「…生きてる」
崖から落ちて暫く意識がなかったけど、何とか生きているらしい。体は痛みが走って動ける感じでもないがあの少女は撒けたと思う。
「痛い…本当に痛い…動けないし」
「そりゃ崖から落ちたらそうなるよね」
「なっ!?ぐっ!」
声をした方を見たら顔に「死神」と書いた紙を着けている白黒の少女が立っていた。手を広げやれやれといった様子だ。逃げようとしても動けない。そんな俺の前に少女は屈んで話し出す。
「いやー本当に馬鹿。死んでるのにきづかないで森を徘徊しているとは…お陰で探すのに時間掛かったよ」
「…死んだ?誰が?」
「誰ってお兄さんが」
…?言っている意味が全く分からない。俺が死んでたら今こうやって寝転がってないし、体の痛みもなくて、こうやって話も出来てないだろうし。
「…あーやっぱ理解出来てないか。よーく聞いてね?お兄さんは死んだの。んで何かの間違いでここに来た。だから僕がやって来た」
「…俺が死んでたら何でお前が来るんだ?」
「だって僕死神だし。魂は元の流れに還さないといけないからねー」
当たり前のように目の前の少女は言うけどさっぱり理解出来ない。死神?魂?たまに見るテレビの設定でも中々聞かない単語ばかりで本当に理解出来ない。
「…そうだなあ、ねぇお兄さん。走ってるときさ、息切れなかったよね?それに今だって血も流れてないしその服も破れてない。しかも崖から落ちて死んでない!可笑しいでしょ?」
「…!」
言われてみれば確かに走ってるときはずっと全速力で走れたし、体は痛いだけで作業着も崖から落ちたのに破れてない。
「でも、俺は、こうやって今ここに居る!」
「…見せた方が早いかぁ」
「…何を?」
少し諦めたように少女はため息を吐いた後、近くに生えていた大木の近くに移動した。木の表面を撫でて触り心地を確かめるような動きをした後に木を見上げた。
「ごめんね、セイ!」
「…え?嘘だろ…」
掛け声と一緒に出された小さな拳は大木を簡単にはへし折ってしまった。それだけじゃなくて、折られた木は根元も一緒に段々と姿を薄くして消えてしまった。
「…どう?これで分かった?」
「いや、でも」
「はぁぁぁ…ならお兄さん、上見た?あの森じゃ上見れなかったと思うし」
「上…?」
確かに森の木の枝で隠されて空を見上げられなかった。首も動かすのも難しいぐらいに体が痛いが何とかして上を見た。
「は、え、なんだこれ」
上には巨大な木の根っこが張り巡らされていた。根っこの表面には強く光る苔が付いていて辺りを照らしている。それだけではなくて、ちゃんと見てみれば回りに建物らしいものはなくて自然ばかり。空や地平線はなくて大きな洞窟の中に迷い込んだようだった。
「…鈍いお兄さんも漸くわかった?ここは根の国、魄の停留所。それで僕が死神でお兄さんの魄と一緒に付いて来ちゃった魂を回収に来たって訳さ!」
絶対に元居た場所じゃない異世界のようなこの空間に、根の国とか停留所とか魄とかさっきよりも訳の分からない単語が出てきて頭がパンクしそうで考えるのを止めたくなる。でも、これは訊かなきゃいけない。
「俺は…本当に、死んだの?」
「だからそう言ってるじゃん。今理解したの?」
信じられない。俺は確かに仕事帰りで、仕事帰りで…それから確か…
「…思い出せない」
「死んだの拍子に記憶でも無くした?まあもう関係なくなるよ」
少女が近づいてきて俺に手を入れようとしている。何となく分かる。これを許したら俺という存在が居なくなってしまうと。
「待った!」
「待たない」
「俺は死んでない!いや死んでても生き返る!ぜっったい生き返る!」
「えー諦めなよ。生き返るとか神様でも難しいんだし」
話をして何とか動きは止めた。ここからは俺が絶対に折れちゃいけない。
「生き返るなら何でもする!」
「口に言うのは簡単だけどさぁ、後僕強いから特に困ったこととかは…あ、あー…」
「何だ!何か…ぐ…」
大きな声を出しすぎて体が痛い。でも絶対に諦めない。生きなくてはいけないから。死んでても生き返らないとけない。
「あー…んー…まいっか。お兄さん暫くは魂取るの止めてあげる。後生き返る手伝いもしてあげる」
「ほんとか!」
「ただ、キツいし魂ごと消えてなくなっちゃうかもしれないよ?それでもやる?」
「やる!」
「おぉ…即答かぁ」
断る理由なんかない。俺は生きなければいけない。それは…今は思い出せないけどきっと俺が大切にしていたことだとは分かるから。
「じゃあ自己紹介ね?僕は死神の白(はく)、あ、白い方のハクね?」
「俺は…確か匠悟(しょうご)、名字は思い出せない…」
「いいよいいよ、じゃ宜しくね匠悟!…取り敢えず体回復するまで待とうか?」
「…頼む」
俺と白は自己紹介を終え、白には俺の体が動くようになるまで待って貰った。