シャーレ所属顧問、サオリ先生 作:ベレッタM92F
夜も更けてきた頃、スマホが突然鳴り出した。
出てみると、掛けてきたのはシロコだった。
「どうした、もう寝る時間じゃないか?」
『セリカがいなくなった』
「―何?」
『電話は繋がらないし、家にも帰ってない。もしかしたら、誰かに攫われたかも』
私はすぐに上着を手に取る。
「今アビドスの皆はどこにいる?」
『皆学校の部室にいるよ』
「今すぐそっちに向かう。誰か、学校のパソコンを使える部屋を開けておいてくれ」
『ん、分かった。ホシノ先輩が今動いた。部室と同じ階』
「ありがとう。また後で」
私は通話をオフにし、シッテムの箱をつかみ取って走ってホテルを出た。
学校に着き、急いで廊下を歩いていると、ホシノが立っていた。
「先生、汗だくじゃん。だいじょぶなの?」
「息は整ってるだろう?これでも運動は得意だ」
「ホントだ、全然息切れしてない。おとと、頼まれた部屋は開けておいたよ。入って入って」
ホシノが立っていたすぐ隣がその部屋のようだった。
ずらりと多くのパソコンが並んでいる。
「コンピューター室って言えばいいかな、ここは。それで、パソコンを使って何するつもり?」
「私の持ってる権限を使って連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスする。こんなことなら、シャーレからパソコンを持ってくればよかったか……」
シッテムの箱とパソコンを持ってきたコードで繋ぐ。
別にシッテムの箱だけでもアクセスできる、というかアロナ先生がやってくれるが、パソコンがあればアクセスまで少し早くなる、らしい。
個人的には画面が大きくなるからいい。
「それって、怒られないの?」
「バレなかったらな。たとえバレても始末書を書くだけだ。そもそも、セリカが危ないかもしれないんだ。そうとなったら、何でもやるさ」
「へー、靴舐めでも?」
「当たり前だ……っと、出た。この丸が、セリカが使っていた端末が起動していた最後の地点だ」
「ここって……砂漠化が進んでるとこだ」
「詳しい話は皆がいるところでしよう」
データをシッテムの箱にコピーし、コードを抜く。
ああは言ったが、出来ればバレませんように。
もうこれ以上書類は増えないでほしい。
「皆、お待たせ―」
「悪い、少し遅くなった」
「ホシノ先輩!先生!」
部室には、アヤネ、シロコ、ノノミが落ち着きなく立っていた。
私はシッテムの箱を机に置く。
「全員、これを見てくれ」
「これは……?」
「先生が持ってる権限を使って、連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスできた」
「バレたら始末書だ」
「ええっ!?だ、大丈夫なんですか?先生?」
「セリカが無事なら大したことない。ホシノ、説明してやってくれ。後出来ればタオルを貸してほしい」
「よく見たら、汗だくじゃないですか!私が拭いてあげますね☆」
「ん、私が……」
「シロコちゃん、ちゃんと聞いてねー?」
「……ん」
何故かノノミに汗を拭いてもらいながら、セリカがいたであろう場所を聞く。
情報によれば、砂漠化が進み、住民がいなくなり、廃墟化したエリア。
治安が維持できなくなり、不良生徒が集まっているとのことだ。
そして、カタカタヘルメット団の主力が集まっている場所でもあると言う。
「ということは、やはりカタカタヘルメット団の仕業……!」
「なるほどねー、帰宅途中のセリカちゃんを拉致して、自分達のアジトに連れて行ったってことかー」
「学校を襲うぐらいじゃ物足りなくて、人質を取って脅迫しようってことかな」
「考えていても仕方ありません!急いでセリカちゃんを助けに行きましょう!」
「ああ、今は一分一秒が惜しい。悩むのはその後だ。行こう」
そうして私達はセリカ救出に向けて動いたのだった。
すぐに行く、セリカ……!
目的地近くに着くころには、すでに辺りは明るくなっていた。
砂漠化が進んだこの辺りは、やはりと言うか人の気配は無かった。
となると、もう少し先か……?
