錬金術師で改造人間だけど何か質問ある?   作:カラグリヤッホイ

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戦う理由

 待ってくれ、と俺を呼び止めたのは特異災害対策機動部二課の制服らしい服装に身を包んだ天羽奏だった。聖遺物の欠片を分解し生命力に変えて彼女の失った命を補填した錬成は間違いなく成功していたが、ニュースでの伝聞ではなくその足でしっかりと大地を踏みしめる彼女を実際に見れてようやく心の棘が一つ抜けたような、そんな気がした。

 

 「……恨み言は聞くとは言ったが、さすがに早すぎないか?」

 

 「恨み言?何の話?アタシがあんたを呼び止めたのは礼を言いたいからさ。だからこうやって旦那と翼に無理言ってこっちまで来たんだ」

 

 「礼を言われる筋合いはない。俺があんたを助けたのは気に入らなかったからに過ぎない。勝手に諦めた愚か者を向こう側から引きずり戻しただけだ」

 

 「キッツいなー。ま、その通りなんだけどさ」

 

 そう、俺が天羽奏を半ば強引な形で助けたのは、気に入らなかったからだ。こいつ立花に生きるのを諦めるなと怒鳴ったすぐ後に自分の命を投げ出して事態を収拾しやがった。確かにあれが逆転の一手どころか事態に終止符を打ったのは事実だが、それを含めてもなお、カチンときた。だから、満足して死なせてやるものかと助けたんだ。

 

 まあそういうわけで礼を言われる理由も筋合いもない。俺が勝手に助けて、あっちが勝手に助かった。それだけの話だ。慣れあったら俺が情を抱いてしまうかもしれないのでつっけんどんに突き放してやるが、全くこらえてない。クソ、ばれてるぞ演技だって。悪かったな分かりやすい素人で、ご先祖含めて腹芸は苦手なんだよ。

 

 「まーそーツンツンするなって。仲良くしようよ、一緒に戦場に立った仲じゃないか」

 

 「いや別に立ちたくて立ったわけじゃないでしょ」

 

 「お、それが素?なんだ可愛いじゃん。まあ、勝手にお礼言わせてもらうよ。助けてくれてありがとうな!」

 

 「そーだよ悪かったな年相応で。めんどくさいからやめだやめ。何の用?聞きたい事でもあるわけ?」

 

 あっけらかんと笑う天羽奏に完全に毒気とやる気を抜かれた俺はめんどくさくなってしまって今まで被っていた演技の仮面を脱ぎ捨てた。もうノイズもいないので手袋を外してポイっと異空間に放り込む。さっさと終わらねーかなー、見れば分かるんだけど俺の手今大火傷してんのよ。アンタらが居ると仮面外して我が家の錬金アイテムことグミを食えないからさ、速く帰らせて欲しい。

 

 「あんた、それ……」

 

 「いや、こんなもんまともに握ってればこうなるでしょ。悪いけど俺の戦いは古くさくてね、あんたらみたいに科学と異端技術掛け合わせたりはしてないの」

 

 「だとしてもその手は重症だろう。その剣を握らないという選択肢だってあるはずだ」

 

 「ないよ。結果的に一番効率が良くて威力があるからさ。使わない理由はない、この手だって回復術で治せる。で、風鳴弦十郎さんだったか。特異災害対策機動部二課って暇なの?俺に構ってないで他の仕事しなよ」

 

 こんなもん、と背中にある赤々と燃える炎の剣を顎で指さす。痛くはないし、あとで治せる。見た目痛々しいかもしれないがそもそも俺はノイズに触れれば一発アウトだ、コラテラルダメージみたいなものであって、一番速い手段の副作用だ。ノイズが出たら時間をかけるわけにはいかない、被害者がそれだけ増える。

 

 火傷にまみれた手を見た風鳴弦十郎、天羽奏、風鳴翼がハッと息をのむ。意外とお人よしの集まりだったりするのかな?気にされて話が進まないのもアレだから、治すことにしよう。ハートレスサークルを詠唱し、光り輝くサークルが俺の周りに出現して内部にいる俺の手を治した。手をぐーぱーして動きを確認、まあ良しと。

 

 「暇なわけでは、ないのだがな。君に関しては別の話だ。小難しい話は抜きにしよう。俺たちに協力して欲しい」

 

 「悪いけど、それはできない。俺にとっては害しかない」

 

 「……上か」

 

 「そういうこと。これはまだ人間社会に預けるには重すぎる。今渡したところで外交カードか戦争の道具にされるのがオチだ。欠片すらそうやって一般社会から秘匿してる時点でな」

 

 「そうやって、一人で全部背負い込むのか?」

 

 「結果的に今はそうかもしれない。情勢が変われば分からないけど。例えば日本消滅の危機とかね、そこまで行ったら事態解決のために協力程度はするよ」

 

 「聞かせて欲しい。どうしてあなたは戦うの?使命って何?」

 

