波動エンジンは強力無比である。
炉心内では余剰次元の展開が行われ、その際に生じる超重力により、
マイクロブラックホールを生成。
急速な蒸発に伴って発生するホーキング放射をそのエネルギー源とする。
そのエネルギー量は地球型惑星の質量エネルギー相当。
これらを大まかに3種に分けていく。
先ずは武装。
特出すべきは48サンチ50口径三連装陽電子衝撃砲である。
今までの地球には無かった、超大口径砲であり、
それらを3基9門擁する。
通常兵器では最もエネルギーを食う武装ではあるが、
生み出されるエネルギーからすれば微々たるものである。
続いては波動防壁。
世紀の天才科学者、真田志郎が次元波動理論を応用した防壁である。
これらは各艦艇も標準搭載しているが、
大和はこれらを遥かに凌駕する。
最大展開時間は20分程度だが、その間であれば如何なる攻撃も防ぐことが出来る。
元々は波動コア・コンジットベイ内部に発生する、
一種の保護シールドだったものだが、
南部重工が開発した99式波動コイルを艦各所に設置し、
エネルギーを供給すれば、
この保護シールドで船体全体を守ることが出来る。
そして最後が次元跳躍である。
膨大なエネルギーを必要とする代わりに、
1回のワープで1000光年を短縮できる優れモノ。
16万8000光年の旅をするうえで、
通常航行で進める距離はたかが知れている。
1日3回、計3000光年で片道56日、往復112日の航海である。
もちろん、これは道中に一切の障害が無い場合である。
──2199年1月10日
「進、交代だぞ。いつまで寝ている」
古代進は上体を起こす。
モニタ越しの兄のあきれる声に「すまない兄さん」と言う。
テストを兼ねて地球を出発した大和は、
現在火星宙域にて、各艦艇の合流を待っていた。
その時間、最終点検と、各艦隊、各艦の長が集まって
本大作戦の艦隊方針を煮詰める時間に当てられた。
それにしても不思議なものだ。
守兄さんが見たという、金髪の女性を俺は何故か知っているのだ。
そのサーシャという女性は、
運悪く2190年に火星で亡くなってしまったらしい。
そしてスターシャという女王様が、イスカンダルという星に来れば、
地球を青い星に戻す為の装置をくれるというのだ。
その為に提供された技術が、波動エンジンだったりする。
「ちぇっ、送ってくれればいいのになあ」
取り留めもない独り言を言いながら、
赤色の戦術科の服を着る。
廊下に出ると、島大介が腕組みをして待っていた。
「寝坊助だな、お前」
「余計なお世話だ」
ニヤリと笑う島。
行こう、と島の尻を叩くと、「おまえ~!」と、
ヒートアップしていくのであった。
──第一艦橋
「遅いぞ2人!!」
島大介の父、島大吾がカンカンになっている。
「お前たちはこの艦に乗る999人の命を背負う責任が分からんか!」
島大介は大して驚いてはいないが、古代進はかなり驚いた。
父親の怒鳴りは慣れるものだが、友人の父親となると話は別である。
「チガイマス!1000ニンデス!」
足は無限軌道、曲面の多いボディ、ヤマト艦底と同じ赤い塗装。
「アナライザー、トオヨビクダサイ!」
「すまんすまん、1000人だったな」
大吾が訂正を入れる。
その瞬間、島大介の目にいたずら心が宿る。
「すまんがアナライザー、早速だが父さんは疲れているみたいだから、
部屋に連れて行ってくれないか」
「ワカリマシタ!」
大吾をひょいっと持ち上げ、
そのまま主幹エレベーターに吸い込まれていく。
「あ!ちょっ、こら!、話は終わっとらんぞ!!」
エレベーターの扉はカシャッと閉じると、
古代と島はシシシ、と笑う。
「全く……」
守も笑いを堪えつつ、嗜める。
「航海長の言う事は正しいからな。
2人とも、二度と同じミスはするんじゃないぞ?」
「ハッ!」
胸に拳をあて、背筋を伸ばす。
大和式敬礼に、守も応じると、2人は着座するのであった。
操縦桿を握る島を横目に、戦闘指揮席から各武装の状態を把握する。
3主砲塔の状態は、1、2番主砲が使用可能、
3番主砲が現在清掃作業中となっている。
左手奥側の警告灯は現在赤色であり、
火器の使用はできないようになっている。
