錬金術師で改造人間だけど何か質問ある?   作:カラグリヤッホイ

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見舞いに行こう

 貰ってよかったのだろうか、これ。発信機とかついてないのは確認したけど……と俺は机の前の壁にとりあえず飾った鉄仮面へ!!と力強く書かれた天羽奏と何とも几帳面かつ達筆な筆文字の風鳴翼のサインが書かれた色紙を見つめる。嬉しいよ?いや嬉しいんだけどさ……素直に喜んでいいのか分かんないよこれ。

 

 前回の特異災害対策機動部二課と風鳴弦十郎とのステゴロからはや一週間、ノイズは発生せず俺はまあ普通の生活にいそしんでいる。自身に一本芯がはっきり通ったような風鳴弦十郎との勝負はノイズとの殺し合いとは違う晴れやかな感情を俺にもたらした。師というものを仰げるならおそらく彼に頼むことは想像に難くないくらいの好人物だろう。

 

 まあそれはともかく、先史にもあんな人間いなかったんだけど世界って広いんだなっていうのが今の所の感想だ。先史にもご先祖を始めとした超人はいたにはいたけどそれは今でいう聖遺物ありきの話であって、素の人間があれはマジでちょっと理解に苦しむ。人間の無限の可能性を思い知らされたわ。あの人だったら無傷でレナス=アルマ使えるかもしれん。

 

 「さて、とりあえずこんなもんかなあ」

 

 今俺は何をしていたかと言えば、お見舞いの準備である。ノイズの襲撃に巻き込まれて偶発的な怪我を負ってしまった俺の後輩立花響の面会謝絶が解けてようやくお見舞いに行くことが出来るようになったのだ。主治医の母さん曰く「かなり順調な速度で回復している。アンタの応急処置が無かったらもうちょっと危なかったかも」とのことだ。俺が関係あるかどうかは物凄くどうでもいいが立花の回復が早いのはいいことだ。

 

 そんなわけで俺は立花の好きそうな漫画を全巻セットで買い込んでお土産とすることにし、今それを紙袋に詰め終わったところだ。正直、あの聖遺物の欠片を使った鎧の断片が立花の中にあるということに一抹の不安を禁じ得ないが異端技術に俺より長く携わってる母さんが無理してでも除去しなかったということは問題ないということなのだろう。

 

 「フルル、行くぞー」

 

 「フルッ!フルルッフー!」

 

 うちの両親が籍を置いている病院ではセラピーアニマルの導入が進んでおり、犬や猫、果てはトカゲまで様々な動物が導入されている。ダナフクロウはこのご時世珍しい部類だが、フルルはきちんと登録を済ませているので全く問題ない。父さんと母さんのダナフクロウ、フルルの親もセラピーアニマルとして活躍している。なのでフルルを立花に会わせてやることにしよう、きっと癒されるに違いない、念のため昨日のうちに丸洗いしたので今は素晴らしい毛並みをしているフルルが俺のパーカーのフードの中に入り込んだのを確認して、俺はドアを開けて病院へ歩いていく。

 

 立花の無二の親友ではある小日向は、俺より先に会いに行くだろう。俺が行く時刻は伝えてあるが、多分病院が開く時間に合わせて立花を見舞いに訪れているに違いない。俺もそうしようとは思ったが、二人で話す時間が必要だろうと思って俺の行く時間は少し遅らせることにした。

 

 そんなことを思いながら総合病院まで歩く、時折俺の頭に視線が集まるのはフルルが頭の上に乗ってるからだろう。ダナフクロウの子供は真っ白でよく目立つ、成長すれば育った場所にある星霊力に応じて羽の色を変えるため神秘のフクロウとすら言われ学者が羽の色が変わるメカニズムを躍起になって解明しようとしている。地域差としか言えないのだけど。

 

 「うげっ。まじかー……フルル、入って」

 

 思わずげっそりとした声が出てしまう。あの惨劇から既にひと月以上たっているにも関わらず総合病院の前にはマスメディアが張っていたのだ。マイクとカメラを片手に病院に入る人たちにインタビューをしている。おそらくあの惨劇のことについて何としてでもセンセーショナルな情報が欲しいから、病院に入る人たちにくっついて被害者へインタビューできないか試みてるのだろう。なんせ、国の規制でノイズ関連のことは驚くほど表に出ないから、被害者の口を割らせたいのだ。だから見舞客にくっついて病室に合法で入りたい、そういうことだろう。

 

 フルルに気づかれても面倒だ。情報は握らせないのが第一、フルルをパーカーの中に入るように促してフードを被る。興味を持たれないように適当かましてさっさと中に入ろう。無理に追いかければいくらマスコミでも面倒事になる、それは避けるはずだ。

