成功ね!」
何度かマーケットガードとの衝突はあったが、シロコちゃんの巧みなルート選択によって無事抜け出すことができた。
今回のマーケットガードのような大人相手であれば私も戦えるだろうかとも思ったが、銃を持ったところで練度が足りなさすぎる。
見てみなさいあの少女たちのプロみたいなリロードモーションを。当たり前のように銃が隣にある世界で育つ彼女らは基礎が違うのだ。
ドローンを極める方がよっぽど成果を出せそう。
「シロコちゃん、集金記録の書類はちゃんとある?」
「あ、うん......バッグの中に」
「へ?なんじゃこりゃ!?バッグの中に札束が!?」
バッグの中にはギッチリと詰まった札束。現代価値に換算するとその額なんと一億円である。換算しなくても一億円である。
「いや、これは銀行の人が勘違いをして......」
「やったぁ!!何ぼーっとしてるの!運ぶわよ!」
『待ってください!このお金使うつもりですか!?』
セリカちゃんが一億円に入ったバッグを抱える。まあ気持ちは分かる。対策委員会の中で一番お金を稼ぐために頑張っていたのはセリカちゃんだ。それこそ詐欺に引っかかるくらいには、必死に。
「シロコちゃんはどう思う?」
「答えるまでもない。ホシノ先輩が反対するだろうから」
「シロコちゃんよく分かってるね〜。私たちに必要なのは書類だけ。お金じゃない」
「......」
「こんな方法に慣れちゃうと、ゆくゆくは、きっと平気で同じことをするようになるよ」
ホシノちゃんの考え方は立派だ。アビドスがこんな状態になるまでには、様々な陰謀や謀略があっただろうに、その上で彼女は正しい方法を貫こうとしている。
「だから、このバッグは置いていくよ。これは委員長としての命令〜」
しかしそれは無謀で、非現実的で、夢物語だ。それを抱き続けるべきなのかは......分からない。その結果が実るかどうかは、誰にも分からない。
けれど、生徒が見たい夢を後押しして、失敗した時......奈落に落ちることのないように準備をする。それが先生の仕事なんじゃないかと私は思う。
なんて、未熟な私が言ってもしょうがないんだけどね。
『待ってください!何者かがそちらに接近しています!』
「はぁ、ふう......ま、待って!」
全員で即座に覆面を被り直す。
「銀行の襲撃、見せてもらったわ......ブラックマーケットの銀行をものの五分で襲撃して華麗に撤退!貴方達、稀に見るアウトローっぷりだったわ!」
「......!」
ちょっとシロコちゃん嬉しそう。銀行強盗の手腕を褒められる機会なんてまずないだろうからね。
「な、名前を教えて!その、組織っていうか、チーム名とかあるでしょ?正式な名称じゃなくてもいいから......」
「......はい!おっしゃることはよーく分かりました!私たちは、人呼んで『覆面水着団』!」
「覆面水着団!?ヤバい......!超クール!カッコ良すぎるわ!」
センスが盲目になってる。でも便利屋68は結構センス良いと思うよアルちゃん。
「普段はアイドルとして活動してて、夜になると正義の怪盗に変身するんです!そして私はクリスティーナだお♧」
「だお......!?きゃ、キャラも立ってる......!」
アルちゃんの笑顔はいつ見てもいい。無垢な憧れの表情、それがこちらに向けられてるとなるともう可愛すぎる。クラクラしてきた......!
「し、シル......ブラックさん、大丈夫ですか!?」
「あ、う、うん。ありがとうファウスト様」
「ブラックとリーダーのファウスト『様』......!?ドラマ性のありそうな主従関係!シビれるっ!」
わたしたちの一挙手一投足に興奮してぴょんぴょん飛び跳ねてるアルちゃん。もう好き。これ以上そんな姿見せられるとこっちが持たないよ!
「うへ。目には眼を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く。これがわたしたちのモットーだよ」
「な、何ですってー!?」
「(ほ、ホシノちゃん、そろそろ撤退しよう!)」
ハンムラビ法典風モットーを語った所でホシノちゃんにお願いをする。このままでは私がアルちゃんのキュートなアクションでぶっ倒れる。
「それじゃあこの辺で。アディオス〜⭐︎」
「行こう!夕日に向かって!」
「夕日、まだですけど......」
横目でバッグが忘れ去られていることを確認する。あれは大事なお金だ。ちゃんと置いていかないとね。
「よし!我が道の如く魔境を......その言葉、胸に刻むわ!私も頑張る!」
「はぁ」
「あの、このカバン......どうしましょう?忘れ物でしょうか?」
こうして覆面水着団は夕日の向こうへと消えていった......
はい。大満足です。ブルアカ世界来てよかった!
ストーリー更新のたびに矛盾点が発生するのではないかという現行ソシャゲ二次創作の恐怖!