七罪友人帳   作:サイエンティスト

1 / 4
 今回はプロローグ。時期的には六喰攻略後のお話ですが、時系列が噛み合わなかった場合は何かこう、良い感じに考えてください。七罪はかわいい。


リハビリテーション

 

「さて、七罪。呼び出された理由は分かっているかしら?」

 

 まだまだ冬の寒さが残る一月半ば。七罪は琴里から呼び出しを受け、五河家へと出頭していた。そして部屋に通されたかと思えば、<ラタトスク>の軍服を羽織り黒リボンを装着したフル装備の琴里に物々しい声をかけられた。

 

「……分かんないけど、とりあえずごめんなさい。私の存在が気に障ったなら謝ります」

 

 呼び出しの理由が全く思い浮かばない七罪は、ひとまずその場に膝を折り深々と土下座をかます。

 どうせ自分が何かしら気に障る事をしてしまったか、あるいは七罪の存在そのものが気に障ったかのどちらかだろう。故に学校の校舎裏に呼び出され因縁を付けられた心地の七罪は、恐怖に震えながら額を床にゴリゴリと擦りつけた。

 

「反射で土下座かますのはやめなさい。別にあなたを苛めるために呼びだしたわけじゃないのよ。いえ、結果的にはそうなるのかもしれないけれど……」

「許してください、お金これしか持ってないです……」

 

 更に恐ろしい言葉が聞こえたため、七罪は土下座しながら財布を差し出し許しを乞う。

 とはいえ七罪が持っているお金は<ラタトスク>から支給されたものなので、正直これで許しを得られるかは甚だ疑問であった。支給されたものを返却しているだけなので、贈り物になるかどうかは微妙なラインだ。かといって七罪が用意できるのは自らの能力を駆使して偽造通貨を作るくらいなので、結局のところ差し出せるのはこれしかなかった。

 

「だからやめなさいって……ああもう、しょうがないわね?」

 

 呆れ果てたような声が聞こえて七罪が恐る恐る顔を上げると、琴里は財布を受け取ることなく自らのツインテールを結ぶ黒いリボンを解いていた。そうしてポケットから取り出した白いリボンで結び直した途端、きつく細められていたその瞳は険が消えるように丸っこく変貌する。

 どうやら七罪が怖がっている事を察して、多少は取っつきやすい白リボンの琴里になってくれたらしい。確かに七罪としては幾分かこちらの琴里の方が接しやすかった。

 

「ほらほら、これで怖くないでしょ? だから顔を上げて話を聞いて欲しいなー?」

「う、うん、分かった……」

 

 子供っぽさが全面に押し出された白琴里が目の前に座り込んだので、七罪も身体を起こして座り直した。呼び出された理由がまだちょっと恐ろしいが、それでも黒い方では無くなった分妙な迫力を感じなくなったため、ほっと胸を撫で下ろす。

 

「じゃあ……結局呼び出された理由って何? さっきは何か、結果的には苛めるみたいな事言ってたけど……」

「えっとねー、七罪はちょっとコミュニケーション能力に難があるでしょー? それで精霊たちも結構な人数になったし、この辺で皆に協力してもらって、七罪には人付き合いのためのリハビリをしてもらおうかなーって」

「えっ……」

 

 そうして琴里が口にしたのは、コミュニケーション能力を鍛えろという惨たらしい言葉。陰キャの極みのような七罪に、人と触れ合う力を磨けというあまりにも無体な行為であった。確かにこれは結果的に苛めのような図になってしまうだろう。

 無論ちょっと激しく無理なので遠慮したいのだが、拒否権などあるわけも無い。何より見知らぬ人間よりは他の精霊たちの方が比較的接しやすいため、内容によっては七罪にもギリギリ達成できるかもしれない可能性が残されていた。

 

「……リハビリって、どんな事をするわけ?」

「それはねー……これだー! ドーン!」

「……手帳?」

 

 などと琴里が効果音付きかつ得意げな顔で頭の上に掲げ持ったのは、一冊の小さな手帳だ。そこらのお店に普通に並んでいそうな、何の変哲も無い小さめのノート。コミュ障のリハビリとこのノートがどう繋がるのかさっぱり分からず、七罪は首を傾げた。

 

「そう、手帳! 七罪はこれに、できるだけ多くの精霊たちから名前を書いてもらうの! もちろん名前を書いてもらう理由もちゃんと話さなきゃダメだぞー? そして代わりに何かお願いされたら、ちゃんと応えること。それができたら、リハビリ成功!」

「えっ……」

 

 返ってきた答えとリハビリの内容に、七罪は再び言葉を失う。

 名前を手帳に書いてもらうだけ、というのなら話はそこまで難しくない。四糸乃辺りは二つ返事で書いてくれそうだし、士道もまあまあ簡単に書いてくれるだろう。問題は名前を書く代わりに何かをお願いされたら、必ずそれに応えなければいけないという事。

 精霊たちの中にはかなりヤバめな存在が何人かいるため、こんな条件を提示されたら必ず何かしら禄でもないお願いをしてくる奴らが出てくる。とりわけヤベーのは士道のストーカー、そして七罪に執着しているアイドルだ。あの二人に対して名前を書いてもらう代わりに何でもお願いを聞くなど、鴨がネギや豆腐を背負って鍋に突っ込むくらい危険極まる行為だ。

 

「ちょ、ちょっと待って? 具体的に合格ラインとか決まってる?」

「えっ、合格ライン? えーっと……」

 

 そこで一体何人から名前を書いて貰えればセーフか、七罪はビクビクしながら尋ねた。全員分で無いと不合格だというのなら、もう七罪はネギと豆腐を背負って鍋の中にダイブしなければならない。しかし全員で無くても大丈夫だというのなら、僅かながらも希望は存在している。