 

 「こんにちは、ニュースツインデイズという番組ですが……お見舞いですか?」

 

 「ええ、友人が入院してるんですよ」

 

 「……聞きにくいことですが、ツヴァイウイングのライブ災害の被害者さんの関係者でしょうか?」

 

 「違いますね。あの惨劇はニュースでしか見てませんし、俺の周りじゃ特に被害者もいません」

 

 「そうですか、お時間とらせてごめんなさい。失礼します」

 

 やっぱりか、とりあえずこれで面倒事は避けれた。マイクを持った男性キャスターが足早にカメラマンのいる場所まで戻っていくのを見て俺はため息をついてから病院のドアをくぐる。マスメディアの死角に入ってからフルルを解放して肩に乗せて、病室にではなく総合受付に顔を出す。うちの両親に引っ付いて俺もよくこの病院でボランティアをしてたし、フルルの付き添いもしているので顔は知られてる。

 

 「あら、篝矢君じゃないの!今日はどうしたのかしら?手伝ってくれるの?」

 

 「いえ、今日は後輩のお見舞いに。フルルの親を借りたいんですけど今空いてますか?」

 

 「ええ、セラピーアニマルはここの所お休みなの。なんせ……忙しいから。連れて行くのね?じゃあ私が知らせておくわ」

 

 「ありがとうございます」

 

 馴染の医療事務さんに会うことが出来たのでスムーズに話が進んだ。俺は病棟の一回にあるセラピーアニマルの待機室のドアを開けて勝手知ったる我が家の勢いで侵入する。ここにいるセラピーアニマルたちは基本誰かのペットなわけだがフクロウ飼ってるのは流石に我が家だけである。猫が多いかな。それはともかく~

 

 「カロル、ハルル~ちょっといいか~」

 

 「ホ~」

 

 「ル~」

 

 「フルルッ」

 

 名前を呼ぶと返事をして俺の両肩に止まったのはフルルの親、赤い羽根で頭頂部にアホ毛っぽい羽があるオスのカロルと、淡い桜色をしているダナフクロウでも珍しい色のメス、ハルルだ。流石にフクロウとはいえ大人サイズ二匹はでかいな。俺の両肩に止まった二匹、フルルは頭の上だ。ちなみに全く重くない、改造されてるので。これで目的達成、と

 

 ドアを開け、今度こそ立花の病室に行くことにする。フクロウ3匹で団子のようになってる俺は目立つのでそそくさと急いでエレベーターに乗り込む。相乗りした小さい男の子の手にカロルを乗せてやったりしながら目的の階、立花の病室がある部屋に入る。ナースステーションに軽く会釈してから予め聞いていた立花の病室に向かい、ドアをノックした。

 

 「どうぞ~」

 

 「お邪魔します。立花、無事でよかった。遅れたけど見舞いに来たんだ、これお土産な」

 

 「……篝矢先輩?」

 

 「そうだけど?」

 

 「その……フクロウは?」

 

 「この病院のセラピーアニマル。うちで飼ってるんだ、苦手か?だったらナースステーションに置いてくるけど」

 

 「いえ!動物大好きです!その、篝矢先輩のお母さんにはお世話になってます!」

 

 ノックをした俺に入室の許可を出した立花、声の調子はいつもとあまり変わらないように思える。傍らには小日向がいて、立花の手を確かめるように握っている状態で寝息を立てていた。俺に気づかないあたりだいぶきていたのだろうが……どうやらうまい事解決したとみていいだろう。

 

 「それは母さんに言ってくれ。俺は何もしてない……経過はだいぶいいって聞いてるけど」

 

 「はいっ!抜糸ももうすぐできるそうで、ご飯も固形物になってきてるんです!まだ、おかゆですけど……」

 

 「まあ、それは仕方がないさ。これ立花が気になってるって言った漫画な。全巻揃えてあるから暇になったら読んでくれ」

 

 「フルルっ!」

 

 「ありがとうございます!わ~!君可愛いね!お名前なんて言うんですか!?」

 

 「お前が手に持ってるのがフルル、手すりに止まってる赤いのがカロルで桜色がハルルだ。存分に触って癒されてくれ、ハルルとカロルは基本病院にいるからナースさんに頼めば触れ合えると思う。フルルは俺に言えば連れて来てやるよ」

 

 「いいんですかっ!?」

 

 「それがこの子たちの仕事だ」

 

 立花がおっかなびっくり伸ばした手に止まるフルル、それを見た立花の顔が緩む、立花の顔にすりすりと頬ずりするフルルに骨抜きになりそうな勢いだ。少し騒がしくなったせいか、小日向が目をこすって起き、目の前に止まっているハルルを見て素っ頓狂な声をあげた。