兵装起動レバーを引くのが古代の務めではあるが、
それは艦長の命令があるまで待つ必要がある。
「島、緊張してるのか?」
「そ、そんなわけないだろう」
操縦桿を握ったまま、やけに姿勢が良い。
古代も座席に座った瞬間実感した。
"この艦はタダものではない"と。
──
全長333メートル、機関はロ号艦本イ400式次元波動缶。
量産型波動コアとは違い、イスカンダル純正の波動コアは、
明らかに引き出される出力が違う。
それは、全武装に下駄を履かせるような、そんなイメージだ。
また多数の対空用パルスレーザー砲、ミサイル群、
強力な補正を持つ火器管制システム。
これらを集中管理する戦闘指揮席は、大和の全火力を見ることになるのだ。
しかし、それだけでは表現できない、
物凄い"波動"を感じたのである。
古代も島同様に、この未知の超戦艦を前にして、
緊張しないわけが無かった。
「おや、戦術長と航海長が若者になっとるぞ?」
ほほ笑む優しい面持ちの老人が、
主幹エレベーターから現れた。
「交代した航海科の島大介です」
「戦術科の古代進です」
二人は立ち上がり、敬礼する。
「ワシは、機関長の徳川彦左衛門だ。
どうだ、この船は」
「凄いですよ徳川さん、こんな船見たことが無い!」
古代がそういうと、
うんうん、と我が子を褒められているがごとく頷く。
「さっきまで機関の面倒を見ておったのだが、
やはりイスカンダルとやらは凄いのう」
服は腹部まで黒く煤けており、
機関と密着する程の場所で作業をしていたのだろう。
愛着の度合いが分かる。
「操縦桿を握ってみましたが、こう、なんでしょう。
物凄い歴史を感じました」
「それは、大和が君を信頼しているんじゃないか?」
「大和が……?」
「この船は元々一部の人類の存続のために、
この戦役初期から脱出船として建造されとった。
その時偽装の為に用いたのが、世界最大、最強の戦艦の残骸。
200年以上も前の話になるが、その戦艦の血を引き継いでおる。
それを感じたのだろう」
「そ、そんなオカルトみたいな……」
「長く船に関わっとると、分かるようになると思うぞ!」
朗らかに笑うと、機関制御席に座った。
古代と島は再びそれぞれの持ち場について、
機器とにらめっこする。
再び主幹エレベーターから誰かが降りてきた。
今度は金髪の美形女子。
大和の歴史は何処へやら、2人は席を回してその姿を追う。
ジロジロとした視線には慣れっこなのだろうか、
彼女は意にも返さず自己紹介をする。
「船務長の森雪です、よろしく」
「よ、よろしく……」
たどたどしい敬礼と、中学生のような反応である。
スタスタと歩くと、彼女はコスモレーダー席に着座した。
うひー、と駆け寄ってきたのは、航海科の太田健二郎だ。
「あの人、イスカンダル人って噂があるんだ」
古代と島は一瞬で太田のペースに吞まれる。
「た、確かに似ているけれども……」
「女王様の妹、って言われてもしっくりくるよな……」
「でしょう?だれか聞きに──」
「ソコ、聞こえてます!」
ビクッとなる三人組。
太田はそそくさと席に戻る。
彼女は髪を後ろにまとめる仕草をする。
確かに、イスカンダル人って言われれば似てるよな、と
古代は思った。
ザザッ、と艦内無線のノイズが入る。
「艦長の沖田十三だ。
1月9日に地球を離れ、火星沖までのテストワープを済ませ、
最終チェックに入った大和も、そろそろ出撃の段階に入る。
火星より先は敵が跳梁跋扈する戦場だ。
皆、心して任務に当たってほしい!」
力強く、そして暖かい声。
地球人であれば知らぬ人はいない、沖田十三宙将。
そして、極東管区の次元跳躍可能艦で構成された、
第一連合艦隊の司令長官。
「出撃は地球時間の10:00とする!」
現時刻地球時間8:30。
一気に緊張が駆け抜けた。
火星宙域には多数の艦艇が集まっている。
これより目指すは16万8000光年先のイスカンダル。
何隻が帰ってこれるかわからない。
しかし、赤い地球で待つ人々がいる。
地球時間9:55、英雄沖田が艦長席へ。
全艦橋クルーの背中には、地球最強の英雄が。
緊張と安心を乗せて、今、大和が動き出す。
「「第一連合艦隊、出撃!!」」