青年と少女たちの日常   作:柊真夜

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初投稿です
暖かく見守ってください



1 手始め

 昼下がりの空、バイトに向かう。相変わらず元気な空だ。いやになるくらい空は晴れ渡っている。学校終わりの時間は天気にかかわらず、落ち込んでしまう。なぜかわからないがそんな感じがする。バイト先への道は、住宅街の間を通り抜けなければいけない。つまり人の顔をいやでも見なければいけない。仕事をしている人は平日はいないが、専業の方はいつもいる。親しくなるということは、どうしてもリスクを伴ってしまう。

 知らない人の家にある樹木が、日を反射している。影を落としている塀は、不気味なほど白く輝いている。

 

「ふえぇぇ......」

 

 さて、今日はどんなことを頼まれるだろうか。いつもの接客は苦手なんだ。できれば機材の調整とかしたい。

 

「ふえぇぇ......」

 

機械いじりしているだけでお金がもらえるなんて、どんなにいい世界だろう。そんな世界ならぜひ行ってみたいものだ。

 

「ふえぇぇ......」

 

 さっきから奇妙な声がする。誰かが鳴いている気がする。こんな住宅街で泣く人なんか、迷子になった子供くらいか、喧嘩した猫ぐらいしかいない。

 

「ふえぇぇ......」

 

 周りを見渡した。そうしたら、少女がおどおどしながら歩いていた。水色の髪の毛をして、なんだかわからない髪型をしている。雰囲気を表すなら、ふわふわしている。心なしか本当に泣いているようにも見える。どうしたもんだろうか。

 

「あの....」

 

「ふえっ!?」

 

 この瞬間、終わったと思った。この後通報されて終わりだよ。

 

「何かお困りですか?」

 

「ふえっ.....、実は道に迷っちゃって...」

 

 本当に迷子なのか。ここで迷子になるのは難しい気もする。ていうか、これ完全に僕不審者じゃないか。困っている女の子に声を掛けて、誘拐するなんてことは僕はしない。この子と警察が信じてくれるかどうかだ。

 

「えっと、どこに行きたいんですか?」

 

「羽沢珈琲店ってところなんですけど…」

 

 ここから真逆じゃないか。どうしてこんなところに来てしまったんだ。どうやったらここに来れるんだ。今はスマホとかいろいろ案内してくれるものがあるじゃないか。

 

「……道、教えましょうか?」

 

「ふえぇ……。その教えてもらってもついたことがなくて…」

 

 まじか。どうしようか。本当に困った。

 

「よかったら、一緒に行きましょうか?」

 

「ふえっ?」

 

「この後予定ないので、変なことしたら通報してもらって構わないので」

 

 これは本当にそう。そんなことする勇気もないけど。しかしこの後のバイトどうしよう。月島さんに遅れるかもって送ろうか。

 

「……わかりました」

 

 そうして僕たちは歩き始めた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 向う間話すこともなかった。しばしの無言が続いている。しかし、バイトどうしよう。遅刻したら最悪クビもある。今ブラックバイトなんかも流行っているからだ。

 

「なんで羽沢珈琲店に行こうと思ったんですか?」

 

 暇つぶしに聞いてみることにした。商店街にある喫茶店だが、人気が高い。看板娘の人もいるくらいだ。たまに僕も行く。

 

「人と待ち合わせしているんです」

 

「えっ、待ち合わせの時間はいつですか?」

 

「○時です」

 

「もう過ぎてるじゃないですか!」

 

 これは緊急事態だ。彼女も急がないといけないらしい。これは僕にとっては、好都合だと言える。僕も急がなければいけない。

 

「じゃあ急ぎましょう!失礼します」

 

 そういうと僕は彼女の手をとった。

 

「えっ、ちょ、ちょっと///」

 

 彼女の顔が赤くなるのを、僕は見ていなかった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「はぁはぁ…、やっとついた……」

 

 これならバイトに間に合う。後は来た道を走って戻っていくだけだ。

 

「あの……、そろそろ離してもらっても...///」

 

「あ、すいません!失礼でしたね」

 

「あ、いえ、別に嫌だったわけじゃ」

 

「では失礼します」

 

そう言って僕は走り出した。太陽よりも早く走りたかった。

 

「あの!名前だけでも!」

 

 その声は僕に聞こえなかった。

 

「予定が、あったのかな?お礼しないと」

 

「花音?やっとついたのね。また迷っていたの?」

 

「あ、千聖ちゃん。実は……」

 

「ふう〜ん、そんなことが……」

 

 時間は鈍足を許してくれない。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「もう………無理……」

 

 ギリギリ時間には間に合ったが、気持ちも体も絶え絶えだった。

 

「あっ、山崎くん。ギリギリなんて珍しいね〜」

 

「いろいろ……ありまして」

 

「た、大変だったね。今日は受付よろしくね」

 

 くっそ。当てが外れた。しかしあの人、どこかで見たことがある気がする。僕の周りに、あんな可愛い人がいたとは思えないが。どこで見たことあるのだろうか。あの人の名前も知らないし、連絡先も知らない。まあ、道案内しただけで連絡先を教えてもらおうなんて犯罪者の心理に近い。でもとにかく可愛かったな。

 

 バイトの制服に着替えて、受付に立った。

 

「あの予約してた湊ですが……」

 

「はい、えっと湊友希那様ですね。1番スタジオとなります」

 

今日も、山崎彗太の日常は無事に過ぎていった。




読んでいただきありがとうございます。
ではまた
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