(嘘だろ?おいおいさすがに夢だよなそうだそうに違いない!この記憶は妄想で俺の記憶じゃあない、よし!これでいこう。落ち着け、落ち着け俺。空気に徹するんだ有象無象の新入生の一人だパンピーだ、⁉し、視線を感じる!気のせいだ、大丈夫あれは俺の後ろのだれかへ向けたものだろ、そうであってくれぇ)
ホーリハーツ魔法学校の入学式。在校生代表として登壇した生徒会長の姿を見たとき、一気にすべての記憶を取り戻したジン・コーロンドは冷や汗を流しながら虚空を見つめこれからの対応を考えていた。明らかに向こうも気づいている、刺すような視線を感じるが反応したら負けだと表情を殺して無になる。
(どうしてこんなことに……)
現実逃避をするようにジンは自らの人生を振り返っていた。
幼いころから勇者というものに憧れがあった。絵本の中で仲間とともに悪者である魔王を打ち倒す、そして偉くなってお姫様と幸せに暮らす。子供は皆一度は憧れるものだろう? まだ魔法も使えない年齢だったころ、よく木の棒を聖剣だーなんて振りまわしたものさ。
だがそんな俺に両親はよくこう言っていた。
「魔王は本当にただの悪者だと思うかい?もしかしたら魔王にも何か事情があったのかもしれないよ。」
きっと両親はただ勧善懲悪だけでモノを考えるのでなく、相手のこと思いやることを伝えたかったんだろう。今にして思えば正直5歳に満たない子どもにそれは早くないか?と思わなくもないがそれはともかく。不思議そうにしている俺に元騎士であった父は続けた。
「父さんもお前が生まれる前に騎士として領地を、国を守る為に戦っていたものだ。昔、まだ他国と争っていたころには敵兵と、またある時には近くの森で人を襲い暴れている魔物と。儂が打ち倒してきたもの達には皆、其々の事情があった。兵はただ兵役の義務があっただけで戦いには向かない奴だった。魔物は仔を人に襲われたことが原因だった。特にあの兵とは戦いの最中に少し話したら食の好みがあってな。きっと出会い方が違えば仲良くできていたのかもしれない。」
「勇者様と魔王も仲良くできるの?友達になれるの?」
つい問いかけた。子どもとは単純なもので父の話を聞いた時には既に魔王は悪くない!良いやつ!なんて思っていた。父はそんな俺の思考が読めたのか笑いながら答えてくれた。
「それはわからない。絵本の中の魔王は確かに酷いことをしているからね、でもよく言うだろう?闘いを通じて分かり合うこともあると。まして勇者と魔王だ、きっと死闘であったことだろう。であれば間違いなく互いのことを深く、それは深く理解しあったはずだ。そう考えたほうが楽しいだろ?だからもし勇者と魔王が記憶をそのままに生まれ変わることがあったら、しがらみの無くなった彼らはきっと友達に、いや親友と呼べる仲になるんじゃないかね。」
俺は父の語ったもしもの話にひどく魅せられた。もしかしたらではなく、絶対にどこかにいるんだと心の底から思った。今ではあまり思い出したくないがそれからの行動は正直言ってかなりおかしかったと思う。仲良くしている二人組を見つけては勇者と魔王の生まれ変わりだと騒ぎ立てあるはずもない前世の冒険譚をねだったものだ。皆戸惑いながらも答えてくれた、どこそこの平原で戦っただの魔王城で決戦があっただのと。だが今では分かる、あれは子供の夢を壊さないための優しさだと。魔法が使えるようになり興味が移るまでの2年ほどの間、村の中で俺は結構な有名人、というよりはかなりの変わり者として知られていた。
それから数年経ち、もう絵本だ御伽噺は卒業し幼い子どものものと思うようになったこと、魔法に傾倒していったこともあり、自然と当時の熱は失われていった。
そうして15歳になり魔法学校に入学が決まり、今日が入学式だったんだ。これからの学校生活で魔法を学びながら友達ができて、彼女もできてのバラ色の青春を過ごせると思っていた。思っていたんだがなぁ。
さて、振り返るものも振り返り切ってしまったし、いい加減現実をみねばならぬ。
現在進行形でこちらをガン見しながら話を続けている生徒会長のことを俺は知っている。いや正確には彼女の前世を今知ったんだ。何故かって?ここまできたらもう分かるだろう。
そうです、俺の前世が勇者だったと思い出したからですよ、ええ。
ま、まあ記憶こそあれどちらかというと記録に近いおかげか今の俺の人格にそんな変化はないはず。それよりも問題はほかにある、当然記憶の中に魔王との戦いもあったんだが、その、分かり合うことなんてなかったし互いに憎しみ全開で殺しあってたんだよなぁ。そして散り際の魔王の台詞よ。
「この命ここで尽きるともこの魂が貴様を覚えている。人間を滅ぼすことは叶わなかったが、必ず貴様だけは殺す。楽しみにしていろ。」
捨て台詞だと思っていたのにこんなことになるとは。
父よ、確かに生まれ変わりはありました。ただ仲良くはできそうにないです。
ジン
「今のおれはまだ魔法習い初めだぞ、生徒会長(魔王)は上級生。これは詰んだか。 嫌じゃ死にとうない」
生徒会長
「私魔王だったんだぁ。あ、あの子が勇者君かな?あらあら怯えちゃってかわいい。」