 苦々しい顔で黙り込んだ風鳴弦十郎に代わって俺に質問してきたのは風鳴翼だった。その瞳は不安に揺れている、おそらくだが天羽奏が戦えなくなったことで戦力が自分一人になってしまったことによるものだろうか。アイドル活動をしていた彼女が素だったのかは分からないが生真面目な性格だとは薄々感じていた。

 

 「先史の時代、人はノイズを作り出しお互いを殺し始めた。バベルの塔の話は知っているか?アレは創作半分、実話半分ってところだ。ある時までは、人間の言語は一つだった」

 

 「なんの話を……」

 

 「まあ聞け。一つの言語で通じ合っていた人間は唐突に分かたれ、疑心暗鬼に陥ったんだ。そして戦争が始まった、そこで作られたのがノイズだ。人が人を殺すためだけに作り出したノイズの存在をよしとしなかったのが<王>と呼ばれた遠い遠い俺のご先祖様さ。彼はノイズ殲滅に乗り出した、星のエネルギーを以てノイズの大多数を殲滅したご先祖に恐れをなしたノイズの開発者たちは如何したと思う?」

 

 唐突な昔話、レナス=アルマに刻まれたご先祖の罪の記録の話をし始めた俺に面食らった三人ではあったが、俺が大真面目なことと、ノイズの起源の話だということもありちゃんと聞くことにしたらしい。ご先祖は強かった、当時国の主要エネルギー機関だったレナス=アルマの力をフルに使って、進行してくるノイズを一人で殺し切った。そんな奴がいれば人は恐れをなすに決まってる。

 

 「暗殺でもしたのか?」

 

 「そっちの方がだいぶマシだったと思う。開発者はノイズの生産拠点を異空間に移し、そしてご先祖の力の源を封印した。ノイズの生産拠点を見つけられなくなり、さらには戦闘の要を封印されたご先祖様はノイズの殲滅を断念せざるを得なかった。それがご先祖の「罪」だ。彼は自分の子孫にいつか封印された力を復活させ、今度こそノイズを消すことを託した。自らの罪を記した剣、記憶と記録と力の源を継承させ続けるようにと」

 

 刻罪の剣、それはご先祖が血脈に継がせる罪の剣。ノイズ殲滅をしくじった自らの血脈に責任を負わせる所業への謝罪と子孫への守護の加護を込め当時の技術の粋を尽くして打たれたものだ。背中のそれを地面に立ててそれを説明した俺に対し、質問をした風鳴翼は納得したように口を開く。

 

 「なら、貴方の戦う理由は先祖の無念を晴らすためなの?」

 

 「そういうこと。言語が統一された時代でも争い自体はあったが、ノイズだけはあってはならないものだ。異空間の場所を突き止め、ノイズを殲滅する、いや……しなければならない。とまあこれが使命だ」

 

 「……なるほどな。なら猶更俺たちと協力したほうがいいと思うぞ。組織力ってのは馬鹿にならないからな」

 

 「ダーンーナー、いい加減くどいと思うぜ?二課の技術力は、あー……鉄仮面でいいか。そいつに負けてんだ、アタシたちがコイツに差し出せるものは組織力だけ、メリットじゃないんだぞ」

 

 「分かってるさ。けど俺も役人でな。言っておかなきゃならないんだよ、ままならないもんだ全く。自由にしておいた方が間違いなく良い、俺の直感だがな。だが法律上、逃がすわけにゃいかないんだ」

 

 「……俺は人に星霊力を振るう気はない。そういうのはご先祖がやった戦争でたくさんだ」

 

 「叔父様!」

 

 「旦那!」

 

 ごきり、ごきりと指を鳴らした風鳴弦十郎の姿を見たツヴァイウイングの二人が咎めるように声をあげるが、何となく俺はこの人が伝えようとしていることを理解した。二課としては俺を逃がすわけにはいかないが、個人の判断では俺を二課に引き入れるのはデメリットの方が大きい。なら、どうすればいいか……捕まえようとしたが取り逃してしまったことにすればいいのだ。

 

 「今の話で君の目的が妥当なものでその意志が強固なのは分かった。あとはこちらで語るとしよう」

 

 「……俺に勝てるとでも?」

 

 「おうともさ!子供のやんちゃを笑って流せなくて何が大人だ!」

 

 なんだろうな、個人的にこの人すごく好きなタイプだ。明朗快活で包容力があり、頭の回転も速い。そして尚且つ豪胆だ。何だ完璧超人か何かか?まあその八百長試合、乗らないこともないけど。思わずクスッと笑ってしまった俺は刻罪の剣を改めて地面から引き抜いて背中に背負い、構える。

 

 俺が構えたことで意図が通じたことを理解した風鳴弦十郎は自らも腰を落として構える、ただの人間相手だから適当にいなして終わろう、と思って油断していた俺を彼の鉄拳が見事にとらえた。とっさに差し込んだ腕ごと殴り飛ばされた俺が驚愕に鉄仮面の下の目を見開いて彼を見る。なんだ今のは、人間の速度と威力じゃないぞ。

 

 「三散華!」

 

 「ふんっ!」

 

 左拳での3連撃を見事に捌かれる。え?マジで?何で当たり前のように俺の拳を目で追って逸らしてんだこの人!?まさかこの人も俺と同じ改造人間なのか?俺の鎌風が起こるほどの回し蹴り、輪舞旋風をあっさりと受け止め、腰の入った崩拳を返してくる。踏み込みで地面が割れてる、この人聖遺物隠し持ってたりしないか!?ええい手加減はやめだ!