アヤネがドローンで周りを索敵してるが……何か情報を掴めればいいが。
不安に思っていると、それを払拭するかのようにアヤネから通信が入った。
『皆さん、もうすぐ近くにトラックが横切ります。そのトラックは間違いなくヘルメット団のものです。そして、そのトラックの荷台にセリカちゃんの反応が……!』
「私達が来た後から来るなんて、おかしくないですか?」
「夜だったし、砂漠だから車で来るには遠回りしたんじゃない?先生、トラックを止めるにはどうする?」
「よし。シロコ、出番だ」
「任せて。ドローン、展開」
近くの埋まった建物に身を潜め、トラックが来るのを待つ。
数秒後、車の走る音が聞こえた。
軽くのぞき込んでみれば、荷台が隠されたトラックだった。
運転席には、ヘルメットを被った人影が。
「間違いない、ヘルメット団だな。当てるなら前の方か、シロコ、好きなタイミングで撃て」
「了解………ん、今!」
シロコのドローンから放たれたミサイルは見事にトラックに命中した。
トラックは転倒し、砂煙が舞い、運転手は前に飛んでいく。
……痛そうだな。
ヘイローは綺麗そのままなので、放置していて問題ないだろう。
私達は走って荷台の方へ行く。
『セリカちゃん発見!生存確認しました!』
先行していたアヤネのドローンが発見したらしく、その報告が届いた。
そこには、砂を吸い込んでなのか、咳き込むセリカが。
「な、何、爆発!?」
「こちらも確認した、半泣きのセリカ発見!」
「!?」
「なにぃー!?うちの可愛いセリカちゃんが泣いていただと!そんなに寂しかったの?ママが悪かったわ、ごめんねー!!」
「う、うわああ!?う、うるさいっ!!な、泣いてなんか!!」
「嘘!この目でしっかり見た!」
「泣かないでください、セリカちゃん!私達が、その涙を拭いて差し上げますから!」
「ああ、ほら、ハンカチだ。すまない、悲しませてしまって……!」
「先生まで!?あーもう、うるさいってば!!ハンカチもいらない!違うって言ってるでしょ!黙れーっ!!」
でも目元が赤くなっている、やはり泣いていたんだろう。
生徒を泣かせるなんて、私は先生失格だ……!
『あのー、先生、そこまで落ち込まなくてもー……』
「というか、どうやって見つけてきたの!?」
「先生のストーカー力を舐めないでよー?」
「……ん?ホシノ、今不名誉な言い方しなかったか?」
「ばっ…ばっ……!ばっかじゃないの!?」
「うへ、元気そうじゃーん?無事確保完了ー」
『前方にカタカタヘルメット団の兵力、多数確認!さらに巨大な重火器を確認しました!徐々に包囲網を構築しています!』
「……よし、さっさと引き上げよう。一点突破だ」
「気を付けて。奴ら、改造した重戦車を持っているわよ」
「知ってる、Flak改良型」
「うへー、硬いんだよねぇ、装甲。先生、何か策はある?」
「何も。しいて言うなら、普通に撃つだけでいい」
「……ふーん?信じてみるよ、先生の言葉。それじゃ、行こうか?」
ホシノの号令と共に、私達は駆け出した。
道中でヘルメット団の歩兵が飛び出してきたが、それをホシノを始め、シロコ、セリカが次々と射撃する。
後ろからも追ってくるが、それはノノミが敵がカバーした壁ごと破壊する。
私とアヤネは敵の位置を報告しながら指示をする。
被弾することもなく、問題ないように思えたが、立ち止まることなく学校まで進む足を全員不意に止めた。
「出たわね……!」
「Flak……!」
全員すぐに近くの物陰に隠れたが、砲撃はすぐ近くに飛んできた。
そこですぐさま私はセリカに指示をする。
「セリカ、どこでも構わない。ありったけをぶつけてやれ!」
「わ、分かった!通るか分からないけど……!」
セリカの射撃はFlakの前面に命中した。
弾丸は一発も弾かれることなく、穴を空けた。
「えっ、嘘!?なんで!?」
