青年と少女たちの日常   作:柊真夜

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2話目です。


2 食べ物の恨み

 今日はバイトがない日だ。嬉しいと言えば嬉しいが、なんとなくあそこに馴染んでいる気がするから、なかったらなかったで物足りないものもある。

 放課後の商店街は、休日とまでは行かないものの、かなりの活気がある。それこそ2つの高校が近くにあるため(厳密に言えば3つだが)、学生たちも多く見受けられている。そんな子騒がしい商店街の中にある店に用がある。

 

『山吹ベーカーリー』

 

 僕が中学生の時から通っているパン屋だ。一時期、営業を休んだこともあったが、今は定休日以外はちゃんとやっている。いつもアンパンだけを買って帰るから、変に営業している家族から、覚えられている。ちなみに今日もアンパンを買う予定だ。

 『OPEN』と映っている扉を開けた。

 

「いらっしゃい。おっ、山崎君じゃないか」

 

「こんにちは、亘史さん。アンパンありますか?」

 

「あるよ。君は本当にアンパンが好きだね」

 

「山吹ベーカーリーのアンパンがいいんですよ」

 

 これは本当だ。他とは何かが違う。何が違うかは知らないが。アンパンを1つ持ってレジに行く。

 

「今日は一つでいいんだね?君が中学生の時にはもっと食べていたよ」

 

「部活をやっていたからですよ。今はあまりお腹が空かないんです」

 

「うーん、でも君は……」

 

「お父さん、準備できたよ」

 

 そう言って店の奥から出てきたのは、花咲川の制服の上にエプロン着て、黄色のリボンで髪をポニーテールに結んでいる少女だった。

 

「あっ、山崎君!来るんなら、学校で言ってよ。確保しておくのに……」

 

「流石にそれはダメじゃないかな……」

 

 この少女は山吹沙綾。亘史さんの娘さんであり、この店を高校生ながら手伝っている。ある種尊敬する。

 

「あの、お会計お願いします」

 

「あっ、ごめん。アンパン1つだから150円ね」

 

 僕はお金を払った。意外と安いのも、この店の魅力の一つである。

 

「最近こなかったけどなんかあったの?」

 

「バイトが忙しいのと、後は私情で言えないな」

 

「何それ。でも無理はしないでね。彗太まで倒れたら、私……」

 

「?」

 

「ううん、なんでもない//////」

 

 までとはどういう意味なのだろうか。最後まで聞けなかった。亘史さんの方を見ても、笑っているだけだし。

 

「それより早く品出ししないと」

 

 そういうと奥の方に小走りで行くが、

 

 

 

 

 

「あっ」

 

「危ない!」

 

沙綾はつまずいてしまった。亘史さんは反応できなかったが僕は反応して、地面を蹴った。

 

 

 

 

 

「……ふう。大丈夫か」

 

そうして目を開けると、沙綾の髪が視界の大部分を埋めていた。腕には温かい人肌の感覚があった。

 

 

 冷静になってみると、僕が沙綾を後ろから抱いているような態勢だった。ようなではない。抱いていた。

 

「あっ、ごめん!許してくれ!」

 

 これはまずい。そばに亘史さんもいた。訴えられたら負ける。そう思い、すぐに沙綾の態勢を元に戻し、手を引っ込めた。

 

「あっ…」

 

 沙綾から名残惜しそうな声が出たが、それどころではない。早く謝らないと。亘史さんの方を向くと、笑顔だった。しかし怖そうな笑顔ではない。

 

「あの本当にごめんなさい!訴えないでください!」

 

「えっ、いや、別に訴えたりしないから//いやむしろ暖かかったというか……////いやいや//そうじゃなくて、私が原因だし、なんならこっちが謝んなきゃいけなくて……///」

 

顔を真っ赤に塗ったような沙綾が恥ずかしそうに言った。

 

「とにかくごめん!もう帰るから!」

 

 そう言って店を急いで出て行った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「はぁ//」

 

 まだドキドキが止まらない。心臓が静まることを知らないくらいうるさい。とにかくドキドキした。気になる人から抱きしめられるって、こんな感じなんだ。

 レジを見たら、ニコニコしているお父さんと、袋に入ったアンパンが置いてあった。彗太、忘れて行っちゃった。

 

「沙綾」

 

 お父さんが穏やかな笑顔で言った。

 

「頑張れよ」

 

 私は顔を真っ赤にしながら、急いで奥に下がった。明日また学校で会えるかな。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 今日はいい気分がしなかった。ハプニングは起こるはアンパンは忘れるはで、生きた心地がしない。明日はまた違うことに見舞われるのだろうか。そうだとしたら明日は家を出ないでおこう。明日からどう沙綾に対して接すればいいのだろうか。

 そんな恥ずかしさを秘めながら家に帰った。

 

 




お読みいただきありがとうございます。
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