腰が抜けたかと思ったが、別段そういうこともなく直ぐに立ち上がれた。息も切れていないし体力も減っていないようだ。ただ、転けて打った足は痛かったが。
穴の有った所まで白を追って進めば、白はどこからか持ってきた岩を頭上に掲げ運んでいる。どう見ても車ぐらいの大きさのある岩を軽々持って運んでいる白の様子を見て、なるべく逆らわないようにしようと決めた。
「おっこいしょっと。ふぅ、一丁上がりよ!後は本職の方々に任すとして…お、来た来た。お疲れさまー」
「普通に死にかけたんだが?」
「もう死んでるでしょ?それに何でもするって聞いたし」
「それはそうだけど…」
白が穴を岩で大雑把に塞いだ後、少し文句を言おうと話し掛けた。話し掛けたまでは良かったんだけど普通に言い負けてしまった。中々やるな…
「でも!事前にどうなるかぐらいは教えてくれても良いだろ?」
「それは無理。だって余計なこと言って面倒な妖怪出されても困るし。そうなると連れてきた意味無くなるからね」
「意味…?」
ただ言い負けるのもちょっと悔しいので言い返したらまた分からないことを言い始めた。白は俺を虐めて楽しいのだろうか?
「ここに最初来たときモヤが有ったでしょ?それが穢れ。妖怪を構成するモノ、穢れが人の恐れを感じ取って変化したものが妖怪になるって寸法よ」
確かに言われてみれば穴の上にモヤが有った。そのときに恐れてたか言われればそうじゃないけど。鬼とかが出るかなとか想像してたはしてたが。
「モヤのときに何とか出来なかったのか?」
「それも無理。モヤのまんまでも魄食い散らかすから近づけないのと僕死神だから恐れとか無いしぃ…」
「え、魄食い散らすとか初耳なんだけど」
「あっやっべ」
白は顔を逸らす。紙で顔が見ないけどそこそこ動揺してる。色々と言いたいことが有るけど多分言ったらキレられて殴られると思うから、言いたいことはそっと胸の中に仕舞って別の疑問を出す。
「…なあ、俺以外の奴使わなかったんだ?」
「え?…あ、そっかぁ。匠悟はまだ人の魄を見たとこないのかぁ」
そうかそうか、と俺の問いに答えないで白は腕を腰の後ろに回して俺を見ている。馬鹿にされているかおちょくられているかのどっちかだと思う。
「ここら辺の魄は避難させてたから当たり前と言っちゃ当たり前だけど…ふーん」
「…なんだよ」
「いーや?別にぃ?ただ今の僕は厄介ごとが一つ済んだから機嫌が良いので良い所に案内して上げよう、着いておいで」
白は俺の返事を待たずにどこかに進む。本当に機嫌が良いらしく、スキップをしながら進んでいるのだが速い。走らないと置いていかれそうなぐらいには速かった。
「おい、待て。待ってってば!」
「ふーんはふーんはー」
「聞いてない!」
スキップする白を走って追い掛け暫くして、花畑のような所に出た。人影もいくつか見える。人影は何かをしているようだがここからだと良く見えない。
「行ってくれば?」
スキップを止めた白にそう言われた。白は人影には興味がないらしくその場に屈むと花を見始めた。本当に連れて来るのが目的だったらしい。お言葉に甘えて俺は人影達の方に向かった。
人影に近づくとアウトドアに行くような格好の男性、パジャマのようなラフな格好をした女性、和服のおじいさんなど…色々な服装の人達が居た。話しをしている様子もなく各々が何かをしている様子だった。
「あのーすみません。ちょっと良いですか?」
「…」
「あの…」
近くに居たアウトドアに行くような格好の男性に話し掛けたが返事はない。男性は立ちながら何かを持ってそれをひっくり返すような動作を何回も何回も繰り返している。
「すみませーん!ちょっと良いですかー!」
「…」
今度はパジャマのようなラフな格好をした女性に話し掛けた。寝転がりながら親指で別の指で突いている。返事はなかった。
「あの…」
「あぁ、そうじゃの、おばあさん。そうじゃ、そうじゃ」
「…」
諦めないで和服のおじいさんに話し掛けた。おじいさんは座りながら確実に俺じゃない誰かに話し掛ける様子で返事はくれなかった。
「…」
「どう?分かったでしょ?ここは魄の停留所であって魂のあるべき場所じゃない」
俺がおじいさんに声を掛け終わったところに白が話し掛けて来る。この結果は分かってたと言わんばかりに俺に語り掛けてくる。
「魄は人の生きる活力であって魂である精神じゃない。ほら、人形が有ったってそれを操る人が居なきゃ動かないのと一緒だよ」
白は座っているおじいさんの肩に手を置いて話す。するとおじいさんの姿は段々光になって消えていく。
「ここは魄に付いた穢れを取り除いて次の肉体に魂と一緒に吹き込まれる。あ、勿論人それぞれ個人差あるんだけどね」
白は完全に光になって消えたおじいさんを見届けると顔を上に向けた。連れられて一緒に見るとやっぱり巨大な根っこと大量の光る苔が生えている。
「もう分かったと思うけど魄は何も恐れない。ううん、恐れるモノを認識しても意味がない。だって認識した後に考える精神、魂が無いんだからね」
肩の辺りを叩かれた感触で上を見るのを止めた。白がいつの間にか近づいていたようだ。悪戯に成功して喜ぶ子供みたいな笑い声が白から漏れる。
「と、言う訳でどうして君が選ばれた理由が分かったかな?」
「…何となくは」
「なら良いや。じゃ、今後ともヨロシクぅ!」
白は俺に手を差し伸べる。一瞬握り潰されるかと思ったがそうじゃないようで、恐る恐る手を伸ばせば手の小ささに比例しない力で握られて手が痛くなった。白は痛がってる俺を見てまた笑い声を出した。