「前に戦車で面倒なことになってな。シャーレが開発した重装甲でも軽々と貫ける弾丸だ。アビドスに持ってきた弾は全てそれになっている、全員やってしまえ!」
私の声に、皆は銃声で答えた。
……まあ面倒だったのは私の行動に対しての叱りだったんだが。
それはともかく、Flakの見た目は無残な姿に変わっていた。
中の子達は、大丈夫だろうか……
Flakを倒した後、ヘルメット団はもう無理と思ったのか、それ以上追いかけてくることは無かった。
その後は何の問題もなく、学校へ戻ってくることができた。
部室に戻れば、アヤネが出迎えてくれた。
「皆さん、お疲れ様です。セリカちゃん、ケガはない?」
「うん、大丈夫。この通り、ピンピンして―」
「―セリカ!」
倒れそうになるセリカを急いで抱える。
なんとか、頭を打たなくて良かった。
連れ去られる時に、対空砲を直接撃たれたらしい。
「……よく、頑張ったな」
そう言いながらセリカの頭を撫でる。
「……ん、私が保健室に連れていく」
「分かった、頼む」
シロコはセリカを抱え、教室を出て行った。
「大変なことになるところでした。先生がいなかったら……」
「うんうん、先生のおかげでセリカちゃんの居場所を逃さず追跡できました。やっぱりすごいです☆」
「確かに、先生はただのストーカーじゃなかったってことだね」
「いや、最終的には見つけたのはアヤネで、救出したのはホシノ達だ。褒めるなら、お前達だ」
私はインスタントのコーヒーを人数分用意しながら話を変える。
「それより、気になることがある。あの戦車のことだ。いくつか回収したんだが……アヤネ、少し調べてみてくれ」
シッテムの箱の機能の一つである収納機能に仕舞ってあった小さめの部品を机に置く。
「補給の時も思ったけど、トンデモ機能が盛り沢山だよね、それ」
「ああ、私も最近知った機能だ。ほかにもいろいろあるらしい」
「なんで先生が把握してないんですか……?」
急に渡されただけだからな……
ほとんどアロナ先生に丸投げしてるせいでもある。
そんな会話をしているうちに、アヤネの検索が終わったようだ。
「先生が回収した戦車の部品を確認したところ、キヴォトスでは使用が禁止されている違法機種と判明しました」
「ただの不良集団が使うには、入手が困難……できない、と断言していいだろう」
「でも、この部品の流通ルートを分析すれば、ヘルメット団の裏にいる存在を探し出せますね!」
「はい、ただのチンピラが、なぜここまで執拗に私達の学校を狙っているのかも、明らかになるかもしれません」
「うん、分かった。じっくり調べてみよっかー」
というところで、戦闘の疲れを癒すことになり、一度解散することになった。
私は一度、とある物の確認をするため、シャーレの部室に戻っていた。
進捗は……αは完成しているか。
βは八割くらいまで、か。
エンジニア部は優秀だが、たまに変な機能が付けられている時があるから、少し不安だ。
流石に、異常事態だ、変な機能は抑えるか……
………少し、疲れたな。
近くの椅子に腰掛ける。
「ふぅ……」
『大丈夫ですか?サオリ先生』
「アロナ先生……ああ、問題ない」
『それにしては、ため息が多く見えますよ』
「……正直、少しだけ。昔はもっと動けたはずなんだが」
『きっとそれは、ヘイローの消失が影響してるでしょうね……体力も、先生ほどじゃないですが、キヴォトスの外の人と同じくらいになってるでしょう』
「……そう考えると、先生は凄かったんだな……こんなに大変なのに、私よりもっと動いてるだろう?」
『いやいや、サオリ先生は一度に激しい動きを多くするじゃないですか。運動量はサオリ先生の方が……』
「そうか?……ふふっ」
そんな私を見かねたのか、声を掛け、他愛のない話をしてくれるアロナ先生。
きっと、不安になっていることも見透かされているだろう。
私が彼女達を救い、守れるのか。
無理とは言えないし、言わないが、それでも心には悪い未来ばかり。