 そこはまだ決めていなかったのか、琴里はしばらく視線を宙に彷徨わせて考える様子を見せ――

 

「――十二人! 十二人の名前を書いて貰ったら合格!」

「じゅ、十二人!?」

 

 情け容赦も無く、無理難題を突き付けてきた。

 予想外の人数に一瞬で思考を巡らせ数えてみるも、この人数だと確実に折紙と美九を避ける事は出来なかった。しかも『よしのん』と士道、更に琴里を足してもどうしても人数が一人足りないという鬼畜の所業。つまり最低一人は精霊たち以外から名前を書いて貰わなければいけないわけである。七罪にとってはもうこの時点で無理ゲーであった。

 

「え、あの……六人くらいじゃ、ダメ……?」

「ダーメ! 十一人以下は赤点! 赤点取ったら、美九と一日デートの刑!」

「ひえっ!?」

 

 挙句の果てに、十二人から名前を貰えなければ美九の玩具になるのと同義の罰ゲームが待ち受けている地獄。

 これはもうコミュ障どうこう言っている場合では無く、何が何でも達成するしかなかった。加えて出来る限り情状酌量の余地を求め、浅ましく減刑を求めるしかない。

 

「待って!? 名前を書いてもらう代わりにお願いには応えないといけないなら、美九には一日デートに連れ出される可能性もあるわよね!? だったらその罰ゲームは内容が被るんじゃない!?」

「あ、そっか。じゃあ三日間美九の玩具になる刑かなー」

「マジの死刑宣告やめてくれる!?」

 

 必死に減刑を求めた結果、どうにも墓穴を掘ってしまったようで刑の重さが爆上がりした。

 三日間も好き放題美九に弄ばれるとなれば、綺麗な身体でいられるかどうかすら怪しい。肌も髪も何もかも薄汚れていてガサついている七罪だが、比喩的な意味では一応身体は無垢で綺麗なのだ。自分のような雨に打たれた野良犬のように汚なく醜い見た目の女の純潔には需要が無いとはいえ、さすがに美九に弄ばれて散ってしまうのは勘弁であった。

 

「んー……でもこれじゃあさすがに可哀そうだし、やる気もあんまり出ないよね? じゃあちゃんと十二人の名前を書いて貰ったら、おにーちゃんを一日自由にする権利をあげよう! 足りないなら四糸乃もつけてあげるよ?」

「なっ!? 士道と、四糸乃を……一日、自由に……!?」

 

 しかしここで、琴里が途轍もなく甘美な誘惑を口にしてくる。これには需要ゼロの純潔を惜しむ気持ちも大きく揺らいでしまう。

 何故なら士道と四糸乃を自由に出来るという事は、二人は何でも七罪の言う事を聞かざるを得ないという事。つまり二人に甘酸っぱいデートをさせて、イチャイチャさせる事も存分に可能というわけだ。七罪はその光景を遠目に眺め、幸せに浸る事が出来るというわけである。これは気持ちが揺らいでも仕方が無かった。

 

「ふっふっふっ、少しはやる気が出て来たかなー?」

「っ……」

 

 面白がるような笑みを浮かべて尋ねてくる琴里。

 罰ゲームが重すぎるとか、合格ラインが高すぎるとか、そもそもコミュ障の自分にはあまりにも辛いだとか、色々と言いたい事はあった。しかしあまりにも魅力的なご褒美の前に、七罪は減刑の嘆願も否定の言葉も口にする事が出来なかった。

 そのため琴里は七罪の反応を肯定と受け取ったのだろう。一つ満足気に頷き、手帳を手渡してきた。

 

「期限は明日から一週間! その間に手帳に十二人から名前を書いて貰えれば、おにーちゃんと四糸乃は丸一日七罪のもの! 頑張れ七罪ー、応援してるぞー!」

「う、うん……うん!? 一週間!?」

 

 そうして朗らかな笑みを浮かべつつ、鬼畜な期限設定と共に応援してくる琴里。どうやらたった七日間で十二人から名前を貰わなければならず、なおかつ一癖も二癖もありそうなお願いを叶えるために奔走しなくてはならないらしい。コミュ障の極みな自分には苦行も良い所の過密スケジュールに、七罪は顔が引きつるのを感じていた。

 しかしこの苦行を完璧に乗り越えた先にあるご褒美があまりにも魅力的であり、投げ出す事も逃げる事もしたくはなかった。何故なら四糸乃に士道との素敵なデートや触れ合いをプレゼント出来て、四糸乃が浮かべる眩いばかりの純真無垢で清楚可憐な笑顔を堪能できるのだ。

 そして愛らしさと美しさを両立させた絶対なる存在である四糸乃とデートやら何やらをする事で、士道もきっとかつてないほど幸せそうに笑う事だろう。自分ではそんな風に笑わせる事などできない四糸乃の笑顔も、士道の笑顔も両方楽しめる。こんな美味しい展開を見逃せるわけが無い。

 故に七罪は二人の笑顔と幸せのために覚悟を決め、琴里から手帳を受け取った。もちろん明日から始まる苦行の日々が重く心にのしかかっているせいで、手帳を受け取る両手はぷるぷると震えていたが。

 

 

 

 

 

 




✖ 君へ返そう、受けてくれ
✖ 跪いて名をお寄越し!
✖ 勝負して私が勝ったら名前を書いて? あなたが勝ったら私を食べても良いわ
〇 名前を書いてくださいお願いします代わりに常識の範囲内でなら何でもします

 というわけで、名前を書いて貰う代わりにお願いを聞いていく感じのお話です。当然ながら折紙と美九が鬼門。一体何をお願いされるのか……。
 プロローグだけで一ヵ月とか開けるのもアレなので、次回は二十日に投稿します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。