奥沢にはめられたとわかったその後、あの3人を置いて迷子の人と奥沢を連れて別の部屋にやってきた。この部屋は豪華絢爛なわけではなく、シンプルで質素な雰囲気になっている。
黒服の人にパソコンと五線譜の紙を持ってきてもらって、準備はできた。
「やる前に、迷子の人の名前を聞いてもいいですか」
「あっ、すいません……。松原花音って言います。花咲川の2年です」
「同級生じゃないですか。何組なんですか?」
「A組です。同級生なので敬語はいいですよ」
本当にここには敬語を嫌がる人が多すぎるんだよ。どうしてそんなに敬語を嫌がるんだ。
「わかった。後もう一つ聞くけど、この集まりはなんだ?」
「えっと、話せば長くなるんですけど……」
そう言って奥沢は話し出した。
「そんなことがあったのか。それにしても行動力がすごいな、弦巻こころって」
「すごすぎるのも、どうかと思いますけどね……」
「あはは………」
いろいろ苦労しているらしい。
「じゃあそのバンドの曲を作りたいんだな?」
「そうです」
どうやら編成は変則的だが、バンドをやるので曲を作りたいということだった。
「じゃあやるか」
そうして僕は教え始めた。
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「ちょっと休憩しよう」
「はいぃ……」
ちょっと詰め込み過ぎた。でも飲み込みが早い。これなら今日中に終わりそうだ。もう日が落ちかけているので、早く帰りたいところだ。
松原は3人のいる部屋に帰った。例の3人はまだ元気らしい。
「それにしても、なんで作曲なんてできるんですか?」
「昔いろいろあったんだよ」
「もしかして、アーティスト志望だったりしてたんですか?」
「そうじゃなかったけど、そうでもあるかな」
「なんですかそれ……」
今度はこっちから質問してみる。
「強引にって言ってたけどその後断ればよかったんじゃないのか。物にやりたいわけでもなかったんだろ、バンド」
「いや、それは……そう、ですけど……」
「ですけど?」
「自分でもよくわからないんです。今でも抜けたいって思うんですけど、なんか、なんだかんだ現状になっています」
やはり人とは弱いものだ。何か役目を与えられると、それに縛られ、視野も狭まってしまう。
しかし奥沢の場合は違うと感じた。
「僕はいいと思うけどな。このバンド」
「えっ?」
「演奏は聞いたことないからわからんけど、何より個性が爆発している。強みだと思う。だから流されてもいいと思うけどな」
自分でも随分無責任な言葉だったと感じる。だが思ったことを言った。
「何より奥沢、可愛いし」
「えっ///」
そう言った瞬間、彼女は顔を出さないことを思い出した。彼女は『ミッシェル』としてステージに上がるのだ。
「それはその……嬉しいですけど///」
「ごめん、顔出さないんだったな。話を聞いてなかった」
「っ………//そ、それよりも、早く再開しましょう。暗くなっちゃいますから!」
そうして僕は再び教え始めた。
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「今日はありがとうございました」
黒服さんが送ってくれている車の中で、奥沢にお礼を言われた。もう辺りは暗かった。
「いいよ、僕も楽しかったし」
「またお願いできますか?」
「いつでもいってくれ」
「じゃあ連絡先交換しませんか?」
まさか親以外に女性の連絡先を知ることになるとは思わなかった。
「これで……よし」
ここで奥沢の家についた。
「じゃあまた、今日はありがとうございました」
奥沢はおりていく。
完全に降りきってドアが閉まる。そしてまた車は走り出す。
バックミラーを見ると玄関の前でまだこっちをみている奥沢の姿があった。律儀だと思った。なぜそこまでするのか。僕にはわからなかった。そして角を曲がって奥沢が見えなくなると、僕の中に虚しさが残っていた。
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その後、
「なんで教えてないのに、僕の家知ってるんですか?」
相変わらずの非常識さに、可笑しくなって笑いそうになった。