今日はバイトがない日だ。嬉しいと言えば嬉しいが、なんとなくあそこに馴染んでいる気がするから、なかったらなかったで物足りないものもある。
放課後の商店街は、休日とまでは行かないものの、かなりの活気がある。それこそ2つの高校が近くにあるため(厳密に言えば3つだが)、学生たちも多く見受けられている。そんな子騒がしい商店街の中にある店に用がある。
『山吹ベーカーリー』
僕が中学生の時から通っているパン屋だ。一時期、営業を休んだこともあったが、今は定休日以外はちゃんとやっている。いつもアンパンだけを買って帰るから、変に営業している家族から、覚えられている。ちなみに今日もアンパンを買う予定だ。
『OPEN』と映っている扉を開けた。
「いらっしゃい。おっ、山崎君じゃないか」
「こんにちは、亘史さん。アンパンありますか?」
「あるよ。君は本当にアンパンが好きだね」
「山吹ベーカーリーのアンパンがいいんですよ」
これは本当だ。他とは何かが違う。何が違うかは知らないが。アンパンを1つ持ってレジに行く。
「今日は一つでいいんだね?君が中学生の時にはもっと食べていたよ」
「部活をやっていたからですよ。今はあまりお腹が空かないんです」
「うーん、でも君は……」
「お父さん、準備できたよ」
そう言って店の奥から出てきたのは、花咲川の制服の上にエプロン着て、黄色のリボンで髪をポニーテールに結んでいる少女だった。
「あっ、山崎君!来るんなら、学校で言ってよ。確保しておくのに……」
「流石にそれはダメじゃないかな……」
この少女は山吹沙綾。亘史さんの娘さんであり、この店を高校生ながら手伝っている。ある種尊敬する。
「あの、お会計お願いします」
「あっ、ごめん。アンパン1つだから150円ね」
僕はお金を払った。意外と安いのも、この店の魅力の一つである。
「最近こなかったけどなんかあったの?」
「バイトが忙しいのと、後は私情で言えないな」
「何それ。でも無理はしないでね。彗太まで倒れたら、私……」
「?」
「ううん、なんでもない//////」
までとはどういう意味なのだろうか。最後まで聞けなかった。亘史さんの方を見ても、笑っているだけだし。
「それより早く品出ししないと」
そういうと奥の方に小走りで行くが、
「あっ」
「危ない!」
沙綾はつまずいてしまった。亘史さんは反応できなかったが僕は反応して、地面を蹴った。
「……ふう。大丈夫か」
そうして目を開けると、沙綾の髪が視界の大部分を埋めていた。腕には温かい人肌の感覚があった。
冷静になってみると、僕が沙綾を後ろから抱いているような態勢だった。ようなではない。抱いていた。
「あっ、ごめん!許してくれ!」
これはまずい。そばに亘史さんもいた。訴えられたら負ける。そう思い、すぐに沙綾の態勢を元に戻し、手を引っ込めた。
「あっ…」
沙綾から名残惜しそうな声が出たが、それどころではない。早く謝らないと。亘史さんの方を向くと、笑顔だった。しかし怖そうな笑顔ではない。
「あの本当にごめんなさい!訴えないでください!」
「えっ、いや、別に訴えたりしないから//いやむしろ暖かかったというか……////いやいや//そうじゃなくて、私が原因だし、なんならこっちが謝んなきゃいけなくて……///」
顔を真っ赤に塗ったような沙綾が恥ずかしそうに言った。
「とにかくごめん!もう帰るから!」
そう言って店を急いで出て行った。
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「はぁ//」
まだドキドキが止まらない。心臓が静まることを知らないくらいうるさい。とにかくドキドキした。気になる人から抱きしめられるって、こんな感じなんだ。
レジを見たら、ニコニコしているお父さんと、袋に入ったアンパンが置いてあった。彗太、忘れて行っちゃった。
「沙綾」
お父さんが穏やかな笑顔で言った。
「頑張れよ」
私は顔を真っ赤にしながら、急いで奥に下がった。明日また学校で会えるかな。
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今日はいい気分がしなかった。ハプニングは起こるはアンパンは忘れるはで、生きた心地がしない。明日はまた違うことに見舞われるのだろうか。そうだとしたら明日は家を出ないでおこう。明日からどう沙綾に対して接すればいいのだろうか。
そんな恥ずかしさを秘めながら家に帰った。
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