 

 「あんたがノイズと戦ったらいいんじゃないか!?」

 

 「出来るならそうしている!」

 

 「そりゃ正論で!掌底破!連牙弾!飛燕連脚!」

 

 「むっ!やるな!」

 

 いややるなじゃねーんだよ!俺の掌底を受け止め、5連撃のインパクトをことごとくずらし、2連蹴りをスウェーで躱す。ほんとに人間かアンタ!?言っちゃ悪いがレナス=アルマを使わない俺くらいの身体能力はあるぞ!?レナス=アルマなしでも岩に穴を穿つ俺の拳を受け止める、これがどれだけおかしなことか分かってるのか!?もしかして二課って超人の集まりか何かだったりする?

 

 「魔神拳・双牙!」

 

 「かぁっ!!」

 

 だから!俺の放った衝撃波を同じように衝撃波を出して防ぐな!今のもしかして発勁か!?もしかしてアンタ俺と戦いたかっただけだったりしない?ほら、ツヴァイウイングの二人、特に天羽奏のほう見て!めっちゃ驚いてるよ!口パクで「旦那あんなに強かったんだ……」って言ってる!風鳴翼の方はもしかしてご存じだったのか!?めっちゃ見てるけど、見取り稽古か何かか!?

 

 「あんた何したらそんなに強くなるんだ?人間のそれじゃないぞ」

 

 「そんなの決まっている!飯食って映画見て寝る!男の鍛錬なんぞそれで十分よ!」

 

 「そんなわけあるか!」

 

 「そんなわけありません!」

 

 「なるほど、一理ある」

 

 「「あるの!?」」

 

 風鳴弦十郎の言葉に突っ込む二人だが俺は納得したので一理あると返すと二人はさらに突っ込んできた。いやだって俺もそうだし。飯食って、映画見て(ご先祖様の記憶、記録の閲覧、戦闘の追体験)、寝る(肉体改造)。ほら似たようなもんじゃないか。あながち間違ってないかもしれないが実際ここまで強くなるのはマジでおかしいとしか言えないわけで。うーん、正直楽しいけどここまでかな。

 

 「これで決めるぞ!」

 

 「こいっ!」

 

 「天破!地砕!拳砕けても!成し遂げる!!殺劇舞荒けぇぇぇん!!!」

 

 「ぬぅ……!はぁっ!」

 

 これでもダメなのか!?本気で移動しつつの拳と蹴りの乱打は全て合わされて防がれた。最後の一発は流石に防御に徹したようだが殴り飛ばした先で普通に着地して見せている以上、効果はほとんどなかったと考えていいだろう。……は?ほんとに人間か?マジで中身聖遺物か俺と同じ改造人間って言われた方が納得できるんだけど?

 

 「あー、やめだやめ!付き合ってられるか!」

 

 「そうか?俺は楽しかったが……」

 

 「反則だよあんた。司令やってるより現場出たほうがいいよホントに!」

 

 「だからそれができるならやっているさ。前に出て子供を守るのは大人の義務だ」

 

 あ~~~~っ!!!やりにくい!いい人だこの人マジで!やめろよ協力したくなっちゃうだろ!クソ、絆される前に逃げる!そう思ってしまい、完全に俺の戦闘態勢が解ける。それを見た風鳴弦十郎も構えを解いた。その隙を見計らってたのか知らないけど天羽奏が軽い歩調で俺の前にやってきて、どこから取り出したか知らない色紙を俺に押し付けた。

 

 「それ、お礼にはならないだろうけどやるよ。アタシらのサイン、ファンだって聞いたし」

 

 「…………空の衣よ幻惑しろ、ミラージュベイル」

 

 「あ、逃げた。照れ隠しにしちゃ派手なこった」

 

 うるせえ!ファンだよ悪いか!霧の幻術を発動してすぐその場から離れた俺は今度こそイノーフボトルを地面に叩きつけて家に帰るのだった。




OTONA 我らが憲法違反に片足突っ込んだ謎拳法の使い手。衝撃波を発勁で打ち消した。実は主人公と殴り合って分かりあうという少年漫画的な展開をしたいわけではなく唯一の奏者となった翼が仮に主人公と敵対した場合勝てるか見極めていた。結果は本人のみぞしる

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