 

 「わっ!?なに!?フクロウ!?」

 

 「おー小日向。おはようさん、そいつらはこの病院のセラピーアニマルだ、暇してたんで連れてきた」

 

 「え、焔樹先輩!?ヤダ私先輩に寝顔みられてたってこと……!?」

 

 「ああ、ぐっすりだったな」

 

 「~~~~~っ!!!」

 

 声にならない声をあげて再びベッドに突っ伏す小日向。ハルルが近づいて羽根で頭を撫でている、ダナフクロウは人語を理解するほど頭がいいのでおそらく頭を撫でてやってるつもりなんだろう、まあなんだ……ここ暫く完全に意気消沈してたけどやはり会って話して解決できたというのは非常に喜ばしいな。カロルも心配そうにホ~と鳴いている。

 

 「とにかく元気そうでよかったよ立花。こんなこと言うのは正直不謹慎かもしれないけど、よく生き残った。頑張ったな」

 

 「いえ、その……私、会場であったことをよく覚えていないんです。誰かが、必死に励ましてくれたのだけは覚えてるんですけど……生きるのを諦めるなって」

 

 そう言って目を伏せる立花、俺の失言を察知したカロルが俺に向かって攻めるように鳴く、二課の人間が何か手を回しているかと思ったが……どうやらそうではなさそうだ。あの鉄火場の中で天羽奏の声は立花に届き、立花は生きるのを諦めなかった。それだけでいい、ノイズがどうとか聖遺物がどうとかはこの子には関係のない話、生き残ったという事実だけで丸儲けだ。

 

 俺が防げなかった、取りこぼしかけた……申し訳なさに苦いものがこみあげてくるが努めて表に出さないようにして明るい話題を振りなおす。抜糸をすればもうすぐ退院できるが、何かやりたいことはあるか?折角だし快気祝いにご飯くらいは奢ってやろうと言うと食い気の強い立花はそれに飛びついてきた。

 

 「いいんですかっ!?それじゃあ、ご飯&ご飯も……」

 

 「炭水化物オンリーかよ。いいよ、好きな店選んでくれて。流石に高級店は無理だけどファミレスくらいだったらデザート付きで奢ってやるよ」

 

 「わ~~~いやった~~!!!」

 

 「もう響ったら……でも響らしい」

 

 「小日向もくるだろ?てか来い、纏めて奢ってやるからさ」

 

 「私もですか?」

 

 「おう、お前ら二人で一つみたいなもんだし、祝いの席で無粋なことは言わねーよ」

 

 無邪気に喜ぶ立花、空元気でないならいいんだけど……小日向もダナフクロウの存在に慣れたようでハルルをもふもふと触りだしている。やはり動物は偉大だな、正確には可愛いは正義か。何せ、この病院ノイズ災害が起こる前は当たり前のように廊下に動物が歩いてたからな。もちろん入っちゃいけない場所は入れないけど、精神の治療の一環として動物はかなり有効に働いているらしい、余裕が出来たらまた再開して欲しいものだ。

 

 

 

 

 そこから立花の面会終了時間まで小日向と一緒に過ごした俺は、カロルとハルルも連れて病院の入り口からでて帰宅した。マスコミは実に面倒なこと請け合いである、なおダナフクロウ3羽はクソ目立ったので別の意味で後悔した。女子高生に囲まれて写真撮られるのは予想してなかったよぉ……リディアン音楽院の制服だったけどここらまで来る用事あったのかな?

 

 「……ちょっとこれヤバいかもしれんな」

 

 帰宅した俺は、ネットサーフィン中にあるものを発見した。それは、特異災害対策機動部一課が発表した今回のノイズ災害の被害者の詳細で、ノイズそのものの被害を受けたのは全体の4分の1、それ以外が避難中の事故や火事場での犯罪などであったというデータである。ノイズ災害の見舞金は今回の被災者全員に出るものであるのでニュースサイトのコメント欄はかなり荒れていた。

 

 ノイズの被害にあう=死であることはこの国共通の認識ではあるが、ならば生き残った人間は被害者ではないという苛烈で過激な意見すらある。他のニュースのコメント欄も軒並み不穏な空気が漂っている、そもそもが自己責任であって国が保証するのはおかしいというものや、生き残った人間は何かしらの犯罪を犯しているはずなので裁けという意見すらある。

 

 このままでは生き残り狩りに発展しかねない、と俺が危惧した通り……退院した立花に対していじめが始まってしまったのだ。

 

 

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