聞き間違いじゃなければ囮って言葉が聞こえた。戦いとか言われたけど絶対に囮にするのが目的だ、今も白は下手な口笛吹いてそっぽ向いているし。顔が見えない癖に感情が分かりやすいというかなんというか…
「子供だなぁ」
「は?僕君よりずっと歳上だよ!多分二百年は死神の業務をしてるし!」
「二百年!?…でもなんかなぁ」
見た目は白くて長い髪に白黒の着物と非現実的だが、言動が何処と無く幼い気がする。最初の得体の知れないような怖い印象はもう感じてない。
「失礼なこと考えてない?」
「い、いや。そんなことない、です、よ?」
「急に敬語だし目に見えて動揺してるのが丸わかりだよ!さっさと行ってこんかーい!」
「うぉ!?」
下手な誤魔化しは意味がなかったようで、機嫌を悪くした白に後ろに回り込まれて背中を押された。後ろを振り返っても姿は無かったので仕方なく押された方に進むことにした。
「それにしても妖怪?だったっけ。…本当に居るのか?」
白と別れてそこそこ歩いたが今のところ平和だ。景色を見渡して見れば色んな種類の花が咲いて見晴らしが良くて自然も豊か、人の気配は全くないけど鳥の鳴き声が聞こえるぐらいには静かで妖怪なんて出そうにもない。
「でも微妙に薄暗いんだよなぁ…ん?」
もう少し明るくならないかなと思いながら歩いていると、円を描くように地面が剥き出しになっている場所が見えた。他の場所は花とか木とか草とか生えているのにそこだけ何もない。
「怖、あそこに何か居るのか?」
地面が剥き出しになっている場所に近づくと円の中心に穴が空いていてその上にモヤが漂っていた。妖怪と言われていたから、もっとこう…
「鬼とかかなぁと思ってたんだけど」
ズドン、と地面を揺らす大きな音がした。瞬きをしたぐらいで目は離してない。なのに穴の上にあったモヤは消えて虎柄の腰巻きに牛の角を生やした鬼がゆっくりと立ち上がった。
「……いやいや、冗談でしょ?冗談キツいって!」
大きな目をギョロりと俺の方へ向けると鬼は一直線に向かって走ってきた。あれは無理、絶対無理だから白と別れたところに向かって走り始めた。
「あれと!戦えと!?絶対無理だろぉ!」
大きさは俺とそんなに変わらないけど顔面の迫力が半端ない。絶対食い殺すとかそんなこと考えてる。俺死んでるから味しないと思うけど。
「…段々距離が縮まって来てるぅ!」
現実逃避してると後ろから聞こえる足音が徐々に大きなっている。走っても体力が無くなることも脇腹がつることもないけどそれはあっちも同じらしい。鬼のスペックの方が高いんだからそりゃ追い付かれるか。
「ハハハ…ヤバいヤバい死ぬ!もう死んでるけど!」
あの鬼に捕まったら絶対ロクなことにならない。白と別れたところまでもう少しだけど足音はもうほぼ背後から聞こえる。
「あ、やっ」
足がもつれて転ける。同時に足音もピタリと止まったから起き上がってゆっくり振り返る。ギョロリ、と俺を見つめる大きな目玉と目があった。
「あ」
「グォォ!」
死んだと思った。ここに来てから死ぬかと思うことばかりでずっと駆けずり回って、でも呆気なく死ぬんだなぁ。
「ご苦労さん。上出来だよ!」
鬼の拳が振りかぶられた瞬間に白い線が横切って、鬼が弾け飛んで消えた。
「…え?」
「いやーやっぱり見立て通りだったね。めっちゃ楽だったー。あ、穴塞がないと」
白は足を出した状態から足を戻して軽く伸びをした後、さっきの地面が剥き出しになってた場所に歩いて行った。
「………俺必要だったか!?」
軽い足取りで向かっていく白に対して俺は叫ぶことしか出来なかった。