pixivに投稿したものを加筆修正
金曜日には久しぶりにマカロニペンシルが観られる。最近はそれだけを楽しみに生きていたと言っても過言ではない。
ここのところはバイトに行って、帰ったらCDを流しながらご飯を食べてお風呂に入って、時々テレビに目を移しながらトゥイッターかイソスタを眺め、適当な時間になったら寝る。そんな毎日を繰り返している。バイトの無い日は友人と買い物に行ったりもするが、それでもやはり充実している気はしない。
大学生になって夢に見ていた初めての長期休暇。高校までとは違ってバカみたいな量の課題を課されることも無い上に、あと一か月以上も休みが残っている。幸せだと思うと同時に、あまりに代わり映えしない日々には退屈さも感じ始めていた。
あいつが私を誘ってくれたのはそんなある日だった。
「今度下北沢STARRYってとこでマカペンのライブがあるらしいんだけど一緒に行くでしょ?」
何気ない一言だ。あいつとは高校からの付き合いだが、結局大学に入っても同じように絡んでいる。私とあいつを繋いでいるものの一つがバンド、特にマカロニペンシルだ。チケットが余ったから、という理由で半ば無理矢理連れて行かれた初めて行ったライブハウスで観た生の演奏。ギターとベースの違いも判らず、上手いのかどうかなんて当然ながら当時の私にはわからなかったけれど、惹きつけられる演奏だったのは確かだ。
それ以来、関東圏でライブをするとなればできるだけ行くようになった。様々なライブハウスに足を運ぶうちに同じファンの知り合いもできたし、演奏の良し悪しも分かってきた。彼女らよりも上手いバンドはいくつもあった。でも彼らの演奏に勝るバンドはまだ見つかっていない。
心が揺り動かされるような、魂が震えるような、あの時の感動をもう一度味わいたい。だから私はできるだけ多くのバンドを観られるように早い時間に行くようにしている。あいつは目的のバンドだけを観られれば良いとの考えらしいが、私が早く行きたいと言えばそれに合わせて来てくれるので本当に良い友人だと思う。
後日正式に発表された情報を見る。8月24日金曜日。ライブハウスは18時オープン。スタートは18時半。
「マカペンはちょっと遅めだけど……あーはいはい。18時に駅に集合ね」
流石は我が友人。何も言わなくても一つ目のバンドに間に合うように時間設定をしてくれた。STARRYは下北沢駅すぐのところにある。18時に集合すればまあ問題ないだろう。
そしてなんとなく長かった一週間を乗り切り、ようやく待ちに待った金曜日がやってきた……というのに天気は最悪としか言いようがない。関東には当たらないと予報されていた台風は文句のつけようがないほどバッチリ直撃し、電車の運休もいくらか出ている。少々の雨ならば夕方まで一人でショッピングでもしようかと思っていたのに、流石にこの台風ではライブハウスに直交する以外の選択肢はない。念には念を入れて予定より二本早い電車で駅に向かうと、あいつも同じ考えだったようで、降りたホームで出会うことができた。
雨も風も強いが、本降りになるのはまだもう少し後らしい。
「雨脚がピークになる前に着けそうじゃん。早く行くのってこういうメリットもあるんじゃない?」
隣を歩く友人は少し不服そうにしながらもそうかもね、と相槌を打ってくれる。単純に機嫌が悪いのもあるのだろう。何せ台風で客が少なくなればその分盛り上がりにも欠けることになる。私も少しブルーな気分になりかけているような気がする。昨晩ワクワクしすぎたせいでやや寝不足なのも影響しているかもしれない。でもこんな気分で観ていても演者に失礼だからちょっとずつでもテンションは上げて行かないと。
少し雨に濡れながらも無事にライブハウスに到着した。時刻は18時15分。入り口が地面より低い場所にあるので浸水していないか不安だったが、特に問題はないようだった。マカロニペンシルを観に来たことを伝えつつお金を払ってチケットを受け取る。2000円にワンドリンク。いつも通りだ。いつもと違うのは人の数。台風の影響もあるのかもしれないが、それを抜きにしても明らかに一番目のバンドに集客能力が無かったのだろうと思えるほどガラガラだ。
「一番目の結束バンドって知ってる?」
「知らなーい。興味なーい」