アリウススクワッドとして活動していた時と同じだ。
あいつ達を守りたいと思いながらも、いつも思い浮かべるのは皆がいなくなる夢。
ある意味、諦めていたんだろう。
先生に助けを求めるまでは。
『……そういえば、とある伝言を預かっていました。聞いてくれますか?』
「?、ああ、誰からだ?」
『えっと、個人名は仰られなかったのですが……
アリウススクワッド、と名乗る人達からです』
「……それは」
『内容は、
「今のリーダーなら、きっとやりたいことが見えているはず」
「それで、辛いことも、苦しいこともありますよね。だから、支えあうんですよね、私達」
「出来ることは少ないかもだけど、いつでも、助けるから。自分の行動を信じて、先生である自分を。
頑張って、さっちゃん」
……だそうです』
「――ふっ、普通に名乗ればいいものを」
私は両手で頬を強く叩く。
そうだ、私が目指していたのは子ども達から頼られ、助ける大人で、先生だ。
不安のままでいては、助けるどころか、助けを求められない。
それに、今あるのは悪い未来でも、悪夢でもない。
彼女達と
そして、私は先生で、一人じゃない。
「行こう。まだ、始まったばかりだ」
『はい、サオリ先生!』
とはいえ、すぐに大きな動きがあるわけでもない。
だが止まっている気もなかった。
ということで今できることをやろうと思い、私はアビドスの保健室まで来ていた。
セリカのお見舞いだ。
寝ているかもしれないので、大きな音を出さないように扉を開ける。
中を見てみれば、セリカは起きており、ため息をついていた。
ベッドに座り、窓の外を見ているセリカはこちらに気付いていないようだったので、声を掛ける。
「体は大丈夫か?セリカ」
「……あ、れ……?先生!?ど、どうしたの?」
「お見舞いだ。ほら、リンゴを持ってきた」
私は近くの椅子に座り、リンゴを剥き始めた。
「別に、いいのに……私なら大丈夫。いつまでもこうしちゃいられないし。アヤネちゃんや他の皆も心配してるし……バイトにも行かなきゃだし」
「そうか……偉いな、セリカは。……懐かしいな、私もバイト三昧だった」
「先生も、バイトをしてたの?」
「いろいろなのをな。ただ、大変だったのは、笑顔を作ることだったが」
「笑顔?」
「ああ、私は愛想笑いが出来なくて、いつも力仕事ばかりやっていた。そっちの方が楽だったのもあるが。たとえば、そうだな……」
私はセリカに自身がバイトをしていた頃の話をする。
契約書を書かなくてお金を貰えなかったこととか、子どもの相手をしなくてはならなくて、泣かせてしまったこととか。
セリカは私の話を聞いて、笑ったり、驚いたりしてくれた。
多分、さっきの私のようにいろいろ不安になっていたんだろう。
だから、アロナ先生がやってくれたように私も他愛のない話をして、リンゴを一緒に食べる。
一人じゃないことが伝わっていればいいなと、思う。
「……え、ええとね……」
「どうした?」
時間も少し経ってきた頃、セリカが何かを伝えようとしてきた。
「そういえば、先生にちゃんとお礼を言ってなかったなあって、思って……」
「……」
「あ、ありがとう……色々と……でもっ!この程度でアビドスの役に立てたなんて思わないでよね!この借りはいつか返すんだから!」
「……ふ、ふふっ」
「な、何ヘラヘラ笑ってんの!?」
「いや、悪い……先生になって良かったな、なんて、再確認していた」
「突然何よ!?変なこと言って!……はあ、まったく……じゃあ、また明日ね!」
「……ああ、また明日。おやすみ、セリカ」
「………お、おやすみ、先生」
セリカはそう言うと、駆け出して部屋を出ていった。
ああ、まったく……
ほんのひとかけらあった不安さえ、無くなってしまったか。
守って見せるさ、先生として。
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