モンハン勢がダンまち世界に迷い込むのは間違っているだろうか   作:H-13

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散歩へ行く様な手軽さで霊峰まで赴き、アマツマガツチを15分前後で斬殺する伝説のハンター。

 

オテガルキンサクとして上位素材をお供の店で売り払い金だけ巻き上げる鬼畜な所業を見せ付ける伝説のハンター。

 

絶対要らないやろとツッコミが入るだろうが武器コンプする為に下位のモンスターを片っ端から殲滅し始めた気狂いの伝説のハンター。

 

「いやぁ参った、アマツの宝玉ジンオウガの碧玉に変わらねぇかなぁ…」

 

気の抜けるBGMに包まれアイテムボックスの中身を整理しながら部屋の中をとてとて歩くさすらいの旅人風プーギーをよしよししているのがこの世界の「特異点」である。

 

名は「ヤマト」。無難オブ無難。名前が変えられないこの世界で小学生がひらがなで自らの名前を刻印すれば一生消えることは無いだろう。純粋にこの名前で良かったと思う。

 

そんなヤマトの標準装備は雑に強い「シルソル一式」である。白銀に輝くソレに付与されたスキルは「破壊王」「攻撃力UP【大】」「弱点特効」「業物」。

 

簡単に言えば、部位破壊がしやすくなり、攻撃力が上がる。弱点を見極め攻撃すると会心が跳ね上がり、斬れ味減少が半減する。

 

防御は回避に身を任せて行う完全攻撃特化装備である。

 

ヤマトは遠距離が苦手である。最強のアカム弓で下位ジンオウガを倒すのを苦戦するレベルである。

 

未来では前衛後衛の装備は統一されると夢で見た気がするが、今はそんなものは無い。防具コンプしたいなら純粋に2倍の素材が必要となる。足りない。足りないのだ。

 

伝説と呼ばれるようになっても何かしら不足は抱えているものだ。まぁ、ヤマトの不足は完全な自己満足の元に起きている事ではあるのだが。

 

ちなみに先程ボヤいていた素材であるがアマツの宝玉は206個、それに比べジンオウガの碧玉は2個である。明らかにアマツの狩り過ぎである。ジンオウガよりもアマツマガツチの攻略時間の方が短いのだから頭が可笑しいだろう。

 

今日も今日とて足りない素材を集めに行きますか、なんて。ポーチの中を確認して行く。調合の書は2冊あれば良いし…うん、うん、まぁ雑にいつも通り殴って捕獲すれば良いだけの簡単なお仕事。

 

使う得物は「漆黒爪【終焉】」。もう殆どコレしか使ってないのは内緒である。膨大な武器や装備はコレクションの如くにお留守番。鎌の様な形をした太刀カテゴリの最上武器ではあるが、一番取り回しやすいのだ。大剣も良いが一々の納刀抜刀が性に合わなかったとでも言える。

 

良し、準備完了。頼むのは…孤島の「縄張りに侵入するべからず」っと。アルバ装備だと属性やられとか楽ではあるけど全部回避すれば問題無し!ヨシ!!!!

 

お風呂入った!報酬ウマウマドリンクも飲んだ!それじゃ、『ひと狩り行こうぜ!』

 

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「………着い…た…………?」

 

ヤマトが呆然とするのも無理はないだろう。いつも通りベースキャンプに着いたなと思ったのに、目の前に広がるのは孤島と言うよりも普通に広がる野原、野原────。

 

寝てて移動を、アイルーに全部任せたヤマトも悪いがいや、これは俺悪くねぇよ()

 

送ってきてくれたアイルーはもう帰っちゃったしベースキャンプらしいモノは無いし、野原に放り出されたヤマトは途方に暮れて…仕方ないと目的の無い旅を始めようとしていた。

 

留まっていても何も始まらない。完全な行き当たりばったりの考えの根底には動いた方が良いという感があった。

 

暫く無心で歩き続けること3時間少々。時偶に襲ってくる小鬼の様な不思議生物をぶち転がし…めっちゃ小さい宝石を落として消えていった事でびっくりして焦り散らかしているヤマトである。

 

ザックリと首刈り取ったのに血糊は刀身に付いていないし剥ぎ取り済んでないのに死体は消えるしなんやこの宝石は…とすんごい怖くなって走り出した。

 

一つは現実逃避。あれだけ狂ったようにモンスターを狩る生活を送っていたのに、一度も目にすることがなかった未知をこのよく分からない場所で見つけてしまったのだ。

 

「いやはやどうするかな。」

 

手持ちの中に当然こんがり肉や焼肉セットなんて入っておらず。飲み物は強走薬グレートと、回復薬グレート、秘薬にいにしえの秘薬位しか手持ちに無いのだ。

 

ちびちびと強走薬グレートを飲みながら空腹を紛らわし、走る事さらに3時間。道らしき何かを見つけて少しばかり一安心をした。馬車か何かの道だろう。2本の線がずっと続いている。

 

前か、後ろか。直感に従い其の儘真っ直ぐその道を辿って走って行く。

 

 

そこから更に3日が経過していた。

 

完全にサバイバルをしながら突き進むその姿はまさにディスカバリーチャンネルの如くである。

 

モンスター擬きモンスター擬きモンスター擬き擬きモンスター擬き野生動物モンスター擬きモンスター擬き

 

この位の確率で普通の兎や鹿が現れてくれる。嬉々として首を刈り取りに動くヤマトの姿は完全に死神の形相であったであろう。鏡もないのだからソレは誰も分からないのだが。

 