まあそうだろうなと分かってはいた。どうやら活動を始めて間もない女子高生バンドらしいし、まともに客も集められないマイナーなバンドだろう。パッと見渡した感じでも、結束バンドを観に来たと思われるのは最前に陣取った二人組。その少し後ろにいるおかっぱの二人組は……緑黄色野菜の話をしているようだし違いそうだ。
「観とくのたるいね」
思わずそう声に出してしまうほどに期待感を持つことはできなかった。心震える演奏を求めているわたしにとっては紛れもない本心である。
MCが始まって以降もやはりその気持ちは変わらなかった。むしろわずかに残されていた『活動を始めたばかりだからファンが少ないのかもしれない』という仮定も粉々に破壊されてしまうほど、彼女たちへの失望が大きくなった。100人が100人つまらないと断言するであろう棒読みのMC、全員が全く息の合っていない上にミスも多い演奏、そもそもきちんと声が出ていないボーカル。
最悪。これまで聞いてきた中でもワースト1位確実のひどい演奏だ。何故このようなバンドがマカロニペンシルと同列にライブをしているのかが理解できない。そりゃファンなんてつかないに決まっている。最前のあの二人はファンではなくメンバーの友人だったのかもしれない。演奏自体初めて聞いたのか、あまりの出来に困惑が隠しきれていない。
ようやく一曲目が終わった。オリジナルソングを持ってくる精神は上等だと思うがまずは技術を磨くべきではないだろうか。
「やっぱ全然パッとしないわ」
この雨の中足を運んだというのにあの演奏をされたから『最悪』という印象になってしまったが、学生バンドなんて所詮はこんなもの。結成して間もないならなおさらだ。
始まる前に期待するのをやめていて正解だった。少しでも期待していた上でこの演奏を聞かされてはたまったものではなかっただろうから。
「早く来るんじゃなかったね」
友人もずっとスマホを弄りながら聞いていたし、本当に興味が無かったのだろう。今回ばかりは私もその意見に賛同する。徐々に上げていこうと思っていたテンションが逆に下がりそうだ。
二曲目も大して期待できないと分かったところで一旦トイレにでも行こうかと思ったその時だった。ずっと俯きながら猫背気味にギターを弾いていた子が、MC中だというのにエフェクターを踏んだかと思うと急にソロ演奏を始めてしまった。これには客どころか周りのメンバーも唖然としている。先ほどまでの演奏からは想像もつかないようなピッキングが披露されているのだから当り前だ。友人の目もスマホから離れて猫背の彼女に釘付けになっている。
そのまま示し合わせたかのような照明と曲の入り。初めはやや浮ついているように感じたが、曲が進むにつれて一曲目がまるで嘘だったかのように全員の演奏が安定してきた。
一曲目からの振れ幅がそうさせたのかもしれない。それでも私の心は高く弾んだ。全く期待していなかったところに急にやってきた。あまりにも陰キャな歌詞も相まって、強く心に刻まれるような演奏だった。
「ちょっといいじゃん……」
思わずそう口に出してしまうほどに痺れた。心震える演奏を求めていた私にはこれこそが新境地であるように思えた。一曲目で散々馬鹿にさせたうえでこの演奏を見せる。何ともずるいバンドだ。こんなの気にならないわけがないんだから。
バンドとしてはたった一度しか通用しないだろう。それでもその一度に立ち会ってしまった。私の心が彼女たちの演奏に敗北してしまったようだったが、気分の悪い事じゃない。もう一度味わいたかったこの気持ちを再び味わわせてくれたのだから。
「あ、そう言えば知ってる? あの結束バンドが未確認ライオットにエントリーしてるらしいよ」
あの日以降、予定が合えばたまに演奏を見に行くようになった。あの日ほど圧倒的な何かがあるわけではないが、あの日より確実に良い演奏をするようになった。あの日たった二人だったファンもライブの積み重ねによってかなり増えた。
「知ってるよ。もう三日前からネット投票も始まってるし……ほら」
そう言って投票ページを友人に見せてやる。そして今日もまた、彼女たちに一票を投じる。
原作通りの台詞を話してくれるようにストーリーを作るのはとても楽しかったです。手のひらクルックルだと誤解されているかもしれない二人ですし、好きになれとは言いませんが嫌いにはならないでほしいキャラです
ぼざろの良いところは悪人がいないところですからね