食べれそうな野草と肉、水分は回復薬等で無理矢理補給して行く強硬策。川があれば空いた瓶に水分を詰める事も忘れない。

 

身体を洗えたのはもう2日前。温泉が名残惜しい。本当に。

 

ただし、クエストが終わっていない判定なのか体力の上限は変わらず150であった。その代わりにスタミナがそろそろ50に到達する。

 

きつい。普通にキツイのだ。無理をしている訳でもないのだがそろそろ栄養の偏りが激しくなってきている。

 

「果物食べたい」

 

本当に切実な願いが口から溢れた。

 

「………ん?」

 

遠くに何か見える。巨大な岩、…壁?道が続く先に在るならば行かない選択肢は無い。

 

ゼニーならカンスト寸前まで持っているのだ。何でも買えるだろう。

 

 

ん?こんなに並ぶのか。致し方無い。もう少しで休めるぞ。

 

門番…はい?何しに来たってそりゃちょっと遭難したから道を辿ってきたんだが。

 

高位の冒険者?ファミリア?ハンターランクは6だがファミリアは分からんな…出身?名前も無い村だ、居住はユクモだがな

 

ん?この武器が禍々しいだと?そりゃアルバの武器だからな。【終焉】の銘は伊達では無いぞ?

 

そろそろ、な?腹が減って仕方がないのだ。水も尽きたし、食料もあと鹿の脚1本だ。早く入れて欲しいのだが。遭難と言っただろう。

 

顔?そのくらいなら幾らでも見せてやる。

 

 

スポンっ。シルソル一式の頭を外せば浅黒い男の顔が顕になる。長めの髪をポニテで縛った偉丈夫。イケメンかと言われたら違うが、不細工では無いソレ。

 

ん?これで大丈夫、そうかそうか。それじゃちょっと質問だ。美味い飯屋があったら教えてくれ!豊穣の女主人?あの道真っ直ぐだな?感謝するぞ!

 

 

 

こうして、ヤマトは無事美味い飯にありつけたのである。スタミナも確りと150まで回復し、いや、もう動けないとなっていたところに降ってきた言葉がコレである。

 

「会計が…7800ヴァリスだよ!良く食う男は嫌いじゃないよ!また来てくれよ!」

 

頭が真っ白になった。ヴァリス?ゼニーじゃ無いの?

 

恐る恐る自分の知る勝ちのあるお金を1万ゼニー程出して見せたが……結果はギルティ。

 

骨董品の様な価値はあるかも知れないがコレは使えないよと女主人の言葉であった。

 

ちょいまち、ちょっと待って欲しい。ゼニーだぞ?あの秘境も秘境でも使えた共通のお金じゃないか!

 

「ミア母さん、この子は嘘を言ってないよ。本気でそう信じてる。」

 

助け舟を出してくれたのは非常に顔が良い男性であった。優男と言っても良い。助かった。その一言でそのミアさんの顔が歪んだ。

 

「あんた、ファミリアは?」

 

「いや、だからファミリアとは何だ。門番にも聞かれたけど…ハンターランクなら6だがそれ以上は知らないぞ。」

 

「恩恵は?」

 

「恩恵?なんじゃそら」

 

「その装備は?」

 

「シルソルのこと?俺がマラソンして素材集めしたに決まってるじゃん。」

 

「ダンジョンは知ってるかい?」

 

「名前だけな。あれだろ?洞窟みたいなところにモンスターが出てくるんだろ?」

 

「…最後だよ、オラリオって名前は知ってるかい?」

 

「聞いた事がないね」

 

「ヘルメス!どうなんだい!」

 

「…残念ながら全部嘘を言ってないよ。だから…そうだね、名前は?」

 

「…ヤマトだ」

 

「良い名前だね。そうだね、私達で言うとすれば…彼は迷い人かも知れない。別世界、別次元からの来訪者。…そうだ、ヤマト君からの質問はあるかい?」

 

「この都市は?」

 

「オラリオ。迷宮都市オラリオさ」

 

「…嘘を見抜けるのか?本当に?」

 

「そうさ。俺は神だからね。…神も分からない?」

 

「祀ってる祠は知ってるが…ガチ…?」

 

「ガチさ。」

 

ヤマトは頭を抱えた。おかしいだろ。普通に。なんで神が闊歩しとるねん!

 

「フレンドリーで良いのか?神様が?」

 

「お、この世界の子とは違うんだね。でも根本は同じか。…そうだね、地上に降りてくる時に僕らは力を封印している。だから身体能力だけなら一般人程度になるかな?」

 

「…恩恵とはなんだ?」

 

「神との契りが分かりやすいかな。神の眷属となる変わりにソレの可能性を引き上げる。…常識的なコトだよ、この世界だとね。」

 

「……神様はそんなに沢山いるものなのか?」

 

「極東には八百万という言葉がある。そのくらいは居るんじゃないかな?」

 

いや、いや、いや。可笑しいやろ。でも、…そうであると納得するしかないか。

 

「さて、…ミア母さん。この子は善良だ。僕が保証しよう。だけど…7800ヴァリスか。どうする?」

 

「悪意の有るなしに関わらず金を払ってないのは事実だよ。今日と明日一日働いて返してもらおうかね!」

 

「そういうことさ。文字は読めるかい?」

 

「そりゃ注文してたんだから読める。」

 

明らかに知らない文字の癖にちゃんと読めて喋れるのは気持ち悪いことこの上ないが…今は有難い。

 

こうして、女9男1(ヤマト)の職場で働く事となったヤマトであった。


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